<feed xmlns="http://www.w3.org/2005/Atom"><title>妄想列島</title><link href="https://mosoretto.amebaownd.com"></link><subtitle>オリジナル小説。&#xA;『少年彩里水（アリス）の不思議冒険譚』毎日配信中。</subtitle><id>https://mosoretto.amebaownd.com</id><author><name>妄想列島</name></author><updated>2020-10-16T10:00:49+00:00</updated><entry><title><![CDATA[少年彩里水の不思議冒険譚　-不思議の国の入り口　最終話-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10758475/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10758475</id><summary><![CDATA[最終話　君は夢じゃない新学期、先生が教室に来るまでの間、いつもなら少し浮き足立ち新しいクラスへの期待感にワクワクしながら先生が来るのを待つ彩里水だが、今年はどこか物足りなさを感じていた。春休み中、あの不思議の国での体験がどうしても夢の中の出来事とは思えなかった彩里水は、何度か父にもう一度遊園地に行きたいとせがんだ。しかし結局連れて行ってはもらえず何も確かめることができなかった。遊園地のマスコットキャラクターのことも調べてみたが、やっぱり白ウサギのキャラなんていなかった。たった十数分の夢の中の出来事とは思えないほど、白兎は彩里水にとって大切な存在になってしまっていた。――だって、一緒にあの塔から抜け出して・・・。アイツ、あの後どうなったんだろう。夢なら気にする必要なんてないんだろうけど・・・。夢なわけ・・・。それにキップとクップ、キャンドー・・・。チャイムが鳴り、去年のも担任だった先生が教室に入ってくる。――アイツが、白兎が夢なわけ・・・ない・・・。と、先生の後ろにランドセルを背負った男子が着いてくる。――え？彩里水は驚いて口をあんぐり開けたまま固まる。「今日は挨拶の前に、みんなに転校生を紹介します。さ、自己紹介して。」先生が言う前からみんなの視線はその男の子に集中している。「時計白兎です。」「トケイ？変な名前―。」クラスの男子がからかい半分に声を上げる中、彩里水は目を見開いて大きな声を出しながら椅子から立ち上がる。「！！！おまえ！」白兎は大声を上げた男子に目をやる。すると、白兎も目を見開いて彩里水に負けず劣らず大声で言う。「彩里水！」白兎は叫ぶと同時に彩里水に駆け寄って抱きつく。「え？時計くん、青園くんと知り合い？」先生が交互に2人を見て慌てるなか、彩里水は想像もしなかったこの上ない出会いに、このクラスの1年間が過去最高のものになることを確信していた。「白兎！良かった・・・！やっぱりおまえは夢じゃなかった！」少年彩里水の不思議冒険譚　-不思議の国の入り口-　　完]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-10-16T10:00:49+00:00</published><updated>2020-10-16T10:01:04+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
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			<h4>最終話　君は夢じゃない</h4><p><br></p><p><br></p><p>新学期、先生が教室に来るまでの間、いつもなら少し浮き足立ち新しいクラスへの期待感にワクワクしながら先生が来るのを待つ彩里水だが、今年はどこか物足りなさを感じていた。</p><p><br></p><p>春休み中、あの不思議の国での体験がどうしても夢の中の出来事とは思えなかった彩里水は、何度か父にもう一度遊園地に行きたいとせがんだ。</p><p><br></p><p>しかし結局連れて行ってはもらえず何も確かめることができなかった。</p><p><br></p><p>遊園地のマスコットキャラクターのことも調べてみたが、やっぱり白ウサギのキャラなんていなかった。</p><p><br></p><p>たった十数分の夢の中の出来事とは思えないほど、白兎は彩里水にとって大切な存在になってしまっていた。</p><p><br></p><p><br></p><p>――だって、一緒にあの塔から抜け出して・・・。アイツ、あの後どうなったんだろう。夢なら気にする必要なんてないんだろうけど・・・。夢なわけ・・・。それにキップとクップ、キャンドー・・・。</p><p><br></p><p><br></p><p>チャイムが鳴り、去年のも担任だった先生が教室に入ってくる。</p><p><br></p><p><br></p><p>――アイツが、白兎が夢なわけ・・・ない・・・。</p><p><br></p><p><br></p><p>と、先生の後ろにランドセルを背負った男子が着いてくる。</p><p><br></p><p><br></p><p>――え？</p><p><br></p><p><br></p><p>彩里水は驚いて口をあんぐり開けたまま固まる。</p><p><br></p><p>「今日は挨拶の前に、みんなに転校生を紹介します。さ、自己紹介して。」</p><p><br></p><p>先生が言う前からみんなの視線はその男の子に集中している。</p><p><br></p><p>「時計白兎です。」</p><p><br></p><p>「トケイ？変な名前―。」</p><p><br></p><p>クラスの男子がからかい半分に声を上げる中、彩里水は目を見開いて大きな声を出しながら椅子から立ち上がる。</p><p><br></p><p>「！！！おまえ！」</p><p><br></p><p>白兎は大声を上げた男子に目をやる。</p><p><br></p><p>すると、白兎も目を見開いて彩里水に負けず劣らず大声で言う。</p><p><br></p><p>「彩里水！」</p><p><br></p><p>白兎は叫ぶと同時に彩里水に駆け寄って抱きつく。</p><p><br></p><p>「え？時計くん、青園くんと知り合い？」</p><p><br></p><p>先生が交互に2人を見て慌てるなか、彩里水は想像もしなかったこの上ない出会いに、このクラスの1年間が過去最高のものになることを確信していた。</p><p><br></p><p>「白兎！良かった・・・！やっぱりおまえは夢じゃなかった！」</p><p><br></p><p><br></p><p>少年彩里水の不思議冒険譚　-不思議の国の入り口-　　完</p>
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	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[少年彩里水の不思議冒険譚　-不思議の国の入り口81-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10758437/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10758437</id><summary><![CDATA[81　夢と現実の狭間で――え？ここどこ？彩里水は周囲を見回す。すると、すぐそばから陽気な音楽とアナウンスが聞こえてきた。――ここ・・・オールワン遊園地のとこの雑木林？え？・・・てことは、いままでのは・・・夢？少しの間呆然としていた彩里水だが、ハッと我に返る。――やば！今何時！？彩里水は急いで園内に戻る。園内に戻ると、両親がグッタリしていたはずのカフェに向かう。そこには相変わらずグッタリした様子の両親がいた。「彩里水。何処行ってたの？トイレ？ちゃんと行き先を言わなきゃダメじゃない。」母親に小言を言われてこんなに嬉しかったことはない、と彩里水は思っていた。長い長い夢を見ていたと思ったが、どうやらせいぜい十数分しか経っていない様子だ。――やっぱり、夢だったのか。そりゃ、夢じゃなきゃおかしいよな。でも夢にしてはすっごい現実っぽかった。何だったの？ジョーカーとか。それに・・・。彩里水は白兎のことを思い出した。――夢ってことは・・・アイツも・・・？・・・夢？そうは思えないし、思いたくない。・・・もう会えないってこと？ボーッとしている彩里水に両親は顔を見合わせ怪訝な顔をする。「どうした、彩里水。お前も乗り物に酔っちゃったのか？今日はもう帰る？そろそろ夕方だし。」父親に声をかけられ、彩里水は我に返る。「あー・・・。うん、酔ってはないけど、今日はもういいや。父さんと母さんグッタリだしね。」両親はさらに怪訝な顔になり、お互いの顔を険しい顔で見つめ合う。「お前が帰るっていうなんて、どうしたんだよ。酔ってないけど具合が悪いのか？」「もしかしてお腹空いてる？」両親が心配しているが、帰りたい理由を彩里水は説明したくない。それに、説明のしようもないとも思った。――適当に話を合わせるか。「あ、うん。・・・お腹空いた！オレ、ハンバーグ食べたい！」今度はお互いの顔を見てプッと吹き出した両親は心配して損したといわんばかりにゲラゲラと笑い出す。「やっぱりお前はお前だな、彩里水。じゃあ、どっかでハンバーグ食べて帰ろう！」「やったー！」そう言って帰路につこうとする両親の後ろを歩きながら、彩里水はもう一度あの雑木林に目をやる。「白兎・・・。」つづく]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-10-15T10:00:00+00:00</published><updated>2020-10-15T10:00:20+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
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			<h4><h4>81　夢と現実の狭間で</h4><p><br></p><p><br></p><p>――え？ここどこ？</p><p><br></p><p><br></p><p>彩里水は周囲を見回す。</p><p><br></p><p>すると、すぐそばから陽気な音楽とアナウンスが聞こえてきた。</p><p><br></p><p><br></p><p>――ここ・・・オールワン遊園地のとこの雑木林？え？・・・てことは、いままでのは・・・夢？</p><p><br></p><p><br></p><p>少しの間呆然としていた彩里水だが、ハッと我に返る。</p><p><br></p><p><br></p><p>――やば！今何時！？</p><p><br></p><p><br></p><p>彩里水は急いで園内に戻る。</p><p><br></p><p>園内に戻ると、両親がグッタリしていたはずのカフェに向かう。</p><p><br></p><p>そこには相変わらずグッタリした様子の両親がいた。</p><p><br></p><p>「彩里水。何処行ってたの？トイレ？ちゃんと行き先を言わなきゃダメじゃない。」</p><p><br></p><p>母親に小言を言われてこんなに嬉しかったことはない、と彩里水は思っていた。</p><p>長い長い夢を見ていたと思ったが、どうやらせいぜい十数分しか経っていない様子だ。</p><p><br></p><p><br></p><p>――やっぱり、夢だったのか。そりゃ、夢じゃなきゃおかしいよな。でも夢にしてはすっごい現実っぽかった。何だったの？ジョーカーとか。それに・・・。</p><p><br></p><p><br></p><p>彩里水は白兎のことを思い出した。</p><p><br></p><p><br></p><p>――夢ってことは・・・アイツも・・・？・・・夢？そうは思えないし、思いたくない。・・・もう会えないってこと？</p><p><br></p><p><br></p><p>ボーッとしている彩里水に両親は顔を見合わせ怪訝な顔をする。</p><p><br></p><p>「どうした、彩里水。お前も乗り物に酔っちゃったのか？今日はもう帰る？そろそろ夕方だし。」</p><p><br></p><p>父親に声をかけられ、彩里水は我に返る。</p><p><br></p><p>「あー・・・。うん、酔ってはないけど、今日はもういいや。父さんと母さんグッタリだしね。」</p><p><br></p><p>両親はさらに怪訝な顔になり、お互いの顔を険しい顔で見つめ合う。</p><p><br></p><p>「お前が帰るっていうなんて、どうしたんだよ。酔ってないけど具合が悪いのか？」</p><p><br></p><p>「もしかしてお腹空いてる？」</p><p><br></p><p>両親が心配しているが、帰りたい理由を彩里水は説明したくない。それに、説明のしようもないとも思った。</p><p><br></p><p><br></p><p>――適当に話を合わせるか。</p><p><br></p><p><br></p><p>「あ、うん。・・・お腹空いた！オレ、ハンバーグ食べたい！」</p><p><br></p><p>今度はお互いの顔を見てプッと吹き出した両親は心配して損したといわんばかりにゲラゲラと笑い出す。</p><p><br></p><p>「やっぱりお前はお前だな、彩里水。じゃあ、どっかでハンバーグ食べて帰ろう！」</p><p><br></p><p>「やったー！」</p><p><br></p><p>そう言って帰路につこうとする両親の後ろを歩きながら、彩里水はもう一度あの雑木林に目をやる。</p><p><br></p><p>「白兎・・・。」</p><p><br></p><p><br></p><p>つづく</p></h4>
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	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[少年彩里水の不思議冒険譚　-不思議の国の入り口80-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10758226/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10758226</id><summary><![CDATA[80　光の中を「誰だっけ？・・・城にいたのは覚えてる。」「おい！・・・ジョーカーだよ。・・・ったく、こんな時なのにいつまでも呑気だね君は。」満を持して登場したつもりのジョーカーは、木からズリ落ちそうになりながら答える。ぶら下がるのを止め樹上から樹上へ忍者のようにピョンピョンと移動しながら付いてくるジョーカーに、彩里水は息も絶え絶えになりながら半ば怒鳴るように質問する。「なんでいる！？」「なんでってー。君たちのことをずーっと見てたんだよ。面白そうな2人だったからね。」「ハアッハアッ。・・・。見てたって、なんで？どうやって？」呼吸をするのでさえ苦しい彩里水はかろうじて言葉を吐き出す。「それはー、コレでだよ。」ジョーカーは相変わらず涼しい顔をして樹上を高速で移動しつつ、彩里水に双眼鏡を見せる。「ハッハッ・・・。はあ！？・・・っ何言ってんの！？・・・っ意味わかんない！」真面目に質問に答えたにも関わらずけなされたジョーカーは、少し不機嫌な顔を彩里水に向けるが彩里水は走るのに必死で気がつかない。「・・・そんなことより、助けてあげようかって聞いてるだろ？助けて欲しくないの？もう追いつかれちゃいそうじゃーん。」ジョーカーはすぐ後ろで彩里水に罵声を浴びせ続けながら追いかけているハートのトランプ軍をチラリと見ながら楽しげに言った。「ハッハッ・・・。助けてって、おまえ、トランプの仲間だろ！？」「べっつにー。トランプの仲間ってわけじゃあ、ないよ。」「ハッハッ・・・。なんだよ、おまえ、いいやつなの？て、敵かなって、思ってたけど・・・。」「まあ、今のところ敵ではないよー。助けるって言ってるんだからね。」「じ、じゃあ、助けて！助けてくれ！は、白兎も！」「ハクト？・・・ああ、あの一緒にいた子かな？もちろん、彼も一緒に助ける予定だよ。」「ハッハッ・・・。じゃあ、お願いします！マジで、もう、限界・・・。」彩里水は息も絶え絶えに、今にも止まってしまいそうな足を必至に前へ進めながらジョーカーに頼む。「オーケー。」ジョーカーは彩里水に頼まれるとニヤリと不敵な笑みを浮かべ、彩里水の頭にこの不思議の国で見慣れない形の生物たちをたくさん見てきた彩里水でもまだ異様な形をしていると感じてしまう左半身の、人間であれば手がある部分の金属でグッと触れる。彩里水は触れられた部分に、まるで熱した金属でも触れられたかの如く耐えがたい熱さを感じ悲鳴を上げる。「グアッ・・・！」ジョーカー自身もまた苦しげな表情を浮かべ呻いている。「グ・・・ウ・・・ウ・・・。ック！」次の瞬間、ジョーカーは金属の手を彩里水の頭から何かをズルリと引き出すように離した。熱さで意識を失う寸前の彩里水は、自身の頭頂部から何か金色の光のようなものがズルリと音を立てて引きずる出されるのを見たような気がした。と、彩里水は一瞬前まで頭に感じた強烈な熱さと痛みで気を失いかけていた感覚さえなくし、その、自身から引きずり出された金色の光の中を走っていた。その光の中を走っていると、先程まですぐ後ろを追いかけてきていたトランプ軍たちは、彩里水を追いかけながらもその距離はどんどん彩里水から遠ざかっていき、やがて見えなくなっていった。彩里水はそれでもなお走り続けていた。つづく]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-10-14T10:00:12+00:00</published><updated>2020-10-14T10:00:18+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
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			<h4>80　光の中を</h4><p><br></p><p><br></p><p>「誰だっけ？・・・城にいたのは覚えてる。」</p><p><br></p><p>「おい！・・・ジョーカーだよ。・・・ったく、こんな時なのにいつまでも呑気だね君は。」</p><p><br></p><p>満を持して登場したつもりのジョーカーは、木からズリ落ちそうになりながら答える。</p><p>ぶら下がるのを止め樹上から樹上へ忍者のようにピョンピョンと移動しながら付いてくるジョーカーに、彩里水は息も絶え絶えになりながら半ば怒鳴るように質問する。</p><p><br></p><p>「なんでいる！？」</p><p><br></p><p>「なんでってー。君たちのことをずーっと見てたんだよ。面白そうな2人だったからね。」</p><p><br></p><p>「ハアッハアッ。・・・。見てたって、なんで？どうやって？」</p><p><br></p><p>呼吸をするのでさえ苦しい彩里水はかろうじて言葉を吐き出す。</p><p><br></p><p>「それはー、コレでだよ。」</p><p><br></p><p>ジョーカーは相変わらず涼しい顔をして樹上を高速で移動しつつ、彩里水に双眼鏡を見せる。</p><p><br></p><p>「ハッハッ・・・。はあ！？・・・っ何言ってんの！？・・・っ意味わかんない！」</p><p><br></p><p>真面目に質問に答えたにも関わらずけなされたジョーカーは、少し不機嫌な顔を彩里水に向けるが彩里水は走るのに必死で気がつかない。</p><p><br></p><p>「・・・そんなことより、助けてあげようかって聞いてるだろ？助けて欲しくないの？もう追いつかれちゃいそうじゃーん。」</p><p><br></p><p>ジョーカーはすぐ後ろで彩里水に罵声を浴びせ続けながら追いかけているハートのトランプ軍をチラリと見ながら楽しげに言った。</p><p><br></p><p>「ハッハッ・・・。助けてって、おまえ、トランプの仲間だろ！？」</p><p><br></p><p>「べっつにー。トランプの仲間ってわけじゃあ、ないよ。」</p><p><br></p><p>「ハッハッ・・・。なんだよ、おまえ、いいやつなの？て、敵かなって、思ってたけど・・・。」</p><p><br></p><p>「まあ、今のところ敵ではないよー。助けるって言ってるんだからね。」</p><p><br></p><p>「じ、じゃあ、助けて！助けてくれ！は、白兎も！」</p><p><br></p><p>「ハクト？・・・ああ、あの一緒にいた子かな？もちろん、彼も一緒に助ける予定だよ。」</p><p><br></p><p>「ハッハッ・・・。じゃあ、お願いします！マジで、もう、限界・・・。」</p><p><br></p><p>彩里水は息も絶え絶えに、今にも止まってしまいそうな足を必至に前へ進めながらジョーカーに頼む。</p><p><br></p><p>「オーケー。」</p><p><br></p><p>ジョーカーは彩里水に頼まれるとニヤリと不敵な笑みを浮かべ、彩里水の頭にこの不思議の国で見慣れない形の生物たちをたくさん見てきた彩里水でもまだ異様な形をしていると感じてしまう左半身の、人間であれば手がある部分の金属でグッと触れる。</p><p><br></p><p>彩里水は触れられた部分に、まるで熱した金属でも触れられたかの如く耐えがたい熱さを感じ悲鳴を上げる。</p><p><br></p><p>「グアッ・・・！」</p><p><br></p><p>ジョーカー自身もまた苦しげな表情を浮かべ呻いている。</p><p><br></p><p>「グ・・・ウ・・・ウ・・・。ック！」</p><p><br></p><p>次の瞬間、ジョーカーは金属の手を彩里水の頭から何かをズルリと引き出すように離した。</p><p>熱さで意識を失う寸前の彩里水は、自身の頭頂部から何か金色の光のようなものがズルリと音を立てて引きずる出されるのを見たような気がした。</p><p><br></p><p>と、彩里水は一瞬前まで頭に感じた強烈な熱さと痛みで気を失いかけていた感覚さえなくし、その、自身から引きずり出された金色の光の中を走っていた。</p><p><br></p><p>その光の中を走っていると、先程まですぐ後ろを追いかけてきていたトランプ軍たちは、彩里水を追いかけながらもその距離はどんどん彩里水から遠ざかっていき、やがて見えなくなっていった。</p><p><br></p><p>彩里水はそれでもなお走り続けていた。</p><p><br></p><p><br></p><p>つづく</p>
		</div>
	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[少年彩里水の不思議冒険譚　-不思議の国の入り口79-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10758063/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10758063</id><summary><![CDATA[79　窮地キャンドーがただの燭台へと変わった様を見た白兎は呆然とする。だが、追手は白兎を悲しませる暇もなく、キャンドーを燭台に変えたところで止まることもなく迫ってくる。既に彩里水の姿は見えなくなっていた。――キャンドー！・・・何！？なんで？どうなった？なんで飛び出したの！？オレを助けるため！？白兎の目からは涙がこぼれ落ちていた。考えながらも白兎は走り出した。身を呈して自分を助けてくれたキャンドーの行動に報いるためにも泣いている場合ではない、走らなければならないと感じていた。「ハアッ。ハアッ・・・！」白兎は走り続けるが呼吸は既に苦しい。――キャンドー・・・！矢に当たった直後に・・・ただの燭台に戻っちゃったみたいだった・・・。どうなった？あのままあそこに置いておくしかないの！？走りながらもキャンドーのことが頭から離れない白兎。白兎の後ろには、トランプの兵の薄っぺらい紙の胴体から映えたように着いているハート型の手が、今にも白兎の背中に掴みかからんばかりの距離にあった。「ハッ。ハッ。」彩里水も走り続けていた。しかし、どれだけ走り続けても一向に追手を振り切ることができない。――どうしよう。・・・なんとかしなきゃ！このまま走っててもただ疲れて止まったところを捕まるだけだ！・・・何か！何かないか！？どこか、隠れるところ・・・！彩里水は森の中を見回し走りながら考え続ける。――そこら中が茂みだ。上手くすれば隠れることはできそうだ。実際、体が小さいキップとクップはすぐに茂みに身を隠してた。オレと白兎が走ってたのもあって、トランプたちはキップとクップにはまったく気がついてないようだった。もしかしたら走り続けるよりうまく茂みに身を隠す方が逃げられるかも・・・！彩里水はそう思ったが、身を隠すにはあまりにも距離がないような気もしてそこに身を隠すため止まることが恐ろしかった。もし立ち止まってうまく身を隠せなかったら即捕まってしまう。なんとか逃げ切れないかと考えながら走り続けていると、頭上から突如声がする。「助けてあげようか？」声が聞こえた方向に彩里水は顔を向けた彩里水は思わず目を見開いた。そこには城で見た人物が、木に足を引っかけ逆さまにぶら下がっていたのだ。「・・・！おまえは！」「やあ。」つづく]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-10-13T10:00:33+00:00</published><updated>2020-10-13T10:00:37+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
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			<h4 class="">79　窮地</h4><p class=""><br></p><p class="">キャンドーがただの燭台へと変わった様を見た白兎は呆然とする。</p><p class="">だが、追手は白兎を悲しませる暇もなく、キャンドーを燭台に変えたところで止まることもなく迫ってくる。</p><p class=""><br></p><p class="">既に彩里水の姿は見えなくなっていた。</p><p class=""><br></p><p><br></p><p class="">――キャンドー！・・・何！？なんで？どうなった？なんで飛び出したの！？オレを助けるため！？</p><p><br></p><p><br></p><p>白兎の目からは涙がこぼれ落ちていた。</p><p><br></p><p>考えながらも白兎は走り出した。</p><p>身を呈して自分を助けてくれたキャンドーの行動に報いるためにも泣いている場合ではない、走らなければならないと感じていた。</p><p><br></p><p>「ハアッ。ハアッ・・・！」</p><p><br></p><p>白兎は走り続けるが呼吸は既に苦しい。</p><p><br></p><p><br></p><p>――キャンドー・・・！矢に当たった直後に・・・ただの燭台に戻っちゃったみたいだった・・・。どうなった？あのままあそこに置いておくしかないの！？</p><p><br></p><p><br></p><p>走りながらもキャンドーのことが頭から離れない白兎。</p><p>白兎の後ろには、トランプの兵の薄っぺらい紙の胴体から映えたように着いているハート型の手が、今にも白兎の背中に掴みかからんばかりの距離にあった。</p><p><br></p><p>「ハッ。ハッ。」</p><p><br></p><p>彩里水も走り続けていた。</p><p>しかし、どれだけ走り続けても一向に追手を振り切ることができない。</p><p><br></p><p><br></p><p class="">――どうしよう。・・・なんとかしなきゃ！このまま走っててもただ疲れて止まったところを捕まるだけだ！・・・何か！何かないか！？どこか、隠れるところ・・・！</p><p><br></p><p><br></p><p>彩里水は森の中を見回し走りながら考え続ける。</p><p><br></p><p><br></p><p>――そこら中が茂みだ。上手くすれば隠れることはできそうだ。実際、体が小さいキップとクップはすぐに茂みに身を隠してた。オレと白兎が走ってたのもあって、トランプたちはキップとクップにはまったく気がついてないようだった。もしかしたら走り続けるよりうまく茂みに身を隠す方が逃げられるかも・・・！</p><p><br></p><p><br></p><p>彩里水はそう思ったが、身を隠すにはあまりにも距離がないような気もしてそこに身を隠すため止まることが恐ろしかった。もし立ち止まってうまく身を隠せなかったら即捕まってしまう。</p><p>なんとか逃げ切れないかと考えながら走り続けていると、頭上から突如声がする。</p><p><br></p><p>「助けてあげようか？」</p><p><br></p><p>声が聞こえた方向に彩里水は顔を向けた彩里水は思わず目を見開いた。</p><p><br></p><p>そこには城で見た人物が、木に足を引っかけ逆さまにぶら下がっていたのだ。</p><p><br></p><p>「・・・！おまえは！」</p><p><br></p><p>「やあ。」</p><p><br></p><p><br></p><p>つづく</p>
		</div>
	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[少年彩里水の不思議冒険譚　-不思議の国の入り口78-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10691752/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10691752</id><summary><![CDATA[78　追手「じゃあ、オレたちはここでガラス玉を探すよ。キップとクップは真っ直ぐ森を抜けるんだよね？」「はい！」「じゃあ・・・。・・・またいつか！」そう彩里水が声をかけキップとクップが先へ進もうとしたその時、また後ろからガサッという音がした。皆は一気に緊張し振り返る。そこには列を成したトランプの兵。彩里水と白兎の顔色が変わる。兵の後方には城の中で会ったキングがいた。さらにその横にはキング以上に派手な、まさに女王陛下という出立ちの女性もいる。ハートマーク柄の毛皮のガウン羽織り、大きなハート型の宝石をつけた大きな冠を頭に乗せ、馬車と馬が一体になったような乗り物に乗っている。その巨体をどっしりと馬車の座席に落とし、無言でふんぞり返っている。馬車と一体になっている馬はどことなくうんざりした顔つきに見える。追手はすぐ眼前に迫ってきていた。「待てー！貴様らー！」そう大声を張り上げているのはハートのキングだ。彩里水たちは全員その場から一斉に駆け出していた。キップとクップはその小さな身なりをサッと木の陰に隠す。追手は駆け出した彩里水と白兎を追いかけ続ける。キングは、無言でふんぞり返り動こうともしないクイーンとは逆に何かをわめき続けている。白兎は駆け出す直前にキャンドーを拾いあげポケットに入れていた。彩里水と共に全力で駆けるが追手との距離は一向に広がらない。ハアッハァッ――つ、疲れた。息が苦しい。白兎は全力で駆け続けるが、向こうは疲れた様子もない。白兎の少し前方を走る彩里水も苦しそうだ。ハアッハァッ――も、もう走れない。そう思ったときに足がもつれて白兎は地面に転がる。ズサッ彩里水が振り返る。「白兎！」立ち止まっている暇はない。もうあと数十歩でトランプの兵たちに追いつかれそうだ。白兎は彩里水に向かって叫ぶ。「行け！走れ！２人で捕まったらどうしようもないだろ！」彩里水は一瞬うろたえたが意を決して前へ走る。次の瞬間、トランプの兵が立ち上がろうとする白兎に向かって、持っているハート型の矢を投げつける。確実に白兎の胴体を貫く威力と方向で向かってくるその矢に、白兎は手をかざし目を瞑る意外にできることがなかった。ガッ・・・！物音がして目を開けた白兎の目に映ったのは、トランプの兵が放った矢が白兎のポケットから飛び出したキャンドーに命中したところだった。「え・・・？」白兎の目の前でキャンドーがただの燭台へと変わった。「・・・ハアッ。ハアッ。」一方、白兎に叱咤され前を向き走り続ける彩里水。――白兎はどうなった？キップとクップは？キャンドーは？・・・っ。疲れた・・・。止まりたい。みんなの様子も気になる。でも今止まれば、振り返れば、・・・あっという間に敵に追いつかれるっ。敵がすぐ後ろに迫ってきていることだけは背中に感じていた。彩里水は夢中で走り続けた。つづく]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-10-12T09:16:07+00:00</published><updated>2020-10-12T09:16:12+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
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			<h4>78　追手</h4><p><br></p><p><br></p><p>「じゃあ、オレたちはここでガラス玉を探すよ。キップとクップは真っ直ぐ森を抜けるんだよね？」</p><p><br></p><p>「はい！」</p><p><br></p><p>「じゃあ・・・。・・・またいつか！」</p><p><br></p><p>そう彩里水が声をかけキップとクップが先へ進もうとしたその時、また後ろからガサッという音がした。</p><p><br></p><p>皆は一気に緊張し振り返る。</p><p><br></p><p>そこには列を成したトランプの兵。</p><p><br></p><p>彩里水と白兎の顔色が変わる。</p><p><br></p><p>兵の後方には城の中で会ったキングがいた。</p><p><br></p><p>さらにその横にはキング以上に派手な、まさに女王陛下という出立ちの女性もいる。</p><p>ハートマーク柄の毛皮のガウン羽織り、大きなハート型の宝石をつけた大きな冠を頭に乗せ、馬車と馬が一体になったような乗り物に乗っている。</p><p>その巨体をどっしりと馬車の座席に落とし、無言でふんぞり返っている。</p><p>馬車と一体になっている馬はどことなくうんざりした顔つきに見える。</p><p>追手はすぐ眼前に迫ってきていた。</p><p><br></p><p>「待てー！貴様らー！」</p><p><br></p><p>そう大声を張り上げているのはハートのキングだ。</p><p><br></p><p>彩里水たちは全員その場から一斉に駆け出していた。</p><p><br></p><p>キップとクップはその小さな身なりをサッと木の陰に隠す。</p><p><br></p><p>追手は駆け出した彩里水と白兎を追いかけ続ける。</p><p><br></p><p>キングは、無言でふんぞり返り動こうともしないクイーンとは逆に何かをわめき続けている。</p><p><br></p><p>白兎は駆け出す直前にキャンドーを拾いあげポケットに入れていた。</p><p>彩里水と共に全力で駆けるが追手との距離は一向に広がらない。</p><p><br></p><p>ハアッハァッ</p><p><br></p><p><br></p><p>――つ、疲れた。息が苦しい。</p><p><br></p><p><br></p><p>白兎は全力で駆け続けるが、向こうは疲れた様子もない。</p><p>白兎の少し前方を走る彩里水も苦しそうだ。</p><p><br></p><p>ハアッハァッ</p><p><br></p><p><br></p><p>――も、もう走れない。</p><p><br></p><p><br></p><p>そう思ったときに足がもつれて白兎は地面に転がる。</p><p><br></p><p>ズサッ</p><p><br></p><p>彩里水が振り返る。</p><p><br></p><p>「白兎！」</p><p><br></p><p>立ち止まっている暇はない。</p><p>もうあと数十歩でトランプの兵たちに追いつかれそうだ。</p><p>白兎は彩里水に向かって叫ぶ。</p><p><br></p><p>「行け！走れ！２人で捕まったらどうしようもないだろ！」</p><p><br></p><p>彩里水は一瞬うろたえたが意を決して前へ走る。</p><p><br></p><p>次の瞬間、トランプの兵が立ち上がろうとする白兎に向かって、持っているハート型の矢を投げつける。</p><p>確実に白兎の胴体を貫く威力と方向で向かってくるその矢に、白兎は手をかざし目を瞑る意外にできることがなかった。</p><p><br></p><p>ガッ</p><p><br></p><p>・・・！</p><p><br></p><p>物音がして目を開けた白兎の目に映ったのは、トランプの兵が放った矢が白兎のポケットから飛び出したキャンドーに命中したところだった。</p><p><br></p><p>「え・・・？」</p><p><br></p><p>白兎の目の前でキャンドーがただの燭台へと変わった。</p><p><br></p><p>「・・・ハアッ。ハアッ。」</p><p><br></p><p>一方、白兎に叱咤され前を向き走り続ける彩里水。</p><p><br></p><p><br></p><p>――白兎はどうなった？キップとクップは？キャンドーは？・・・っ。疲れた・・・。止まりたい。みんなの様子も気になる。でも今止まれば、振り返れば、・・・あっという間に敵に追いつかれるっ。</p><p><br></p><p><br></p><p>敵がすぐ後ろに迫ってきていることだけは背中に感じていた。</p><p>彩里水は夢中で走り続けた。</p><p><br></p><p><br></p><p>つづく</p>
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	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[少年彩里水の不思議冒険譚　-不思議の国の入り口77-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10691655/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10691655</id><summary><![CDATA[77　それぞれの道へ「・・・あの、そのことで、先程言おうと思っていたことなんですが・・・。」先程何か言いかけたキャンドーが再び口を開く。「そのことについても、私、リンダさんとキャシーさんに進言していただきました。この地上に出た後に彩里水くんと白兎くんが行きたいのはオールワン遊園地、そして、キップとクップが行きたいのはミラーランドですよね？」「うん。」「はい。」２人と2体は声を揃えて返事をする。キャンドーはまた、先程地下から地上へ出てきた方法と同じく、何か上手い方法で２人がなるべく簡単に目的の場所へ行くことができるように伝えようとした。しかし、この方法はこの世界の住人であるキップとクップには通用しない方法かもしれないことと、そしてキップとクップはきっと、ミラーランドへ行く過程そのものを楽しみたいのであろうということ、世界を見る事自体が彼らの目的であるだろうと思い至った。この2組はここで別々の道を行くのが最善であるとキャンドーは考えた。「まずはキップ、クップ。君たちが行きたいミラーランドは私も以前行ったことがあるんだ。私はこのワンダーランドから出る船に乗って港から船でミラーランドまで旅をしたよ。それがこの国に生きる者として一番確実で安全で、そしてたくさんのものを道中見る事ができる方法だと思う。ここはワンダーランドの中心部だから港まではかなり距離がある。勿論、ドラゴンに乗ったり他の生き物に乗って旅をすることだって可能だろう。君たちの行きたい方法で行くといいよ。この森を抜ければ町などが必ずあるはずだ。私が外に出たのは随分昔だが、それはきっと今でも変わらないだろう。どんなに時代が変わっても生きている者は群れを作り、生きる場所を作り生きていくものだ。真っ直ぐに森を出て、町や村を目指し、人に尋ねて頼って目的地を探しなさい。この世界をたっぷり楽しんで。」キャンドーが笑顔でキップとクップに告げると、２人は少しだけ表情を引き締めて「はい。」と返事をした。「そして彩里水くん、白兎くん。２人は何よりもオールワン遊園地を目指したいということで良かったかな？」「うん。」彩里水と白兎はまた声を合わせる。「それであれば、リンダさんキャシーさんからの言伝です。出たところに直径30ｃｍ程のガラス玉のようなものがあるそうです。それを探し当てて２人でそのガラス玉に触りながら行きたい場所を思い浮かべる、ということです。」「ほおー！すげー！やっぱ思い浮かべる方式でどこにでも行けんだなー。」白兎はしきりに感動する。「・・・じゃあ、キップとクップとはここでお別れってことか。」「あ・・・。」彩里水の言葉で白兎とキップとクップは自分たちとはもう２度と会わないかもしれないという別れの時が来たことに気がつく。「・・・僕。僕、とても短い間でしたが、皆さんのこととてもとても好きになりました。」キップは声を震わせている。「おいキップー。まぁた泣くのかよー。すぐ泣くなぁ。」そう言った白兎の声もなんとなく覇気がない。「そうですねー。お別れですねー。もっとたくさん皆さんと過ごしたいですがぁ、それぞれ行きたい場所が違うんですねー。一緒には・・・行けないんですよねー。」クップはまた自分の気持ちに素直に涙を流しながら伝える。「・・・うん。２人ともホントありがとう。２人がいなかったら脱走できてなかったかもね。ま、もう一生会えないって決まってるわけじゃないじゃん？会えるって思ってればこの国の法則的には会えるわけだしね！」彩里水は笑顔で言う。「・・・まあな！会おうぜ！また。」彩里水につられ白兎も笑顔を取り戻す。泣いていたキップとクップもズルッと鼻水をすすると「はい！」と大きな声で答えた。つづく]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-10-11T10:00:25+00:00</published><updated>2020-10-11T10:00:35+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
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			<h4>77　それぞれの道へ</h4><p><br></p><p><br></p><p>「・・・あの、そのことで、先程言おうと思っていたことなんですが・・・。」</p><p><br></p><p>先程何か言いかけたキャンドーが再び口を開く。</p><p><br></p><p>「そのことについても、私、リンダさんとキャシーさんに進言していただきました。この地上に出た後に彩里水くんと白兎くんが行きたいのはオールワン遊園地、そして、キップとクップが行きたいのはミラーランドですよね？」</p><p><br></p><p>「うん。」</p><p><br></p><p>「はい。」</p><p><br></p><p>２人と2体は声を揃えて返事をする。</p><p><br></p><p>キャンドーはまた、先程地下から地上へ出てきた方法と同じく、何か上手い方法で２人がなるべく簡単に目的の場所へ行くことができるように伝えようとした。</p><p>しかし、この方法はこの世界の住人であるキップとクップには通用しない方法かもしれないことと、そしてキップとクップはきっと、ミラーランドへ行く過程そのものを楽しみたいのであろうということ、世界を見る事自体が彼らの目的であるだろうと思い至った。</p><p><br></p><p>この2組はここで別々の道を行くのが最善であるとキャンドーは考えた。</p><p><br></p><p>「まずはキップ、クップ。君たちが行きたいミラーランドは私も以前行ったことがあるんだ。私はこのワンダーランドから出る船に乗って港から船でミラーランドまで旅をしたよ。それがこの国に生きる者として一番確実で安全で、そしてたくさんのものを道中見る事ができる方法だと思う。ここはワンダーランドの中心部だから港まではかなり距離がある。勿論、ドラゴンに乗ったり他の生き物に乗って旅をすることだって可能だろう。君たちの行きたい方法で行くといいよ。この森を抜ければ町などが必ずあるはずだ。私が外に出たのは随分昔だが、それはきっと今でも変わらないだろう。どんなに時代が変わっても生きている者は群れを作り、生きる場所を作り生きていくものだ。真っ直ぐに森を出て、町や村を目指し、人に尋ねて頼って目的地を探しなさい。この世界をたっぷり楽しんで。」</p><p><br></p><p>キャンドーが笑顔でキップとクップに告げると、２人は少しだけ表情を引き締めて「はい。」と返事をした。</p><p><br></p><p>「そして彩里水くん、白兎くん。２人は何よりもオールワン遊園地を目指したいということで良かったかな？」</p><p><br></p><p>「うん。」</p><p><br></p><p>彩里水と白兎はまた声を合わせる。</p><p><br></p><p>「それであれば、リンダさんキャシーさんからの言伝です。出たところに直径30ｃｍ程のガラス玉のようなものがあるそうです。それを探し当てて２人でそのガラス玉に触りながら行きたい場所を思い浮かべる、ということです。」</p><p><br></p><p>「ほおー！すげー！やっぱ思い浮かべる方式でどこにでも行けんだなー。」</p><p><br></p><p>白兎はしきりに感動する。</p><p><br></p><p>「・・・じゃあ、キップとクップとはここでお別れってことか。」</p><p><br></p><p>「あ・・・。」</p><p><br></p><p>彩里水の言葉で白兎とキップとクップは自分たちとはもう２度と会わないかもしれないという別れの時が来たことに気がつく。</p><p><br></p><p>「・・・僕。僕、とても短い間でしたが、皆さんのこととてもとても好きになりました。」</p><p><br></p><p>キップは声を震わせている。</p><p><br></p><p>「おいキップー。まぁた泣くのかよー。すぐ泣くなぁ。」</p><p><br></p><p>そう言った白兎の声もなんとなく覇気がない。</p><p><br></p><p>「そうですねー。お別れですねー。もっとたくさん皆さんと過ごしたいですがぁ、それぞれ行きたい場所が違うんですねー。一緒には・・・行けないんですよねー。」</p><p><br></p><p>クップはまた自分の気持ちに素直に涙を流しながら伝える。</p><p><br></p><p>「・・・うん。２人ともホントありがとう。２人がいなかったら脱走できてなかったかもね。ま、もう一生会えないって決まってるわけじゃないじゃん？会えるって思ってればこの国の法則的には会えるわけだしね！」</p><p><br></p><p>彩里水は笑顔で言う。</p><p><br></p><p>「・・・まあな！会おうぜ！また。」</p><p><br></p><p>彩里水につられ白兎も笑顔を取り戻す。</p><p><br></p><p>泣いていたキップとクップもズルッと鼻水をすすると「はい！」と大きな声で答えた。</p><p><br></p><p><br></p><p>つづく</p>
		</div>
	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[少年彩里水の不思議冒険譚　-不思議の国の入り口76-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10661254/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10661254</id><summary><![CDATA[76　気配「さあ！ここまで来たよ、キップ、クップ。」彩里水はポケットから2体をソッと出しながら声をかける。キップとクップは彩里水に外に出されながら呆然と辺りを眺めている。「・・・はい。僕ら、僕らとうとうお城の外に出たんですね。」「す、すごいですー。夢じゃないでしょうかー。」呆然と辺りを見回すキップクップに白兎はキャンドーをポケットから出しながらからかうように言う。「なんだー？また泣いてんのか、キップとクップ。夢みたいなのはオレらの方だろー。変な世界に迷い込んじゃって。」「泣いてないです！ただ、叶う日が来るとは思えなかった僕らの願いが本当に叶っていることをしみじみ感じていただけです。」キップはプイッと白兎から顔を逸らし自分の顔を見られないようにする。「僕ー。僕は嬉しくて涙が出てきちゃいますー。」一方のクップは涙が次から溢れてくるのを堪えきれず素直に自分の気持ちを吐露する。「よかったね。2人とも。でも、オレたちまだここで止まるわけにはいかないからね。」彩里水は喜んだのもつかの間、気合いを入れ直す。「だな。オレたちはここからオールワン遊園地を目指さんと。」「２人は、ここからは別行動？どこか行きたいところの目星でもあるの？」彩里水はキップとクップを地面に優しく置きながら問う。「はい！実は僕らずっと１度は訪れたい場所があったんです。」「はいー！ラープンさんのお話にあったミラーランドへ行ってみたいんですー！」キップとクップは元気いっぱいに皆に告げる。「ミラーランド？」白兎が繰り返す。「はい！ここはワンダーランドという国ですがこの国より海を渡った先にミラーランドという国があるとラープンさんに窺ったことがあります。僕ら幼いときにその国の話を聞いて、いつかその国に行こうってずっと話をしていたんです！」「そうなんですー。そのことを、昨日彩里水さんにこのあとのことをどうする予定か聞かれた後に思い出しぃ、２人でそこを目指そうと話し合いましたー！」「そっか！」彩里水はキップとクップに笑顔で答えた。「・・・んで、とりあえずオレたちどこ目指せば良いんだろうな？とりあえず目指す場所が決まるまではまだみんなで行動だよなー。」白兎はキョロキョロと辺りを見回している。「あの・・・。」ガサッキャンドーが言いかけたその時、物陰から何かが動く音がした。全員が瞬時に身を固くし周囲の様子を注意深く観察する。「そう言えば、城に来る前は生き物の気配がまったくしない森をただ歩いてたけど、本当はあの森の草木や花も生きてたんだよな・・・。」白兎はゴクリと唾を飲み込む。「でも、あの時は本気で草も木も花もまったく物音一つ立てなかったし、小動物どころか虫一匹の気配も感じなかったよね。でも、・・・今確実に何か音がしたね。」彩里水も注意深く周囲を警戒する。一行はしばらく周囲の気配を警戒したが、その後はまたシーンと静まりかえっていた。生き物の気配をまったく感じさせない森の中にただいるのだということを逆に強く感じる事になっただけであった。「・・・ひとまずここを離れようか。どちらにしてもまだ気を抜くには早すぎたかもね。城の敷地のすぐ外に出ただけなんだから。」彩里水は声を落として周囲を警戒し続ける。「ああ。ひとまず、真っ直ぐ森を歩いてみよう。看板や生き物が見つかるまでどちらにしてもここにいても仕方ないしな。」つづく]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-10-10T10:00:42+00:00</published><updated>2020-10-10T10:00:50+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
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			<h4>76　気配</h4><p><br></p><p>「さあ！ここまで来たよ、キップ、クップ。」</p><p><br></p><p>彩里水はポケットから2体をソッと出しながら声をかける。</p><p>キップとクップは彩里水に外に出されながら呆然と辺りを眺めている。</p><p><br></p><p>「・・・はい。僕ら、僕らとうとうお城の外に出たんですね。」</p><p><br></p><p>「す、すごいですー。夢じゃないでしょうかー。」</p><p><br></p><p>呆然と辺りを見回すキップクップに白兎はキャンドーをポケットから出しながらからかうように言う。</p><p><br></p><p>「なんだー？また泣いてんのか、キップとクップ。夢みたいなのはオレらの方だろー。変な世界に迷い込んじゃって。」</p><p><br></p><p>「泣いてないです！ただ、叶う日が来るとは思えなかった僕らの願いが本当に叶っていることをしみじみ感じていただけです。」</p><p><br></p><p>キップはプイッと白兎から顔を逸らし自分の顔を見られないようにする。</p><p><br></p><p>「僕ー。僕は嬉しくて涙が出てきちゃいますー。」</p><p><br></p><p>一方のクップは涙が次から溢れてくるのを堪えきれず素直に自分の気持ちを吐露する。</p><p><br></p><p>「よかったね。2人とも。でも、オレたちまだここで止まるわけにはいかないからね。」</p><p><br></p><p>彩里水は喜んだのもつかの間、気合いを入れ直す。</p><p><br></p><p>「だな。オレたちはここからオールワン遊園地を目指さんと。」</p><p><br></p><p>「２人は、ここからは別行動？どこか行きたいところの目星でもあるの？」</p><p><br></p><p>彩里水はキップとクップを地面に優しく置きながら問う。</p><p><br></p><p>「はい！実は僕らずっと１度は訪れたい場所があったんです。」</p><p><br></p><p>「はいー！ラープンさんのお話にあったミラーランドへ行ってみたいんですー！」</p><p><br></p><p>キップとクップは元気いっぱいに皆に告げる。</p><p><br></p><p>「ミラーランド？」</p><p><br></p><p>白兎が繰り返す。</p><p><br></p><p>「はい！ここはワンダーランドという国ですがこの国より海を渡った先にミラーランドという国があるとラープンさんに窺ったことがあります。僕ら幼いときにその国の話を聞いて、いつかその国に行こうってずっと話をしていたんです！」</p><p><br></p><p>「そうなんですー。そのことを、昨日彩里水さんにこのあとのことをどうする予定か聞かれた後に思い出しぃ、２人でそこを目指そうと話し合いましたー！」</p><p><br></p><p>「そっか！」</p><p><br></p><p>彩里水はキップとクップに笑顔で答えた。</p><p><br></p><p>「・・・んで、とりあえずオレたちどこ目指せば良いんだろうな？とりあえず目指す場所が決まるまではまだみんなで行動だよなー。」</p><p><br></p><p>白兎はキョロキョロと辺りを見回している。</p><p><br></p><p>「あの・・・。」</p><p><br></p><p>ガサッ</p><p><br></p><p>キャンドーが言いかけたその時、物陰から何かが動く音がした。</p><p><br></p><p>全員が瞬時に身を固くし周囲の様子を注意深く観察する。</p><p><br></p><p>「そう言えば、城に来る前は生き物の気配がまったくしない森をただ歩いてたけど、本当はあの森の草木や花も生きてたんだよな・・・。」</p><p><br></p><p>白兎はゴクリと唾を飲み込む。</p><p><br></p><p>「でも、あの時は本気で草も木も花もまったく物音一つ立てなかったし、小動物どころか虫一匹の気配も感じなかったよね。でも、・・・今確実に何か音がしたね。」</p><p><br></p><p>彩里水も注意深く周囲を警戒する。</p><p><br></p><p>一行はしばらく周囲の気配を警戒したが、その後はまたシーンと静まりかえっていた。</p><p>生き物の気配をまったく感じさせない森の中にただいるのだということを逆に強く感じる事になっただけであった。</p><p><br></p><p>「・・・ひとまずここを離れようか。どちらにしてもまだ気を抜くには早すぎたかもね。城の敷地のすぐ外に出ただけなんだから。」</p><p><br></p><p>彩里水は声を落として周囲を警戒し続ける。</p><p><br></p><p>「ああ。ひとまず、真っ直ぐ森を歩いてみよう。看板や生き物が見つかるまでどちらにしてもここにいても仕方ないしな。」</p><p><br></p><p><br></p><p>つづく</p>
		</div>
	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[少年彩里水の不思議冒険譚　-不思議の国の入り口75-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10660817/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10660817</id><summary><![CDATA[75　地上へ笑い合っている2人にキャンドーが進言する。「彩里水くん白兎くん。ここから地上に出る方法なら、私、先程リンダさんに窺っておきました。」「え？マジ？さすがキャンドー。」彩里水は笑顔でキャンドーに答える。「はい。地上に出るには上に手をかざして、そこから自分がグイと何かに引き上げられるような想像をします。するとその真上の地上に立っているそうです。」「へー。そんな簡単なことだったんだ。」白兎は思ったより楽に出られることに拍子抜けしている。白兎の思っている通り、なんとも簡単な方法でここから抜けることができると信じさせる方法をキャンドーは進言したのだった。先程リンダたちから窺ったという点で、全くのウソを述べているわけではなかったが、掌をかざすなどの動作はキャンドーの口から出任せだった。要は彩里水と白兎に簡単に出ることができる、そういうものなのだと心から信じ込ませることが重要だった。「んじゃ早速やろう！」そう言うと彩里水は掌を地上に向けギュッと目を閉じる。その次の瞬間、白兎の目の前にいたはずの彩里水は姿を消す。「わ！すげえ！でもやっぱこの急なの慣れないなー、オレ。・・・じゃ、オレたちも行こうか、キャンドー。」白兎はポケットのキャンドーに声をかけると、彩里水と同様に掌を地上へ向けてかざす。白兎はそのまま何者かに引き上げられてるような想像をした瞬間、ヒュッと実際に体が引き上げられたような感覚を覚え、気付くと彩里水が目の前に立っていた。キャンドーは人知れず胸をなで下ろす。彩里水は比較的頭が柔らかい質で、何でも受け入れる姿勢でいる性格の持ち主だということを、キャンドーはここまで一緒に行動してきて感じていた。しかし、白兎は今までキャンドーが出会ってきた異国の住人たちの考え方に等しく、何かにつけて「そうはならない、できないんだ」と信じている。奇跡は滅多に起こらないから奇跡なのだという認識であるようだった。決して人より疑り深いわけでもないし、大人たちに比べれば発想はあくまで柔軟であるが、少しでも疑えば叶わないようなことを白兎に信じてもらえるのか、キャンドーは不安もあった。もし1度でも白兎がこの方法に疑問を持ってしまえば、2度目からはどうしたって疑念が先立ってしまう。下手をすればこのままここから出ることができなくなってさえしまうかもしれないとさえ思った。その点で、彩里水の“提案を受けできそうだったら即行動する”という性格は、白兎に疑念の余地をもたらすことなく結果を目の当たりにさせることができ、キャンドーの思惑は思ったよりも断然スムーズにはまった。「うわ！」彩里水は目の前に突然現れた白兎に驚いて声を上げた。「おわ！」白兎も目の前に突然現れた彩里水に声を上げ、のけぞる。「とうとう出たね。城の外。」彩里水は短く白兎に言う。「おお！・・・ああ、ホントに。」白兎も周りをキョロキョロと見回しながら答えた。つづく]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-10-09T10:00:08+00:00</published><updated>2020-10-09T10:00:14+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
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		</div>
		

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			<h4>75　地上へ</h4><p><br></p><p><br></p><p>笑い合っている2人にキャンドーが進言する。</p><p><br></p><p>「彩里水くん白兎くん。ここから地上に出る方法なら、私、先程リンダさんに窺っておきました。」</p><p><br></p><p>「え？マジ？さすがキャンドー。」</p><p><br></p><p>彩里水は笑顔でキャンドーに答える。</p><p><br></p><p>「はい。地上に出るには上に手をかざして、そこから自分がグイと何かに引き上げられるような想像をします。するとその真上の地上に立っているそうです。」</p><p><br></p><p>「へー。そんな簡単なことだったんだ。」</p><p><br></p><p>白兎は思ったより楽に出られることに拍子抜けしている。</p><p><br></p><p>白兎の思っている通り、なんとも簡単な方法でここから抜けることができると信じさせる方法をキャンドーは進言したのだった。</p><p>先程リンダたちから窺ったという点で、全くのウソを述べているわけではなかったが、掌をかざすなどの動作はキャンドーの口から出任せだった。</p><p>要は彩里水と白兎に簡単に出ることができる、そういうものなのだと心から信じ込ませることが重要だった。</p><p><br></p><p>「んじゃ早速やろう！」</p><p><br></p><p>そう言うと彩里水は掌を地上に向けギュッと目を閉じる。</p><p>その次の瞬間、白兎の目の前にいたはずの彩里水は姿を消す。</p><p><br></p><p>「わ！すげえ！でもやっぱこの急なの慣れないなー、オレ。・・・じゃ、オレたちも行こうか、キャンドー。」</p><p><br></p><p>白兎はポケットのキャンドーに声をかけると、彩里水と同様に掌を地上へ向けてかざす。</p><p>白兎はそのまま何者かに引き上げられてるような想像をした瞬間、ヒュッと実際に体が引き上げられたような感覚を覚え、気付くと彩里水が目の前に立っていた。</p><p><br></p><p>キャンドーは人知れず胸をなで下ろす。</p><p><br></p><p>彩里水は比較的頭が柔らかい質で、何でも受け入れる姿勢でいる性格の持ち主だということを、キャンドーはここまで一緒に行動してきて感じていた。</p><p><br></p><p>しかし、白兎は今までキャンドーが出会ってきた異国の住人たちの考え方に等しく、何かにつけて「そうはならない、できないんだ」と信じている。</p><p>奇跡は滅多に起こらないから奇跡なのだという認識であるようだった。</p><p><br></p><p>決して人より疑り深いわけでもないし、大人たちに比べれば発想はあくまで柔軟であるが、少しでも疑えば叶わないようなことを白兎に信じてもらえるのか、キャンドーは不安もあった。</p><p>もし1度でも白兎がこの方法に疑問を持ってしまえば、2度目からはどうしたって疑念が先立ってしまう。</p><p>下手をすればこのままここから出ることができなくなってさえしまうかもしれないとさえ思った。</p><p>その点で、彩里水の“提案を受けできそうだったら即行動する”という性格は、白兎に疑念の余地をもたらすことなく結果を目の当たりにさせることができ、キャンドーの思惑は思ったよりも断然スムーズにはまった。</p><p><br></p><p>「うわ！」</p><p><br></p><p>彩里水は目の前に突然現れた白兎に驚いて声を上げた。</p><p><br></p><p>「おわ！」</p><p><br></p><p>白兎も目の前に突然現れた彩里水に声を上げ、のけぞる。</p><p><br></p><p>「とうとう出たね。城の外。」</p><p><br></p><p>彩里水は短く白兎に言う。</p><p><br></p><p>「おお！・・・ああ、ホントに。」</p><p><br></p><p>白兎も周りをキョロキョロと見回しながら答えた。</p><p><br></p><p><br></p><p>つづく</p>
		</div>
	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[少年彩里水の不思議冒険譚　-不思議の国の入り口74-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10660549/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10660549</id><summary><![CDATA[74　外へ「あ！あった！あれじゃない？看板。」彩里水は前方に見えてきた看板を見つけて大声を上げて駆け出す。続けて白兎も看板に向かって駆けていく。「わ！とうとう来たな。城の出口。・・・はー、長かった～。ここへ来てまだ1日ぐらいしか経ってないとはとても思えないな、彩里水。」白兎は大きな幼虫が丸まっているような形の看板に“庭園出入り口”と書かれているのを見ながら言った。「ね。ここまで来れたね！白兎。」「でもさ、ここを通過したとして、・・・地上にはどう戻るんだ？」「確かに。入る時は蟻さんたちを見てたら勝手に入ったし、白兎たちはオレが引っ張っただけだしね。」「・・・まあ、ひとまず地中でも良いからここの外に出て、それから考えるか！」白兎はニッと彩里水に笑いかけて言う。彩里水もそれに答えるようにニッと笑い、言った。「だね！じゃ、せーので行こう！」「ち、ちょっと待った！でも、敷地から出るときなんか起こんないかな？」「・・・はあ？別に何も起こらないんじゃない？逆に何で何か起こるって思うんだよ？」彩里水は呆れた顔で白兎に言う。「いや、だってさ、なんか順調すぎて逆に的な？」「はあ。ほんと、心配性だよね、白兎。別に追手とかもいないし大丈夫でしょ。」彩里水は辺りをキョロキョロと見回す。「・・・ま、まあ、そうだよな。ごめんごめん。」白兎は彩里水に言われて、この期に及んでまだ先のことを心配してしまった自分がちょっと情けなくなり頭を掻く。「じゃ、行こうよ。」「・・・おう！」彩里水は再び掛け声をかける。「じゃあ、行くよ？」「・・・せーの！」二人は顔を見合わせながら、息を合わせて幼虫の看板の脇をジャンプで飛び越える。白兎は思い切ってジャンプしたが、やはり少し怖くなりジャンプの瞬間目を瞑る。地中では動作の音が彩里水と白兎には聞こえないが、確かに足や手には何かに触ったり歩いているときに地面を踏みしめているような感覚はあるのだ。初めは白兎はそれも不思議に思っていたが、途中から考えるのを止めていた。ジャンプしたときも、いつも地上でジャンプするように地面を蹴る感触もあったし、その後地面に着地する時に自分の体重を両足で支える感触もあった。しかし、いつも地上ならタンッやらトンッやら着地するような音がセットで聞こえるはずだがそれは聞こえなかった。しかし、白兎が目をそおっと開くと、確かに彩里水と白兎は幼虫を飛び越えていた。「・・・特に外に出たっていう実感はないな。」白兎は地上を見上げる。「うん。・・・まあ、出たんじゃない？」彩里水もつられて地上を見上げる。「・・・意外とあっけないな。」白兎がそう言うと、二人は顔を見合わせて笑い合った。「なんだよ、なんで笑ってんの？」彩里水は笑いながら白兎に言う。「いや、わかんねー。でもお前だって笑ってんじゃん。」「はは！だって、なんかウケる。てか、なんか嬉しい気もするし、ホッとしてる気もするしいろんな感情が混ざってる感じする。」「わ、わかる。なんか安心して気が抜けた感じもする。」「うん。」二人は、ひとしきり笑い合った。つづく]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-10-08T10:00:53+00:00</published><updated>2020-10-08T10:01:01+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
		<div>
			<img src="https://www.instagram.com/p/CD6N5l1HUWk/media?size=l&width=960" width="100%">
		</div>
		

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			<h4>74　外へ</h4><p><br></p><p><br></p><p>「あ！あった！あれじゃない？看板。」</p><p><br></p><p>彩里水は前方に見えてきた看板を見つけて大声を上げて駆け出す。</p><p>続けて白兎も看板に向かって駆けていく。</p><p><br></p><p>「わ！とうとう来たな。城の出口。・・・はー、長かった～。ここへ来てまだ1日ぐらいしか経ってないとはとても思えないな、彩里水。」</p><p><br></p><p>白兎は大きな幼虫が丸まっているような形の看板に“庭園出入り口”と書かれているのを見ながら言った。</p><p><br></p><p>「ね。ここまで来れたね！白兎。」</p><p><br></p><p>「でもさ、ここを通過したとして、・・・地上にはどう戻るんだ？」</p><p><br></p><p>「確かに。入る時は蟻さんたちを見てたら勝手に入ったし、白兎たちはオレが引っ張っただけだしね。」</p><p><br></p><p>「・・・まあ、ひとまず地中でも良いからここの外に出て、それから考えるか！」</p><p><br></p><p>白兎はニッと彩里水に笑いかけて言う。</p><p>彩里水もそれに答えるようにニッと笑い、言った。</p><p><br></p><p>「だね！じゃ、せーので行こう！」</p><p><br></p><p>「ち、ちょっと待った！でも、敷地から出るときなんか起こんないかな？」</p><p><br></p><p>「・・・はあ？別に何も起こらないんじゃない？逆に何で何か起こるって思うんだよ？」</p><p><br></p><p>彩里水は呆れた顔で白兎に言う。</p><p><br></p><p>「いや、だってさ、なんか順調すぎて逆に的な？」</p><p><br></p><p>「はあ。ほんと、心配性だよね、白兎。別に追手とかもいないし大丈夫でしょ。」</p><p><br></p><p>彩里水は辺りをキョロキョロと見回す。</p><p><br></p><p>「・・・ま、まあ、そうだよな。ごめんごめん。」</p><p><br></p><p>白兎は彩里水に言われて、この期に及んでまだ先のことを心配してしまった自分がちょっと情けなくなり頭を掻く。</p><p><br></p><p>「じゃ、行こうよ。」</p><p><br></p><p>「・・・おう！」</p><p><br></p><p>彩里水は再び掛け声をかける。</p><p><br></p><p>「じゃあ、行くよ？」</p><p><br></p><p>「・・・せーの！」</p><p><br></p><p>二人は顔を見合わせながら、息を合わせて幼虫の看板の脇をジャンプで飛び越える。</p><p><br></p><p>白兎は思い切ってジャンプしたが、やはり少し怖くなりジャンプの瞬間目を瞑る。</p><p><br></p><p>地中では動作の音が彩里水と白兎には聞こえないが、確かに足や手には何かに触ったり歩いているときに地面を踏みしめているような感覚はあるのだ。</p><p><br></p><p>初めは白兎はそれも不思議に思っていたが、途中から考えるのを止めていた。</p><p><br></p><p>ジャンプしたときも、いつも地上でジャンプするように地面を蹴る感触もあったし、その後地面に着地する時に自分の体重を両足で支える感触もあった。</p><p><br></p><p>しかし、いつも地上ならタンッやらトンッやら着地するような音がセットで聞こえるはずだがそれは聞こえなかった。</p><p><br></p><p>しかし、白兎が目をそおっと開くと、確かに彩里水と白兎は幼虫を飛び越えていた。</p><p><br></p><p>「・・・特に外に出たっていう実感はないな。」</p><p><br></p><p>白兎は地上を見上げる。</p><p><br></p><p>「うん。・・・まあ、出たんじゃない？」</p><p><br></p><p>彩里水もつられて地上を見上げる。</p><p><br></p><p>「・・・意外とあっけないな。」</p><p><br></p><p>白兎がそう言うと、二人は顔を見合わせて笑い合った。</p><p><br></p><p>「なんだよ、なんで笑ってんの？」</p><p><br></p><p>彩里水は笑いながら白兎に言う。</p><p><br></p><p>「いや、わかんねー。でもお前だって笑ってんじゃん。」</p><p><br></p><p>「はは！だって、なんかウケる。てか、なんか嬉しい気もするし、ホッとしてる気もするしいろんな感情が混ざってる感じする。」</p><p><br></p><p>「わ、わかる。なんか安心して気が抜けた感じもする。」</p><p><br></p><p>「うん。」</p><p><br></p><p>二人は、ひとしきり笑い合った。</p><p><br></p><p>つづく</p>
		</div>
	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[少年彩里水の不思議冒険譚　-不思議の国の入り口73-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10620512/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10620512</id><summary><![CDATA[73　ある方ごまかす様子もなく返事をするキャンドーにリンダは苛立ちを隠せない。「はっ！正直に言うじゃないか！どういうつもりだ？私が適当言ってるってわかってあの子たちへのその態度。どういうことだ？返答次第では、アンタをここからあの子らと一緒に通すわけにはいかないよ。」キャンドーはリンダの質問の意図を理解し、慎重に答える。「・・・あの、あのお2人はこの庭園の地上に降り立って城へ来たそうで、その時はドラゴンに乗って来て、とても広そうな場所だと言っていったのです。」「・・・それで？」「私とは城の中で出会い、いろいろあって一緒にこの城の外へ出ることに決めたのです。私自身は先程も言いましたように長いことここから外に出ておりません。そのことは彩里水くんと白兎くんにも既に伝えてありました。」「・・・。」リンダは先を促すように頷いて相槌だけ打つ。「ですので、私が何か言っても彩里水くんと白兎くんが目で見たもの以上に私の言葉を信じられるかどうかわからなかったので、機会を窺っていました。」「・・・。なるほど？つまり、私が言った500ミロン先に看板がいるってのは適当で、でもそれをあの２人が心から信じればそこに必ず現れるってことはわかってるわけだ。で、アンタ、あの子たちと一緒に外の世界に出てどうするつもり？長いことここにいたんでしょ？今更なんの不満があって出ていくんだ。外の世界は城よりよっぽどひどい可能性が高いってことぐらいは、わかってんだろ？」「・・・はい。私は、吏胡以前より、ずっとある方にお仕えしていました。そして吏胡以降はこの国の塔に幽閉同然に置かれたままになっていました。初めはそこから抜けだすこともたくさん考え実行していましたがいつも失敗し、次第に心も風化していきました。そしてもう本当に長い年月、心を閉ざしておりました。ところが、あのお２人が昨日、突如塔に現れたのです。私は言い伝えは本当だと興奮しました！・・・あなたもあの２人が異世界から来た純人型の子供たちであるとわかったから手助けするのでしょう？」それまで従順そうに説明をしていたキャンドーが、最後のリンダへの質問の部分だけ鋭い視線でリンダを射貫くように見据えたことにリンダは少し圧倒された。「・・・はっ。なるほどね。枯れた心が、あの２人を見て希望を取り戻したってわけ。」「・・・そういうことです。」キャンドーは再び元の従順な雰囲気を取り戻す。「・・・それで？この世界の外に出て、アンタは何をしようっての？」「お2人はこの世界について何も知らないですから、私がこの国の知識として付いていき、少しでもお役に立てればと思っているのです。私は、私がお仕えしたあの方を、あのお2人なら救い出していただけると信じる事しかできません。」「・・・まさか。アンタのお仕えした方って・・・。」「ここでそのお名前は口には出せません。」キャンドーは神妙な顔でリンダを遮る。「・・・はっ。驚いた。驚いてばっかだね、あんたたちには。・・・いいだろう。アンタを信じるよ。あたしたちも、できることは協力する。あたしたちみんなも吏胡以降はひどい目に遭ってんだ。・・・見ればわかるだろうけどね。」キャンドーは玩具の集団たちを見回した。ほとんどの者がボロボロに壊れながらなんとか形状を保っているというような状態だった。「ええ。吏胡以降、ひどい目に遭っていない者たちなどごく僅かでしょう。ここへ来るまでの間にも感じました。・・・少なくとも従業員棟さんは我々の味方でしょう。」キャンドーは空を見つめて心がここにはないように呟いた。「・・・従業員棟さん？」リンダは訝しげに聞く。「あ、すいません。こちらの話でした。・・・リンダさんキャシーさん、ありがとうございます。何かあればお力添えをお願いするときが来るかもしれません。しかしながら今はまだ、彩里水くんと白兎くんにはお伝えする時機ではないと思っています。ですが、彼らは必ず、あの方を、我々を救い出してくださります。」「・・・アンタほどは信じらんないけどね。でもあたしたちだって、希望は持ちたい。」リンダが言うとキャシーも頷く。「事情はわかった。行きな。・・・敷地の外のことはあたしたちもわかんないよ。気をつけんだよ。」「はい。ありがとうございます。」キャンドーとリンダの話が終わるのを待って、彩里水たちはリンダたちに別れを告げ、地中を進んでいった。つづく]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-10-07T10:00:18+00:00</published><updated>2020-10-07T10:00:24+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
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			<h4>73　ある方</h4><p><br></p><p><br></p><p>ごまかす様子もなく返事をするキャンドーにリンダは苛立ちを隠せない。</p><p><br></p><p>「はっ！正直に言うじゃないか！どういうつもりだ？私が適当言ってるってわかってあの子たちへのその態度。どういうことだ？返答次第では、アンタをここからあの子らと一緒に通すわけにはいかないよ。」</p><p><br></p><p>キャンドーはリンダの質問の意図を理解し、慎重に答える。</p><p><br></p><p>「・・・あの、あのお2人はこの庭園の地上に降り立って城へ来たそうで、その時はドラゴンに乗って来て、とても広そうな場所だと言っていったのです。」</p><p><br></p><p>「・・・それで？」</p><p><br></p><p>「私とは城の中で出会い、いろいろあって一緒にこの城の外へ出ることに決めたのです。私自身は先程も言いましたように長いことここから外に出ておりません。そのことは彩里水くんと白兎くんにも既に伝えてありました。」</p><p><br></p><p>「・・・。」</p><p><br></p><p>リンダは先を促すように頷いて相槌だけ打つ。</p><p><br></p><p>「ですので、私が何か言っても彩里水くんと白兎くんが目で見たもの以上に私の言葉を信じられるかどうかわからなかったので、機会を窺っていました。」</p><p><br></p><p>「・・・。なるほど？つまり、私が言った500ミロン先に看板がいるってのは適当で、でもそれをあの２人が心から信じればそこに必ず現れるってことはわかってるわけだ。で、アンタ、あの子たちと一緒に外の世界に出てどうするつもり？長いことここにいたんでしょ？今更なんの不満があって出ていくんだ。外の世界は城よりよっぽどひどい可能性が高いってことぐらいは、わかってんだろ？」</p><p><br></p><p>「・・・はい。私は、吏胡以前より、ずっとある方にお仕えしていました。そして吏胡以降はこの国の塔に幽閉同然に置かれたままになっていました。初めはそこから抜けだすこともたくさん考え実行していましたがいつも失敗し、次第に心も風化していきました。そしてもう本当に長い年月、心を閉ざしておりました。ところが、あのお２人が昨日、突如塔に現れたのです。私は言い伝えは本当だと興奮しました！・・・あなたもあの２人が異世界から来た純人型の子供たちであるとわかったから手助けするのでしょう？」</p><p><br></p><p>それまで従順そうに説明をしていたキャンドーが、最後のリンダへの質問の部分だけ鋭い視線でリンダを射貫くように見据えたことにリンダは少し圧倒された。</p><p><br></p><p>「・・・はっ。なるほどね。枯れた心が、あの２人を見て希望を取り戻したってわけ。」</p><p><br></p><p>「・・・そういうことです。」</p><p><br></p><p>キャンドーは再び元の従順な雰囲気を取り戻す。</p><p><br></p><p>「・・・それで？この世界の外に出て、アンタは何をしようっての？」</p><p><br></p><p>「お2人はこの世界について何も知らないですから、私がこの国の知識として付いていき、少しでもお役に立てればと思っているのです。私は、私がお仕えしたあの方を、あのお2人なら救い出していただけると信じる事しかできません。」</p><p><br></p><p>「・・・まさか。アンタのお仕えした方って・・・。」</p><p><br></p><p>「ここでそのお名前は口には出せません。」</p><p><br></p><p>キャンドーは神妙な顔でリンダを遮る。</p><p><br></p><p>「・・・はっ。驚いた。驚いてばっかだね、あんたたちには。・・・いいだろう。アンタを信じるよ。あたしたちも、できることは協力する。あたしたちみんなも吏胡以降はひどい目に遭ってんだ。・・・見ればわかるだろうけどね。」</p><p><br></p><p>キャンドーは玩具の集団たちを見回した。</p><p>ほとんどの者がボロボロに壊れながらなんとか形状を保っているというような状態だった。</p><p><br></p><p>「ええ。吏胡以降、ひどい目に遭っていない者たちなどごく僅かでしょう。ここへ来るまでの間にも感じました。・・・少なくとも従業員棟さんは我々の味方でしょう。」</p><p><br></p><p>キャンドーは空を見つめて心がここにはないように呟いた。</p><p><br></p><p>「・・・従業員棟さん？」</p><p><br></p><p>リンダは訝しげに聞く。</p><p><br></p><p>「あ、すいません。こちらの話でした。・・・リンダさんキャシーさん、ありがとうございます。何かあればお力添えをお願いするときが来るかもしれません。しかしながら今はまだ、彩里水くんと白兎くんにはお伝えする時機ではないと思っています。ですが、彼らは必ず、あの方を、我々を救い出してくださります。」</p><p><br></p><p>「・・・アンタほどは信じらんないけどね。でもあたしたちだって、希望は持ちたい。」</p><p><br></p><p>リンダが言うとキャシーも頷く。</p><p><br></p><p>「事情はわかった。行きな。・・・敷地の外のことはあたしたちもわかんないよ。気をつけんだよ。」</p><p><br></p><p>「はい。ありがとうございます。」</p><p><br></p><p>キャンドーとリンダの話が終わるのを待って、彩里水たちはリンダたちに別れを告げ、地中を進んでいった。</p><p><br></p><p>つづく</p>
		</div>
	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[少年彩里水の不思議冒険譚　-不思議の国の入り口72-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10607988/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10607988</id><summary><![CDATA[72　この国の単位「まあ、いい。純人型にお目にかかれるなんてラッキーだ。純人型様のご要望とあらば、ご案内しようかねえ？なあ、キャシー？」「え、ええ。リンダがそう言うならいいんじゃない？・・・私は純人型の、しかも子供に出会ってお役に立てるなら光栄だわ。」キャシーは愛想の良い笑みを浮かべて彩里水と白兎を見ている。「ほんとですか！？お願いします！この城の敷地の外へ行きたいです。」「・・・。ここはもうほとんど敷地の外への境界だよ。」リンダが含みのある言い方をしたが、彩里水と白兎はそれに気がつかない。「え！？マジですか？ってことはもうめちゃくちゃ狭かったってことじゃない？庭園。」「だな。オレらが来たときメチャクチャ敷地広そうだと思ったけど、実はそうでもなかったんだなー。あのドラゴンが降り立ったとこが、実は境界の辺りだったとか？」「あー、なるほど。かもね。ありえるー。」「それで、何か目印とかはありますか？敷地の外に出ますって感じの目印。」「・・・地中の中なら、あと500ミロンほど進んだとこに看板が見え始めるはずだよ。“城の敷地出入り口”って看板がその辺をウロウロしてるはずだ。」リンダはまた何か考えるようにしてから答える。「・・・500ミロン？」「ん？なんだ？」「500ミロンってどのくらいですか？」「ん？アンタたち純人型なのにそんなことも知らないのか？」訝しげな顔をして彩里水と白兎を見たリンダはハッと気がついたように言う。「・・・まさかあんたたち、ここの世界のもんじゃないのか？」リンダが言うと、キャシーの顔色が変わる。彩里水は気付かず答える。「はい。オレたちはなんか知らないうちにここに紛れ込んじゃって、帰り道を探してるんです。」「・・・はっ。驚いた。」リンダとキャシーは目を丸くして彩里水と白兎を見る。２人を取り囲む玩具の集団たちはそんな２人の様子に首をかしげている。「なるほど、紛れ込んだのは城だけじゃなくこの世界全体にってことか。・・・ははは！いいじゃないか！面白くなってきた！」リンダの言葉の意味がわからない彩里水と白兎はただボーッとリンダとキャシーの様子を見ていた。「ああ、500ミロンがわかんないんだったね。えーっと、500ミロンは・・・。」リンダはキョロキョロと周りを見渡したが、それを諦めて手を広げて見せた。「コレが半ミロンってとこだね。」「えーっと、大体１メートルぐらいが半ミロン？ってことはー・・・、500ミロンは1キロぐらいって感じか！」白兎は計算すると彩里水に同意を求める。「・・・え？あ、そう、・・・そうだね！白兎が言うならそうなんだよね、きっと。」「・・・おい彩里水。おまえ絶対よくわかってないだろ。」「ま、まーいーじゃん。オレ算数苦手だしー。」彩里水は白兎から逃れるように視線を泳がす。「ま、いいわ。大体1キロぐらい進んだら看板があるってことだ。ほんと、意外と近かったな、出口。やっと城から出れるよー。」白兎は両拳を上に掲げ、上を見上げてガッツポーズをする。「だね！じゃ、リンダさん、キャシーさん、ありがとうございます！」彩里水はリンダとキャシーに向き直し、お礼を言って先へ進もうとした。するとリンダが声を張り上げる。「ちょっと待ちな！」――きええ！何！？どうしたの？急に何でまた凶暴性復活？実はいい人だと思わせてホントはボコボコにしようって感じ！？白兎が焦っていると、リンダはキャシーに目で合図を送る。キャシーはリンダの意図を理解し静かに言う。「彩里水と白兎。あんたたちはいいわ。だけど、キャンドーとか言ったっけ？あなたにちょっと話があります。こちらにきて。」キャシーがキャンドーだけを呼び出すとリンダが彩里水たちには聞かれないように小声で問いかける。「アンタ、この国の出身？」「はい。」キャンドーはやや緊張しながらも素直に答える。「で、城に仕えてんだよね？」「はい。」「・・・てことはこの国の法則には詳しいはずだろ？さっきあたしが言ったことが全部適当だって、アンタわかってるよねえ？」「・・・さっき言ったこと、と言いますと？」キャンドーは表情を変えずに尋ね返す。「500ミロン先に敷地との境界があるって言ったことさ。」「・・・はい。」つづく]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-10-06T10:00:56+00:00</published><updated>2020-10-06T10:01:05+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
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		</div>
		

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			<h4 class="">72　この国の単位</h4><p class=""><br></p><p class=""><br></p><p class="">「まあ、いい。純人型にお目にかかれるなんてラッキーだ。純人型様のご要望とあらば、ご案内しようかねえ？なあ、キャシー？」</p><p class=""><br></p><p class="">「え、ええ。リンダがそう言うならいいんじゃない？・・・私は純人型の、しかも子供に出会ってお役に立てるなら光栄だわ。」</p><p><br></p><p>キャシーは愛想の良い笑みを浮かべて彩里水と白兎を見ている。</p><p class=""><br></p><p>「ほんとですか！？お願いします！この城の敷地の外へ行きたいです。」</p><p><br></p><p>「・・・。ここはもうほとんど敷地の外への境界だよ。」</p><p><br></p><p>リンダが含みのある言い方をしたが、彩里水と白兎はそれに気がつかない。</p><p><br></p><p>「え！？マジですか？ってことはもうめちゃくちゃ狭かったってことじゃない？庭園。」</p><p><br></p><p>「だな。オレらが来たときメチャクチャ敷地広そうだと思ったけど、実はそうでもなかったんだなー。あのドラゴンが降り立ったとこが、実は境界の辺りだったとか？」</p><p><br></p><p>「あー、なるほど。かもね。ありえるー。」</p><p><br></p><p>「それで、何か目印とかはありますか？敷地の外に出ますって感じの目印。」</p><p class=""><br></p><p>「・・・地中の中なら、あと500ミロンほど進んだとこに看板が見え始めるはずだよ。“城の敷地出入り口”って看板がその辺をウロウロしてるはずだ。」</p><p><br></p><p>リンダはまた何か考えるようにしてから答える。</p><p><br></p><p>「・・・500ミロン？」</p><p><br></p><p>「ん？なんだ？」</p><p><br></p><p>「500ミロンってどのくらいですか？」</p><p><br></p><p>「ん？アンタたち純人型なのにそんなことも知らないのか？」</p><p><br></p><p>訝しげな顔をして彩里水と白兎を見たリンダはハッと気がついたように言う。</p><p><br></p><p>「・・・まさかあんたたち、ここの世界のもんじゃないのか？」</p><p><br></p><p>リンダが言うと、キャシーの顔色が変わる。</p><p>彩里水は気付かず答える。</p><p><br></p><p>「はい。オレたちはなんか知らないうちにここに紛れ込んじゃって、帰り道を探してるんです。」</p><p><br></p><p>「・・・はっ。驚いた。」</p><p><br></p><p>リンダとキャシーは目を丸くして彩里水と白兎を見る。</p><p>２人を取り囲む玩具の集団たちはそんな２人の様子に首をかしげている。</p><p><br></p><p class="">「なるほど、紛れ込んだのは城だけじゃなくこの世界全体にってことか。・・・ははは！いいじゃないか！面白くなってきた！」</p><p><br></p><p>リンダの言葉の意味がわからない彩里水と白兎はただボーッとリンダとキャシーの様子を見ていた。</p><p><br></p><p>「ああ、500ミロンがわかんないんだったね。えーっと、500ミロンは・・・。」</p><p><br></p><p>リンダはキョロキョロと周りを見渡したが、それを諦めて手を広げて見せた。</p><p><br></p><p>「コレが半ミロンってとこだね。」</p><p><br></p><p>「えーっと、大体１メートルぐらいが半ミロン？ってことはー・・・、500ミロンは1キロぐらいって感じか！」</p><p><br></p><p>白兎は計算すると彩里水に同意を求める。</p><p><br></p><p>「・・・え？あ、そう、・・・そうだね！白兎が言うならそうなんだよね、きっと。」</p><p><br></p><p>「・・・おい彩里水。おまえ絶対よくわかってないだろ。」</p><p><br></p><p>「ま、まーいーじゃん。オレ算数苦手だしー。」</p><p><br></p><p>彩里水は白兎から逃れるように視線を泳がす。</p><p><br></p><p>「ま、いいわ。大体1キロぐらい進んだら看板があるってことだ。ほんと、意外と近かったな、出口。やっと城から出れるよー。」</p><p><br></p><p>白兎は両拳を上に掲げ、上を見上げてガッツポーズをする。</p><p><br></p><p class="">「だね！じゃ、リンダさん、キャシーさん、ありがとうございます！」</p><p><br></p><p>彩里水はリンダとキャシーに向き直し、お礼を言って先へ進もうとした。</p><p>するとリンダが声を張り上げる。</p><p><br></p><p>「ちょっと待ちな！」</p><p><br></p><p><br></p><p>――きええ！何！？どうしたの？急に何でまた凶暴性復活？実はいい人だと思わせてホントはボコボコにしようって感じ！？</p><p><br></p><p><br></p><p>白兎が焦っていると、リンダはキャシーに目で合図を送る。キャシーはリンダの意図を理解し静かに言う。</p><p><br></p><p class="">「彩里水と白兎。あんたたちはいいわ。だけど、キャンドーとか言ったっけ？あなたにちょっと話があります。こちらにきて。」</p><p><br></p><p>キャシーがキャンドーだけを呼び出すとリンダが彩里水たちには聞かれないように小声で問いかける。</p><p><br></p><p>「アンタ、この国の出身？」</p><p><br></p><p>「はい。」</p><p><br></p><p>キャンドーはやや緊張しながらも素直に答える。</p><p><br></p><p>「で、城に仕えてんだよね？」</p><p><br></p><p>「はい。」</p><p class=""><br></p><p>「・・・てことはこの国の法則には詳しいはずだろ？さっきあたしが言ったことが全部適当だって、アンタわかってるよねえ？」</p><p><br></p><p>「・・・さっき言ったこと、と言いますと？」</p><p><br></p><p>キャンドーは表情を変えずに尋ね返す。</p><p><br></p><p>「500ミロン先に敷地との境界があるって言ったことさ。」</p><p><br></p><p>「・・・はい。」</p><p><br></p><p><br></p><p>つづく</p>
		</div>
	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[少年彩里水の不思議冒険譚　-不思議の国の入り口71-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10585430/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10585430</id><summary><![CDATA[71　リンダとキャシー「なんでここにいる？」3等身の人形に尋ねられると彩里水が答える。「あ、オレたち今ここから庭園の外、城の敷地の外に出たいと思ってるんですけど、場所がわかんなくて。行き方、知ってますか？」「てめえ、あたしが先に質問してんだ。なんでここにいる？」――こええ。なんだよー！可愛らしい人形かと思いきや、めっちゃこええ！不良！？スケバン的な！？白兎が怯えている間に彩里水は答える。「あー。・・・っと。オレたち、迷っちゃって。ここって入っちゃいけないとこだったりするんですか？すいません。」「迷ったあ？」３頭身の人形はものすごい形相で彩里水を睨み付けるように見ている。――ひえええ。こえー！何なんだよ！何がそんなにあなたを怖い顔にさせるんですかー！？白兎は3頭身の人形が彩里水から自分に視線を移さないように祈る。「っっはは！・・・おもしれえじゃん！ここは誰でも簡単に入れる場所じゃねえ。でもおまえらは実際ここにいるんだから、入れたってことだな。」「え？・・・はい？」今にも殴りかかってきそうな勢いだった人形が急に笑い出したので、白兎は拍子抜けして答える。「・・・おまえら、名前は？」「あ、オレは彩里水って言います。こいつは白兎。・・・んで、コッチはキップとクップ、それにキャンドーです。」彩里水は順に全員を紹介する。「・・・ふうん。あたしはリンダ。コレはキャシー。」３頭身の人形は自分と、先程のリカちゃん人形に似た人形の名前を紹介する。キャシーは可愛らしい笑顔でぺこりとお辞儀をする。「さっきチラッと聞こえたけど、あんたたち２人は純型？」リンダは彩里水と白兎を値踏みするように交互に見て尋ねる。「はい。」彩里水が返事をするとリンダは再び質問する。「純型。・・・なるほどね。純型がなんだってこんなとこウロウロしてんだか。・・・で？そっちの3体はミックスだろ？ここがどこだか、わかってないのか？」リンダにギロリと睨まれたキップとクップは彩里水の陰に隠れて震えている。キャンドーは答える。「こちらの２人は初めて城の従業員棟の外に出たんです。私は遠い昔は外に出て降りましたが、長いこと出ておりませんので、近年この辺りがどのような状況にあるか知り得ませんでした。良かったらここがどういった場所か教えていただけますか？」「・・・長いことってどのくらいだい？」リンダはキャンドーの質問には答えず問い返す。「・・・吏胡以降です。」「・・・。」――・・・リコイコウ？キャンドーから出た聞き慣れない言葉に彩里水と白兎は顔を見合わせる。「・・・なるほどな。大体わかったよ。迷い込んだってのもウソじゃあなさそうだ。そもそも、純人型の子供なんかこんなとこにいるなんてよっぽどだね。」つづく]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-10-05T10:00:19+00:00</published><updated>2020-10-05T10:00:30+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
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			<img src="https://www.instagram.com/p/CD6N5l1HUWk/media?size=l&width=960" width="100%">
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			<h4><h4>71　リンダとキャシー</h4><p><br></p><p><br></p><p>「なんでここにいる？」</p><p><br></p><p>3等身の人形に尋ねられると彩里水が答える。</p><p><br></p><p>「あ、オレたち今ここから庭園の外、城の敷地の外に出たいと思ってるんですけど、場所がわかんなくて。行き方、知ってますか？」</p><p><br></p><p>「てめえ、あたしが先に質問してんだ。なんでここにいる？」</p><p><br></p><p><br></p><p>――こええ。なんだよー！可愛らしい人形かと思いきや、めっちゃこええ！不良！？スケバン的な！？</p><p><br></p><p><br></p><p>白兎が怯えている間に彩里水は答える。</p><p><br></p><p>「あー。・・・っと。オレたち、迷っちゃって。ここって入っちゃいけないとこだったりするんですか？すいません。」</p><p><br></p><p>「迷ったあ？」</p><p><br></p><p>３頭身の人形はものすごい形相で彩里水を睨み付けるように見ている。</p><p><br></p><p><br></p><p>――ひえええ。こえー！何なんだよ！何がそんなにあなたを怖い顔にさせるんですかー！？</p><p>白兎は3頭身の人形が彩里水から自分に視線を移さないように祈る。</p><p><br></p><p><br></p><p>「っっはは！・・・おもしれえじゃん！ここは誰でも簡単に入れる場所じゃねえ。でもおまえらは実際ここにいるんだから、入れたってことだな。」</p><p><br></p><p>「え？・・・はい？」</p><p><br></p><p>今にも殴りかかってきそうな勢いだった人形が急に笑い出したので、白兎は拍子抜けして答える。</p><p><br></p><p>「・・・おまえら、名前は？」</p><p><br></p><p>「あ、オレは彩里水って言います。こいつは白兎。・・・んで、コッチはキップとクップ、それにキャンドーです。」</p><p><br></p><p>彩里水は順に全員を紹介する。</p><p><br></p><p>「・・・ふうん。あたしはリンダ。コレはキャシー。」</p><p><br></p><p>３頭身の人形は自分と、先程のリカちゃん人形に似た人形の名前を紹介する。キャシーは可愛らしい笑顔でぺこりとお辞儀をする。</p><p><br></p><p>「さっきチラッと聞こえたけど、あんたたち２人は純型？」</p><p><br></p><p>リンダは彩里水と白兎を値踏みするように交互に見て尋ねる。</p><p><br></p><p>「はい。」</p><p><br></p><p>彩里水が返事をするとリンダは再び質問する。</p><p><br></p><p>「純型。・・・なるほどね。純型がなんだってこんなとこウロウロしてんだか。・・・で？そっちの3体はミックスだろ？ここがどこだか、わかってないのか？」</p><p><br></p><p>リンダにギロリと睨まれたキップとクップは彩里水の陰に隠れて震えている。キャンドーは答える。</p><p><br></p><p>「こちらの２人は初めて城の従業員棟の外に出たんです。私は遠い昔は外に出て降りましたが、長いこと出ておりませんので、近年この辺りがどのような状況にあるか知り得ませんでした。良かったらここがどういった場所か教えていただけますか？」</p><p><br></p><p>「・・・長いことってどのくらいだい？」</p><p><br></p><p>リンダはキャンドーの質問には答えず問い返す。</p><p><br></p><p>「・・・吏胡以降です。」</p><p><br></p><p>「・・・。」</p><p><br></p><p><br></p><p>――・・・リコイコウ？</p><p><br></p><p><br></p><p>キャンドーから出た聞き慣れない言葉に彩里水と白兎は顔を見合わせる。</p><p><br></p><p>「・・・なるほどな。大体わかったよ。迷い込んだってのもウソじゃあなさそうだ。そもそも、純人型の子供なんかこんなとこにいるなんてよっぽどだね。」</p><p><br></p><p><br></p><p>つづく</p></h4>
		</div>
	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[この驟雨に打たれて-最終話-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10584338/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10584338</id><summary><![CDATA[結菜の部屋。玄関を開け結菜は私を部屋に招き入れてくれた。――よかった、門前払いされなくて。 「お茶、持ってくる。」そう言いながら部屋を出ようとする結菜の手を、昨日とは逆に私が掴む。  「あ、待って。いいの。あの、あの！・・・き、昨日はごめん！」思い切って言葉を吐き出した私を結菜は驚いたような顔で見ていた。スッと元の表情に戻ると口を開く。「・・・うん。私も今日の態度はなかったね。ごめん。でも・・・昨日言ったことは謝らない。」「うん。わかってる。私かっこ悪すぎた。いつもかっこ悪い。さっき、料理部でもボーッとして手切っちゃって、保健室の帰りにバレー部の練習覗いてみたの。」「手を？大丈夫？」「うん。それはたいしたことなかったから。」「そっか。」「うん。それでね、行ったら、先輩たちいなかった。」「・・・うん。」「でも、相羽くんは多分主将で、先頭に立って練習してた。昨日は悔し泣きしてて、私より全然辛かったはずなのに、今日はもう前を向いてた。」「うん。」「それで私、結菜と話さないとって思って。」「うん。」「私・・・。私、先輩にカップケーキ渡す！」視線を落として私の話を聞いてくれていた結菜はその言葉を聞いてパッと顔をあげる。「うん。」「自分のこと、かっこ悪いとか情けないとかすぐに思っちゃうし、できないとか怖いとかそんなことばっかりすぐ思っちゃう。でも、もうそう思うのやめる・・・。そう思う癖を直したいって思ってる。たくさんみんなに勇気もらった。だからちゃんと自分も自分のこと信じられる自分になる。・・・そりゃ、すぐにはそうできないと思うけど、でもなるべく。」  語尾がだんだん小さくなっていった私に結菜はクスッと笑う。結菜の顔を見上げると、結菜の目には少し涙が浮かんでいた。「結菜。・・・泣いてる？」「・・・は？泣いてないし！」そう言いながら結菜はさりげなく目尻を拭う。「えー？」「ただ、ちゃんと決意できたんだって思って。・・・莉花はそういうとこがすごいんだよ。」「・・・うん。ありがとう、結菜。」「じゃ、作る？カップケーキ。」「え？今？」「うん。善は急げでしょ。それに、莉花のことだからまた決意してから何日も経っちゃうかもしれないし。早くしないと部活も終わったし先輩たちもう受験だよ？」「そう言えば、先輩たちは進学するのかな？」「・・・さあ？まあ、とにかく！作りにキッチン行こう！」結菜に文字通り背中を押されながら結菜の家のキッチンへ向かった。カップケーキを作りながら結菜と立てた作戦はこうだ。渡すのはいつどこで、という問題があった。先輩のクラスは知っているけど、先輩のクラスに行って呼び出すなんて恐ろしい。いくら勇気を出すって言ってもそれはハードルが高い。 かといって、もう放課後に練習には参加しないから体育館で会うこともできない。2人で案を出すが、先輩に会える機会がとても減ってしまったのだということを実感した。「じゃあさ、先輩は自転車通学みたいだから、多分1人で登下校してるっぽいよね。だから、自転車置き場で待ち構えるってのはどうかな？」私は結菜に提案してみる。「んー。一番良いかもね。でも、先輩が先に帰っちゃってたらどうすんの？ずっと待ちぼうけじゃん。」「まあ、何度かチャレンジするよ。私は放課後になったらダッシュで自転車置き場に行くから、結菜、先輩たちの教室に行ってみて先輩たちのクラスの人たちが帰っちゃったあとかどうか確かめてくれない？」私は手を合わせお願いポーズを取る。「何度かって言っても、もしかしてその間また私にカップケーキ食べさせる気？」「だってー・・・。今回は勇気がなくて渡せないんじゃないからいいでしょ？お願い！」「ちょっとー、なんかあざとさが増したんじゃない？」「そんなことないよー。」――良かった。結菜と仲直りできた。もしあのままずるずると話しないままになっちゃったらと思うとそっちの方がよっぽど怖い。・・・そうだ。もし先輩とこのまま話もせず会えないまま卒業しちゃったら、その方がよっぽどあとで後悔するよ、私。結菜やバレー部のみんなに気付かせてもらったんだ。　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　カップケーキを持って、私は放課後の自転車置き場にいた。――よく考えたら結菜が先輩の教室に行っちゃってるって事はここに先輩が来たら1人で話しかけるって事だー！ううう、失敗したかもー。声かけられるかな、なんて声かけよう・・・。1人で悶々と考えながら先輩を待っていると、後ろから声がする。振り返らなくてもわかる。「あれ、今野さん。」牧野先輩だ。振り返って確信する。「ま、牧野先輩。」「よ！どうしたの？こんなとこで。自転車通学に変えたの？」「あ、いえ、えっと。・・・せ、先輩を待ってたんです！」「え？オレを？」「は、はい！あの、その・・・。あ、あの、カップケーキを！渡そうと思って！」目を瞑って、手に持っていたカップケーキを勢いよく先輩に差し出す。反応がない。恐る恐る目を開けると、そこには困った顔をした先輩が立っている。――わぁ！またやっちゃった！そりゃそうだよ！なんで急にカップケーキ渡しちゃったの？なんか前置きとかあるじゃん！この間の試合の時の時の、とかなんとか・・・。「あの！あの！こないだの試合の！」「あ、うん。そうだよね。約束、守れなくてごめん。」先輩の意外な言葉に私は黙る。「優勝どころか、決勝にも行けなくて。・・・かっこ悪いよな、オレ。」「・・・。」「絶対優勝するって言って、決勝でカップケーキもらう約束したのにな。もしかして、当日持ってきてくれてた？」「あ、はい。でも私渡せなくて・・・。ごめんなさい。」「いや、そりゃかっこ悪いもん、オレ。しょうがないよ。」「せ！先輩は！かっこ悪くなんてないです！い、いつも！こないだの試合のあとだって！」「・・・え？」ガタッ物音に私が振り返ると、自転車を取りに来た生徒だった。こちらの様子をチラチラと見ている。――う、気まずい。「・・・あ、今野さん、駅行くの？」自転車を取りに来た生徒の様子を窺っていると先輩に聞かれる。「え？」「送るよ。駅に行きながら話そうか。」「あ、でも、先輩は違う方向じゃ・・・。」「いいのいいの。それに、それ作ってきてくれたんでしょ？カップケーキ。」先輩は私が手に持っているカップケーキを指さして言う。「あ。・・・はい。じゃあ、あの・・・ありがとうございます。」私はぺこりとお辞儀をすると、自転車を引く先輩の横を歩き始めた。「ありがとう、カップケーキ。もうもらえないと思ってた。」先輩は冗談交じりに言った。「あの、あの日、試合の作って持って行ってたんです。でも、私渡すの怖くなって渡せなくて・・・。結菜にも渡しなって叱られたんです。でも無理って言って、結菜ともケンカになっちゃって・・・。」「・・・え？まじ？何か悪いことしたね。」先輩は少し驚いた顔をして私を見る。「いいえ。私が不甲斐ないだけです。」私は小さく深呼吸をし、意を決して思いを吐き出す。「先輩、あの日とっても格好良かったです。あの日、試合が終わったあとの先輩は、私が見てきた先輩の中で一番格好良かったんです。そうやって思ってるのに何でちゃんと伝えないのって結菜に言われたんです。でも、どんな顔して先輩に会って良いかわからなくて、私、先輩たちが、バレー部のみんながたくさん練習して、私なんかよりずっと優勝を悲願にしてるはずなのに、簡単に決勝に行くときに挙げますなんて言っちゃったことすごく後悔して・・・。そう思ってるうちにどんどん怖くなっていっちゃって。」「・・・そうだったんだ。」「はい。それで昨日は結菜が口きいてくれなくて。なんだかどんよりしちゃって部活で指まで切っちゃって。」「マジ？大丈夫？」「あ、はい。ケガ自体は全然なんですけど、私どんどん自己嫌悪になっちゃって・・・。そしたら保健室行く途中、体育館からバレー部の練習している声が聞こえてきて。それで保健室からの帰りにバレー部を少しだけ覗いてみたんです。部活もうやってるのかなって。そしたら相羽くんを筆頭にみんなが練習してて。・・・なんていうか、先輩たちはいないけどいつも通りって言うか。昨日あんなに悔しそうだったのにもう前を向いてるなって。強いなって力がもらえたんです。」「・・・そっか。・・・てか、あいつらー。昨日は部活休めって言ったのに。結局やったんだなー。」「あ、あれ？あ、言っちゃダメなやつでした？」「あ、いや。まあ、アイツら全然言うこと聞かないし、多分、バレーやってる方が気が落ち着くんじゃないかな。」「な、なるほど。でも、私、本当にたくさん、バレー部のみんなに元気もらってきたんです。私が一方的に見てるだけではあるんですが、いつも練習も試合も一生懸命で楽しそうで。悔しかったりきつかったりすることの方が多そうなのに、なんだかいつもひたむきでカッコいいなあって。」私はもう一度さっきより少し深く深呼吸して続けた。「私・・・。私、本当は先輩に言われたからバレー部の練習見に行き始めたんじゃないんです。」「え？」「本当は、先輩にあの土砂降りの時に会う前からいつも見に行ってたんです。・・・だから、先輩のことも知ってました。」「え。え？・・・そうだったんだ。」「はい。私、料理部で部長をやってるんですけど、部長を引き受けたのも、実は先輩たちを見て自分もがんばろうって力をもらってたからだったりするんです。」私は照れ隠しに少し笑いながら先輩に伝える。「・・・へへへ。本当に、先輩たちにはいっつも一方的にお世話になってばっかりで・・・。」「そんなことないよ。」「え？」「そんなことない。オレたちも、応援してくれたり陰で支えてくる人がいるから部活がやれるし、がんばれる。オレたちが部活をやる場所、練習する相手、一緒にチームを組んでくれるやつ・・・。いろんな人がいるからできる。両親始めとして多くの人に助けてもらってる。応援してくれる人がいると、全然知らない人でも本当に嬉しいんだ。」「そ、そうですか。・・・そうですよね。」先輩の想いを聞いて私は自然と笑みが零れた。「うん。それに・・・。それに、今野さんに格好いいって言ってもらえると、チョーテンション上がるよ！ありがとう！」先輩があのいつもの眩しい笑顔で言う。私は自分で自分の顔が一瞬で上気するのを感じた。「・・・あの。あの、先輩！」「え？」「あの、これからも・・・。これからも先輩にカップケーキ・・・とか、他のお菓子とか作ったりしても良いですか？先輩、バレーはもうやらないですか？先輩のこと、まだ応援したいです！」「・・・。ありがとう。うん！オレも今野さんに応援して欲しい！オレ、大学進学する予定だけど、大学行ってもバレー続けるよ。もっともっと強くなりたいし。どこまで行けるかわかんないけど行けるとこまで行きたいと思ってる。」「・・・すごい。ほんとに、すごいです！」私はこれからも先輩がまだバレーを続けてくれること、まだ先輩を見ていられること、そして、応援したい気持ちを受け入れてもらえたことに感極まる。「先輩たちはいつも力強く前に進んで行ってる。」「ははは。そんなことないよ。いつもってわけじゃないよ。さっきも行ったけど、2年の奴らも本当は休んだ方がいいのにバレーの練習しちゃったこと考えるとバレーやらない方がよっぽどキツい、って感じだと思う。それにオレら・・・オレだって、今でも全然キツい。負けたこともだけど、もっとああできたかもこうできたかもって次々に浮かんでくるよ。でも、オレたちはさ、それでもやりたいだけなんだよな。バレーが。次々に浮かんでくるからこそ、次こそはってやっちゃうんだと思う。ははっ。」そう言って笑った先輩の横顔は、やっぱり逞しく強い。大会に出ると決めた以上、勝ち残るのは全国の中でたった1チームなのだ。  それ以外のチームはこのゲームに参加すると決めた時点でどこかで負けるのだ。 そして先輩たちは負けた。  たった1チームだけが全チームの、全員の悔しさを呑みこんでその勝利という至高の歓喜の瞬間を味わえる。  そして、それもまた一瞬なのだ。  勝ってもまた違う戦いが始まる。 もしそこでバレーを辞めると決めていたならばそれに関しては有終の美を飾れたと言えるかもしれない。  しかし、バレーが好きであればある程、続けたいと思えば思うほど、その闘いは終わらず、その一瞬のために沢山の悔しさを辛さを乗り越えて行かねばならない。  あの時あのアタックのコースを変えることができていれば、もっといいトスをあげられれば、もっと練習をしていれば、もっと違う視点で見ることができていれば。  先輩はいろいろ悔いたのかもしれない。バレーとかスポーツじゃなくてもそれはいつもあることなのかもしれない。私だって、あの時“決勝で“などと言わなければ。  言ったからって渡せばよかった。いつだって悔やんだりへこんだりする。挽回できたこともできなかったこともある。悔しいままにしてきたものの中には、やれたことも沢山あったのかもしれない。  でも、私たちはそれをその瞬間選択したのだ。  そしてその選択をした自分を受け入れ、また次の選択をしていくのだ。  何をどう後悔しようとしまいと、その時の自分にとってはそれが最高で最上のできる選択だったのだ。 もし私が自分の引っ込み思案が嫌いでなければ、人の話を聞くのが好きではなかったかもしれない。   もし私が弱虫でなければ、りっちゃんとまなちゃんは私を部長に推薦しなかったかもしれない。 部長になっていなければ、あの驟雨によって足止めされなかったかもしれない。  そうしたら私は先輩と2人で話す機会を得られなかったかもしれない。  私が結菜の後ろについていくような性格でなければ、あの日体育館には行かなかったかもしれない。  体育館に行かなければ部長になってあの驟雨で先輩に出会ったとしても、先輩のことはただ雨の日に話をした先輩のままだったかもしれない。  自分の好きな自分も、自分の嫌いな自分も、全てで自分なのだ。  少なくとも今私は、先輩のことを好きになれた自分が好きだ。  もしかしたらこの先、先輩を好きになったことを後悔する日が来るのかもしれない。  そうだとしても構わない。  全ての自分が選んだ過去が今を連れて来る。  あの日あの時のかっこよかった自分が、あの日あの瞬間の情けなかった自分が、今を連れてきている。 そしてその全てが今の最大限で最上級の自分なのだ。  だから私は、これからも自分を100%好きにはなれなくても、時には100%自分を嫌いになってしまっても、すべての自分が持ってきた今に、出会いに感謝して誇りを持って大切にして行こうと思う。  　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　私は大学の帰り、あの日の驟雨のような激しい通り雨に待ち合わせ場所から少しだけ移動した店先で雨宿りしながら待つ。  「莉花。」  聞き慣れた声が私を呼ぶ。  激しい驟雨で牧田先輩は傘があってもびしょ濡れになっていた。  「涼介くん、びしょ濡れじゃない。」  そう言って私が差し出したタオルを先輩はあの眩しい笑顔で受け取った。 完]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-10-04T12:00:32+00:00</published><updated>2020-10-04T12:00:38+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
		<div>
			<p>結菜の部屋。</p><p><br></p><p>玄関を開け結菜は私を部屋に招き入れてくれた。</p><p><br></p><p><br></p><p>――よかった、門前払いされなくて。</p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p>「お茶、持ってくる。」</p><p><br></p><p>そう言いながら部屋を出ようとする結菜の手を、昨日とは逆に私が掴む。</p><p><br></p><p> </p><p> 「あ、待って。いいの。あの、あの！・・・き、昨日はごめん！」</p><p><br></p><p>思い切って言葉を吐き出した私を結菜は驚いたような顔で見ていた。スッと元の表情に戻ると口を開く。</p><p><br></p><p>「・・・うん。私も今日の態度はなかったね。ごめん。でも・・・昨日言ったことは謝らない。」</p><p><br></p><p>「うん。わかってる。私かっこ悪すぎた。いつもかっこ悪い。さっき、料理部でもボーッとして手切っちゃって、保健室の帰りにバレー部の練習覗いてみたの。」</p><p><br></p><p>「手を？大丈夫？」</p><p><br></p><p>「うん。それはたいしたことなかったから。」</p><p><br></p><p>「そっか。」</p><p><br></p><p>「うん。それでね、行ったら、先輩たちいなかった。」</p><p><br></p><p>「・・・うん。」</p><p><br></p><p>「でも、相羽くんは多分主将で、先頭に立って練習してた。昨日は悔し泣きしてて、私より全然辛かったはずなのに、今日はもう前を向いてた。」</p><p><br></p><p>「うん。」</p><p><br></p><p>「それで私、結菜と話さないとって思って。」</p><p><br></p><p>「うん。」</p><p><br></p><p>「私・・・。私、先輩にカップケーキ渡す！」</p><p><br></p><p>視線を落として私の話を聞いてくれていた結菜はその言葉を聞いてパッと顔をあげる。</p><p><br></p><p>「うん。」</p><p><br></p><p>「自分のこと、かっこ悪いとか情けないとかすぐに思っちゃうし、できないとか怖いとかそんなことばっかりすぐ思っちゃう。でも、もうそう思うのやめる・・・。そう思う癖を直したいって思ってる。たくさんみんなに勇気もらった。だからちゃんと自分も自分のこと信じられる自分になる。・・・そりゃ、すぐにはそうできないと思うけど、でもなるべく。」</p><p><br></p><p> </p><p> 語尾がだんだん小さくなっていった私に結菜はクスッと笑う。</p><p>結菜の顔を見上げると、結菜の目には少し涙が浮かんでいた。</p><p><br></p><p>「結菜。・・・泣いてる？」</p><p><br></p><p>「・・・は？泣いてないし！」</p><p><br></p><p>そう言いながら結菜はさりげなく目尻を拭う。</p><p><br></p><p>「えー？」</p><p><br></p><p>「ただ、ちゃんと決意できたんだって思って。・・・莉花はそういうとこがすごいんだよ。」</p><p><br></p><p>「・・・うん。ありがとう、結菜。」</p><p><br></p><p>「じゃ、作る？カップケーキ。」</p><p><br></p><p>「え？今？」</p><p><br></p><p>「うん。善は急げでしょ。それに、莉花のことだからまた決意してから何日も経っちゃうかもしれないし。早くしないと部活も終わったし先輩たちもう受験だよ？」</p><p><br></p><p>「そう言えば、先輩たちは進学するのかな？」</p><p><br></p><p>「・・・さあ？まあ、とにかく！作りにキッチン行こう！」</p><p><br></p><p>結菜に文字通り背中を押されながら結菜の家のキッチンへ向かった。</p><p><br></p><p>カップケーキを作りながら結菜と立てた作戦はこうだ。</p><p><br></p><p>渡すのはいつどこで、という問題があった。</p><p>先輩のクラスは知っているけど、先輩のクラスに行って呼び出すなんて恐ろしい。</p><p>いくら勇気を出すって言ってもそれはハードルが高い。</p><p> かといって、もう放課後に練習には参加しないから体育館で会うこともできない。</p><p>2人で案を出すが、先輩に会える機会がとても減ってしまったのだということを実感した。</p><p><br></p><p>「じゃあさ、先輩は自転車通学みたいだから、多分1人で登下校してるっぽいよね。だから、自転車置き場で待ち構えるってのはどうかな？」</p><p><br></p><p>私は結菜に提案してみる。</p><p><br></p><p>「んー。一番良いかもね。でも、先輩が先に帰っちゃってたらどうすんの？ずっと待ちぼうけじゃん。」</p><p><br></p><p>「まあ、何度かチャレンジするよ。私は放課後になったらダッシュで自転車置き場に行くから、結菜、先輩たちの教室に行ってみて先輩たちのクラスの人たちが帰っちゃったあとかどうか確かめてくれない？」</p><p><br></p><p>私は手を合わせお願いポーズを取る。</p><p><br></p><p>「何度かって言っても、もしかしてその間また私にカップケーキ食べさせる気？」</p><p><br></p><p>「だってー・・・。今回は勇気がなくて渡せないんじゃないからいいでしょ？お願い！」</p><p><br></p><p>「ちょっとー、なんかあざとさが増したんじゃない？」</p><p><br></p><p>「そんなことないよー。」</p><p><br></p><p><br></p><p>――良かった。結菜と仲直りできた。もしあのままずるずると話しないままになっちゃったらと思うとそっちの方がよっぽど怖い。・・・そうだ。もし先輩とこのまま話もせず会えないまま卒業しちゃったら、その方がよっぽどあとで後悔するよ、私。結菜やバレー部のみんなに気付かせてもらったんだ。</p><p><br></p><p><br></p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　</p><p><br></p><p><br></p><p><br></p><p>カップケーキを持って、私は放課後の自転車置き場にいた。</p><p><br></p><p><br></p><p>――よく考えたら結菜が先輩の教室に行っちゃってるって事はここに先輩が来たら1人で話しかけるって事だー！ううう、失敗したかもー。声かけられるかな、なんて声かけよう・・・。</p><p><br></p><p><br></p><p>1人で悶々と考えながら先輩を待っていると、後ろから声がする。振り返らなくてもわかる。</p><p><br></p><p>「あれ、今野さん。」</p><p><br></p><p>牧野先輩だ。</p><p><br></p><p>振り返って確信する。</p><p><br></p><p>「ま、牧野先輩。」</p><p><br></p><p>「よ！どうしたの？こんなとこで。自転車通学に変えたの？」</p><p><br></p><p>「あ、いえ、えっと。・・・せ、先輩を待ってたんです！」</p><p><br></p><p>「え？オレを？」</p><p><br></p><p>「は、はい！あの、その・・・。あ、あの、カップケーキを！渡そうと思って！」</p><p><br></p><p>目を瞑って、手に持っていたカップケーキを勢いよく先輩に差し出す。</p><p><br></p><p>反応がない。</p><p><br></p><p>恐る恐る目を開けると、そこには困った顔をした先輩が立っている。</p><p><br></p><p><br></p><p>――わぁ！またやっちゃった！そりゃそうだよ！なんで急にカップケーキ渡しちゃったの？なんか前置きとかあるじゃん！この間の試合の時の時の、とかなんとか・・・。</p><p><br></p><p><br></p><p>「あの！あの！こないだの試合の！」</p><p><br></p><p>「あ、うん。そうだよね。約束、守れなくてごめん。」</p><p><br></p><p>先輩の意外な言葉に私は黙る。</p><p><br></p><p>「優勝どころか、決勝にも行けなくて。・・・かっこ悪いよな、オレ。」</p><p><br></p><p>「・・・。」</p><p><br></p><p>「絶対優勝するって言って、決勝でカップケーキもらう約束したのにな。もしかして、当日持ってきてくれてた？」</p><p><br></p><p>「あ、はい。でも私渡せなくて・・・。ごめんなさい。」</p><p><br></p><p>「いや、そりゃかっこ悪いもん、オレ。しょうがないよ。」</p><p><br></p><p>「せ！先輩は！かっこ悪くなんてないです！い、いつも！こないだの試合のあとだって！」</p><p><br></p><p>「・・・え？」</p><p><br></p><p>ガタッ</p><p><br></p><p>物音に私が振り返ると、自転車を取りに来た生徒だった。こちらの様子をチラチラと見ている。</p><p><br></p><p><br></p><p>――う、気まずい。</p><p><br></p><p>「・・・あ、今野さん、駅行くの？」</p><p><br></p><p>自転車を取りに来た生徒の様子を窺っていると先輩に聞かれる。</p><p><br></p><p>「え？」</p><p><br></p><p>「送るよ。駅に行きながら話そうか。」</p><p><br></p><p>「あ、でも、先輩は違う方向じゃ・・・。」</p><p><br></p><p>「いいのいいの。それに、それ作ってきてくれたんでしょ？カップケーキ。」</p><p><br></p><p>先輩は私が手に持っているカップケーキを指さして言う。</p><p><br></p><p>「あ。・・・はい。じゃあ、あの・・・ありがとうございます。」</p><p><br></p><p>私はぺこりとお辞儀をすると、自転車を引く先輩の横を歩き始めた。</p><p><br></p><p>「ありがとう、カップケーキ。もうもらえないと思ってた。」</p><p><br></p><p>先輩は冗談交じりに言った。</p><p><br></p><p>「あの、あの日、試合の作って持って行ってたんです。でも、私渡すの怖くなって渡せなくて・・・。結菜にも渡しなって叱られたんです。でも無理って言って、結菜ともケンカになっちゃって・・・。」</p><p><br></p><p>「・・・え？まじ？何か悪いことしたね。」</p><p><br></p><p>先輩は少し驚いた顔をして私を見る。</p><p><br></p><p>「いいえ。私が不甲斐ないだけです。」</p><p><br></p><p>私は小さく深呼吸をし、意を決して思いを吐き出す。</p><p><br></p><p>「先輩、あの日とっても格好良かったです。あの日、試合が終わったあとの先輩は、私が見てきた先輩の中で一番格好良かったんです。そうやって思ってるのに何でちゃんと伝えないのって結菜に言われたんです。でも、どんな顔して先輩に会って良いかわからなくて、私、先輩たちが、バレー部のみんながたくさん練習して、私なんかよりずっと優勝を悲願にしてるはずなのに、簡単に決勝に行くときに挙げますなんて言っちゃったことすごく後悔して・・・。そう思ってるうちにどんどん怖くなっていっちゃって。」</p><p><br></p><p>「・・・そうだったんだ。」</p><p><br></p><p>「はい。それで昨日は結菜が口きいてくれなくて。なんだかどんよりしちゃって部活で指まで切っちゃって。」</p><p><br></p><p>「マジ？大丈夫？」</p><p><br></p><p>「あ、はい。ケガ自体は全然なんですけど、私どんどん自己嫌悪になっちゃって・・・。そしたら保健室行く途中、体育館からバレー部の練習している声が聞こえてきて。それで保健室からの帰りにバレー部を少しだけ覗いてみたんです。部活もうやってるのかなって。そしたら相羽くんを筆頭にみんなが練習してて。・・・なんていうか、先輩たちはいないけどいつも通りって言うか。昨日あんなに悔しそうだったのにもう前を向いてるなって。強いなって力がもらえたんです。」</p><p><br></p><p>「・・・そっか。・・・てか、あいつらー。昨日は部活休めって言ったのに。結局やったんだなー。」</p><p><br></p><p>「あ、あれ？あ、言っちゃダメなやつでした？」</p><p><br></p><p>「あ、いや。まあ、アイツら全然言うこと聞かないし、多分、バレーやってる方が気が落ち着くんじゃないかな。」</p><p><br></p><p>「な、なるほど。でも、私、本当にたくさん、バレー部のみんなに元気もらってきたんです。私が一方的に見てるだけではあるんですが、いつも練習も試合も一生懸命で楽しそうで。悔しかったりきつかったりすることの方が多そうなのに、なんだかいつもひたむきでカッコいいなあって。」</p><p><br></p><p>私はもう一度さっきより少し深く深呼吸して続けた。</p><p><br></p><p>「私・・・。私、本当は先輩に言われたからバレー部の練習見に行き始めたんじゃないんです。」</p><p><br></p><p>「え？」</p><p><br></p><p>「本当は、先輩にあの土砂降りの時に会う前からいつも見に行ってたんです。・・・だから、先輩のことも知ってました。」</p><p><br></p><p>「え。え？・・・そうだったんだ。」</p><p><br></p><p>「はい。私、料理部で部長をやってるんですけど、部長を引き受けたのも、実は先輩たちを見て自分もがんばろうって力をもらってたからだったりするんです。」</p><p><br></p><p>私は照れ隠しに少し笑いながら先輩に伝える。</p><p><br></p><p>「・・・へへへ。本当に、先輩たちにはいっつも一方的にお世話になってばっかりで・・・。」</p><p><br></p><p>「そんなことないよ。」</p><p><br></p><p>「え？」</p><p><br></p><p>「そんなことない。オレたちも、応援してくれたり陰で支えてくる人がいるから部活がやれるし、がんばれる。オレたちが部活をやる場所、練習する相手、一緒にチームを組んでくれるやつ・・・。いろんな人がいるからできる。両親始めとして多くの人に助けてもらってる。応援してくれる人がいると、全然知らない人でも本当に嬉しいんだ。」</p><p><br></p><p>「そ、そうですか。・・・そうですよね。」</p><p><br></p><p>先輩の想いを聞いて私は自然と笑みが零れた。</p><p><br></p><p>「うん。それに・・・。それに、今野さんに格好いいって言ってもらえると、チョーテンション上がるよ！ありがとう！」</p><p><br></p><p>先輩があのいつもの眩しい笑顔で言う。</p><p>私は自分で自分の顔が一瞬で上気するのを感じた。</p><p><br></p><p>「・・・あの。あの、先輩！」</p><p><br></p><p>「え？」</p><p><br></p><p>「あの、これからも・・・。これからも先輩にカップケーキ・・・とか、他のお菓子とか作ったりしても良いですか？先輩、バレーはもうやらないですか？先輩のこと、まだ応援したいです！」</p><p><br></p><p>「・・・。ありがとう。うん！オレも今野さんに応援して欲しい！オレ、大学進学する予定だけど、大学行ってもバレー続けるよ。もっともっと強くなりたいし。どこまで行けるかわかんないけど行けるとこまで行きたいと思ってる。」</p><p><br></p><p>「・・・すごい。ほんとに、すごいです！」</p><p><br></p><p>私はこれからも先輩がまだバレーを続けてくれること、まだ先輩を見ていられること、そして、応援したい気持ちを受け入れてもらえたことに感極まる。</p><p><br></p><p>「先輩たちはいつも力強く前に進んで行ってる。」</p><p><br></p><p>「ははは。そんなことないよ。いつもってわけじゃないよ。さっきも行ったけど、2年の奴らも本当は休んだ方がいいのにバレーの練習しちゃったこと考えるとバレーやらない方がよっぽどキツい、って感じだと思う。それにオレら・・・オレだって、今でも全然キツい。負けたこともだけど、もっとああできたかもこうできたかもって次々に浮かんでくるよ。でも、オレたちはさ、それでもやりたいだけなんだよな。バレーが。次々に浮かんでくるからこそ、次こそはってやっちゃうんだと思う。ははっ。」</p><p><br></p><p>そう言って笑った先輩の横顔は、やっぱり逞しく強い。</p><p><br></p><p>大会に出ると決めた以上、勝ち残るのは全国の中でたった1チームなのだ。 </p><p> </p><p>それ以外のチームはこのゲームに参加すると決めた時点でどこかで負けるのだ。 </p><p><br></p><p>そして先輩たちは負けた。 </p><p><br></p><p> </p><p>たった1チームだけが全チームの、全員の悔しさを呑みこんでその勝利という至高の歓喜の瞬間を味わえる。 </p><p><br></p><p> </p><p>そして、それもまた一瞬なのだ。 </p><p><br></p><p> </p><p>勝ってもまた違う戦いが始まる。</p><p><br></p><p> </p><p>もしそこでバレーを辞めると決めていたならばそれに関しては有終の美を飾れたと言えるかもしれない。 </p><p><br></p><p> </p><p>しかし、バレーが好きであればある程、続けたいと思えば思うほど、その闘いは終わらず、その一瞬のために沢山の悔しさを辛さを乗り越えて行かねばならない。 </p><p><br></p><p> </p><p>あの時あのアタックのコースを変えることができていれば、もっといいトスをあげられれば、もっと練習をしていれば、もっと違う視点で見ることができていれば。 </p><p><br></p><p> </p><p>先輩はいろいろ悔いたのかもしれない。</p><p><br></p><p>バレーとかスポーツじゃなくてもそれはいつもあることなのかもしれない。</p><p><br></p><p>私だって、あの時“決勝で“などと言わなければ。 </p><p><br></p><p> </p><p>言ったからって渡せばよかった。</p><p><br></p><p>いつだって悔やんだりへこんだりする。</p><p><br></p><p>挽回できたこともできなかったこともある。</p><p><br></p><p>悔しいままにしてきたものの中には、やれたことも沢山あったのかもしれない。 </p><p><br></p><p> </p><p>でも、私たちはそれをその瞬間選択したのだ。 </p><p><br></p><p> </p><p>そしてその選択をした自分を受け入れ、また次の選択をしていくのだ。 </p><p><br></p><p> </p><p>何をどう後悔しようとしまいと、その時の自分にとってはそれが最高で最上のできる選択だったのだ。 </p><p><br></p><p>もし私が自分の引っ込み思案が嫌いでなければ、人の話を聞くのが好きではなかったかもしれない。 </p><p><br></p><p>  もし私が弱虫でなければ、りっちゃんとまなちゃんは私を部長に推薦しなかったかもしれない。 </p><p><br></p><p>部長になっていなければ、あの驟雨によって足止めされなかったかもしれない。 </p><p><br></p><p> </p><p>そうしたら私は先輩と2人で話す機会を得られなかったかもしれない。 </p><p><br></p><p> </p><p>私が結菜の後ろについていくような性格でなければ、あの日体育館には行かなかったかもしれない。 </p><p><br></p><p> </p><p>体育館に行かなければ部長になってあの驟雨で先輩に出会ったとしても、先輩のことはただ雨の日に話をした先輩のままだったかもしれない。 </p><p><br></p><p> </p><p>自分の好きな自分も、自分の嫌いな自分も、全てで自分なのだ。 </p><p><br></p><p> </p><p>少なくとも今私は、先輩のことを好きになれた自分が好きだ。 </p><p><br></p><p> </p><p>もしかしたらこの先、先輩を好きになったことを後悔する日が来るのかもしれない。 </p><p><br></p><p> </p><p>そうだとしても構わない。 </p><p><br></p><p> </p><p>全ての自分が選んだ過去が今を連れて来る。 </p><p><br></p><p> </p><p>あの日あの時のかっこよかった自分が、あの日あの瞬間の情けなかった自分が、今を連れてきている。 </p><p><br></p><p>そしてその全てが今の最大限で最上級の自分なのだ。 </p><p><br></p><p> </p><p>だから私は、これからも自分を100%好きにはなれなくても、時には100%自分を嫌いになってしまっても、すべての自分が持ってきた今に、出会いに感謝して誇りを持って大切にして行こうと思う。 </p><p><br></p><p> </p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　</p><p><br></p><p><br></p><p>私は大学の帰り、あの日の驟雨のような激しい通り雨に待ち合わせ場所から少しだけ移動した店先で雨宿りしながら待つ。 </p><p><br></p><p> </p><p>「莉花。」 </p><p><br></p><p> </p><p>聞き慣れた声が私を呼ぶ。 </p><p><br></p><p> </p><p>激しい驟雨で牧田先輩は傘があってもびしょ濡れになっていた。 </p><p><br></p><p> </p><p>「涼介くん、びしょ濡れじゃない。」 </p><p><br></p><p> </p><p>そう言って私が差し出したタオルを先輩はあの眩しい笑顔で受け取った。&nbsp;</p><p><br></p><p><br></p><p>完</p>
		</div>
	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[少年彩里水の不思議冒険譚　-不思議の国の入り口70-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10584254/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10584254</id><summary><![CDATA[70　地中での出会い白兎は後頭部を両手で支えるようにしながら地上を見上げながら言う。「なー。さっき意思の力ですぐ叶うって言ってたじゃん？ならオレらが・・・てかまあ、キップとクップとキャンドーさんは無理かも知れないけど彩里水とオレがここから瞬時に庭園の外に出たいって願えばそれも叶うってことだよね？」「・・・ええ。そういうことです。でも、今出ていないということは、お2人とも、若しくは私たちを入れて5人共がそれは無理だと確信してしまっているのでしょう。」キャンドーは言う。「えー。でもオレ出たいって思ってるし彩里水もみんなも思ってるだろ？」「ええ。出たいと思っていますが、同時に簡単には出ることができないとも思っていませんか？または、出るにはしかるべき何か方法があると思っているとか。」「しかるべき・・・？まあ、確かになんか簡単には出れないとは思ってるなー、言われて身みると。」「要するに今はまさにその状況が現実として反映されているんです。出たいのに出られない、出るのは簡単じゃない、という状況が。」キャンドーは説明する。「おお！？なるほど。ま、オレは大抵常識人だからなー。・・・でも、さっき庭園自体も形を変えるって言ってたし、今この上の部分がすでに庭園の外ってことがあり得るってことかー。彩里水おまえそういうの得意だろ？今すぐ外に出たいって念じろよー。」「念じる？何を？」「おまえ話し聞いてたのかよー。」彩里水の反応に白兎は小腹を立てる。「“念じる”と“叶う”も少し違いますね。むしろ念じてるというのは逆効果かも知れません。強く願わなければ、強い意志がなければ思いは叶わないのだと信じているようなもんです。」「ん？んー。・・・なんだか難しいんだよな。」白兎は肩をすくめながら答える。「習得には少し時間がかかるかもしれません。でも君たちはお若いですから、私のように古い時代の人間より、新しいことの習得はかなり早くできるでしょうね。」キャンドーはニコニコしながら言う。「あ！」彩里水が何かに気付いたように声を上げる。「え？」白兎は彩里水が見ている方に視線をやると、そこには人形やぬいぐるみなど玩具がたくさんいた。「アレって人型とのミックスっぽくない？」「え？そうか？」白兎が答えるより早く、彩里水は集団に駆け寄って声をかけている。「あの、すいません、ちょっと聞きたいことがあるんですが・・・。」彩里水が声をかけると、自分たちの話に夢中になっていた玩具の集団の中で、一体の人形が振り返る。「こんにちは。・・・あら、珍しい。人型の方ですか？迷子になっちゃったのかしら？」リカちゃん人形のように容姿が整った人形が彩里水と白兎に答えると、玩具たちも彩里水たちに気付き会話を止め全員が彩里水たちを見定めるようにしていた。「なんだ、おまえら。」集団の中央から現れたのは3等身ぐらいの、リカちゃん人形よりさらに低年齢向けの子供たちのために作られているような女の子の人形だった。つづく]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-10-04T10:00:01+00:00</published><updated>2020-10-04T10:00:06+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
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			<h4>70　地中での出会い</h4><p><br></p><p><br></p><p>白兎は後頭部を両手で支えるようにしながら地上を見上げながら言う。</p><p><br></p><p>「なー。さっき意思の力ですぐ叶うって言ってたじゃん？ならオレらが・・・てかまあ、キップとクップとキャンドーさんは無理かも知れないけど彩里水とオレがここから瞬時に庭園の外に出たいって願えばそれも叶うってことだよね？」</p><p><br></p><p>「・・・ええ。そういうことです。でも、今出ていないということは、お2人とも、若しくは私たちを入れて5人共がそれは無理だと確信してしまっているのでしょう。」</p><p><br></p><p>キャンドーは言う。</p><p><br></p><p>「えー。でもオレ出たいって思ってるし彩里水もみんなも思ってるだろ？」</p><p><br></p><p>「ええ。出たいと思っていますが、同時に簡単には出ることができないとも思っていませんか？または、出るにはしかるべき何か方法があると思っているとか。」</p><p><br></p><p>「しかるべき・・・？まあ、確かになんか簡単には出れないとは思ってるなー、言われて身みると。」</p><p><br></p><p>「要するに今はまさにその状況が現実として反映されているんです。出たいのに出られない、出るのは簡単じゃない、という状況が。」</p><p><br></p><p>キャンドーは説明する。</p><p><br></p><p>「おお！？なるほど。ま、オレは大抵常識人だからなー。・・・でも、さっき庭園自体も形を変えるって言ってたし、今この上の部分がすでに庭園の外ってことがあり得るってことかー。彩里水おまえそういうの得意だろ？今すぐ外に出たいって念じろよー。」</p><p><br></p><p>「念じる？何を？」</p><p><br></p><p>「おまえ話し聞いてたのかよー。」</p><p><br></p><p>彩里水の反応に白兎は小腹を立てる。</p><p><br></p><p>「“念じる”と“叶う”も少し違いますね。むしろ念じてるというのは逆効果かも知れません。強く願わなければ、強い意志がなければ思いは叶わないのだと信じているようなもんです。」</p><p><br></p><p>「ん？んー。・・・なんだか難しいんだよな。」</p><p><br></p><p>白兎は肩をすくめながら答える。</p><p><br></p><p>「習得には少し時間がかかるかもしれません。でも君たちはお若いですから、私のように古い時代の人間より、新しいことの習得はかなり早くできるでしょうね。」</p><p><br></p><p>キャンドーはニコニコしながら言う。</p><p><br></p><p>「あ！」</p><p><br></p><p>彩里水が何かに気付いたように声を上げる。</p><p><br></p><p>「え？」</p><p><br></p><p>白兎は彩里水が見ている方に視線をやると、そこには人形やぬいぐるみなど玩具がたくさんいた。</p><p><br></p><p>「アレって人型とのミックスっぽくない？」</p><p><br></p><p>「え？そうか？」</p><p><br></p><p>白兎が答えるより早く、彩里水は集団に駆け寄って声をかけている。</p><p><br></p><p>「あの、すいません、ちょっと聞きたいことがあるんですが・・・。」</p><p><br></p><p>彩里水が声をかけると、自分たちの話に夢中になっていた玩具の集団の中で、一体の人形が振り返る。</p><p><br></p><p>「こんにちは。・・・あら、珍しい。人型の方ですか？迷子になっちゃったのかしら？」</p><p><br></p><p>リカちゃん人形のように容姿が整った人形が彩里水と白兎に答えると、玩具たちも彩里水たちに気付き会話を止め全員が彩里水たちを見定めるようにしていた。</p><p><br></p><p>「なんだ、おまえら。」</p><p><br></p><p>集団の中央から現れたのは3等身ぐらいの、リカちゃん人形よりさらに低年齢向けの子供たちのために作られているような女の子の人形だった。</p><p><br></p><p><br></p><p>つづく</p>
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	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[少年彩里水の不思議冒険譚　-不思議の国の入り口69-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10539252/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10539252</id><summary><![CDATA[69　地中の生き物地中を歩いていると、彩里水と白兎に話しかけてくる者がいた。「こんにちは。人型の方がここを通るなんて珍しいですね。」彩里水と白兎が辺りをキョロキョロと見回すと、どうやら話しかけてきているのはモグラのような顔と大きな爪がある前足を持ち、ミミズのように長い胴体を持った生き物だということがわかった。先を進む彩里水と白兎の後方から大きな手の爪の先の方を愛らしくひらひらと手を振るようになびかせている。「あ、こんにちは。」彩里水は笑顔で挨拶を返す。――いや、慣れたよ。オレだって結構慣れた。なんなら今オレが地中を歩いてることだって、地中なのにどうやって歩いてんの？とか、地中なのにどうやって息してんの？とか、なんで上見たら透けて見えんの？とかいろいろ疑問はいっぱいだよ？だけど考えるだけ無駄な気がしてるから全スルーしてきたの。・・・だけど！またかよ！「いや、普通に挨拶しすぎだろおまえ！ちょっとはビビれよ！ミミズモグラだぞ！地中だぞ！こえーし！見た目怖―し！」白兎は口が飛び出しそうな勢いで彩里水の人なつこさにツッコミを入れる。「なんだよ。挨拶ぐらい普通にしろよな。てか、可愛いじゃん。もういい加減慣れたら？さっきだって蟻さんたちもいたんだしさ。みんないい人？じゃん。白兎って変なとこ頭固くない？」「悪かったな。オレはおまえと違ってチョットばかし顔が良い庶民なんだ。」時々目の前に現れる大きな根っこを迂回しながら2人は歩き続けている。「はあ？何だよそれー。・・・あ、てかさ、気付いたんだけど誰か地中にいる人？に聞けば良いんじゃない？そうだ。それでいいじゃん。ミミズの人とかいないかな？」「・・・おお。まあ確かに。おまえのその常識外の発想は時として素晴らしいよな。」「えへへ。白兎ってすごくオレを褒めるよね。」「いや、まあ半分は褒めてないんだけど・・・。まあ素直なところがいいよ、おまえは。」歩いていると、舗装された道以外の場所には至る所に木の根っこや草花の根っこがあり時々動いていた。彩里水は、そばを通過して行くクワガタに似た生き物に試しに声をかけてみた。「すいませーん、ちょっと聞きたいんですが、この庭園を出る目印って何かありますか？」彩里水に声をかけられているとは気付いていない様子のクワガタに似た生き物はそのまま彩里水の横を通り過ぎてしまった。「あ、やっぱ人の言葉が通じないってこともあるって言ってたから、さっきのクワガタは人とのミックスじゃないのかな。」「あー、そっか。さっきのミミズモグラみたいのばっかじゃないってわけか。」ポケットからキップとクップが言う。「地中を住処にする方たちの中には人型とのミックスは珍しい方かも知れませんね。」「え？そうなのか。」「でもぉ、僕らもこの庭園の地中にお住まいの方に道案内をしてもらうというのはとても良いアイデアだと思いましたー。1番安全で確実な気がしますー。」クップがニコニコしながら言う。「だよね！」彩里水は喜ぶ。「多分、この辺にはあまり人型のミックスはいないかもしれませんが、群生してる可能性は高いです。とにかく真っ直ぐ進んでいけば、庭園の外には確実に近づきますから、行きながら人や我らのように物型とのミックスがいたら尋ねてみましょう。」「そうだね。」つづく]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-10-02T10:00:15+00:00</published><updated>2020-10-02T10:00:30+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
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			<h4>69　地中の生き物</h4><p><br></p><p>地中を歩いていると、彩里水と白兎に話しかけてくる者がいた。</p><p><br></p><p>「こんにちは。人型の方がここを通るなんて珍しいですね。」</p><p><br></p><p>彩里水と白兎が辺りをキョロキョロと見回すと、どうやら話しかけてきているのはモグラのような顔と大きな爪がある前足を持ち、ミミズのように長い胴体を持った生き物だということがわかった。先を進む彩里水と白兎の後方から大きな手の爪の先の方を愛らしくひらひらと手を振るようになびかせている。</p><p><br></p><p>「あ、こんにちは。」</p><p><br></p><p>彩里水は笑顔で挨拶を返す。</p><p><br></p><p><br></p><p>――いや、慣れたよ。オレだって結構慣れた。なんなら今オレが地中を歩いてることだって、地中なのにどうやって歩いてんの？とか、地中なのにどうやって息してんの？とか、なんで上見たら透けて見えんの？とかいろいろ疑問はいっぱいだよ？だけど考えるだけ無駄な気がしてるから全スルーしてきたの。・・・だけど！またかよ！</p><p><br></p><p><br></p><p>「いや、普通に挨拶しすぎだろおまえ！ちょっとはビビれよ！ミミズモグラだぞ！地中だぞ！こえーし！見た目怖―し！」</p><p><br></p><p>白兎は口が飛び出しそうな勢いで彩里水の人なつこさにツッコミを入れる。</p><p><br></p><p>「なんだよ。挨拶ぐらい普通にしろよな。てか、可愛いじゃん。もういい加減慣れたら？さっきだって蟻さんたちもいたんだしさ。みんないい人？じゃん。白兎って変なとこ頭固くない？」</p><p><br></p><p>「悪かったな。オレはおまえと違ってチョットばかし顔が良い庶民なんだ。」</p><p><br></p><p>時々目の前に現れる大きな根っこを迂回しながら2人は歩き続けている。</p><p><br></p><p>「はあ？何だよそれー。・・・あ、てかさ、気付いたんだけど誰か地中にいる人？に聞けば良いんじゃない？そうだ。それでいいじゃん。ミミズの人とかいないかな？」</p><p><br></p><p>「・・・おお。まあ確かに。おまえのその常識外の発想は時として素晴らしいよな。」</p><p><br></p><p>「えへへ。白兎ってすごくオレを褒めるよね。」</p><p><br></p><p>「いや、まあ半分は褒めてないんだけど・・・。まあ素直なところがいいよ、おまえは。」</p><p><br></p><p>歩いていると、舗装された道以外の場所には至る所に木の根っこや草花の根っこがあり時々動いていた。</p><p>彩里水は、そばを通過して行くクワガタに似た生き物に試しに声をかけてみた。</p><p><br></p><p>「すいませーん、ちょっと聞きたいんですが、この庭園を出る目印って何かありますか？」</p><p><br></p><p>彩里水に声をかけられているとは気付いていない様子のクワガタに似た生き物はそのまま彩里水の横を通り過ぎてしまった。</p><p><br></p><p>「あ、やっぱ人の言葉が通じないってこともあるって言ってたから、さっきのクワガタは人とのミックスじゃないのかな。」</p><p><br></p><p>「あー、そっか。さっきのミミズモグラみたいのばっかじゃないってわけか。」</p><p><br></p><p>ポケットからキップとクップが言う。</p><p><br></p><p>「地中を住処にする方たちの中には人型とのミックスは珍しい方かも知れませんね。」</p><p><br></p><p>「え？そうなのか。」</p><p><br></p><p>「でもぉ、僕らもこの庭園の地中にお住まいの方に道案内をしてもらうというのはとても良いアイデアだと思いましたー。1番安全で確実な気がしますー。」</p><p><br></p><p>クップがニコニコしながら言う。</p><p><br></p><p>「だよね！」</p><p><br></p><p>彩里水は喜ぶ。</p><p><br></p><p>「多分、この辺にはあまり人型のミックスはいないかもしれませんが、群生してる可能性は高いです。とにかく真っ直ぐ進んでいけば、庭園の外には確実に近づきますから、行きながら人や我らのように物型とのミックスがいたら尋ねてみましょう。」</p><p><br></p><p>「そうだね。」</p><p><br></p><p><br></p><p>つづく</p>
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	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[この驟雨に打たれて-6-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10518650/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10518650</id><summary><![CDATA[一瞬、何が起きたのか私にはわからなかった。先輩が打った強力なスパイクは、相手チームのブロッカーによって見事にはじかれたのだ。ボールは自チームのコート上に強烈に突き刺さり大きくコート外へ弾け跳んでいった。試合終了の笛が鳴り、ドッと驟雨のような歓声があがる。 あの日の あの激しすぎて一瞬で全身がずぶ濡れになってしまうような 驟雨を私は思い出した。両チームの激闘がより大きな歓声となってコートに降り注いでいる。  この激しい驟雨のような歓声の中コートの真ん中に立つ先輩は、今までで一番悲しげで、でも私には今までで一番輝いて見えた。 コートの真ん中で両手を腰にあて天を仰いでいる先輩の顔には悔しさと疲れの混じる表情が浮かんでいた。  その姿から私はしばらく目が離せなかった。  今しがた激闘を終えた選手たちが整列をしはじめる。相手チームは歓喜の表情で互いを称えあっている。 ほんの1分にも満たない間、先輩の姿に見とれていた私だが、徐々に悔しさが込み上げてくる。 わかっていたつもりだった。  勝ち残るのは全国の中でたった1チームなのだ。  それ以外の全チームはこのゲームに参加すると決めた時点でいつかどこかで負けるのだ。 そして、負けた。  負けてしまった。  決勝には行けない。 もう先輩たちが部活する姿を見ることはできない。 私は中のカップケーキが潰れてしまうほど鞄を両手で抱え込んでいた。  鞄の中からちらりと、昨日の夜書いたメッセージカードが目に入る。  “目指せ優勝!”  そう書いた自分がひどく間抜けに思えた。  先輩たちはいつだって全力だってやっている。  相手チームも同じだ。  それを簡単に何を言っているのか。 簡単に何を書いているのか。 そう思った。簡単に何を約束させてしまったのか。  間抜けだ。  決勝で、なんて。  いつだって全力でやっている人たちが、そこにたどり着くのがどれだけ大変な事なのか。  わかったつもりでいたのだろうか。  このカップケーキは渡せない。 どんな顔して渡せば良いのかわからない。 バレー部の人達は涙を流しながら、うなだれながら挨拶を済ませコートを去っていく。  先輩の表情からは今はまた感情は読み取れない。  涙も流さず、主将の山下先輩の掛け声に合わせて挨拶をしてコートをただ去っていく。  応援席にいた自チームの応援団達も、退場する選手達を拍手で見送りパラパラと席を立つ。  起きた出来事を飲み込めず、頭の中の整理もつかず、自分が家にどう帰ってきたかもあまり覚えていなかった。  　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　帰宅後。自分の部屋のベッドでボーッとしていると、コンコンというノックの後、  「結菜だよ。入っていい？」  という言葉が聞こえた。  私はベッドからノソノソと起き上がりながら答えた。 「うん。どうぞ。」  結菜はドアを開けて入りながら、ゴミ箱の中に視線を落とすと固まった。  「莉花、これ・・・。」  結菜はゴミ箱に入っていた潰れたカップケーキとグシャッと歪んだメッセージカードを取り出す。  「これ、どうしたの？渡さなかったの？」  「渡せるわけないじゃん。決勝、行けなかったのに。」  「・・・でも。・・・せっかく作ったのに。」  「メッセージカードに“目指せ優勝“って書いてあるんだよ？ほんと、馬鹿だった、私。簡単にあんなこと言って。先輩もみんなも死ぬほど練習してそれでも勝ち抜くなんて本当に大変なことなのに。ただ見るだけしかできないくせに、決勝で、なんて。簡単に。」  私は話を逸らそうと話題を変える。  「あ、私、お茶とかお菓子取りに下行ってくるね。結菜、結菜もお疲れ様！めちゃくちゃかっこよかった!」  私が無理やり笑顔を作って言いながらドアに近づくと、結菜はその笑顔が作ったものであるとすぐに気がついたようだ。 顔をしかめながら私の手を掴む。  「いいよ、お茶なんて。メッセージカードは渡せなくてもカップケーキは渡せるじゃん。準決勝が終わったら渡す約束したんでしょ？」  強い語調で言う結菜に私は俯きながら答える。  「・・・違うよ。決勝に進むときに渡すって言ったの。」  私は浅はかなことを言ってしまったことを後悔しながら苦々しく言った。  「そりゃ、そうかもしれないけどそのカップケーキには莉花の気持ちが詰まってるんじゃないの？先輩が負けてかっこ悪いとか思ってるの？」  「・・・！そんなこと、思ってるわけないじゃん！先輩はいつだって格好いいよ！優勝、そりゃあして欲しかったよ！でもそれはそれが先輩やみんなの目標だからだもん。優勝しなくったって、・・・先輩は、格好いいよ。・・・いくら結菜でもひどいよ。そんな風に言うなんて。」  「だったら関係ないじゃん。負けたってカッコよかったじゃん。莉花が今まで応援して来た気持ち全部込めて作ったんじゃん！だったら渡しなよ！今日が無理なら明日だっていいじゃん！・・・ゴミ箱に捨てるなんて。そうやって莉花が自分の気持ちを大切にしないことで周りのみんなも傷つけてる！」  「・・・だって！どんな顔して渡すの？簡単に“決勝であげます“とか言って、次は“それでも作ったんで“って？」  泣きたくないのに涙が溢れてくる。 こんなこと言いたいわけではないのに口から言葉が溢れてしまう。  「簡単になんて言ってないじゃん。今まで毎日のように応援してきたんじゃん！莉花がそんな子じゃないってみんなわかってる。先輩だってわかってる！」 「・・・でも、あげられない。きっと嫌がられる。嫌われる。」  「そんなのわかんないじゃん。嫌われるかもしれないからって、励ませるかもしれないのにその可能性は捨てちゃうの？それで、あげないでどうするの？この試合はなかったことにして、それでもう先輩は練習にも参加しないんだろうし会わないままで終わりにすんの？何もなかったことにすんの？ 」 「・・・。」  私が黙っていると結菜は低く絞りだすような声で言った。  「何それ。何？何もなかったことにするの？もう先輩に会えなくていいんだ？何も頑張らないで終わりにするんだ？ 」 「・・・ 。」「・・・。もういい！見損なった！」  そう言うと、結菜はクルリと踵を返し部屋から出ていく。  下からお母さんと話す声が聞こえる。  「あれ？結菜ちゃん、もう帰るの？」  「・・・はい、今日はこれで。また。」  「そっか。またね。」  私はその場にへたり込んでただ泣くことしかできなかった。  自分が悔しかった。情けなかった。先輩に沢山勇気をもらったのに、結菜にもいつも励まされて助けてもらったのに、何も返せず逃げ出そうとしてる。わかっているけど怖くてこの場から動けない。 ここから動けない自分が、恥ずかしくて情けないのに、ここから動くことができなかった。  　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　準決勝翌日。結菜はいつもの学校への待ち合わせ場所には来なかった。  私は1人学校へ向かう。  その日は「ダンス部の集まりがある」とお弁当も一緒に食べなかった。  休み時間も放課後も結菜とはほとんど口を聞くこともできなかった。  放課後。  今日は部活があるのでバレー部の練習は見に行けない。   ――今日は練習あるのかな？ 昨日の今日だからさすがにないかな？  でも正直私は、今日料理部の活動があってよかったと思ってしまった。  情けなさがまた襲う。 行けないことに言い訳があることで安心している。 しかし料理部でもボーッとしてしまい、包丁で指をスッパリ切ってしまった。  りっちゃんとまなちゃんが駆け寄ってる。  「莉花、今日は無理しなくてもいいよ。昨日の今日なんだし。」  そう言われた私は表情が引きつってしまい、それを見たまなちゃんが少し気まずそうな顔をする。  「保健室で診てもらったら今日は早退した方がいいんじゃない？今日は全部私やっとくからさ。」  副部長のりっちゃんが言う。  「・・・うん。そうする。ごめんね。ありがとう。」  私はやっと小さな声を出す。  自己嫌悪が止まらず2人が心配そうにしてくれているのに顔を見ることもできない。  保健室に行く途中でバレー部の使う体育館の横を通る。  どうやら今日もバレー部の練習はあったようで、掛け声が聞こえてくる。   ――先輩達は、もういないよね。   体育館の横を通り過ぎながら、バレー部の掛け声に耳を澄ませていた。保健室の帰り、体育館の入り口から少しだけ練習を覗く。やはり三年生たちはいなかった。しかし、二年生を中心にバレー部のみんなはいつものように練習をしていた。――すごいな。昨日は涙を見せていたし疲れてるはずなのに、今日はもういつものようにまた練習するんだ。先輩たちもいないのに、2年生が引っ張ってる。・・・相羽くん。相羽くんも昨日は泣いてた。相羽くんはいつもクールなイメージで何があっても泣かないような人だと思っていた。でも、昨日は悔しそうに泣き、俯きながら退場していく姿を見た。――それでも、また負けるかもしれなくてももう前を向いてる。他のみんなも・・・。その姿はとても逞しく力強く見えた。――・・・自分の事を情けないと自分を卑下して恥ずかしく思うことは、もう、やめなくちゃ・・・。 私は前を向くと早歩きで駅へ向かった。家に帰るよりも先に結菜の家へ向かっていた私はいつの間にか早歩きから走りだしていた。結菜の家の門の前でインターホンを押そうとして、私は一瞬固まった。   ――結菜、今日は一言も口きいてくれなかった。もし出てきてくれなかったら・・・。そう思い手を引っ込める。――いや、ダメ！決意して来たんじゃん！ギュッと目を閉じ、引っ込めかけた手を思い切って前へ出しインターホンを押す。 「はい。」出たのは結菜だった。「あ、あの、結菜っ。」「・・・あ、莉花・・・。」　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　つづく]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-10-01T12:00:03+00:00</published><updated>2020-10-01T12:00:14+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
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			<p><br></p><p>一瞬、何が起きたのか私にはわからなかった。</p><p><br></p><p>先輩が打った強力なスパイクは、相手チームのブロッカーによって見事にはじかれたのだ。</p><p>ボールは自チームのコート上に強烈に突き刺さり大きくコート外へ弾け跳んでいった。</p><p><br></p><p>試合終了の笛が鳴り、ドッと驟雨のような歓声があがる。 </p><p><br></p><p>あの日の </p><p><br></p><p>あの激しすぎて一瞬で全身がずぶ濡れになってしまうような 驟雨を私は思い出した。</p><p><br></p><p>両チームの激闘がより大きな歓声となってコートに降り注いでいる。 </p><p><br></p><p> </p><p>この激しい驟雨のような歓声の中コートの真ん中に立つ先輩は、今までで一番悲しげで、でも私には今までで一番輝いて見えた。</p><p><br></p><p> </p><p>コートの真ん中で両手を腰にあて天を仰いでいる先輩の顔には悔しさと疲れの混じる表情が浮かんでいた。 </p><p><br></p><p> </p><p>その姿から私はしばらく目が離せなかった。 </p><p><br></p><p> </p><p>今しがた激闘を終えた選手たちが整列をしはじめる。</p><p><br></p><p>相手チームは歓喜の表情で互いを称えあっている。 </p><p><br></p><p>ほんの1分にも満たない間、先輩の姿に見とれていた私だが、徐々に悔しさが込み上げてくる。</p><p><br></p><p> </p><p>わかっていたつもりだった。 </p><p><br></p><p> </p><p>勝ち残るのは全国の中でたった1チームなのだ。 </p><p><br></p><p> </p><p>それ以外の全チームはこのゲームに参加すると決めた時点でいつかどこかで負けるのだ。</p><p><br></p><p> </p><p>そして、負けた。 </p><p><br></p><p> </p><p>負けてしまった。 </p><p><br></p><p> </p><p>決勝には行けない。 </p><p><br></p><p>もう先輩たちが部活する姿を見ることはできない。</p><p><br></p><p> </p><p>私は中のカップケーキが潰れてしまうほど鞄を両手で抱え込んでいた。 </p><p><br></p><p> </p><p>鞄の中からちらりと、昨日の夜書いたメッセージカードが目に入る。 </p><p><br></p><p> </p><p>“目指せ優勝!” </p><p><br></p><p> </p><p>そう書いた自分がひどく間抜けに思えた。 </p><p><br></p><p> </p><p>先輩たちはいつだって全力だってやっている。 </p><p><br></p><p> </p><p>相手チームも同じだ。 </p><p><br></p><p> </p><p>それを簡単に何を言っているのか。 </p><p><br></p><p>簡単に何を書いているのか。 </p><p><br></p><p>そう思った。</p><p><br></p><p>簡単に何を約束させてしまったのか。 </p><p><br></p><p> </p><p>間抜けだ。 </p><p><br></p><p> </p><p>決勝で、なんて。 </p><p><br></p><p> </p><p>いつだって全力でやっている人たちが、そこにたどり着くのがどれだけ大変な事なのか。 </p><p> </p><p>わかったつもりでいたのだろうか。 </p><p><br></p><p> </p><p>このカップケーキは渡せない。 </p><p><br></p><p>どんな顔して渡せば良いのかわからない。</p><p><br></p><p> </p><p>バレー部の人達は涙を流しながら、うなだれながら挨拶を済ませコートを去っていく。 </p><p><br></p><p> </p><p>先輩の表情からは今はまた感情は読み取れない。 </p><p><br></p><p> </p><p>涙も流さず、主将の山下先輩の掛け声に合わせて挨拶をしてコートをただ去っていく。 </p><p><br></p><p> </p><p>応援席にいた自チームの応援団達も、退場する選手達を拍手で見送りパラパラと席を立つ。 </p><p> </p><p>起きた出来事を飲み込めず、頭の中の整理もつかず、自分が家にどう帰ってきたかもあまり覚えていなかった。 </p><p><br></p><p> </p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　</p><p><br></p><p><br></p><p>帰宅後。</p><p><br></p><p>自分の部屋のベッドでボーッとしていると、コンコンというノックの後、 </p><p><br></p><p> </p><p>「結菜だよ。入っていい？」 </p><p><br></p><p> </p><p>という言葉が聞こえた。 </p><p><br></p><p> </p><p>私はベッドからノソノソと起き上がりながら答えた。 </p><p><br></p><p>「うん。どうぞ。」 </p><p><br></p><p> </p><p>結菜はドアを開けて入りながら、ゴミ箱の中に視線を落とすと固まった。 </p><p><br></p><p> </p><p>「莉花、これ・・・。」 </p><p><br></p><p> </p><p>結菜はゴミ箱に入っていた潰れたカップケーキとグシャッと歪んだメッセージカードを取り出す。 </p><p><br></p><p> </p><p>「これ、どうしたの？渡さなかったの？」 </p><p><br></p><p> </p><p>「渡せるわけないじゃん。決勝、行けなかったのに。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・でも。・・・せっかく作ったのに。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「メッセージカードに“目指せ優勝“って書いてあるんだよ？ほんと、馬鹿だった、私。簡単にあんなこと言って。先輩もみんなも死ぬほど練習してそれでも勝ち抜くなんて本当に大変なことなのに。ただ見るだけしかできないくせに、決勝で、なんて。簡単に。」 </p><p><br></p><p> </p><p>私は話を逸らそうと話題を変える。 </p><p><br></p><p> </p><p>「あ、私、お茶とかお菓子取りに下行ってくるね。結菜、結菜もお疲れ様！めちゃくちゃかっこよかった!」 </p><p><br></p><p> </p><p>私が無理やり笑顔を作って言いながらドアに近づくと、結菜はその笑顔が作ったものであるとすぐに気がついたようだ。 </p><p>顔をしかめながら私の手を掴む。 </p><p><br></p><p> </p><p>「いいよ、お茶なんて。メッセージカードは渡せなくてもカップケーキは渡せるじゃん。準決勝が終わったら渡す約束したんでしょ？」 </p><p><br></p><p> </p><p>強い語調で言う結菜に私は俯きながら答える。 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・違うよ。決勝に進むときに渡すって言ったの。」 </p><p><br></p><p> </p><p>私は浅はかなことを言ってしまったことを後悔しながら苦々しく言った。 </p><p><br></p><p> </p><p>「そりゃ、そうかもしれないけどそのカップケーキには莉花の気持ちが詰まってるんじゃないの？先輩が負けてかっこ悪いとか思ってるの？」 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・！そんなこと、思ってるわけないじゃん！先輩はいつだって格好いいよ！優勝、そりゃあして欲しかったよ！でもそれはそれが先輩やみんなの目標だからだもん。優勝しなくったって、・・・先輩は、格好いいよ。・・・いくら結菜でもひどいよ。そんな風に言うなんて。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「だったら関係ないじゃん。負けたってカッコよかったじゃん。莉花が今まで応援して来た気持ち全部込めて作ったんじゃん！だったら渡しなよ！今日が無理なら明日だっていいじゃん！・・・ゴミ箱に捨てるなんて。そうやって莉花が自分の気持ちを大切にしないことで周りのみんなも傷つけてる！」 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・だって！どんな顔して渡すの？簡単に“決勝であげます“とか言って、次は“それでも作ったんで“って？」 </p><p><br></p><p> </p><p>泣きたくないのに涙が溢れてくる。</p><p> </p><p>こんなこと言いたいわけではないのに口から言葉が溢れてしまう。 </p><p><br></p><p> </p><p>「簡単になんて言ってないじゃん。今まで毎日のように応援してきたんじゃん！莉花がそんな子じゃないってみんなわかってる。先輩だってわかってる！」</p><p><br></p><p> </p><p>「・・・でも、あげられない。きっと嫌がられる。嫌われる。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「そんなのわかんないじゃん。嫌われるかもしれないからって、励ませるかもしれないのにその可能性は捨てちゃうの？それで、あげないでどうするの？この試合はなかったことにして、それでもう先輩は練習にも参加しないんだろうし会わないままで終わりにすんの？何もなかったことにすんの？ 」</p><p><br></p><p> </p><p>「・・・。」 </p><p><br></p><p> </p><p>私が黙っていると結菜は低く絞りだすような声で言った。 </p><p><br></p><p> </p><p>「何それ。何？何もなかったことにするの？もう先輩に会えなくていいんだ？何も頑張らないで終わりにするんだ？ 」</p><p><br></p><p> </p><p>「・・・ 。」</p><p><br></p><p>「・・・。もういい！見損なった！」 </p><p><br></p><p> </p><p>そう言うと、結菜はクルリと踵を返し部屋から出ていく。 </p><p> </p><p>下からお母さんと話す声が聞こえる。 </p><p><br></p><p> </p><p>「あれ？結菜ちゃん、もう帰るの？」 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・はい、今日はこれで。また。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「そっか。またね。」 </p><p><br></p><p> </p><p>私はその場にへたり込んでただ泣くことしかできなかった。 </p><p><br></p><p> </p><p>自分が悔しかった。</p><p><br></p><p>情けなかった。</p><p><br></p><p>先輩に沢山勇気をもらったのに、結菜にもいつも励まされて助けてもらったのに、何も返せず逃げ出そうとしてる。わかっているけど怖くてこの場から動けない。 </p><p><br></p><p>ここから動けない自分が、恥ずかしくて情けないのに、ここから動くことができなかった。 </p><p><br></p><p> </p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　</p><p><br></p><p><br></p><p>準決勝翌日。</p><p><br></p><p>結菜はいつもの学校への待ち合わせ場所には来なかった。 </p><p><br></p><p> </p><p>私は1人学校へ向かう。 </p><p><br></p><p> </p><p>その日は「ダンス部の集まりがある」とお弁当も一緒に食べなかった。 </p><p><br></p><p> </p><p>休み時間も放課後も結菜とはほとんど口を聞くこともできなかった。 </p><p><br></p><p> </p><p>放課後。 </p><p><br></p><p> </p><p>今日は部活があるのでバレー部の練習は見に行けない。 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>――今日は練習あるのかな？ 昨日の今日だからさすがにないかな？</p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>でも正直私は、今日料理部の活動があってよかったと思ってしまった。 </p><p><br></p><p> </p><p>情けなさがまた襲う。 </p><p><br></p><p>行けないことに言い訳があることで安心している。</p><p><br></p><p> </p><p>しかし料理部でもボーッとしてしまい、包丁で指をスッパリ切ってしまった。 </p><p><br></p><p> </p><p>りっちゃんとまなちゃんが駆け寄ってる。 </p><p><br></p><p> </p><p>「莉花、今日は無理しなくてもいいよ。昨日の今日なんだし。」 </p><p><br></p><p> </p><p>そう言われた私は表情が引きつってしまい、それを見たまなちゃんが少し気まずそうな顔をする。 </p><p> </p><p>「保健室で診てもらったら今日は早退した方がいいんじゃない？今日は全部私やっとくからさ。」 </p><p> </p><p>副部長のりっちゃんが言う。 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・うん。そうする。ごめんね。ありがとう。」 </p><p><br></p><p> </p><p>私はやっと小さな声を出す。 </p><p><br></p><p> </p><p>自己嫌悪が止まらず2人が心配そうにしてくれているのに顔を見ることもできない。 </p><p><br></p><p> </p><p>保健室に行く途中でバレー部の使う体育館の横を通る。 </p><p> </p><p>どうやら今日もバレー部の練習はあったようで、掛け声が聞こえてくる。 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>――先輩達は、もういないよね。 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>体育館の横を通り過ぎながら、バレー部の掛け声に耳を澄ませていた。</p><p><br></p><p><br></p><p>保健室の帰り、体育館の入り口から少しだけ練習を覗く。</p><p>やはり三年生たちはいなかった。</p><p>しかし、二年生を中心にバレー部のみんなはいつものように練習をしていた。</p><p><br></p><p><br></p><p>――すごいな。昨日は涙を見せていたし疲れてるはずなのに、今日はもういつものようにまた練習するんだ。先輩たちもいないのに、2年生が引っ張ってる。・・・相羽くん。相羽くんも昨日は泣いてた。</p><p><br></p><p><br></p><p>相羽くんはいつもクールなイメージで何があっても泣かないような人だと思っていた。でも、昨日は悔しそうに泣き、俯きながら退場していく姿を見た。</p><p><br></p><p><br></p><p>――それでも、また負けるかもしれなくてももう前を向いてる。他のみんなも・・・。</p><p><br></p><p><br></p><p>その姿はとても逞しく力強く見えた。</p><p><br></p><p><br></p><p>――・・・自分の事を情けないと自分を卑下して恥ずかしく思うことは、もう、やめなくちゃ・・・。 </p><p><br></p><p><br></p><p>私は前を向くと早歩きで駅へ向かった。</p><p><br></p><p>家に帰るよりも先に結菜の家へ向かっていた私はいつの間にか早歩きから走りだしていた。</p><p><br></p><p>結菜の家の門の前でインターホンを押そうとして、私は一瞬固まった。</p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p> ――結菜、今日は一言も口きいてくれなかった。もし出てきてくれなかったら・・・。</p><p><br></p><p><br></p><p>そう思い手を引っ込める。</p><p><br></p><p><br></p><p>――いや、ダメ！決意して来たんじゃん！</p><p><br></p><p><br></p><p>ギュッと目を閉じ、引っ込めかけた手を思い切って前へ出しインターホンを押す。</p><p><br></p><p> </p><p>「はい。」</p><p><br></p><p>出たのは結菜だった。</p><p><br></p><p>「あ、あの、結菜っ。」</p><p><br></p><p>「・・・あ、莉花・・・。」</p><p><br></p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　</p><p><br></p><p><br></p><p>つづく</p>
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	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[少年彩里水の不思議冒険譚　-不思議の国の入り口68-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10519688/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10519688</id><summary><![CDATA[68　地中にて　「上にさあ、塀が見えるから、そのままここを通って塀の向こう側に出ればいいよね？」彩里水は顔を上に向け地上を見ながら言った。「そうだな。思ったよりもめちゃくちゃ簡単に出れそうだな。オレ、縄を見つけにいってよじ登るとか、食べ物があったらそれ食べて小さくなれたりするか試してみるとかそんなこと考えてたけど、地中に入れちゃったらただ歩くだけな上に見つかる心配もないしな。彩里水に感謝だな。」白兎は彩里水を見ながら言った。「このまま地中を通って、庭園より外、つまり城外に出られますかね？」ずっと彩里水のポケットの中にいたキップが皆に向かって尋ねる。「うーん。そもそもこの庭園ってどのくらいの広さなんだろうね？」彩里水も質問する。「オレらがここに着いた時はメチャクチャ広い広場にドラゴンで降り立ったもんな。でもまだまだ広そうな感じはしたよなー。」皆は頭上の塀を難なく通り抜けながら話を進める。「まあ、庭園の外まで出られるようであればそれが1番安全でしょうね。」キャンドーは、地中の中を珍しそうに見回しながら言う。「まあね。なんか庭園も面白そうだったから見てみたい気もしたけど。」「まあなー。でも今はやっぱり全員が安全にこの庭園の外に出るのがいいかもな。オレらはそのあととにかくオールワン遊園地を目指さなきゃいけないわけだしさ。」何にでも興味津々の彩里水に今回は白兎も賛成したいが、オールワン遊園地に戻る方法がわからないことには落ち着かない。「うううー。楽しみですね。もう僕ら庭園の外を歩いてるんですね！」キップは外に出ることができた感動を改めてかみしめるように行った。「まあな。地中だけどな。」「嬉しいですー。こんな日が来るなんて、信じられないです。」クップは目に涙を滲ませながら辺りをマジマジと見回している。「キップクップキャンドーが外に出れたってことは、本当は外に出れるって信じてたってことでしょ？この国の法則によると。」「はははー。確かになー。」彩里水と白兎は３体がこの城から長年出れなかったことを少し茶化すように言う。「でもさ、庭園の外に出るったって、庭園とその外の違いってオレらわかるのかな？従業員棟と庭園の間みたいにでっかい塀に覆われてたりすればわかりやすそうな気もするけど、城の敷地である庭園とそれ以外の場所の区別ってどう付ければいいわけ？」彩里水はふと気付き手を顎の下に付け考えるように言う。「確かにー。別に出るとこはどこでも言い気がするよな。とりあえずどこ行ったらいいかわかんないんだし。でも庭園から出てないのに地上に出ちゃうとまずそうな気がするよな。」ひとまず敵から襲われることが無さそうな場所を歩いている安堵感からか、白兎は呑気に答える。「うん。それの判別が誰もつかないってのはまずいかなあ。」彩里水の懸念にキャンドーが答える。「もし庭園の範囲が私の若い頃と変わりなければ、それぐらいは判別がつくかもしれません。私が若い頃は、庭園は大規模な公園といった感じでした。出入り口も先程のような頑丈な塀があるわけではなく、門があって駐在さんはいらっしゃるし開園時間も決まってはおりましたが老若男女、誰でも自由に出入りすることができていましたよ。」「僕らもお話を聞いたことがありますー。」キップとクップが声を揃え手答えた後、キップ続ける。「お城を中心に円形状に広がっていますが、時にはその形を変えたり一部分だけ移動して他の地域の方たちを楽しませてくれたり、庭園さんはたくさんの要素から構成されていますが一個体となることもできて国の皆さんを楽しませる事にとても積極的だったと。」「へえー！一個体に！？」「すげー！なんかすごそう！」「やっぱりおもしろいよね、不思議の国！」「な！オレらもゆっくり探検してみたいよなー。」「うん。」彩里水と白兎はまたこの不思議の国の面白い一面に心引かれていた。つづく]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-10-01T10:00:33+00:00</published><updated>2020-10-01T10:00:42+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
		<div>
			<h4>68　地中にて　</h4><p><br></p><p><br></p><p>「上にさあ、塀が見えるから、そのままここを通って塀の向こう側に出ればいいよね？」</p><p><br></p><p>彩里水は顔を上に向け地上を見ながら言った。</p><p><br></p><p>「そうだな。思ったよりもめちゃくちゃ簡単に出れそうだな。オレ、縄を見つけにいってよじ登るとか、食べ物があったらそれ食べて小さくなれたりするか試してみるとかそんなこと考えてたけど、地中に入れちゃったらただ歩くだけな上に見つかる心配もないしな。彩里水に感謝だな。」</p><p><br></p><p>白兎は彩里水を見ながら言った。</p><p><br></p><p>「このまま地中を通って、庭園より外、つまり城外に出られますかね？」</p><p><br></p><p>ずっと彩里水のポケットの中にいたキップが皆に向かって尋ねる。</p><p><br></p><p>「うーん。そもそもこの庭園ってどのくらいの広さなんだろうね？」</p><p><br></p><p>彩里水も質問する。</p><p><br></p><p>「オレらがここに着いた時はメチャクチャ広い広場にドラゴンで降り立ったもんな。でもまだまだ広そうな感じはしたよなー。」</p><p><br></p><p>皆は頭上の塀を難なく通り抜けながら話を進める。</p><p><br></p><p>「まあ、庭園の外まで出られるようであればそれが1番安全でしょうね。」</p><p><br></p><p>キャンドーは、地中の中を珍しそうに見回しながら言う。</p><p><br></p><p>「まあね。なんか庭園も面白そうだったから見てみたい気もしたけど。」</p><p><br></p><p>「まあなー。でも今はやっぱり全員が安全にこの庭園の外に出るのがいいかもな。オレらはそのあととにかくオールワン遊園地を目指さなきゃいけないわけだしさ。」</p><p><br></p><p>何にでも興味津々の彩里水に今回は白兎も賛成したいが、オールワン遊園地に戻る方法がわからないことには落ち着かない。</p><p><br></p><p>「うううー。楽しみですね。もう僕ら庭園の外を歩いてるんですね！」</p><p><br></p><p>キップは外に出ることができた感動を改めてかみしめるように行った。</p><p><br></p><p>「まあな。地中だけどな。」</p><p><br></p><p>「嬉しいですー。こんな日が来るなんて、信じられないです。」</p><p><br></p><p>クップは目に涙を滲ませながら辺りをマジマジと見回している。</p><p><br></p><p>「キップクップキャンドーが外に出れたってことは、本当は外に出れるって信じてたってことでしょ？この国の法則によると。」</p><p><br></p><p>「はははー。確かになー。」</p><p><br></p><p>彩里水と白兎は３体がこの城から長年出れなかったことを少し茶化すように言う。</p><p><br></p><p>「でもさ、庭園の外に出るったって、庭園とその外の違いってオレらわかるのかな？従業員棟と庭園の間みたいにでっかい塀に覆われてたりすればわかりやすそうな気もするけど、城の敷地である庭園とそれ以外の場所の区別ってどう付ければいいわけ？」</p><p><br></p><p>彩里水はふと気付き手を顎の下に付け考えるように言う。</p><p><br></p><p>「確かにー。別に出るとこはどこでも言い気がするよな。とりあえずどこ行ったらいいかわかんないんだし。でも庭園から出てないのに地上に出ちゃうとまずそうな気がするよな。」</p><p><br></p><p>ひとまず敵から襲われることが無さそうな場所を歩いている安堵感からか、白兎は呑気に答える。</p><p><br></p><p>「うん。それの判別が誰もつかないってのはまずいかなあ。」</p><p><br></p><p>彩里水の懸念にキャンドーが答える。</p><p><br></p><p>「もし庭園の範囲が私の若い頃と変わりなければ、それぐらいは判別がつくかもしれません。私が若い頃は、庭園は大規模な公園といった感じでした。出入り口も先程のような頑丈な塀があるわけではなく、門があって駐在さんはいらっしゃるし開園時間も決まってはおりましたが老若男女、誰でも自由に出入りすることができていましたよ。」</p><p><br></p><p>「僕らもお話を聞いたことがありますー。」</p><p><br></p><p>キップとクップが声を揃え手答えた後、キップ続ける。</p><p><br></p><p>「お城を中心に円形状に広がっていますが、時にはその形を変えたり一部分だけ移動して他の地域の方たちを楽しませてくれたり、庭園さんはたくさんの要素から構成されていますが一個体となることもできて国の皆さんを楽しませる事にとても積極的だったと。」</p><p><br></p><p>「へえー！一個体に！？」</p><p><br></p><p>「すげー！なんかすごそう！」</p><p><br></p><p>「やっぱりおもしろいよね、不思議の国！」</p><p><br></p><p>「な！オレらもゆっくり探検してみたいよなー。」</p><p><br></p><p>「うん。」</p><p><br></p><p>彩里水と白兎はまたこの不思議の国の面白い一面に心引かれていた。</p><p><br></p><p><br></p><p>つづく</p>
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	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[この驟雨に打たれて-5-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10497851/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10497851</id><summary><![CDATA[準決勝当日。私は我が校の応援席にいた。初戦よりは当然出場校が少ないので、人数は少なかったけれど、それでも観客席にはかなりの人がいる。先日と違うのは、広い体育館内にたった一つ設置されているセンターコート。今までのように各コートで同時に試合が行われることはなく、ここで対戦する2校だけが試合をする。この場にいる全員がこの試合だけを観戦するのだ。――とうとう準決勝だ・・・！勝てば決勝。あと2回勝てば優勝だ！先輩・・・！勝って欲しい！準決勝の相手は何度も全国に出ており、優勝経験もある学校。近年こそ優勝はしていないものの今年のチームは勢いもあり、優勝候補の颯真高等学校だった。初戦からほとんどセットも落とさずこの準決勝まで勝ち進んだ強豪校で、我が秋風高校とも何度も対戦し、秋風高校が負け越しているらしいと言う因縁の相手だった。試合開始のホイッスルが鳴り、相手チームのサーバーが高々とボールをあげた。相手の強烈なサーブが先輩の横を通過してコートに叩き付けられる。――こわ。すご。私が恐れている間にも試合は進んでいく。もう1度、相手チーム1番の強打がこちらのコートを襲ったが、今度はレシーブで捕らえる。強打により高々と上空へ上がったボールをセッターがトス。そこから流れるように牧田先輩のスパイク。ダンッ。相手コートに先輩の強烈なストレートが炸裂する。ワッ歓声が上がる。「わあ！」私も思わず声を上げる。1点返した先輩はコート上を軽やかに駆け仲間たちと士気を高める。序盤から両校とも快調な様子で点を取り合う。5-710-1317-21リードされながらも食い下がるが点差は徐々に開いていく。味方のサービスエース。ジャンプフローターサーブで相手を乱したまま返球されたチャンスボールをリベロがレシーブ。セッターの相羽くんのトスから牧田先輩のバックアタック。ダンッ先程のように豪快で小気味のいい音が鳴り、またスタンドにワッと活気が沸く。驟雨のような歓声はいつだって先輩に降り注いでいる。先輩のアタックに続き、味方チームのアタッカーたちが18、19、20と次々に点差を縮める。20-21けれど、ここでまた相手チーム1番のサーブ。高々と挙げたボールをジャンプサーブでサービスエース。ゴッダンッノータッチエース。こちらチームのレシーバーは1歩も動けなかった。20-22縮まった点差がまた離される。そのまま相手に試合の流れを持って行かれ、第１セットを23-25で落とした。強敵を前に、先輩にいつもの眩しい笑顔はなく、見たこともないような厳しい表情を浮かべていた。第２セット開始。試合はセット序盤から白熱の展開を迎える。8-713-1523-22このセットは終止、秋風側がややリードながらも長いラリーが続く展開が多く、両校とも終盤に疲れが見え始める。――先輩・・・！みんな・・・！神様！お願いします！私はただただ食い入るように試合を見つめる。長く続いているラリー、いつものようにセッター相羽くんから牧田先輩へのトス。何度も何度も決めてきたこのアタック。何度も何度も目にしてきたこのアタック。この一打が相手コートに強烈な音を立てて突き刺さることを何度も祈る。先輩は風のように速い動きで跳ぶ。その次の瞬間にボールはもう相手チームに矢のように襲いかかっている。相手チームのレシーバーが受け損ねたボールは場外へ弾き飛ばされる。24-22――あと1点。あと1点で第2セットは先輩たちの勝ちだ！これ以上固く握れないほど握っている両手にさらにギュッと力を込める。相手チームのサーバーが高々とジャンプしてボールを宙に放つ。そのボールはギリギリコートの白線の外。審判がアウトのハタをあげる。第2セット終了。またワッと歓声が上がる。――勝った。私は、はあっと息を深く吐く。――見てるだけで生きた心地がしないのに、先輩たちはこの観衆の歓声と相手チームからのプレッシャーの中、どうしてこんなに力強く跳べるんだろう・・・！打てるんだろう・・・！！祈る形の私の握られた両手は汗で湿っていた。その後も試合は一進一退。第3セット26-28、第4セット30-28。長いラリーとデュースの続く中、両校とも気迫はどんどん増していく。白熱の激闘の中どちらからも「負けられない、勝ちたい」という強い意志が瞳に、掌に、脚に、全身に現れていた。　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　最終セット。このセット、どちらにとっても勝てば決勝へ。負ければ終わり。私の手はもう拭っても意味がないほど汗をかいている。涙腺は今にも崩壊しそうだった。ファイナルセット開始のホイッスルが会場に響く。牧田先輩のサーブ。先輩の表情はいつものように厳しくも凜々しい。観客の視線は先輩の一球目に全て注がれている。私も手を固く握りしめ牧田先輩のサーブを見つめる。先輩が高々と挙げたボールへ、そのしなやかな体のバネを使って全ての反動を掌に集中させているかのように力強く相手コートに向かって腕を振り下ろす。ダンッ力強く鋭い一球が相手のコート白線のギリギリインコースに突き刺さった。ワアアアアアア！またあの驟雨のような歓声が先輩に降り注ぐ。続く先輩のサーブは相手のレシーバーがかろうじてあげる。しかし、相手チームのセッターはそのボールを素早くトスして相手チームの超速攻が秋風高側コートに突き刺さる。構えていながらも1セット目から先輩たちを翻弄する速攻に秋風高校バレー部は反応できない。相手チームにサーブ権が移り、試合は1-1。その後も秋風高校と颯真高校の因縁の対決は一進一退。3-46-78-78点目を逆転したところでコートチェンジ。ファイナルセットは15点先取でどちらかが8点取るとコートが入れ替わる。ここで相手高校のサーブは1番。先輩同様凄まじい強打な上に、コースも打ち分ける。相手チームの目で追うこともできない速攻や轟音が響く強打者。高身長のブロッカー。どこに打っても返してくるレシーバーにリベロ。一体どこに攻撃をすれば良いのかわからないほどの選手層の厚さを見せる。それでも取られては取り返す秋風高バレー部のみんな。改めて先輩たちバレー部のすごさを感じる。高々と上がったボール。相手チームビッグサーバーが叩き付けた強打を主将の山下先輩が何とかあげる。しかし相手コートへの返球となったボールを相手チームエースがすかさず速攻で決めてくる。8-89-1012-14ひっくり返された点差を広げられて相手のマッチポイント。結菜の応援の声は会場を何度も勇気づけている。私は祈ることしかできない。ここで、良く通る聞き慣れた声が張り詰めたコート内に響く。「ドンマイドンマーイ！いつもどーり！1本切ってくぞー！」聞き慣れた声、聞き慣れた言葉。これまで何度も見てきた試合。牧田先輩の口から何度も聞いた言葉。そして、あの全国大会予選の終盤の劣勢を見事挽回させるきっかけとなった言葉。この言葉で再びコート上、ベンチやベンチの外から応援するチーム全員の士気が上がる。応援団もほとんど枯れ果てたようなしかし気合いの入った声を振り絞っている。またあの先輩の言葉で活気を取り戻す自チーム。再びサーバーの1番はボールを高々と挙げる。そのボールをまたしても山下先輩が、しかし今度は体勢を崩しながらも自チームのコート上へ挙げる。いつものセッター相羽くんからのトスで先輩が跳ぶ。そこから流れるように牧田先輩のスパイク。ダンッ！！！落ちた先は秋風高校のコート。　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　つづく]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-09-30T12:00:25+00:00</published><updated>2020-09-30T12:00:40+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
		<div>
			<p>準決勝当日。</p><p><br></p><p>私は我が校の応援席にいた。</p><p><br></p><p>初戦よりは当然出場校が少ないので、人数は少なかったけれど、それでも観客席にはかなりの人がいる。</p><p>先日と違うのは、広い体育館内にたった一つ設置されているセンターコート。</p><p>今までのように各コートで同時に試合が行われることはなく、ここで対戦する2校だけが試合をする。この場にいる全員がこの試合だけを観戦するのだ。</p><p><br></p><p><br></p><p>――とうとう準決勝だ・・・！勝てば決勝。あと2回勝てば優勝だ！先輩・・・！勝って欲しい！</p><p><br></p><p><br></p><p>準決勝の相手は何度も全国に出ており、優勝経験もある学校。近年こそ優勝はしていないものの今年のチームは勢いもあり、優勝候補の颯真高等学校だった。</p><p>初戦からほとんどセットも落とさずこの準決勝まで勝ち進んだ強豪校で、我が秋風高校とも何度も対戦し、秋風高校が負け越しているらしいと言う因縁の相手だった。</p><p><br></p><p>試合開始のホイッスルが鳴り、相手チームのサーバーが高々とボールをあげた。</p><p><br></p><p>相手の強烈なサーブが先輩の横を通過してコートに叩き付けられる。</p><p><br></p><p><br></p><p>――こわ。すご。</p><p><br></p><p><br></p><p>私が恐れている間にも試合は進んでいく。</p><p><br></p><p>もう1度、相手チーム1番の強打がこちらのコートを襲ったが、今度はレシーブで捕らえる。</p><p>強打により高々と上空へ上がったボールをセッターがトス。そこから流れるように牧田先輩のスパイク。</p><p><br></p><p>ダンッ。</p><p><br></p><p>相手コートに先輩の強烈なストレートが炸裂する。</p><p><br></p><p>ワッ</p><p><br></p><p>歓声が上がる。</p><p><br></p><p>「わあ！」</p><p><br></p><p>私も思わず声を上げる。</p><p><br></p><p>1点返した先輩はコート上を軽やかに駆け仲間たちと士気を高める。</p><p><br></p><p>序盤から両校とも快調な様子で点を取り合う。</p><p><br></p><p>5-7</p><p><br></p><p>10-13</p><p><br></p><p>17-21</p><p><br></p><p>リードされながらも食い下がるが点差は徐々に開いていく。</p><p><br></p><p>味方のサービスエース。</p><p>ジャンプフローターサーブで相手を乱したまま返球されたチャンスボールをリベロがレシーブ。</p><p>セッターの相羽くんのトスから牧田先輩のバックアタック。</p><p><br></p><p>ダンッ</p><p><br></p><p>先程のように豪快で小気味のいい音が鳴り、またスタンドにワッと活気が沸く。</p><p><br></p><p>驟雨のような歓声はいつだって先輩に降り注いでいる。</p><p><br></p><p>先輩のアタックに続き、味方チームのアタッカーたちが18、19、20と次々に点差を縮める。</p><p><br></p><p>20-21</p><p><br></p><p>けれど、ここでまた相手チーム1番のサーブ。</p><p>高々と挙げたボールをジャンプサーブでサービスエース。</p><p><br></p><p>ゴッ</p><p>ダンッ</p><p><br></p><p>ノータッチエース。</p><p>こちらチームのレシーバーは1歩も動けなかった。</p><p><br></p><p>20-22</p><p><br></p><p>縮まった点差がまた離される。</p><p><br></p><p>そのまま相手に試合の流れを持って行かれ、第１セットを23-25で落とした。</p><p><br></p><p>強敵を前に、先輩にいつもの眩しい笑顔はなく、見たこともないような厳しい表情を浮かべていた。</p><p><br></p><p>第２セット開始。</p><p><br></p><p>試合はセット序盤から白熱の展開を迎える。</p><p><br></p><p>8-7</p><p><br></p><p>13-15</p><p><br></p><p>23-22</p><p><br></p><p>このセットは終止、秋風側がややリードながらも長いラリーが続く展開が多く、両校とも終盤に疲れが見え始める。</p><p><br></p><p><br></p><p>――先輩・・・！みんな・・・！神様！お願いします！</p><p><br></p><p><br></p><p>私はただただ食い入るように試合を見つめる。</p><p><br></p><p>長く続いているラリー、いつものようにセッター相羽くんから牧田先輩へのトス。</p><p><br></p><p>何度も何度も決めてきたこのアタック。</p><p><br></p><p>何度も何度も目にしてきたこのアタック。</p><p><br></p><p>この一打が相手コートに強烈な音を立てて突き刺さることを何度も祈る。</p><p><br></p><p>先輩は風のように速い動きで跳ぶ。</p><p>その次の瞬間にボールはもう相手チームに矢のように襲いかかっている。</p><p>相手チームのレシーバーが受け損ねたボールは場外へ弾き飛ばされる。</p><p><br></p><p>24-22</p><p><br></p><p><br></p><p>――あと1点。あと1点で第2セットは先輩たちの勝ちだ！</p><p><br></p><p><br></p><p>これ以上固く握れないほど握っている両手にさらにギュッと力を込める。</p><p><br></p><p>相手チームのサーバーが高々とジャンプしてボールを宙に放つ。</p><p>そのボールはギリギリコートの白線の外。審判がアウトのハタをあげる。</p><p><br></p><p>第2セット終了。</p><p><br></p><p>またワッと歓声が上がる。</p><p><br></p><p><br></p><p>――勝った。</p><p><br></p><p><br></p><p>私は、はあっと息を深く吐く。</p><p><br></p><p><br></p><p>――見てるだけで生きた心地がしないのに、先輩たちはこの観衆の歓声と相手チームからのプレッシャーの中、どうしてこんなに力強く跳べるんだろう・・・！打てるんだろう・・・！！</p><p><br></p><p><br></p><p>祈る形の私の握られた両手は汗で湿っていた。</p><p><br></p><p>その後も試合は一進一退。</p><p><br></p><p>第3セット26-28、第4セット30-28。</p><p><br></p><p>長いラリーとデュースの続く中、両校とも気迫はどんどん増していく。</p><p><br></p><p>白熱の激闘の中どちらからも「負けられない、勝ちたい」という強い意志が瞳に、掌に、脚に、全身に現れていた。</p><p><br></p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　</p><p><br></p><p><br></p><p>最終セット。</p><p><br></p><p>このセット、どちらにとっても勝てば決勝へ。負ければ終わり。</p><p><br></p><p>私の手はもう拭っても意味がないほど汗をかいている。涙腺は今にも崩壊しそうだった。</p><p><br></p><p>ファイナルセット開始のホイッスルが会場に響く。</p><p><br></p><p>牧田先輩のサーブ。</p><p>先輩の表情はいつものように厳しくも凜々しい。</p><p><br></p><p>観客の視線は先輩の一球目に全て注がれている。私も手を固く握りしめ牧田先輩のサーブを見つめる。</p><p><br></p><p>先輩が高々と挙げたボールへ、そのしなやかな体のバネを使って全ての反動を掌に集中させているかのように力強く相手コートに向かって腕を振り下ろす。</p><p><br></p><p>ダンッ</p><p><br></p><p>力強く鋭い一球が相手のコート白線のギリギリインコースに突き刺さった。</p><p><br></p><p>ワアアアアアア！</p><p><br></p><p>またあの驟雨のような歓声が先輩に降り注ぐ。</p><p><br></p><p>続く先輩のサーブは相手のレシーバーがかろうじてあげる。</p><p>しかし、相手チームのセッターはそのボールを素早くトスして相手チームの超速攻が秋風高側コートに突き刺さる。</p><p>構えていながらも1セット目から先輩たちを翻弄する速攻に秋風高校バレー部は反応できない。</p><p><br></p><p>相手チームにサーブ権が移り、試合は1-1。</p><p><br></p><p>その後も秋風高校と颯真高校の因縁の対決は一進一退。</p><p><br></p><p>3-4</p><p><br></p><p>6-7</p><p><br></p><p>8-7</p><p><br></p><p>8点目を逆転したところでコートチェンジ。ファイナルセットは15点先取でどちらかが8点取るとコートが入れ替わる。</p><p><br></p><p>ここで相手高校のサーブは1番。先輩同様凄まじい強打な上に、コースも打ち分ける。</p><p><br></p><p>相手チームの目で追うこともできない速攻や轟音が響く強打者。</p><p><br></p><p>高身長のブロッカー。</p><p><br></p><p>どこに打っても返してくるレシーバーにリベロ。</p><p><br></p><p>一体どこに攻撃をすれば良いのかわからないほどの選手層の厚さを見せる。</p><p><br></p><p>それでも取られては取り返す秋風高バレー部のみんな。</p><p>改めて先輩たちバレー部のすごさを感じる。</p><p><br></p><p>高々と上がったボール。</p><p>相手チームビッグサーバーが叩き付けた強打を主将の山下先輩が何とかあげる。</p><p><br></p><p>しかし相手コートへの返球となったボールを相手チームエースがすかさず速攻で決めてくる。</p><p><br></p><p>8-8</p><p><br></p><p>9-10</p><p><br></p><p>12-14</p><p><br></p><p>ひっくり返された点差を広げられて相手のマッチポイント。</p><p><br></p><p>結菜の応援の声は会場を何度も勇気づけている。</p><p>私は祈ることしかできない。</p><p><br></p><p>ここで、良く通る聞き慣れた声が張り詰めたコート内に響く。</p><p><br></p><p>「ドンマイドンマーイ！いつもどーり！1本切ってくぞー！」</p><p><br></p><p>聞き慣れた声、聞き慣れた言葉。</p><p><br></p><p>これまで何度も見てきた試合。</p><p><br></p><p>牧田先輩の口から何度も聞いた言葉。</p><p><br></p><p>そして、あの全国大会予選の終盤の劣勢を見事挽回させるきっかけとなった言葉。</p><p><br></p><p>この言葉で再びコート上、ベンチやベンチの外から応援するチーム全員の士気が上がる。</p><p>応援団もほとんど枯れ果てたようなしかし気合いの入った声を振り絞っている。</p><p><br></p><p>またあの先輩の言葉で活気を取り戻す自チーム。</p><p><br></p><p>再びサーバーの1番はボールを高々と挙げる。</p><p><br></p><p>そのボールをまたしても山下先輩が、しかし今度は体勢を崩しながらも自チームのコート上へ挙げる。</p><p><br></p><p>いつものセッター相羽くんからのトスで先輩が跳ぶ。</p><p><br></p><p>そこから流れるように牧田先輩のスパイク。</p><p><br></p><p>ダンッ！！！</p><p><br></p><p>落ちた先は秋風高校のコート。</p><p><br></p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　</p><p><br></p><p><br></p><p>つづく</p>
		</div>
	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[少年彩里水の不思議冒険譚　-不思議の国の入り口67-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10497230/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10497230</id><summary><![CDATA[67　確信するってどういうことなの？キャンドーもまた会話に参加する。「そうそう、思いが混ざり合ったりして化学変化を起こすなんて言うのはそういうことだったりしますよ。」「例えば同じクラブチームの選手の子たちが全員本当に勝ちたいと思っているのかとか。本当はその中の1人の子は“勝ちたい”より、試合や練習の辛さや苦しさが、勝ちたいという気持ちよりも強い場合があります。本当は家で絵を描く方が好きなのに、周りのみんなの勢いに推されて、自分の望みは絵を描くことよりバレーの練習をすることだと思い込んでいるだけだったり。本人すら、自分の本当の望み気がついていない。それはとてもやっかいですね。」「あー。なんとなくわかるような。」白兎はクラブチームで上手い方だし真面目に練習するけど、中には、ウソをついているようには見えないけれど、その練習に対する熱量と言葉の熱量が伴っていない友人も少なくないことを思い出した。キャンドーは続ける。「それに“勝てる”と思っているのか。“勝ちたい”なのかそれとも“勝てる”なのかでも違ったり。これについては単に表現の仕方なのですが、一言に“勝ちたい”と誰かが言っていたとしても、その思いの中には“勝ちたいけど勝てない”と思っている場合もあります。でもまたある人にとっては“勝ちたい”という気持ちが“勝ちたいし勝つ”といろいろな状況や状態を分析した上で確信しているという場合もある。そういう場合、前者は勝ちたい人で勝てない人、後者は勝ちたい人で勝てる人になる、という具合です。」「ふーん。要はそこに確信があるかってこと？」「そうとも言えるし違うとも言えます。例えば本当に小さなお子さんが、自分はトランプのゲームをして親御さんに勝てると本気で信じているとします。それで、本気で信じていて、親御さんがわざと負ければ、それでもその子は勝ったということになります。」「ふんふん。」「でも、自分は確信しているにも関わらず負けることもあったりする。それはなぜかと言えば、そのお子さん以上に親御さんが確固たる確信を持って勝てると思っており、わざと負けたりしないという場合です。」「あー、それが思いの強さってやつ？」「そういうことです。相手が、いろいろな状況や環境という根拠を持っている場合、それは自信を持つ、確信を得るという大きな手助けになるんです。」「ですから、お子さんは確信していたとしても、その確信は親御さん以上ではなかったということです。ただ、確信度などは目に見えて比べられるものではないのでね。もし白兎くんがその方法をマスターできれば、この不思議の国だけではなく、君たちの世界でも必ず君の大きな武器になりますよ。」「おお！」「それに、彩里水くんは今でも割と感覚的にそれができているようですし、それはとても素晴らしいことですが、知識として知っていると何かに躓いたときににも起き上がるのが早くなると思います。ここを上手く抜けることができたら、君たちが望めば順を追って説明しますよ。」「おおー！知りたい！」2人は声を揃えて言った。「ええ。では、今は早くこの城を抜けましょう！」「だね！」つづく]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-09-30T10:00:16+00:00</published><updated>2020-09-30T10:00:33+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
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			<img src="https://www.instagram.com/p/CD6N5l1HUWk/media?size=l&width=960" width="100%">
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			<h4>67　確信するってどういうことなの？</h4><p><br></p><p><br></p><p>キャンドーもまた会話に参加する。</p><p><br></p><p>「そうそう、思いが混ざり合ったりして化学変化を起こすなんて言うのはそういうことだったりしますよ。」</p><p><br></p><p>「例えば同じクラブチームの選手の子たちが全員本当に勝ちたいと思っているのかとか。本当はその中の1人の子は“勝ちたい”より、試合や練習の辛さや苦しさが、勝ちたいという気持ちよりも強い場合があります。本当は家で絵を描く方が好きなのに、周りのみんなの勢いに推されて、自分の望みは絵を描くことよりバレーの練習をすることだと思い込んでいるだけだったり。本人すら、自分の本当の望み気がついていない。それはとてもやっかいですね。」</p><p><br></p><p>「あー。なんとなくわかるような。」</p><p><br></p><p>白兎はクラブチームで上手い方だし真面目に練習するけど、中には、ウソをついているようには見えないけれど、その練習に対する熱量と言葉の熱量が伴っていない友人も少なくないことを思い出した。</p><p><br></p><p>キャンドーは続ける。</p><p><br></p><p>「それに“勝てる”と思っているのか。“勝ちたい”なのかそれとも“勝てる”なのかでも違ったり。これについては単に表現の仕方なのですが、一言に“勝ちたい”と誰かが言っていたとしても、その思いの中には“勝ちたいけど勝てない”と思っている場合もあります。でもまたある人にとっては“勝ちたい”という気持ちが“勝ちたいし勝つ”といろいろな状況や状態を分析した上で確信しているという場合もある。そういう場合、前者は勝ちたい人で勝てない人、後者は勝ちたい人で勝てる人になる、という具合です。」</p><p><br></p><p>「ふーん。要はそこに確信があるかってこと？」</p><p><br></p><p>「そうとも言えるし違うとも言えます。例えば本当に小さなお子さんが、自分はトランプのゲームをして親御さんに勝てると本気で信じているとします。それで、本気で信じていて、親御さんがわざと負ければ、それでもその子は勝ったということになります。」</p><p><br></p><p>「ふんふん。」</p><p><br></p><p>「でも、自分は確信しているにも関わらず負けることもあったりする。それはなぜかと言えば、そのお子さん以上に親御さんが確固たる確信を持って勝てると思っており、わざと負けたりしないという場合です。」</p><p><br></p><p>「あー、それが思いの強さってやつ？」</p><p><br></p><p>「そういうことです。相手が、いろいろな状況や環境という根拠を持っている場合、それは自信を持つ、確信を得るという大きな手助けになるんです。」</p><p><br></p><p>「ですから、お子さんは確信していたとしても、その確信は親御さん以上ではなかったということです。ただ、確信度などは目に見えて比べられるものではないのでね。もし白兎くんがその方法をマスターできれば、この不思議の国だけではなく、君たちの世界でも必ず君の大きな武器になりますよ。」</p><p><br></p><p>「おお！」</p><p><br></p><p>「それに、彩里水くんは今でも割と感覚的にそれができているようですし、それはとても素晴らしいことですが、知識として知っていると何かに躓いたときににも起き上がるのが早くなると思います。ここを上手く抜けることができたら、君たちが望めば順を追って説明しますよ。」</p><p><br></p><p>「おおー！知りたい！」</p><p><br></p><p>2人は声を揃えて言った。</p><p><br></p><p>「ええ。では、今は早くこの城を抜けましょう！」</p><p><br></p><p>「だね！」</p><p><br></p><p><br></p><p>つづく</p>
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	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[この驟雨に打たれて-4-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10494551/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10494551</id><summary><![CDATA[1月。年明け早々、私はまたカップケーキを作っていた。――もうすぐ全国大会が始まる。先輩たちが決勝に進出したら、優勝したら、また食べてもらえる！美味しいカップケーキ作れるように練習しよう！ 「莉花―。結菜ちゃん来たよー。」キッチンでカップケーキをオーブンに入れてスイッチを入れたところでお母さんが呼ぶ声がした。今日は結菜と近所の神社に初詣に行く約束をしていた。外へ出ると、お正月の晴れ渡った空気は凜と澄んでいるが冷たい。「もうあと数日だねー、全国大会。」結菜が言った。「うん。」「これが終わったらもう練習もないんだよねー。」「・・・うん。先輩、勝っても負けても引退だもんね。」「うん。そしたら3年生はあっという間に卒業じゃない？」「・・・うん。」「あ、ごめん、正月早々しんみりさせちゃったね。」「ううん。でも今、次の試合すごい楽しみにしてる。今日、先輩が優勝できますようにってお願いする。」「そっか。・・・自分のお願いは良いの？」「自分のお願いって？私のお願いは先輩が優勝することだけど・・・。」私が不思議そうに聞くと結菜はいたずらっぽい顔になる。「先輩と付き合えますようにー、はいいの？」「・・・はっ！？」瞬間的に顔が熱くなった。「だってー、先輩今彼女いなそうだし、アンタのこと好きそうだし、部活終わったらさー。」「そそそそそ、そんな！つつつつ付き合うって！それにせ、先輩が私のこと好きそうとか、どっからそう思うの？」「てか、どっからそう思わないの？逆に。」結菜はちょっと呆れた顔になって言う。「明らかにアンタにだけ態度違うと思うんだけど牧田先輩。わかんない？」「ぜ、全然わかんないよ！」私は熱くなった顔を仰ぎながら言った。お参りを済ませた帰り道。「結菜も、応援がんばってね。」ダンス部は全国大会の応援要員として参加する。「うん。私のこともお願いしてくれた？」私は笑顔で答える。「もちろんだよ！でも、結菜も先輩も私がお願いしなくてもいつも全然大丈夫だしね！今回も絶対大丈夫！」「ありがと、莉花。」「ううん。あ、でも、私今回は初戦は見に行けるけど、その次応援行けるのは準決勝からなんだよね。お休みの日じゃないから。」「あー、そうだよね。」「あー。今だけはダンス部に入っとけば良かったって思う！」「あはは！何それー？でも、料理部の方も部長しっかりやってんじゃん。」「・・・へへ。うん。みんなのお陰だー。りっちゃんとまなちゃんがいつも部長の仕事手伝ってくれるし、部員のみんなは良い子ばっかりだし。最初は部長なんて絶対務まらないって思ったし、前部長みたいにできないって落ち込んだときもあったけど、その度に結菜の格好良く踊る姿とかバレー部のみんなががんばってる姿とか思い出して、がんばろうって思えた。」「・・・莉花。」「バレー部のみんなにはそれぞれ大切な役割があって、点を取るのが得意な人、守るのが得意な人、チームがピンチの時に得点を取る人、ベンチで誰かに何かあったときや違う攻め方守り方の時に必要な人、空気を変えることができる人、ベンチには入れない人も今はそこで仲間をしっかりサポートするのが大切で、そこから学べることがたくさんあるんだなあー、とか。いつも元気な結菜がダンス部を引っ張って、副部長さんが陰で結菜を支えてるのがわかったときとか。そうやって見てる内に、私は前部長のようになんてなれないし、なる必要がないんだってわかった。完璧な部長は格好良かったけど、完璧じゃない私だから誰かのためになることができるって。・・・ううん、きっと、完璧に見える人だって完璧じゃないんだよね。」「莉花・・・。アンタ・・・。」「部長だけじゃなくてさ、1人で過ごしたり結菜の後ろに隠れてばかりだったこととかもちょっとずつ自分からがんばってみようって思えるようになった。自分でも驚いてるよ。ホント、みんなのお陰。」結菜の顔を見ると、ちょっと涙ぐんでる。「莉花・・・。アンタなんて・・・。もう！なんていい女なの。もう地味な眼鏡じゃないね。」「ななな、何言ってんの？いい女って。・・・ふふ。・・・でも、もしちょっとでもそうなれてたとしたらほんと、みんなのお陰なんだ。だから結菜にそう言ってもらえるなら嬉しい！」「・・・莉花！私、初戦突破したら牧田先輩と男バレのこと、力尽きるまで応援するから！莉花の分まで！」結菜は私に抱きついて力強く言う。「うん！ありがと！お願いします！」「ま、とりあえずは初戦だね。」「うん。・・・でも、よかったな。準決勝と決勝は見に行ける日で。私あの日、日程も何も考えず、ただ勢いのみであんなこと言っちゃったからさ。」「あ、そうね。」私は恥ずかしさで手で顔を覆いながら続けた。「あー。今考えるとホントに恥ずかしい！決勝に行くときカップケーキあげますってホントに何様ですかって感じだよね？どんだけ美味いカップケーキですか？国宝級ですか？って感じだよねー？」私はちょっと涙ぐみながら言う。「あはは！ほんと大げさなんだからー。まあいいじゃん。そういう約束が意外と闘志に火をつけたりするんじゃん？知らないけど。」「知らないけどってー。・・・」「あはは！」　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　全国大会初戦。全国大会ともなると、会場の規模も応援の規模も今までと段違いに大きい。――こ、こんなとこで試合なんて、私、ただここにいるだけなのに雰囲気に呑まれそう・・・。みんな、こんなところで試合するんだなあ。先輩、がんばって！結菜、がんばれー！今日は結菜もずっとダンス部の応援席。私は料理部のりっちゃんまなちゃんと応援していた。「わー。私バレー部の応援初めてー！すごい広い会場で試合するんだねー。」りっちゃんが体育館の天井を見上げて言う。「ね。私、こんなとこ、もう倒れそうなぐらい私が緊張してる。」「いやいや、莉花。莉花は見てるだけだから。でも、結菜ちゃんもすごいよねー。ここで応援かー。」まなちゃんは会場をグルリと見回しながら言う。「うん。すごい。テレビカメラとかも入ってるもんね。」「うんうん！私もお正月過ぎになると毎年見てたよー、テレビで。今年は会場に来ちゃったなあ。自分の学校の同級生が出てるなんて、ちょっと感動だね！」りっちゃんはまだ辺りをキョロキョロ見回してる。すると、選手たちが会場に入ってくる。「あ、来た来た！男バレ来たよ！」――先輩！ウォーミングアップしてるー。うう！なんか手が震えてくるなあ。やがて試合時間が近づくと選手たちは整列して挨拶をし、それぞれの配置につく。先輩たちもいつも通りのスターティングメンバーでいつもの場所に立っている。しかし、今日は会場が大きいせいもあり、先輩が遙か遠く、小さい。試合開始のホイッスルが鳴る。相手は全国大会初出場のチームだった。序盤、両校とも立ち上がりは若干動きの固さが見えた。しかし、徐々に身体が温まってきたのか、我が校バレー部が試合をリードし始める。初出場の相手チームは、雰囲気に呑まれているせいか会場に慣れないせいか、ミスが多い。1セット目。我が秋風高校リードのまま25点先取した。「キャー！勝った勝ったー！」「勝ったねー！」りっちゃんがピョンピョン跳びはねて喜んでいる。私は危なげない試合だったにも関わらずずっと胃が痛い。休憩中も応援に熱が入る応援団に目をやる。部長の結菜は最前線で応援している。いつもながら格好いい。「あ！あれ結菜ちゃん？」りっちゃんが身を乗り出して聞く。「うん！結菜もがんばって声出してる！格好いいよね！」「うん！ほんとー。なんか莉花の周りの人みんなすごくないー？」まなちゃんもダンス部の応援を見つめながら言う。「確かにー。全国大会に出てる先輩たちと知り合いで、その応援のチアの部長と親友なんてー。」「そ、そう言われればそうだね！・・・確かに。みんな格好いい・・・。今日はみんなが遠いなあ。」私はいつもよりずっと遠くにいる、私には行けない場所にいる2人に目をやる。「・・・でも、みんなのお陰で、私も2年生は自分なりにいろいろがんばれた。あ、もちろんりっちゃんとまなちゃんもみんなの中に入ってるから！」2人に言うと2人は照れながら答える。「何言ってんのー？莉花はうちらがいなくたってはじめから格好良かったじゃん！」「ええ！？どこが！」驚きすぎて声がひっくり返る。「えー？どこがって全部だよ。1年の頃から料理はうまかったし、先輩たちとまだ雰囲気が打ち解けてないときもすごい真面目に先輩たちの話し聞いててさー。先輩たち、莉花にはいっぱい話しかけてたよ。」「・・・え？そうなの？・・・そうかな？・・・料理は、元からすごい好きで。それに、私友達とか作るのすごい苦手で。だからってわけじゃないけど自分から話しかけられない分、人の話は聞くの好きなんだ。だからすごいってわけじゃ・・・。」「何言ってんの？それをサラッとできるのがすごいんじゃん！それに人が困ってると思ったらスッと助けの手を差し伸べるしさ。励ましてくれるし。」「ええ！？そんなこと全然ないよー！」「えー？自分で自分のいいとこに全然気付いてないんだからねー、莉花は。ほら、1年の初めの頃、私がお皿から水をはじけ飛ばしちゃって水浸しになったじゃん？そん時、いつもは全然話しかけて来ないのに誰よりも早くタオル貸してくれてさー。」「あったよねー。でもまあ、全然気付いてないとこがまた莉花の良いところだよね。」ピーッ2セット目開始のホイッスルが鳴る。みんなは一斉にコートを向く。牧田先輩のサーブからのスタートだ。先輩の表情は今日も厳しくも凜々しい。私はドキドキしながら牧田先輩のサーブを見つめる。――りっちゃんとまなちゃんがそんな風に思っててくれたなんて・・・。嬉しい・・・！先輩のサーブは相手チームの白線ギリギリのインコースに小気味のいい、力強い音を立てて決まった。さっきの凜々しい顔が、いつも私に見せてくれるあの、私には眩しすぎる笑顔に変わった。その後、相手チームは終止本領を発揮できない様子だった。逆に先輩をはじめ我が校男子バレー部の選手たちは、打数を重ねる毎に動きにキレが増していくように思えた。大会初戦、結果は我が校の圧勝だった。コート上で選手たちは肩を抱き合いガッツポーズをして喜んでいた。――よかった・・・！まだ、先輩のバレー姿見れる！とは言え、明日以降の試合は私たちは直接ここへ応援に来ることはできない。私にできることは、先輩が次の休みに行われる準決勝に進んでくれることを祈るだけだった。　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　大会3日目。休み時間に校内放送が入る。「男子バレーボール部が本日も勝ち進み、準決勝への進出が決定いたしました。次の土曜日に・・・。」この校内放送が入ると、教室や廊下の至る所で歓声が上がった。「うわ！すげー！とうとう準決勝進出じゃん！やべーな男バレ！」「すごーい！相羽くんとか沖田くんとか出てるんでしょ？やばいね。優勝しちゃったらどうするー？」アチコチから喜びの声が聞こえる。前の席の相川さんが私に声をかけてきた。「今野さん。結菜ちゃん今、応援行ってるんだよね？すごいねー、男バレ。」「・・・う、うん。」私は放心状態でみんなのように歓声を上げられない。――すごい、すごい、すごい！先輩たちすごい！とうとう準決勝まで行ったんだ！毎年2回戦ぐらいで敗退って言われてたけど、勝ち進んだんだ！結菜も！すごい！目頭が熱くなり、ジワリと目が潤んだ。私は急いで家に帰ると、早速カップケーキを作り始めた。――今週の土曜日！準決勝に勝ったら！渡せるんだ！カップケーキ！！その日の夜、結菜から電話があった。「莉花！勝ったよ！先輩たち！」結菜は開口一番そう告げた。「うん！うん！今日校内放送入ったの！やったね！結菜もお疲れ！すごいよー！みんなすごすぎるー！！」私も興奮して大きな声で答える。「やったね、莉花！先輩にカップケーキ作れるね！」「うん！私今日、急いで帰ってまた練習しちゃった！明日持って行くから食べてね！結菜！」「またぁ！？また太らそうとしてくるー・・・。」「ち、違うってば！結菜への労いだよ！」「今練習したって言ったでしょ！練習台にしてるくせに！」「違うってー！」私たちはその日の夜、お母さんに怒られるまで電話をしていた。翌日、バレー部が登校して来ると、みんなはそれぞれにお祝いの言葉を伝えていた。――今日はバレー部の練習あるのかな？私も！今日は見学できたら私からちゃんとお祝いの言葉伝えるんだ！放課後、いつもより少し気合いを入れて体育館へ行くと、いつもよりたくさんの生徒が練習を見に来ていた。バレー部員たちは部活開始の時間までそれぞれ思い思いに過ごしている。結菜も今日は部活だ。私は1人、先輩を目で探しながらいつものスタンドの隅へ行った。すると、先輩と目が合う。先輩はいつものように私に声をかけてくれる。「今野さん！」私はさっきの決意を思い出す。「先輩！」私がいつものように小さくなっていなかったからなのか、先輩は少し驚いた顔をしている。「あの！お、おめでとうございます！」先輩はいつも周りに人がいて、いつも誰かに注目されている。私は注目などされないから、先輩とここで話している時はいつもドキドキする。たったこれだけ言うだけでも、心臓は早鐘を打ち始める。すると先輩は、やっぱりあの眩しすぎる笑顔で答えてくれる。「おう！次はカップケーキね！」「は・・・はい！」私も笑顔で答えた。すぐに練習が始まり、私はいつものスタンドの隅から、先輩の一挙手一投足を目に焼き付けるように練習を見学した。　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　準決勝前夜。私は今日もキッチンでカップケーキを作っていた。オーブンにカップケーキを並べる。今日はいつもとはちょっと違う。カップケーキにメッセージを添えようとメッセージカードを準備していた。――なんて書こう。小さなメッセージカードに載せる言葉。――「一球入魂！」とか・・・？何か私が書くのは違うよね。普通に「がんばってください」かな？でも言われなくてもがんばるに決まってるしな・・・。あれこれ考えすぎてだんだんなんだかわからなくなってくる。――あー！やっぱりメッセージカードは私にはハードル高かったかなー？やっぱりやめようか・・・。でも、気持ちをちゃんと伝えようって思って決意して準備したんだから、こんなところで諦めたらダメだよね。・・・よし！私は、先輩に伝えたい想いをメッセージカードに込めた。カップケーキと共に明日の試合後、勝った先輩にこれを渡すシミュレーションを何度も脳内再生した。　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　つづく]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-09-29T12:00:03+00:00</published><updated>2020-09-29T12:00:08+00:00</updated><content 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			<p>1月。</p><p><br></p><p>年明け早々、私はまたカップケーキを作っていた。</p><p><br></p><p><br></p><p>――もうすぐ全国大会が始まる。先輩たちが決勝に進出したら、優勝したら、また食べてもらえる！美味しいカップケーキ作れるように練習しよう！ </p><p><br></p><p><br></p><p>「莉花―。結菜ちゃん来たよー。」</p><p><br></p><p>キッチンでカップケーキをオーブンに入れてスイッチを入れたところでお母さんが呼ぶ声がした。</p><p><br></p><p>今日は結菜と近所の神社に初詣に行く約束をしていた。</p><p><br></p><p>外へ出ると、お正月の晴れ渡った空気は凜と澄んでいるが冷たい。</p><p><br></p><p>「もうあと数日だねー、全国大会。」</p><p><br></p><p>結菜が言った。</p><p><br></p><p>「うん。」</p><p><br></p><p>「これが終わったらもう練習もないんだよねー。」</p><p><br></p><p>「・・・うん。先輩、勝っても負けても引退だもんね。」</p><p><br></p><p>「うん。そしたら3年生はあっという間に卒業じゃない？」</p><p><br></p><p>「・・・うん。」</p><p><br></p><p>「あ、ごめん、正月早々しんみりさせちゃったね。」</p><p><br></p><p>「ううん。でも今、次の試合すごい楽しみにしてる。今日、先輩が優勝できますようにってお願いする。」</p><p><br></p><p>「そっか。・・・自分のお願いは良いの？」</p><p><br></p><p>「自分のお願いって？私のお願いは先輩が優勝することだけど・・・。」</p><p><br></p><p>私が不思議そうに聞くと結菜はいたずらっぽい顔になる。</p><p><br></p><p>「先輩と付き合えますようにー、はいいの？」</p><p><br></p><p>「・・・はっ！？」</p><p><br></p><p>瞬間的に顔が熱くなった。</p><p><br></p><p>「だってー、先輩今彼女いなそうだし、アンタのこと好きそうだし、部活終わったらさー。」</p><p><br></p><p>「そそそそそ、そんな！つつつつ付き合うって！それにせ、先輩が私のこと好きそうとか、どっからそう思うの？」</p><p><br></p><p>「てか、どっからそう思わないの？逆に。」</p><p><br></p><p>結菜はちょっと呆れた顔になって言う。</p><p><br></p><p>「明らかにアンタにだけ態度違うと思うんだけど牧田先輩。わかんない？」</p><p><br></p><p>「ぜ、全然わかんないよ！」</p><p><br></p><p>私は熱くなった顔を仰ぎながら言った。</p><p><br></p><p>お参りを済ませた帰り道。</p><p><br></p><p>「結菜も、応援がんばってね。」</p><p><br></p><p>ダンス部は全国大会の応援要員として参加する。</p><p><br></p><p>「うん。私のこともお願いしてくれた？」</p><p><br></p><p>私は笑顔で答える。</p><p><br></p><p>「もちろんだよ！でも、結菜も先輩も私がお願いしなくてもいつも全然大丈夫だしね！今回も絶対大丈夫！」</p><p><br></p><p>「ありがと、莉花。」</p><p><br></p><p>「ううん。あ、でも、私今回は初戦は見に行けるけど、その次応援行けるのは準決勝からなんだよね。お休みの日じゃないから。」</p><p><br></p><p>「あー、そうだよね。」</p><p><br></p><p>「あー。今だけはダンス部に入っとけば良かったって思う！」</p><p><br></p><p>「あはは！何それー？でも、料理部の方も部長しっかりやってんじゃん。」</p><p><br></p><p>「・・・へへ。うん。みんなのお陰だー。りっちゃんとまなちゃんがいつも部長の仕事手伝ってくれるし、部員のみんなは良い子ばっかりだし。最初は部長なんて絶対務まらないって思ったし、前部長みたいにできないって落ち込んだときもあったけど、その度に結菜の格好良く踊る姿とかバレー部のみんなががんばってる姿とか思い出して、がんばろうって思えた。」</p><p><br></p><p>「・・・莉花。」</p><p><br></p><p>「バレー部のみんなにはそれぞれ大切な役割があって、点を取るのが得意な人、守るのが得意な人、チームがピンチの時に得点を取る人、ベンチで誰かに何かあったときや違う攻め方守り方の時に必要な人、空気を変えることができる人、ベンチには入れない人も今はそこで仲間をしっかりサポートするのが大切で、そこから学べることがたくさんあるんだなあー、とか。いつも元気な結菜がダンス部を引っ張って、副部長さんが陰で結菜を支えてるのがわかったときとか。そうやって見てる内に、私は前部長のようになんてなれないし、なる必要がないんだってわかった。完璧な部長は格好良かったけど、完璧じゃない私だから誰かのためになることができるって。・・・ううん、きっと、完璧に見える人だって完璧じゃないんだよね。」</p><p><br></p><p>「莉花・・・。アンタ・・・。」</p><p><br></p><p>「部長だけじゃなくてさ、1人で過ごしたり結菜の後ろに隠れてばかりだったこととかもちょっとずつ自分からがんばってみようって思えるようになった。自分でも驚いてるよ。ホント、みんなのお陰。」</p><p><br></p><p>結菜の顔を見ると、ちょっと涙ぐんでる。</p><p><br></p><p>「莉花・・・。アンタなんて・・・。もう！なんていい女なの。もう地味な眼鏡じゃないね。」</p><p><br></p><p>「ななな、何言ってんの？いい女って。・・・ふふ。・・・でも、もしちょっとでもそうなれてたとしたらほんと、みんなのお陰なんだ。だから結菜にそう言ってもらえるなら嬉しい！」</p><p><br></p><p>「・・・莉花！私、初戦突破したら牧田先輩と男バレのこと、力尽きるまで応援するから！莉花の分まで！」</p><p><br></p><p>結菜は私に抱きついて力強く言う。</p><p><br></p><p>「うん！ありがと！お願いします！」</p><p><br></p><p>「ま、とりあえずは初戦だね。」</p><p><br></p><p>「うん。・・・でも、よかったな。準決勝と決勝は見に行ける日で。私あの日、日程も何も考えず、ただ勢いのみであんなこと言っちゃったからさ。」</p><p><br></p><p>「あ、そうね。」</p><p><br></p><p>私は恥ずかしさで手で顔を覆いながら続けた。</p><p><br></p><p>「あー。今考えるとホントに恥ずかしい！決勝に行くときカップケーキあげますってホントに何様ですかって感じだよね？どんだけ美味いカップケーキですか？国宝級ですか？って感じだよねー？」</p><p><br></p><p>私はちょっと涙ぐみながら言う。</p><p><br></p><p>「あはは！ほんと大げさなんだからー。まあいいじゃん。そういう約束が意外と闘志に火をつけたりするんじゃん？知らないけど。」</p><p><br></p><p>「知らないけどってー。・・・」</p><p><br></p><p>「あはは！」</p><p><br></p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　</p><p><br></p><p><br></p><p>全国大会初戦。</p><p><br></p><p>全国大会ともなると、会場の規模も応援の規模も今までと段違いに大きい。</p><p><br></p><p><br></p><p>――こ、こんなとこで試合なんて、私、ただここにいるだけなのに雰囲気に呑まれそう・・・。みんな、こんなところで試合するんだなあ。先輩、がんばって！結菜、がんばれー！</p><p><br></p><p><br></p><p>今日は結菜もずっとダンス部の応援席。</p><p>私は料理部のりっちゃんまなちゃんと応援していた。</p><p><br></p><p>「わー。私バレー部の応援初めてー！すごい広い会場で試合するんだねー。」</p><p><br></p><p>りっちゃんが体育館の天井を見上げて言う。</p><p><br></p><p>「ね。私、こんなとこ、もう倒れそうなぐらい私が緊張してる。」</p><p><br></p><p>「いやいや、莉花。莉花は見てるだけだから。でも、結菜ちゃんもすごいよねー。ここで応援かー。」</p><p><br></p><p>まなちゃんは会場をグルリと見回しながら言う。</p><p><br></p><p>「うん。すごい。テレビカメラとかも入ってるもんね。」</p><p><br></p><p>「うんうん！私もお正月過ぎになると毎年見てたよー、テレビで。今年は会場に来ちゃったなあ。自分の学校の同級生が出てるなんて、ちょっと感動だね！」</p><p><br></p><p>りっちゃんはまだ辺りをキョロキョロ見回してる。</p><p>すると、選手たちが会場に入ってくる。</p><p><br></p><p>「あ、来た来た！男バレ来たよ！」</p><p><br></p><p><br></p><p>――先輩！ウォーミングアップしてるー。うう！なんか手が震えてくるなあ。</p><p><br></p><p><br></p><p>やがて試合時間が近づくと選手たちは整列して挨拶をし、それぞれの配置につく。</p><p>先輩たちもいつも通りのスターティングメンバーでいつもの場所に立っている。しかし、今日は会場が大きいせいもあり、先輩が遙か遠く、小さい。</p><p><br></p><p>試合開始のホイッスルが鳴る。</p><p><br></p><p>相手は全国大会初出場のチームだった。</p><p><br></p><p>序盤、両校とも立ち上がりは若干動きの固さが見えた。</p><p>しかし、徐々に身体が温まってきたのか、我が校バレー部が試合をリードし始める。</p><p>初出場の相手チームは、雰囲気に呑まれているせいか会場に慣れないせいか、ミスが多い。</p><p><br></p><p>1セット目。</p><p>我が秋風高校リードのまま25点先取した。</p><p><br></p><p>「キャー！勝った勝ったー！」</p><p><br></p><p>「勝ったねー！」</p><p><br></p><p>りっちゃんがピョンピョン跳びはねて喜んでいる。</p><p><br></p><p>私は危なげない試合だったにも関わらずずっと胃が痛い。</p><p><br></p><p>休憩中も応援に熱が入る応援団に目をやる。</p><p>部長の結菜は最前線で応援している。</p><p>いつもながら格好いい。</p><p><br></p><p>「あ！あれ結菜ちゃん？」</p><p><br></p><p>りっちゃんが身を乗り出して聞く。</p><p><br></p><p>「うん！結菜もがんばって声出してる！格好いいよね！」</p><p><br></p><p>「うん！ほんとー。なんか莉花の周りの人みんなすごくないー？」</p><p><br></p><p>まなちゃんもダンス部の応援を見つめながら言う。</p><p><br></p><p>「確かにー。全国大会に出てる先輩たちと知り合いで、その応援のチアの部長と親友なんてー。」</p><p><br></p><p>「そ、そう言われればそうだね！・・・確かに。みんな格好いい・・・。今日はみんなが遠いなあ。」</p><p><br></p><p>私はいつもよりずっと遠くにいる、私には行けない場所にいる2人に目をやる。</p><p><br></p><p>「・・・でも、みんなのお陰で、私も2年生は自分なりにいろいろがんばれた。あ、もちろんりっちゃんとまなちゃんもみんなの中に入ってるから！」</p><p><br></p><p>2人に言うと2人は照れながら答える。</p><p><br></p><p>「何言ってんのー？莉花はうちらがいなくたってはじめから格好良かったじゃん！」</p><p><br></p><p>「ええ！？どこが！」</p><p><br></p><p>驚きすぎて声がひっくり返る。</p><p><br></p><p>「えー？どこがって全部だよ。1年の頃から料理はうまかったし、先輩たちとまだ雰囲気が打ち解けてないときもすごい真面目に先輩たちの話し聞いててさー。先輩たち、莉花にはいっぱい話しかけてたよ。」</p><p><br></p><p>「・・・え？そうなの？・・・そうかな？・・・料理は、元からすごい好きで。それに、私友達とか作るのすごい苦手で。だからってわけじゃないけど自分から話しかけられない分、人の話は聞くの好きなんだ。だからすごいってわけじゃ・・・。」</p><p><br></p><p>「何言ってんの？それをサラッとできるのがすごいんじゃん！それに人が困ってると思ったらスッと助けの手を差し伸べるしさ。励ましてくれるし。」</p><p><br></p><p>「ええ！？そんなこと全然ないよー！」</p><p><br></p><p>「えー？自分で自分のいいとこに全然気付いてないんだからねー、莉花は。ほら、1年の初めの頃、私がお皿から水をはじけ飛ばしちゃって水浸しになったじゃん？そん時、いつもは全然話しかけて来ないのに誰よりも早くタオル貸してくれてさー。」</p><p><br></p><p>「あったよねー。でもまあ、全然気付いてないとこがまた莉花の良いところだよね。」</p><p><br></p><p>ピーッ</p><p><br></p><p>2セット目開始のホイッスルが鳴る。</p><p>みんなは一斉にコートを向く。</p><p><br></p><p>牧田先輩のサーブからのスタートだ。</p><p>先輩の表情は今日も厳しくも凜々しい。</p><p>私はドキドキしながら牧田先輩のサーブを見つめる。</p><p><br></p><p><br></p><p>――りっちゃんとまなちゃんがそんな風に思っててくれたなんて・・・。嬉しい・・・！</p><p><br></p><p><br></p><p>先輩のサーブは相手チームの白線ギリギリのインコースに小気味のいい、力強い音を立てて決まった。</p><p>さっきの凜々しい顔が、いつも私に見せてくれるあの、私には眩しすぎる笑顔に変わった。</p><p>その後、相手チームは終止本領を発揮できない様子だった。逆に先輩をはじめ我が校男子バレー部の選手たちは、打数を重ねる毎に動きにキレが増していくように思えた。</p><p><br></p><p>大会初戦、結果は我が校の圧勝だった。</p><p><br></p><p>コート上で選手たちは肩を抱き合いガッツポーズをして喜んでいた。</p><p><br></p><p><br></p><p>――よかった・・・！まだ、先輩のバレー姿見れる！</p><p><br></p><p><br></p><p>とは言え、明日以降の試合は私たちは直接ここへ応援に来ることはできない。私にできることは、先輩が次の休みに行われる準決勝に進んでくれることを祈るだけだった。</p><p><br></p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　</p><p><br></p><p><br></p><p>大会3日目。</p><p><br></p><p>休み時間に校内放送が入る。</p><p><br></p><p>「男子バレーボール部が本日も勝ち進み、準決勝への進出が決定いたしました。次の土曜日に・・・。」</p><p><br></p><p>この校内放送が入ると、教室や廊下の至る所で歓声が上がった。</p><p><br></p><p>「うわ！すげー！とうとう準決勝進出じゃん！やべーな男バレ！」</p><p><br></p><p>「すごーい！相羽くんとか沖田くんとか出てるんでしょ？やばいね。優勝しちゃったらどうするー？」</p><p><br></p><p>アチコチから喜びの声が聞こえる。</p><p><br></p><p>前の席の相川さんが私に声をかけてきた。</p><p><br></p><p>「今野さん。結菜ちゃん今、応援行ってるんだよね？すごいねー、男バレ。」</p><p><br></p><p>「・・・う、うん。」</p><p><br></p><p>私は放心状態でみんなのように歓声を上げられない。</p><p><br></p><p><br></p><p>――すごい、すごい、すごい！先輩たちすごい！とうとう準決勝まで行ったんだ！毎年2回戦ぐらいで敗退って言われてたけど、勝ち進んだんだ！結菜も！すごい！</p><p><br></p><p><br></p><p>目頭が熱くなり、ジワリと目が潤んだ。</p><p><br></p><p>私は急いで家に帰ると、早速カップケーキを作り始めた。</p><p><br></p><p><br></p><p>――今週の土曜日！準決勝に勝ったら！渡せるんだ！カップケーキ！！</p><p><br></p><p><br></p><p>その日の夜、結菜から電話があった。</p><p><br></p><p>「莉花！勝ったよ！先輩たち！」</p><p><br></p><p>結菜は開口一番そう告げた。</p><p><br></p><p>「うん！うん！今日校内放送入ったの！やったね！結菜もお疲れ！すごいよー！みんなすごすぎるー！！」</p><p><br></p><p>私も興奮して大きな声で答える。</p><p><br></p><p>「やったね、莉花！先輩にカップケーキ作れるね！」</p><p><br></p><p>「うん！私今日、急いで帰ってまた練習しちゃった！明日持って行くから食べてね！結菜！」</p><p><br></p><p>「またぁ！？また太らそうとしてくるー・・・。」</p><p><br></p><p>「ち、違うってば！結菜への労いだよ！」</p><p><br></p><p>「今練習したって言ったでしょ！練習台にしてるくせに！」</p><p><br></p><p>「違うってー！」</p><p><br></p><p>私たちはその日の夜、お母さんに怒られるまで電話をしていた。</p><p><br></p><p><br></p><p>翌日、バレー部が登校して来ると、みんなはそれぞれにお祝いの言葉を伝えていた。</p><p><br></p><p><br></p><p>――今日はバレー部の練習あるのかな？私も！今日は見学できたら私からちゃんとお祝いの言葉伝えるんだ！</p><p><br></p><p><br></p><p>放課後、いつもより少し気合いを入れて体育館へ行くと、いつもよりたくさんの生徒が練習を見に来ていた。バレー部員たちは部活開始の時間までそれぞれ思い思いに過ごしている。</p><p><br></p><p>結菜も今日は部活だ。</p><p>私は1人、先輩を目で探しながらいつものスタンドの隅へ行った。</p><p>すると、先輩と目が合う。</p><p>先輩はいつものように私に声をかけてくれる。</p><p><br></p><p>「今野さん！」</p><p><br></p><p>私はさっきの決意を思い出す。</p><p><br></p><p>「先輩！」</p><p><br></p><p>私がいつものように小さくなっていなかったからなのか、先輩は少し驚いた顔をしている。</p><p>「あの！お、おめでとうございます！」</p><p><br></p><p>先輩はいつも周りに人がいて、いつも誰かに注目されている。</p><p>私は注目などされないから、先輩とここで話している時はいつもドキドキする。</p><p>たったこれだけ言うだけでも、心臓は早鐘を打ち始める。</p><p>すると先輩は、やっぱりあの眩しすぎる笑顔で答えてくれる。</p><p><br></p><p>「おう！次はカップケーキね！」</p><p><br></p><p>「は・・・はい！」</p><p><br></p><p>私も笑顔で答えた。</p><p><br></p><p>すぐに練習が始まり、私はいつものスタンドの隅から、先輩の一挙手一投足を目に焼き付けるように練習を見学した。</p><p><br></p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　</p><p><br></p><p><br></p><p>準決勝前夜。</p><p><br></p><p>私は今日もキッチンでカップケーキを作っていた。</p><p>オーブンにカップケーキを並べる。</p><p>今日はいつもとはちょっと違う。</p><p>カップケーキにメッセージを添えようとメッセージカードを準備していた。</p><p><br></p><p><br></p><p>――なんて書こう。</p><p><br></p><p><br></p><p>小さなメッセージカードに載せる言葉。</p><p><br></p><p><br></p><p>――「一球入魂！」とか・・・？何か私が書くのは違うよね。普通に「がんばってください」かな？でも言われなくてもがんばるに決まってるしな・・・。</p><p><br></p><p><br></p><p>あれこれ考えすぎてだんだんなんだかわからなくなってくる。</p><p><br></p><p><br></p><p>――あー！やっぱりメッセージカードは私にはハードル高かったかなー？やっぱりやめようか・・・。でも、気持ちをちゃんと伝えようって思って決意して準備したんだから、こんなところで諦めたらダメだよね。・・・よし！</p><p><br></p><p><br></p><p>私は、先輩に伝えたい想いをメッセージカードに込めた。</p><p><br></p><p>カップケーキと共に明日の試合後、勝った先輩にこれを渡すシミュレーションを何度も脳内再生した。</p><p><br></p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　</p><p><br></p><p><br></p><p>つづく</p>
		</div>
	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[少年彩里水の不思議冒険譚　-不思議の国の入り口66-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10496710/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10496710</id><summary><![CDATA[66　思いの強さ？2人がジャレているところに、キャンドーは再び説明を続ける。「つまり2人のその思いの強さ、まず彩里水くんは当然のように我々が地中を潜り無事に塀の向こう側へ渡ることをイメージしていた。この“当然のように”というのは実は強く願うということよりかなり強力な実現力があります。そして、白兎くんはより強力に私たちに再会することを、追い詰められたことに寄よって逆に強くイメージしたのではないでしょうか？それによって、その白兎くんの思いと彩里水くんの思いが重なって、このような形となって現れたのだと思います。」「ふーん。」「先程私が説明した“根底に強力に信じてしまっていること”にも繋がるんですが、思いが強いことが実際に起こる、とか複数人の思いが絡み合えばその中で化学反応が起こり2人とも予想していない形だが2人の思いが叶う出来事が起こる、という仕組みです。」「へえー、なんかおもしれえ。訓練したらマジで思い通りになるってことじゃん！」白兎が言う横で彩里水は欠伸をしている。「まあ、説明するとちょっと難しいですかねえ？」キャンドーが苦笑いしながら彩里水を見ると、彩里水は言った。「でも、信じたことが叶うってなら別にオレたちのいる世界だってそうじゃない？」「えー？そうかあ？でもオレ、テストで100点取りたいって思っても、バレーボールのクラブチームで試合に勝ちたいって思っても、いつも思う結果になるわけじゃねえしー。」「でも、キャンドーさんは思いの強さが関係あるって言ってたじゃん。だから100点本気で取りたければ取れるように勉強するし、試合に勝ちたいってのだってやっぱ勝てるように練習したり研究したりするし、バレーなら1人じゃないから勝つためにみんなを盛り上げたりとかさ。そういうのするのかどうかが思いの強さってことなんじゃない？」「えー？まあそうかもだけど・・・。学校のテストなら確かにその範囲をいっぱい勉強すればいいのかもって気がするけどさ、バレーボールの試合だったりすると、オレら小学生が中学生のメチャクチャうまい人たちに勝てるかって言ったらそりゃ無理じゃね？」「うーん。でもま、その時点で白兎はもう無理って思ってるから、それが叶ってると言えばそうなんじゃない？」「・・・ぐ。確かにまあ・・・。」「まあ、でもオレだったら勝ちたいから勝つためにいっぱい練習するな！んで、やっぱり同じく勝ちたいと思ってるやつ見つけるとか。そりゃ今日思って明日すぐ叶うわけじゃないこともいっぱいあるかもしんないけど、でも、やってみるよ！」「・・・。ま、確かに彩里水ならそうしそうだな。でも、例えばこのチームで絶対勝ちたいと思ってたら？一緒に今まで練習してきた仲間だしさ。それに、自分以外は超つええやつでいいならそりゃ、そういうやつ集めればいいってことだし何かずるくない？」「え？別にずるくないでしょ？だって、強いやつ集めるのだってそう簡単なことじゃない気もするし、本気で勝ちたいってつまりそういうことじゃない？例えば白兎の望みがこのチームで絶対に勝ちたい、なのかとにかくあの中学生チームにバレーボールで勝ちたい、なのか、そういうことによっても変わるよね。そこもハッキリさせないといけないのかもね。」「・・・。確かになー。自分がとにかく勝ちたいのか、それともこのチーム勝ちたいのか、それによってもやることは変わってくるな。・・・なるほど、おまえ意外と頭いいんだな。」褒めてるようでけなしながら白兎が言うと、彩里水は素直に照れる。「なんだよ、急に褒めて。照れるだろ。」「いや、まあ褒めてるって言うかさ・・・。いいんだけど。」つづく]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-09-29T10:00:32+00:00</published><updated>2020-09-29T10:00:52+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
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			<img src="https://www.instagram.com/p/CD6N5l1HUWk/media?size=l&width=960" width="100%">
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			<h4>66　思いの強さ？</h4><p><br></p><p><br></p><p>2人がジャレているところに、キャンドーは再び説明を続ける。</p><p><br></p><p>「つまり2人のその思いの強さ、まず彩里水くんは当然のように我々が地中を潜り無事に塀の向こう側へ渡ることをイメージしていた。この“当然のように”というのは実は強く願うということよりかなり強力な実現力があります。そして、白兎くんはより強力に私たちに再会することを、追い詰められたことに寄よって逆に強くイメージしたのではないでしょうか？それによって、その白兎くんの思いと彩里水くんの思いが重なって、このような形となって現れたのだと思います。」</p><p><br></p><p>「ふーん。」</p><p><br></p><p>「先程私が説明した“根底に強力に信じてしまっていること”にも繋がるんですが、思いが強いことが実際に起こる、とか複数人の思いが絡み合えばその中で化学反応が起こり2人とも予想していない形だが2人の思いが叶う出来事が起こる、という仕組みです。」</p><p><br></p><p>「へえー、なんかおもしれえ。訓練したらマジで思い通りになるってことじゃん！」</p><p><br></p><p>白兎が言う横で彩里水は欠伸をしている。</p><p><br></p><p>「まあ、説明するとちょっと難しいですかねえ？」</p><p><br></p><p>キャンドーが苦笑いしながら彩里水を見ると、彩里水は言った。</p><p><br></p><p>「でも、信じたことが叶うってなら別にオレたちのいる世界だってそうじゃない？」</p><p><br></p><p>「えー？そうかあ？でもオレ、テストで100点取りたいって思っても、バレーボールのクラブチームで試合に勝ちたいって思っても、いつも思う結果になるわけじゃねえしー。」</p><p><br></p><p>「でも、キャンドーさんは思いの強さが関係あるって言ってたじゃん。だから100点本気で取りたければ取れるように勉強するし、試合に勝ちたいってのだってやっぱ勝てるように練習したり研究したりするし、バレーなら1人じゃないから勝つためにみんなを盛り上げたりとかさ。そういうのするのかどうかが思いの強さってことなんじゃない？」</p><p><br></p><p>「えー？まあそうかもだけど・・・。学校のテストなら確かにその範囲をいっぱい勉強すればいいのかもって気がするけどさ、バレーボールの試合だったりすると、オレら小学生が中学生のメチャクチャうまい人たちに勝てるかって言ったらそりゃ無理じゃね？」</p><p><br></p><p>「うーん。でもま、その時点で白兎はもう無理って思ってるから、それが叶ってると言えばそうなんじゃない？」</p><p><br></p><p>「・・・ぐ。確かにまあ・・・。」</p><p><br></p><p>「まあ、でもオレだったら勝ちたいから勝つためにいっぱい練習するな！んで、やっぱり同じく勝ちたいと思ってるやつ見つけるとか。そりゃ今日思って明日すぐ叶うわけじゃないこともいっぱいあるかもしんないけど、でも、やってみるよ！」</p><p><br></p><p>「・・・。ま、確かに彩里水ならそうしそうだな。でも、例えばこのチームで絶対勝ちたいと思ってたら？一緒に今まで練習してきた仲間だしさ。それに、自分以外は超つええやつでいいならそりゃ、そういうやつ集めればいいってことだし何かずるくない？」</p><p><br></p><p>「え？別にずるくないでしょ？だって、強いやつ集めるのだってそう簡単なことじゃない気もするし、本気で勝ちたいってつまりそういうことじゃない？例えば白兎の望みがこのチームで絶対に勝ちたい、なのかとにかくあの中学生チームにバレーボールで勝ちたい、なのか、そういうことによっても変わるよね。そこもハッキリさせないといけないのかもね。」</p><p><br></p><p>「・・・。確かになー。自分がとにかく勝ちたいのか、それともこのチーム勝ちたいのか、それによってもやることは変わってくるな。・・・なるほど、おまえ意外と頭いいんだな。」</p><p><br></p><p>褒めてるようでけなしながら白兎が言うと、彩里水は素直に照れる。</p><p><br></p><p>「なんだよ、急に褒めて。照れるだろ。」</p><p><br></p><p>「いや、まあ褒めてるって言うかさ・・・。いいんだけど。」</p><p><br></p><p><br></p><p>つづく</p>
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	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[この驟雨に打たれて-3-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10463921/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10463921</id><summary><![CDATA[試合後。結局、今日の試合を我が秋風高校バレー部は勝ち進み、明日の試合へ進むことができた。「どどどどどど、どうしよう？明日も試合あるのにこれ今日渡して良いのかな？カップケーキなんて食べてる場合じゃないのでは？ももももっとなんかこう、血となり肉となるようなものを食べなければいけないのでは？っていうかこれでお腹壊したりしたらどうすんの？まあ絶対今日食べなきゃいけないわけじゃないけど、やっぱり今日渡すべきじゃないんじゃあぁぁぁ・・・・。」「莉花！もう！ここまで来て！アンタ涙流して試合見てたくせにまた怖じ気づいてんの！？渡すんじゃないの！？」結菜に引っ張られ体育館の出入り口で牧田先輩を待っていた。「ででででも！試合が一段落したときとかが良いような気がして。」「ばか！もし負けたらもう2度とないんだよ！？それに、負けた日にあげるなんてもっとできないでしょ！？」「あ・・・。」結菜に言われ、私はまた自分の意気地のなさに嫌気が差す。――そうだ。先輩たちは負けたらもうできない試合をしてるんだ。さっきそれに勇気づけられたばかりなのにまた・・・。「・・・うん。今日渡す。来たら絶対。」「・・・よし！」結菜に背中を押してもらった私は、意を決して先輩たちを待つ。しばらくすると我が校男子バレー部がぞろぞろと試合会場の体育館から出てきた。「あ！来たよ！莉花！」「ううううううううん。」緊張で声が震えすぎている。「ち、ちょっとアンタ。大丈夫。」「だだだだだ大丈夫。だいじょぶだあ。」「何！？緊張しすぎて志村けんみたいになってるけど！」「いいいいいいいいいていい行ってくる！」そう言って私は牧田先輩のところまで駆け寄った。「まま、牧田先輩！」私が叫ぶと、我が校男子バレー部の皆さんがギラリとこちらを見る。背の高い男子バレー部に圧倒されそうになる。「あ！今野さんだ！」そう私に声をかけて来たのは、3年の若林先輩だった。「あ！わ、若林先輩。・・・・お、お疲れ様です。あ、今日！おめでとうございます！」――な、なんで私の名前知ってんの？・・・てか。怖い。バレー部男子は全員背が高すぎる！私はオドオドしながら挨拶する。「お、ありがとー。」「おい、若林。聞いてた？牧田先輩って言ったの。今野さんは。」大きなバレー部の集団からひょっこりと顔を出して来たのは牧田先輩だった。「いーじゃん、別にー。ね。今野さん。」「あ、っは、はい！」「俺の名前知ってたしねー。・・・もしかして、実は牧田じゃなくて俺を見に来てる説。」「え！？ええええ・・・」――ど、どうしよう！？若林先輩を見に来てるわけじゃないから違いますって答えれば良いの？でもそしたら牧田先輩を見に来てるってバレちゃうわけで。実際、牧田先輩を見に来てますけど。でも、牧田先輩だけを見てるわけではなく、バレー部全体を応援してるというか・・・って、今言う時！？えっとー・・・。なんと答えようかと戸惑っていると、牧田先輩が言った。「おい。今野さんはオレに言われて応援に来てくれてるんだから、おまえを見に来てるわけないだろ。・・・ねえ？」「え！？あ、っはい！」直立不動のまま慌てて私が答えると若林先輩は不満げに言った。「なんだよー。」「いーから先行けよ、すぐ行くからー。」牧田先輩にそう言われた若林先輩は渋々山下先輩に連れられて、とっくに先を行っていたバレー部の集団に戻っていった。「あああああああの！ま、牧田先輩！すすすいません！呼び止めて！お疲れ様です！」「うん。応援ありがとう。」「いいえ！そんな！勝手に来てるだけですからっ。き、今日、すすすすごく！格好良かったです！」「・・・え？あ、あー・・・ありがと。」先輩ははにかんだ笑顔を見せる。――うわー！か、格好いい！かわいい！・・・。じゃなくて！「ああああの！それでこれ！」そう言って、私は作ってきた6回目のカップケーキを差し出す。6回も同じものを作ったので、味も見た目も自分でも満足するほどかなり上出来だった。「あ・・・。マジ？」そう言って先輩は私の手からカップケーキを受け取ると続けた。「マジで作ってくれたんだー！ありがとう！・・・めっちゃ嬉しい！すげー美味そう！」「ああああの！いいえ！あの！き、今日食べなくても大丈夫ですから！何日か持ちますから！今日はバンセンを・・・万全を期して、血となり肉となるものを食べて明日に備えてください！あ、ていうか、勝手に作ってきたし、食べなくても全然！ほんと全然っ！」「ぶは！はははは・・・！相変わらず面白いねー、今野さん。・・・バンセンって・・・。ち、血となり肉となるものって・・・。」牧田先輩はお腹を抱えて笑いながら言った。「・・・いやー、ごめんごめん。笑ったわー。ほんと、いつもありがと。・・・じゃあさ、このカップケーキ、明日、勝って食べる。明日決勝だから。明日勝ったら全国だから。お守り代わりに明日まで取っとくね。」「え？」――お、お守りに？・・・う、嬉しい！「あ・・・は、はい！」「明日も応援来てくれる？」「い、行きます！もちろん！」私が言うと先輩はあのいつもの眩しい笑顔になった。「わかった！明日楽しみにしてて！絶対勝つから！応援よろしくね！」「はい！」「じゃあ、みんな待たせてるから行くね。ホントありがと！」「はい！すいません！お引き留めして。」手を振りながら駆けていった先輩に私はひたすらペコペコとお辞儀をし続けた。――・・・。「先輩！応援してます！」気付いたら、私は駆けていく先輩の後ろ姿に向かって叫んでいた。先輩は振り向きながら「ありがとー！」と手を振ってくれた。　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　「莉花―！がんばった！えらい！」先輩が去ると結菜が駆け寄って私をギュッと抱き締めながら言った。私も力が抜けて手が震えながら結菜にしがみつくように抱き締め返した。「はー。やばかった。気絶するかと思った。」「うんうん。えらいえらい。メチャクチャがんばったよー。」「結菜あ。」私は涙声になりながら言った。「明日勝つって、先輩言ってくれた。」「マジか。すごい。」結菜も感心した表情を見せる。「・・・勝ったら全国だね。」「・・・うん。そしたらまた応援できる。まだ先輩のこと見れる。」私は祈るように言った。「うん。」「結菜、ありがと。結菜がいなければ、そもそも何も始まってなかった。」「なーに今更言ってんのー！」「ちょっ。ぐ、ぐふ！い、痛い・・・。」結菜が照れながら私の背中をバシバシと叩いて言う。「だって、今日だって結菜がいなかったら絶対渡せなかったから。ほんとに、渡せて嬉しい。」「・・・よかったね、莉花。」「うん。」　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　翌日の決勝。我が校バレー部は序盤からリードを保ち危なげなく全国大会進出を決めた。試合終了後の帰り道、応援の人たちに紛れ私も会場をあとにしていた。結菜がトイレに行っている間、出口へ流れていく人の波をボーッと見ていた。「さすが全国常連校！決勝でこんだけ危なげない試合もすごいよなー。」我が校の応援をしていたらしき人の会話が聞こえ、私は思わず耳を傾ける。「な。どっちかというと昨日の方がヒヤッとする場面があったよなー。」「確かにな。でも、さすが牧田だよな。流れ取り返してたもんなー。」知らない人まで先輩のことを褒めている。改めてとてもすごい人だと感じつつ、と同時に私も誇らしくなる。「莉―花っ！」後ろから呼ばれ振り向く。結菜だ。「今日はもう帰るの？」「え？」「先輩に会ってかなくていいの？」「え、・・・う、うん。会いたいけど、・・・今日はいい。疲れてるだろうし、毎日はさ。それに、今日勝ったらカップケーキ食べてくれるって言ってたし。それだけで嬉しい。」「・・・そか。」「うん。それに・・・また見れる。」私はまだ先輩の姿を見ることができることを、噛みしめながら言った。「うん。だね。」「今度は全国かあー。練習も見に行ける！楽しみ！」「ほんと、好きだよねー。」結菜がからかう様に私に言う。「ゆ、結菜のことも好きだよ？」「いーから。そーゆーのいいから。」私たちはいつものように笑いながら帰路についた。　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　体育館。いつもの隅の席でいつものように練習を見学する。全国行きが決まってから、さらに気合いが入った様子のバレー部員たちはさらにレベルの高い練習を繰り返していた。今日も以前と同じように牧田先輩は練習前に私に声をかけてくれた。最近では、部活がない日に付き合ってくれる結菜と若林先輩、山下先輩も加わってほんの少し話をする。と言っても私はほとんど相槌をするぐらいで話すのは結菜だ。1人だとパニクってしまうので、結菜がいてくれる日はいつも心強い。いつも、部活終了後も先輩たちスタメンを中心に自主練をしている部員も少なくない。私はさすがに帰りが遅くなってしまうとお母さんに叱られるので、部活の時間が終わったら大体帰ることにしている。今日は結菜はダンス部があるので1人だ。1人体育館を後にすると、いつもは自主練をしているはずの先輩が自転車に跨がり前方にいた。「牧田先輩・・・。」思わず名前を呼んでいた。呼ばれて先輩は自転車を止めて振り返る。「あ！今野さん！今日も見に来てくれてありがとう。」いつもの眩しい笑顔でこちらに向かってくる。「あ、お疲れ様です！・・・えっと、先輩、今日は自主練しないんですか？」オズオズと聞く。「うん。ちょっと練習中に足首痛めて。」「え！？」「あ、いやいや。全然たいしたことないし平気って言ったんだけど、最近オーバーワーク気味だったし帰れって山ちゃんに言われちゃってさー。・・・今野さんももう帰るとこだよね？」「あ、そうです。」「おー、駅まで？」「はい。」「ふーん。・・・じゃあもう暗いし、駅まで送るよ。」先輩は自転車から降りて、自転車を引いて歩き出す。「・・・え！？」――え！？ままままま牧田先輩が駅まで送ってくれる！？何ですか！？この神展開は。ありえるんですか！？こんなことが！どどどどどうしよう！？ででで、でも、今日はゆっくりするために早く帰った方がいいのでは！？だ、だめだ。考えてたら興奮して鼻血が出そう！また1人脳内で慌てていると、練習を見に来ていたらしい生徒の話し声が少し遠くから聞こえた。「バレー部全国大会とかすごいよねー、今日も部活終わっても自主練してさー。」「ね。めっちゃ練習してるよねー。・・・でもさ、全国常連って確かにすごいけど、全国行くといっつも1，2回戦で敗退しちゃうんだってー。昔は優勝したこともあるからレベル落ちたとか言われてるんでしょ？」聞こえてきた会話に、私は思わず牧田先輩を見る。薄暗くて表情はよくわからないけど、いつもの眩しい笑顔ではないことは確かだ。「あの・・・先輩・・・。」「うん。知ってる。そう言われてるの。昔もっと強かった分、やっぱりそういう声も常にあるみたい。出るのは当たり前。これだけの設備投資なんだから最低でもベスト4ぐらいには入らないとって。」「・・・え。そうなんですか。」――全然知らなかった。全国なんて出るだけでも私には神の領域ぐらいの話なのに、先輩ぐらいになると出るのは当たり前なのか。そんな世界があるのか。先輩は歩きながら続ける。「でも、今年オレらの代はホントに強くてさ。昔もっと強かった頃ぐらいのレベルなんじゃないかってオレは思ってる。・・・普段山ちゃんも若林もふざけてばっかに見えるでしょ？でもアイツらマジすごくてさ。それに1、2年の後輩たちもすごい。スタメンの後輩にはプロ間違いなしって言われてるやつもいるんだ。」「あ、2年の相羽くんですよね？」「あ、うん。」「相羽くんのアタックすごいです！それから2年の大友くんもブロックがすごくて。」「・・・2年の2人とは仲いいの？」「あ、一切話したこともないです。・・・ただ、私ずっと見てるので、もうバレー部の方全員の名前覚えてます。」なんとなく気恥ずかしくて、頬を掻きながら答えた。「え！？全員！？スタメンじゃない奴らも！？」「え、えーっと。・・・はい。いえ、決してストーカーとかなアレではなく、ただ見てる内に自然と覚えてしまったというか、スタメンじゃなくても練習は皆さんしているわけで、み皆さん声を掛け合いながら練習していますし自然と的なことであって・・・。あ、あのまだスタメンではないけど1年の大場くんとかものすごいバネ？って言うんですかね。ジャンプ力も反射神経もあったりとか、あと、2年の小泉くんはしっかり者で3年生がいないときによくみんなをまとめてるんだなー、とか、そういうの見てたら自然と名前とか覚えてしまったと言いますか・・・。」「・・・。」――ぐはぁ！しまった！全員の名前知ってるとかちょっと怖かったりするんだろうか？ていうか言い訳がましくいろいろ言ったことで逆に怪しい人な雰囲気になってしまっているのでは！？・・・墓穴！！「・・・ありがとう。すごい見て応援してくれてるんだな。そう、大場はオレらが引退したら間違いなく主力になるだろうし、小泉は次期部長だと思う。それに、2年連中は鈴木や小林もメチャクチャ頼りになって・・・。」「あ！鈴木くん！いつも自主練はあまり見れないんですが、それでも見る時はとてもサーブの練習してます！こないだの練習試合はピンチサーバーですごかったです！」「・・・はは！ほんとによく見てるね。まあ、オレだけじゃなかったってのはちょっとアレだけど。」「え？」私は先輩が最後の方に呟くように言った言葉が聞き取れず聞き返した。「いや、うん。・・・だから今年は冗談じゃなく全国優勝も夢じゃないと思ってる。」そう言った先輩はいつもの眩しい笑顔に戻っていた。「・・・はい！」「・・・。」「・・・あ、あの！わ、私・・・。私にとっては全国なんて出るだけで神の領域って言うか、それすらもおこがましく、もうもはやバレーボールでとトスが相手の手元にちゃんと上がるだけでもすごいっていうかそんなレベルで。わ、私なんかと・・・。じゃなくて私と比べても仕方ないんですが、それでもほんとに牧田先輩も他の部員の方たちもとにかく神レベルにすごいんです！ほぼ毎日のように練習見てて、あれだけ動いているのに次の日も普通に学校に来れてるってところがもう神っていうか！と、とにかくす、すごくて・・・。」「・・・。」「あ、あの、すいません。私、何言ってるかわかんないですよね。」「ぶは！ぶははははは！・・・また！今野さん節出たね！いつものやつ！それマジおもしれー！」先輩は私の何がそんなに面白いのかまた爆笑している。――でも、さっきみたいな顔になるよりずっといい。「あー。ごめん。今日も安定の面白さだわー。いやー、笑った。・・・うん。ありがとう。今野さんはいつも練習も試合も見に来てくれて、そうやって応援してくれてる人がいるってのはオレたちマジで心強いよ。」「え？あ、あの、・・・少しでもお力になれているのだとしたら嬉しいです。」「うん。めっちゃなってる。・・・そうだ！カップケーキ！あれ全国決まった日に食べたよ。マジで美味かったー。」「え？よ、よかったです。」「そうだ。オレもらっといてお礼も言ってなかったよね。ありがとね。」「い、いえ、そんな。勝手に作って持って行ったので。も、もし万に一つでも食べてもらえて喜んでもらえたとするならば・・・う、嬉しいです。」「ま、万に一つ・・・。ぶ！はは！んんッ。うんッ！」先輩はまた笑いそうになって咳払いをする。と、突然立ち止まり私の方を向く。「あのさ、今野さん。」「・・・はい！」突然こちらを向かれて驚いた私はまた直立不動の姿勢になる。先輩は真っ直ぐ私を見ている。「・・・オレら、全国優勝するよ！」「は・・・はい！」「・・・だから・・・見てて！」真っ直ぐ私を見てそう宣言する先輩に私は涙が溢れそうになるのをグッと堪えた。「・・・はい！もちろんです！」私が返事をすると、牧田先輩は再び歩き出す。「・・・あーやべー。宣言しちゃったなー。アイツらにもまた明日からハッパかけなきゃなー。」「す、すごいです！そんなすごいことを宣言できるなんて、やっぱり神です！」「はは！神って！もう止めて。マジで今野さんツボなんだよなー。てかさ、またカップケーキ作ってきてよ。」「もももも、もちろんです！いつでも作ります！ッカ、カップケーキにはちょっとだけ自信があります！」「おおー。いやでも、あれマジで美味かったなー。」「・・・あの、あの！」今度は私が立ち止まる。それに気付いて先輩も立ち止まる。「・・・カップケーキ、また決勝の前の日に作っていきます。前回、お守りって言ってくれて嬉しかったので！け、決勝まで行くって！というか優勝するって信じてます！」私が先輩を見ると、先輩はまた真っ直ぐに私を見ている。「・・・あの、だからその、カップケーキを作ってやるから的なそういうおこがましいようなことがいいたいわけではなくてですね、えっとー・・・。」私がしどろもどろしているとまた先輩は笑い出す。笑いが収まった先輩が言う。「・・・うん、ありがと。」先輩は優しく言うと再び歩き出した。「・・・しかし、今野さんのカップケーキ食べるのメチャクチャハードル高いわー。」「・・・！・・・ああの、すいません。そ、そういう意味ではなくて！ご要望があればいつでも作るんですが、でも大会とかで身体作りにあまり適さなそうなものをしょっちゅう作っていくのもアレだしなー、とか・・・。」「ぶはは！いいから！わかってるから！今野さんがいろいろ考えてくれてるの。ありがとね。嬉しいよ。」――う・・・。メチャクチャ笑われ続けてる・・・。恥ずかしい。でも、先輩が元気でいてくれると嬉しいな。チラッと笑いながら歩いている先輩を盗み見る。――・・・ッハ！ていうか、いつの間にか自然と先輩に送ってもらっていた！どどどどうしよう！？私は今先輩と2人で？か、帰っている！？先輩との帰り道は信じられないぐらい時間が経つのが早かった。たった今のことなのに自分が何を話したのか、緊張して何も思い出せないぐらいだった。駅に着くと、先輩が言った。「んじゃ、今野さんまたね。」「はい！」「もう帰り道暗いから、1人の時は暗くなる前に帰りなよ。女の子1人は危ないよー。」「あ、・・・は、はい。・・・あの、でも、いつも夢中になってしまっていまして・・・。」私は頭を掻きながら答える。「・・・そっか。い、いやでも！危ないから！これからもっと暗くなるの早くなるんだし！」「はい！気をつけます。」またしても直立不動になってしまう。「・・・じゃあね！気をつけて！」そう言って自転車を漕ぎ出す先輩に向かって私は叫んだ。「あ！せ、先輩！あの！・・・私、応援してます！練習も、試合も、全部！部活やってる先輩ホントに格好いいです！か、勝ってください！先輩がバレーやるとこ、たくさん見せてください！」先輩は自転車をキッと止めて振り返ると、あの眩しい笑顔で、拳を握りしめて手を掲げた。「おう！」そしてまた自転車を漕いで行く。私はそこで先輩の背中が見えなくなるまでずっと見ていた。　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　つづく]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-09-28T12:00:11+00:00</published><updated>2020-09-29T06:38:21+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
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			<p>試合後。</p><p><br></p><p>結局、今日の試合を我が秋風高校バレー部は勝ち進み、明日の試合へ進むことができた。</p><p><br></p><p>「どどどどどど、どうしよう？明日も試合あるのにこれ今日渡して良いのかな？カップケーキなんて食べてる場合じゃないのでは？ももももっとなんかこう、血となり肉となるようなものを食べなければいけないのでは？っていうかこれでお腹壊したりしたらどうすんの？まあ絶対今日食べなきゃいけないわけじゃないけど、やっぱり今日渡すべきじゃないんじゃあぁぁぁ・・・・。」</p><p><br></p><p>「莉花！もう！ここまで来て！アンタ涙流して試合見てたくせにまた怖じ気づいてんの！？渡すんじゃないの！？」</p><p><br></p><p>結菜に引っ張られ体育館の出入り口で牧田先輩を待っていた。</p><p><br></p><p>「ででででも！試合が一段落したときとかが良いような気がして。」</p><p><br></p><p>「ばか！もし負けたらもう2度とないんだよ！？それに、負けた日にあげるなんてもっとできないでしょ！？」</p><p><br></p><p>「あ・・・。」</p><p><br></p><p>結菜に言われ、私はまた自分の意気地のなさに嫌気が差す。</p><p><br></p><p><br></p><p>――そうだ。先輩たちは負けたらもうできない試合をしてるんだ。さっきそれに勇気づけられたばかりなのにまた・・・。</p><p><br></p><p><br></p><p>「・・・うん。今日渡す。来たら絶対。」</p><p><br></p><p>「・・・よし！」</p><p><br></p><p>結菜に背中を押してもらった私は、意を決して先輩たちを待つ。</p><p>しばらくすると我が校男子バレー部がぞろぞろと試合会場の体育館から出てきた。</p><p><br></p><p>「あ！来たよ！莉花！」</p><p><br></p><p>「ううううううううん。」</p><p><br></p><p>緊張で声が震えすぎている。</p><p><br></p><p>「ち、ちょっとアンタ。大丈夫。」</p><p><br></p><p>「だだだだだ大丈夫。だいじょぶだあ。」</p><p><br></p><p>「何！？緊張しすぎて志村けんみたいになってるけど！」</p><p><br></p><p>「いいいいいいいいいていい行ってくる！」</p><p><br></p><p>そう言って私は牧田先輩のところまで駆け寄った。</p><p><br></p><p>「まま、牧田先輩！」</p><p><br></p><p>私が叫ぶと、我が校男子バレー部の皆さんがギラリとこちらを見る。</p><p><br></p><p>背の高い男子バレー部に圧倒されそうになる。</p><p><br></p><p>「あ！今野さんだ！」</p><p><br></p><p>そう私に声をかけて来たのは、3年の若林先輩だった。</p><p><br></p><p><br></p><p>「あ！わ、若林先輩。・・・・お、お疲れ様です。あ、今日！おめでとうございます！」</p><p><br></p><p><br></p><p>――な、なんで私の名前知ってんの？・・・てか。怖い。バレー部男子は全員背が高すぎる！</p><p><br></p><p><br></p><p>私はオドオドしながら挨拶する。</p><p><br></p><p>「お、ありがとー。」</p><p><br></p><p>「おい、若林。聞いてた？牧田先輩って言ったの。今野さんは。」</p><p><br></p><p>大きなバレー部の集団からひょっこりと顔を出して来たのは牧田先輩だった。</p><p><br></p><p>「いーじゃん、別にー。ね。今野さん。」</p><p><br></p><p>「あ、っは、はい！」</p><p><br></p><p>「俺の名前知ってたしねー。・・・もしかして、実は牧田じゃなくて俺を見に来てる説。」</p><p><br></p><p>「え！？ええええ・・・」</p><p><br></p><p><br></p><p>――ど、どうしよう！？若林先輩を見に来てるわけじゃないから違いますって答えれば良いの？でもそしたら牧田先輩を見に来てるってバレちゃうわけで。実際、牧田先輩を見に来てますけど。でも、牧田先輩だけを見てるわけではなく、バレー部全体を応援してるというか・・・って、今言う時！？えっとー・・・。</p><p><br></p><p><br></p><p>なんと答えようかと戸惑っていると、牧田先輩が言った。</p><p><br></p><p>「おい。今野さんはオレに言われて応援に来てくれてるんだから、おまえを見に来てるわけないだろ。・・・ねえ？」</p><p><br></p><p>「え！？あ、っはい！」</p><p><br></p><p>直立不動のまま慌てて私が答えると若林先輩は不満げに言った。</p><p><br></p><p>「なんだよー。」</p><p><br></p><p>「いーから先行けよ、すぐ行くからー。」</p><p><br></p><p>牧田先輩にそう言われた若林先輩は渋々山下先輩に連れられて、とっくに先を行っていたバレー部の集団に戻っていった。</p><p><br></p><p>「あああああああの！ま、牧田先輩！すすすいません！呼び止めて！お疲れ様です！」</p><p><br></p><p>「うん。応援ありがとう。」</p><p><br></p><p>「いいえ！そんな！勝手に来てるだけですからっ。き、今日、すすすすごく！格好良かったです！」</p><p><br></p><p>「・・・え？あ、あー・・・ありがと。」</p><p><br></p><p>先輩ははにかんだ笑顔を見せる。</p><p><br></p><p><br></p><p>――うわー！か、格好いい！かわいい！・・・。じゃなくて！</p><p><br></p><p><br></p><p>「ああああの！それでこれ！」</p><p><br></p><p>そう言って、私は作ってきた6回目のカップケーキを差し出す。</p><p>6回も同じものを作ったので、味も見た目も自分でも満足するほどかなり上出来だった。</p><p><br></p><p>「あ・・・。マジ？」</p><p><br></p><p>そう言って先輩は私の手からカップケーキを受け取ると続けた。</p><p><br></p><p>「マジで作ってくれたんだー！ありがとう！・・・めっちゃ嬉しい！すげー美味そう！」</p><p><br></p><p>「ああああの！いいえ！あの！き、今日食べなくても大丈夫ですから！何日か持ちますから！今日はバンセンを・・・万全を期して、血となり肉となるものを食べて明日に備えてください！あ、ていうか、勝手に作ってきたし、食べなくても全然！ほんと全然っ！」</p><p><br></p><p>「ぶは！はははは・・・！相変わらず面白いねー、今野さん。・・・バンセンって・・・。ち、血となり肉となるものって・・・。」</p><p><br></p><p>牧田先輩はお腹を抱えて笑いながら言った。</p><p><br></p><p>「・・・いやー、ごめんごめん。笑ったわー。ほんと、いつもありがと。・・・じゃあさ、このカップケーキ、明日、勝って食べる。明日決勝だから。明日勝ったら全国だから。お守り代わりに明日まで取っとくね。」</p><p><br></p><p>「え？」</p><p><br></p><p><br></p><p>――お、お守りに？・・・う、嬉しい！</p><p><br></p><p><br></p><p>「あ・・・は、はい！」</p><p><br></p><p>「明日も応援来てくれる？」</p><p><br></p><p>「い、行きます！もちろん！」</p><p><br></p><p>私が言うと先輩はあのいつもの眩しい笑顔になった。</p><p><br></p><p>「わかった！明日楽しみにしてて！絶対勝つから！応援よろしくね！」</p><p><br></p><p>「はい！」</p><p><br></p><p>「じゃあ、みんな待たせてるから行くね。ホントありがと！」</p><p><br></p><p>「はい！すいません！お引き留めして。」</p><p><br></p><p>手を振りながら駆けていった先輩に私はひたすらペコペコとお辞儀をし続けた。</p><p><br></p><p><br></p><p>――・・・。</p><p><br></p><p><br></p><p>「先輩！応援してます！」</p><p><br></p><p>気付いたら、私は駆けていく先輩の後ろ姿に向かって叫んでいた。</p><p><br></p><p>先輩は振り向きながら</p><p><br></p><p>「ありがとー！」</p><p><br></p><p>と手を振ってくれた。</p><p><br></p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　</p><p><br></p><p><br></p><p><br></p><p>「莉花―！がんばった！えらい！」</p><p><br></p><p>先輩が去ると結菜が駆け寄って私をギュッと抱き締めながら言った。</p><p>私も力が抜けて手が震えながら結菜にしがみつくように抱き締め返した。</p><p><br></p><p>「はー。やばかった。気絶するかと思った。」</p><p><br></p><p>「うんうん。えらいえらい。メチャクチャがんばったよー。」</p><p><br></p><p>「結菜あ。」</p><p><br></p><p>私は涙声になりながら言った。</p><p><br></p><p>「明日勝つって、先輩言ってくれた。」</p><p><br></p><p>「マジか。すごい。」</p><p><br></p><p>結菜も感心した表情を見せる。</p><p><br></p><p>「・・・勝ったら全国だね。」</p><p><br></p><p>「・・・うん。そしたらまた応援できる。まだ先輩のこと見れる。」</p><p><br></p><p>私は祈るように言った。</p><p><br></p><p>「うん。」</p><p><br></p><p>「結菜、ありがと。結菜がいなければ、そもそも何も始まってなかった。」</p><p><br></p><p>「なーに今更言ってんのー！」</p><p><br></p><p>「ちょっ。ぐ、ぐふ！い、痛い・・・。」</p><p><br></p><p>結菜が照れながら私の背中をバシバシと叩いて言う。</p><p><br></p><p>「だって、今日だって結菜がいなかったら絶対渡せなかったから。ほんとに、渡せて嬉しい。」</p><p><br></p><p>「・・・よかったね、莉花。」</p><p><br></p><p>「うん。」</p><p><br></p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　</p><p><br></p><p><br></p><p><br></p><p>翌日の決勝。</p><p><br></p><p>我が校バレー部は序盤からリードを保ち危なげなく全国大会進出を決めた。</p><p><br></p><p>試合終了後の帰り道、応援の人たちに紛れ私も会場をあとにしていた。結菜がトイレに行っている間、出口へ流れていく人の波をボーッと見ていた。</p><p><br></p><p>「さすが全国常連校！決勝でこんだけ危なげない試合もすごいよなー。」</p><p><br></p><p>我が校の応援をしていたらしき人の会話が聞こえ、私は思わず耳を傾ける。</p><p><br></p><p>「な。どっちかというと昨日の方がヒヤッとする場面があったよなー。」</p><p><br></p><p>「確かにな。でも、さすが牧田だよな。流れ取り返してたもんなー。」</p><p><br></p><p>知らない人まで先輩のことを褒めている。改めてとてもすごい人だと感じつつ、と同時に私も誇らしくなる。</p><p><br></p><p>「莉―花っ！」</p><p><br></p><p>後ろから呼ばれ振り向く。結菜だ。</p><p><br></p><p>「今日はもう帰るの？」</p><p><br></p><p>「え？」</p><p><br></p><p>「先輩に会ってかなくていいの？」</p><p><br></p><p>「え、・・・う、うん。会いたいけど、・・・今日はいい。疲れてるだろうし、毎日はさ。それに、今日勝ったらカップケーキ食べてくれるって言ってたし。それだけで嬉しい。」</p><p><br></p><p>「・・・そか。」</p><p><br></p><p>「うん。それに・・・また見れる。」</p><p><br></p><p>私はまだ先輩の姿を見ることができることを、噛みしめながら言った。</p><p><br></p><p>「うん。だね。」</p><p><br></p><p>「今度は全国かあー。練習も見に行ける！楽しみ！」</p><p><br></p><p>「ほんと、好きだよねー。」</p><p><br></p><p>結菜がからかう様に私に言う。</p><p><br></p><p>「ゆ、結菜のことも好きだよ？」</p><p><br></p><p>「いーから。そーゆーのいいから。」</p><p><br></p><p>私たちはいつものように笑いながら帰路についた。</p><p><br></p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　</p><p><br></p><p><br></p><p><br></p><p>体育館。</p><p><br></p><p>いつもの隅の席でいつものように練習を見学する。</p><p><br></p><p>全国行きが決まってから、さらに気合いが入った様子のバレー部員たちはさらにレベルの高い練習を繰り返していた。</p><p><br></p><p>今日も以前と同じように牧田先輩は練習前に私に声をかけてくれた。</p><p>最近では、部活がない日に付き合ってくれる結菜と若林先輩、山下先輩も加わってほんの少し話をする。</p><p>と言っても私はほとんど相槌をするぐらいで話すのは結菜だ。</p><p>1人だとパニクってしまうので、結菜がいてくれる日はいつも心強い。</p><p><br></p><p>いつも、部活終了後も先輩たちスタメンを中心に自主練をしている部員も少なくない。</p><p>私はさすがに帰りが遅くなってしまうとお母さんに叱られるので、部活の時間が終わったら大体帰ることにしている。</p><p><br></p><p>今日は結菜はダンス部があるので1人だ。</p><p><br></p><p>1人体育館を後にすると、いつもは自主練をしているはずの先輩が自転車に跨がり前方にいた。</p><p><br></p><p>「牧田先輩・・・。」</p><p><br></p><p>思わず名前を呼んでいた。呼ばれて先輩は自転車を止めて振り返る。</p><p><br></p><p>「あ！今野さん！今日も見に来てくれてありがとう。」</p><p><br></p><p>いつもの眩しい笑顔でこちらに向かってくる。</p><p><br></p><p>「あ、お疲れ様です！・・・えっと、先輩、今日は自主練しないんですか？」</p><p><br></p><p>オズオズと聞く。</p><p><br></p><p>「うん。ちょっと練習中に足首痛めて。」</p><p><br></p><p>「え！？」</p><p><br></p><p>「あ、いやいや。全然たいしたことないし平気って言ったんだけど、最近オーバーワーク気味だったし帰れって山ちゃんに言われちゃってさー。・・・今野さんももう帰るとこだよね？」</p><p><br></p><p>「あ、そうです。」</p><p><br></p><p>「おー、駅まで？」</p><p><br></p><p>「はい。」</p><p><br></p><p>「ふーん。・・・じゃあもう暗いし、駅まで送るよ。」</p><p><br></p><p>先輩は自転車から降りて、自転車を引いて歩き出す。</p><p><br></p><p>「・・・え！？」</p><p><br></p><p><br></p><p>――え！？ままままま牧田先輩が駅まで送ってくれる！？何ですか！？この神展開は。ありえるんですか！？こんなことが！どどどどどうしよう！？ででで、でも、今日はゆっくりするために早く帰った方がいいのでは！？だ、だめだ。考えてたら興奮して鼻血が出そう！</p><p><br></p><p><br></p><p>また1人脳内で慌てていると、練習を見に来ていたらしい生徒の話し声が少し遠くから聞こえた。</p><p><br></p><p>「バレー部全国大会とかすごいよねー、今日も部活終わっても自主練してさー。」</p><p><br></p><p>「ね。めっちゃ練習してるよねー。・・・でもさ、全国常連って確かにすごいけど、全国行くといっつも1，2回戦で敗退しちゃうんだってー。昔は優勝したこともあるからレベル落ちたとか言われてるんでしょ？」</p><p><br></p><p>聞こえてきた会話に、私は思わず牧田先輩を見る。</p><p>薄暗くて表情はよくわからないけど、いつもの眩しい笑顔ではないことは確かだ。</p><p><br></p><p>「あの・・・先輩・・・。」</p><p><br></p><p>「うん。知ってる。そう言われてるの。昔もっと強かった分、やっぱりそういう声も常にあるみたい。出るのは当たり前。これだけの設備投資なんだから最低でもベスト4ぐらいには入らないとって。」</p><p><br></p><p>「・・・え。そうなんですか。」</p><p><br></p><p><br></p><p>――全然知らなかった。全国なんて出るだけでも私には神の領域ぐらいの話なのに、先輩ぐらいになると出るのは当たり前なのか。そんな世界があるのか。</p><p><br></p><p><br></p><p>先輩は歩きながら続ける。</p><p><br></p><p>「でも、今年オレらの代はホントに強くてさ。昔もっと強かった頃ぐらいのレベルなんじゃないかってオレは思ってる。・・・普段山ちゃんも若林もふざけてばっかに見えるでしょ？でもアイツらマジすごくてさ。それに1、2年の後輩たちもすごい。スタメンの後輩にはプロ間違いなしって言われてるやつもいるんだ。」</p><p><br></p><p>「あ、2年の相羽くんですよね？」</p><p><br></p><p>「あ、うん。」</p><p><br></p><p>「相羽くんのアタックすごいです！それから2年の大友くんもブロックがすごくて。」</p><p><br></p><p>「・・・2年の2人とは仲いいの？」</p><p><br></p><p>「あ、一切話したこともないです。・・・ただ、私ずっと見てるので、もうバレー部の方全員の名前覚えてます。」</p><p><br></p><p>なんとなく気恥ずかしくて、頬を掻きながら答えた。</p><p><br></p><p>「え！？全員！？スタメンじゃない奴らも！？」</p><p><br></p><p>「え、えーっと。・・・はい。いえ、決してストーカーとかなアレではなく、ただ見てる内に自然と覚えてしまったというか、スタメンじゃなくても練習は皆さんしているわけで、み皆さん声を掛け合いながら練習していますし自然と的なことであって・・・。あ、あのまだスタメンではないけど1年の大場くんとかものすごいバネ？って言うんですかね。ジャンプ力も反射神経もあったりとか、あと、2年の小泉くんはしっかり者で3年生がいないときによくみんなをまとめてるんだなー、とか、そういうの見てたら自然と名前とか覚えてしまったと言いますか・・・。」</p><p><br></p><p>「・・・。」</p><p><br></p><p><br></p><p>――ぐはぁ！しまった！全員の名前知ってるとかちょっと怖かったりするんだろうか？ていうか言い訳がましくいろいろ言ったことで逆に怪しい人な雰囲気になってしまっているのでは！？・・・墓穴！！</p><p><br></p><p><br></p><p>「・・・ありがとう。すごい見て応援してくれてるんだな。そう、大場はオレらが引退したら間違いなく主力になるだろうし、小泉は次期部長だと思う。それに、2年連中は鈴木や小林もメチャクチャ頼りになって・・・。」</p><p><br></p><p>「あ！鈴木くん！いつも自主練はあまり見れないんですが、それでも見る時はとてもサーブの練習してます！こないだの練習試合はピンチサーバーですごかったです！」</p><p><br></p><p>「・・・はは！ほんとによく見てるね。まあ、オレだけじゃなかったってのはちょっとアレだけど。」</p><p><br></p><p>「え？」</p><p><br></p><p>私は先輩が最後の方に呟くように言った言葉が聞き取れず聞き返した。</p><p><br></p><p>「いや、うん。・・・だから今年は冗談じゃなく全国優勝も夢じゃないと思ってる。」</p><p><br></p><p>そう言った先輩はいつもの眩しい笑顔に戻っていた。</p><p><br></p><p>「・・・はい！」</p><p><br></p><p>「・・・。」</p><p><br></p><p>「・・・あ、あの！わ、私・・・。私にとっては全国なんて出るだけで神の領域って言うか、それすらもおこがましく、もうもはやバレーボールでとトスが相手の手元にちゃんと上がるだけでもすごいっていうかそんなレベルで。わ、私なんかと・・・。じゃなくて私と比べても仕方ないんですが、それでもほんとに牧田先輩も他の部員の方たちもとにかく神レベルにすごいんです！ほぼ毎日のように練習見てて、あれだけ動いているのに次の日も普通に学校に来れてるってところがもう神っていうか！と、とにかくす、すごくて・・・。」</p><p><br></p><p>「・・・。」</p><p><br></p><p>「あ、あの、すいません。私、何言ってるかわかんないですよね。」</p><p><br></p><p>「ぶは！ぶははははは！・・・また！今野さん節出たね！いつものやつ！それマジおもしれー！」</p><p><br></p><p>先輩は私の何がそんなに面白いのかまた爆笑している。</p><p><br></p><p><br></p><p>――でも、さっきみたいな顔になるよりずっといい。</p><p><br></p><p><br></p><p>「あー。ごめん。今日も安定の面白さだわー。いやー、笑った。・・・うん。ありがとう。今野さんはいつも練習も試合も見に来てくれて、そうやって応援してくれてる人がいるってのはオレたちマジで心強いよ。」</p><p><br></p><p>「え？あ、あの、・・・少しでもお力になれているのだとしたら嬉しいです。」</p><p><br></p><p>「うん。めっちゃなってる。・・・そうだ！カップケーキ！あれ全国決まった日に食べたよ。マジで美味かったー。」</p><p><br></p><p>「え？よ、よかったです。」</p><p><br></p><p>「そうだ。オレもらっといてお礼も言ってなかったよね。ありがとね。」</p><p><br></p><p>「い、いえ、そんな。勝手に作って持って行ったので。も、もし万に一つでも食べてもらえて喜んでもらえたとするならば・・・う、嬉しいです。」</p><p><br></p><p>「ま、万に一つ・・・。ぶ！はは！んんッ。うんッ！」</p><p><br></p><p>先輩はまた笑いそうになって咳払いをする。と、突然立ち止まり私の方を向く。</p><p><br></p><p>「あのさ、今野さん。」</p><p><br></p><p>「・・・はい！」</p><p><br></p><p>突然こちらを向かれて驚いた私はまた直立不動の姿勢になる。</p><p>先輩は真っ直ぐ私を見ている。</p><p><br></p><p>「・・・オレら、全国優勝するよ！」</p><p><br></p><p>「は・・・はい！」</p><p><br></p><p>「・・・だから・・・見てて！」</p><p><br></p><p>真っ直ぐ私を見てそう宣言する先輩に私は涙が溢れそうになるのをグッと堪えた。</p><p><br></p><p>「・・・はい！もちろんです！」</p><p><br></p><p>私が返事をすると、牧田先輩は再び歩き出す。</p><p><br></p><p>「・・・あーやべー。宣言しちゃったなー。アイツらにもまた明日からハッパかけなきゃなー。」</p><p><br></p><p>「す、すごいです！そんなすごいことを宣言できるなんて、やっぱり神です！」</p><p><br></p><p>「はは！神って！もう止めて。マジで今野さんツボなんだよなー。てかさ、またカップケーキ作ってきてよ。」</p><p><br></p><p>「もももも、もちろんです！いつでも作ります！ッカ、カップケーキにはちょっとだけ自信があります！」</p><p><br></p><p>「おおー。いやでも、あれマジで美味かったなー。」</p><p><br></p><p>「・・・あの、あの！」</p><p><br></p><p>今度は私が立ち止まる。</p><p>それに気付いて先輩も立ち止まる。</p><p><br></p><p>「・・・カップケーキ、また決勝の前の日に作っていきます。前回、お守りって言ってくれて嬉しかったので！け、決勝まで行くって！というか優勝するって信じてます！」</p><p><br></p><p>私が先輩を見ると、先輩はまた真っ直ぐに私を見ている。</p><p><br></p><p>「・・・あの、だからその、カップケーキを作ってやるから的なそういうおこがましいようなことがいいたいわけではなくてですね、えっとー・・・。」</p><p><br></p><p>私がしどろもどろしているとまた先輩は笑い出す。笑いが収まった先輩が言う。</p><p><br></p><p>「・・・うん、ありがと。」</p><p><br></p><p>先輩は優しく言うと再び歩き出した。</p><p><br></p><p>「・・・しかし、今野さんのカップケーキ食べるのメチャクチャハードル高いわー。」</p><p><br></p><p>「・・・！・・・ああの、すいません。そ、そういう意味ではなくて！ご要望があればいつでも作るんですが、でも大会とかで身体作りにあまり適さなそうなものをしょっちゅう作っていくのもアレだしなー、とか・・・。」</p><p><br></p><p>「ぶはは！いいから！わかってるから！今野さんがいろいろ考えてくれてるの。ありがとね。嬉しいよ。」</p><p><br></p><p><br></p><p>――う・・・。メチャクチャ笑われ続けてる・・・。恥ずかしい。でも、先輩が元気でいてくれると嬉しいな。</p><p><br></p><p><br></p><p>チラッと笑いながら歩いている先輩を盗み見る。</p><p><br></p><p><br></p><p>――・・・ッハ！ていうか、いつの間にか自然と先輩に送ってもらっていた！どどどどうしよう！？私は今先輩と2人で？か、帰っている！？</p><p><br></p><p><br></p><p>先輩との帰り道は信じられないぐらい時間が経つのが早かった。たった今のことなのに自分が何を話したのか、緊張して何も思い出せないぐらいだった。</p><p><br></p><p>駅に着くと、先輩が言った。</p><p><br></p><p>「んじゃ、今野さんまたね。」</p><p><br></p><p>「はい！」</p><p><br></p><p>「もう帰り道暗いから、1人の時は暗くなる前に帰りなよ。女の子1人は危ないよー。」</p><p><br></p><p>「あ、・・・は、はい。・・・あの、でも、いつも夢中になってしまっていまして・・・。」</p><p><br></p><p>私は頭を掻きながら答える。</p><p><br></p><p>「・・・そっか。い、いやでも！危ないから！これからもっと暗くなるの早くなるんだし！」</p><p><br></p><p>「はい！気をつけます。」</p><p><br></p><p>またしても直立不動になってしまう。</p><p><br></p><p>「・・・じゃあね！気をつけて！」</p><p><br></p><p>そう言って自転車を漕ぎ出す先輩に向かって私は叫んだ。</p><p><br></p><p>「あ！せ、先輩！あの！・・・私、応援してます！練習も、試合も、全部！部活やってる先輩ホントに格好いいです！か、勝ってください！先輩がバレーやるとこ、たくさん見せてください！」</p><p><br></p><p>先輩は自転車をキッと止めて振り返ると、あの眩しい笑顔で、拳を握りしめて手を掲げた。</p><p><br></p><p>「おう！」</p><p><br></p><p>そしてまた自転車を漕いで行く。</p><p>私はそこで先輩の背中が見えなくなるまでずっと見ていた。</p><p><br></p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　</p><p><br></p><p><br></p><p><br></p><p>つづく</p>
		</div>
	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[少年彩里水の不思議冒険譚　-不思議の国の入り口65-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10463952/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10463952</id><summary><![CDATA[65　思いの強さ地中の中でキャンドーは続ける。「つまり彩里水くんが心の底から信じたことが叶って、今地中にいるっていうことです。」「うーんうーん。でもさ、オレは地中に入れるなんて微塵も思ってなかったんだけど、今いるのはなんで？」「それは、この国は思いの強い者の思いが叶うという法則が絶対的にあるからなんです。」「つまり、オレが地中に入れないって思ってることより、彩里水がみんな地中から逃げればいいって思ってる“思い”が強かったってこと？」「そうとも言えるし、それだけではないとも言えます。」「ん？」彩里水と白兎はだんだん頭が追いついていかなくなっている。「んーと、彩里水くんは地中に入れると強く信じていたと思うんですが、白兎くんも、ここから逃げなければ、逃げ出すんだ、なんとしても逃げ出すと強く思っていたのでは？」白兎はトランプの衛兵に追いかけられていた瞬間のことを思い出す。「そうだ。あの時は、絶対にこの衛兵から逃げ切って、みんなに必ず会うんだ。って思ってた。」「では彩里水くんはどうですか？白兎くんや私を地中に引き入れるとき、何を思っていました？」「オレ？うーんとオレは・・・。」彩里水は思い出そうと空を仰ぐ。「そうそう、オレは、地中に入れたし早くみんなもここに連れてこなきゃって思って、そんで上見たらちょうど白兎いたから声をあげたんだけど、それは聞こえなかったみたいだから足を掴んで引っ張ろうと思ったの。そうだ！そしたら手を足で蹴られたんだった。・・・痛かったんだからなー。」彩里水は恨めしい顔で白兎を見る。「あ、じゃあ、あの時オレが何かに躓いた気がしたのはおまえの手だったのかよ！オレだってすっころんで痛かったわ！」白兎も彩里水に応戦する。「なんだよー。・・・そんで、キャンドーさんが白兎の手から落ちたから掴んでここに連れてきたの。そのあと、また今度はしっかりと白兎の足首を掴んでここに引っ張り込んだってわけ！」彩里水は満足気に白兎を見る。「おまえ、顔にドヤァって書いてあるぞ。おまえな、オレはな、あんときおまえもキップとクップもいなくなった上に、おまえのうわあ！って叫び声でトランプの奴らが気付いちゃって、逃げなきゃって焦って大変だったんだからな？その上キャンドーもすっ飛ばしたと思ったらいなくなっちゃうし、ドヤァじゃねんだよ。」白兎は彩里水にすごむが彩里水は一向に気にしていない。「なんだよー、じゃあオレが助けてあげたってことだな。」ますます満足気に彩里水は言う。「・・・う。まあそうとも言うかもな。」「ありがとう、彩里水くん、だろ？」「・・・ありがと。」素直に白兎に礼を言われ、彩里水はキョトンとする。「おま・・・！おまえが言えって言ったんだろー？なんだそのキョトン顔はぁ！さっきからおまえ顔で喋りすぎなんだよ！」「だって、おまえが素直にお礼言うとかなんか変だろー？」つづく]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-09-28T10:00:06+00:00</published><updated>2020-09-28T10:00:15+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
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			<img src="https://www.instagram.com/p/CD6N5l1HUWk/media?size=l&width=960" width="100%">
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			<h4 class="">65　思いの強さ</h4><p><br></p><p><br></p><p>地中の中でキャンドーは続ける。</p><p><br></p><p>「つまり彩里水くんが心の底から信じたことが叶って、今地中にいるっていうことです。」</p><p><br></p><p>「うーんうーん。でもさ、オレは地中に入れるなんて微塵も思ってなかったんだけど、今いるのはなんで？」</p><p><br></p><p>「それは、この国は思いの強い者の思いが叶うという法則が絶対的にあるからなんです。」</p><p><br></p><p>「つまり、オレが地中に入れないって思ってることより、彩里水がみんな地中から逃げればいいって思ってる“思い”が強かったってこと？」</p><p><br></p><p>「そうとも言えるし、それだけではないとも言えます。」</p><p><br></p><p>「ん？」</p><p><br></p><p>彩里水と白兎はだんだん頭が追いついていかなくなっている。</p><p><br></p><p>「んーと、彩里水くんは地中に入れると強く信じていたと思うんですが、白兎くんも、ここから逃げなければ、逃げ出すんだ、なんとしても逃げ出すと強く思っていたのでは？」</p><p><br></p><p>白兎はトランプの衛兵に追いかけられていた瞬間のことを思い出す。</p><p><br></p><p>「そうだ。あの時は、絶対にこの衛兵から逃げ切って、みんなに必ず会うんだ。って思ってた。」</p><p><br></p><p>「では彩里水くんはどうですか？白兎くんや私を地中に引き入れるとき、何を思っていました？」</p><p><br></p><p>「オレ？うーんとオレは・・・。」</p><p><br></p><p>彩里水は思い出そうと空を仰ぐ。</p><p><br></p><p>「そうそう、オレは、地中に入れたし早くみんなもここに連れてこなきゃって思って、そんで上見たらちょうど白兎いたから声をあげたんだけど、それは聞こえなかったみたいだから足を掴んで引っ張ろうと思ったの。そうだ！そしたら手を足で蹴られたんだった。・・・痛かったんだからなー。」</p><p><br></p><p>彩里水は恨めしい顔で白兎を見る。</p><p><br></p><p>「あ、じゃあ、あの時オレが何かに躓いた気がしたのはおまえの手だったのかよ！オレだってすっころんで痛かったわ！」</p><p><br></p><p>白兎も彩里水に応戦する。</p><p><br></p><p>「なんだよー。・・・そんで、キャンドーさんが白兎の手から落ちたから掴んでここに連れてきたの。そのあと、また今度はしっかりと白兎の足首を掴んでここに引っ張り込んだってわけ！」</p><p><br></p><p>彩里水は満足気に白兎を見る。</p><p><br></p><p>「おまえ、顔にドヤァって書いてあるぞ。おまえな、オレはな、あんときおまえもキップとクップもいなくなった上に、おまえのうわあ！って叫び声でトランプの奴らが気付いちゃって、逃げなきゃって焦って大変だったんだからな？その上キャンドーもすっ飛ばしたと思ったらいなくなっちゃうし、ドヤァじゃねんだよ。」</p><p><br></p><p>白兎は彩里水にすごむが彩里水は一向に気にしていない。</p><p><br></p><p>「なんだよー、じゃあオレが助けてあげたってことだな。」</p><p><br></p><p>ますます満足気に彩里水は言う。</p><p><br></p><p>「・・・う。まあそうとも言うかもな。」</p><p><br></p><p>「ありがとう、彩里水くん、だろ？」</p><p><br></p><p>「・・・ありがと。」</p><p><br></p><p>素直に白兎に礼を言われ、彩里水はキョトンとする。</p><p><br></p><p>「おま・・・！おまえが言えって言ったんだろー？なんだそのキョトン顔はぁ！さっきからおまえ顔で喋りすぎなんだよ！」</p><p><br></p><p>「だって、おまえが素直にお礼言うとかなんか変だろー？」</p><p><br></p><p><br></p><p>つづく</p>
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	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[この驟雨に打たれて-2-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10440259/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10440259</id><summary><![CDATA[９月。  ほとんどの3年生が部活を引退して来る受験に備え始めていたが、バレー部の男子はまだ部活を続けている人が多いようだった。  夏休み開け、教室でいつものように結菜と話をしていると、廊下から突然声が飛び込んでくる。  「おー！見つけたー！今野さーん！」  この学校へ入学してから誰かに大声で呼ばれたことなどない私は、驚いて声のした方を見る。  そこにいたのは。  牧田先輩。  「せ！先輩！」  私の名前を呼ぶ先輩に、クラスの女子たちは悲鳴を上げている。 驚きのあまり固まっている私に結菜が声をかける。  「ちょ、ちょっと！莉花！何！？どういうこと？」  「え？あ・・・。」  我に返った私は結菜の質問にも答えず急いで廊下にいる先輩の元へ行く。  「・・・牧田先輩。ど、どうしたんですか？」  「今野さん、やっと見つけたよー。はい、タオル。ありがと。」  「・・・あ。」  そう言えば、先輩と話ができた興奮ですっかり忘れていたけど、あの後お気に入りのくまちゃんのタオルが行方不明で、先輩に渡したままにしてしまっていたことを思いだした。  先輩に差し出されたタオルを受け取る。  「あ、・・・わざわざすいません。」  「ごめんねー、ずっと借りててさー。一応いつも持ち歩いてたんだけど夏休みだから会わないし返せなくて。」   ――・・・！あの！牧田先輩が！私のタオルを毎日持ち歩いて・・・。   頭が瞬時に沸騰した。  「あ、あわ。あの、すいません。お手を煩わせて。」  慌てる私を見て、また先輩は吹き出す。  「ぷふ！・・・あ、あわ？はは！」  「あああ、あの・・・。」  「あ、ごめんまた笑っちゃった。今野さんいつもおもしろいよねー。」  「あ、・・・そ、そうでしょうか。初めて言われました。」  「えー？マジー？」  「あの、先輩。・・・教室ここってよくわかりましたね。」  「いやー、探したよー。でも2年生ってことはわかってたからさ。部活の後輩に聞いて廻ってさー。」   ――・・・！あの！牧田先輩に！私を捜し回らせてしまったー！   「あああの、すいません！」  土下座でもしそうな勢いで謝る私を見て、また先輩は笑っている。  「はは。全然。こちらこそありがとね。」  先輩が言い終わるとチャイムが鳴る。  「・・・。えーっと。・・・じゃ。」  「あ、はい。わざわざありがとうございました。」  私は先輩に深々とお辞儀をしながら言った。  「おう！あ、今度応援に来てねー。」  手をヒラヒラと振りながら戻っていく先輩をしばらく見送ってから教室に戻ると、途端にその場にいた女子たちがワッと寄ってきた。  「えー！今野さん、牧田先輩と知り合いなの！？」  「なんかもらってなかった？」  「何もらったの！？」  「まさか付き合ってるとか！？」  思い切り質問攻めにあったが、その面々を結菜がグッと制してくれる。  「ほら、もうチャイム鳴ったよ。」  「えー何―！？」  女子たちはブツブツ言いながら戻っていく。  「ちょっと、莉花。あとで聞かせてもらうからねー。」  結菜が私をいたずらっぽく睨み付けるようにして言った。  「あ、あの・・・。わ、わかった。あとで。」  　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　    授業が終わると同時に私の元へ来た結菜に、事の顛末を説明する。  「はー。なるほどねー！ちょーラッキーじゃん！運命じゃん！」  「う、運命って・・・。」  「えー？だってたまたま通り雨で２人で雨宿りってなんか映画みたーい！」  お弁当の唐揚げを大きな口に放り入れながら結菜は言う。  「う、うん・・・。でも、確かに嬉しくて心臓が爆発するかと思った。やばかった。」  「ははっ。よかったね、莉花。・・・で、今日もまた部活見に行くの？」  「うん。行く。」  「ははっ。即答。」  私より大きなお弁当箱の中身を先に空にした結菜は笑って言った。私はまだ半分残っているお弁当の中身をせっせと平らげながら聞く。  「今日は結菜も一緒に行ける？」  「うん。」  「やった！」  　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　    放課後。 久しぶりの応援席で以前と同じスタンドの一番端っこに隠れるように座る。 相変わらず、いや夏休み前よりスタンドは女子たちでいっぱいだ。 バレー部はもうすぐ大きな大会の試合が待ち構えている。  いつものように女子たちから黄色い声援が飛ぶ。  「牧田くーん、がんばってー！」  いつものように練習前の牧田先輩が、1階から女子たちの声援に手を振りながら応えている姿を惚れ惚れ見ていると先輩と目が合った。気がした。  「あ！今野さん！」  先輩は笑顔でこちらに手を振ってくる。目があったのは気のせいではなかったらしい。  私の心臓はいつものように瞬時に、壊れるんじゃないかと思うほど跳ね上がる。  目立ちたくない私は、小さく会釈を返す。  体育館の真ん中にいた先輩はそんな私にお構いなしにスタンドの端にいる私の方へ向かって歩いてくる。  「マジで来てくれたんだー！ありがとう！」  先輩は周囲の女子がキャーキャーと騒いでいることに気付いているのかいないのか、気さくに手を振りながら話しかけてくる。  結菜の後ろに隠れるようにしている私を結菜がグイグイと手を引いてスタンドの柵の方まで連れて行く。 女子たちが騒然としている中、ほとんどパニック状態の私は声を絞り出した。  「あ、あの・・・。がんばってください！」  聞こえたかどうかわからないような声で言ってしまった私に、先輩はあの眩しい笑顔で答えてくれる。  「ありがとう！がんばるよー！・・・そうだ！今度カップケーキ作って来てよ！」  ――・・・え？カップケーキ？   私が返事をする前に、キャーッという女子たちの悲鳴と共に、主将の山下先輩が牧田先輩をコート中央へ引き戻していった。  「す・・・すごいじゃん！莉花！牧田先輩、アンタのこと見つけてくれたじゃん！こんな女子だらけのキャーキャーのカオスみたいなとこで！」  結菜が興奮気味に言う。  「う、・・・うん。」  「カップケーキって何！？なんでアンタがカップケーキ作るの！？すごいじゃん！作ってって言われてんじゃん！」  「う、うん。・・・結菜。私、嬉しくて舞い上がってる。今にも空飛びそう・・・。」  「よ、よかったじゃーん！莉花―。」  そう言って結菜が私に抱きついてくる。 私も嬉しくて、ギュッと結菜を抱き締め返した。  　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　   日曜日。  「結菜―。先輩にカップケーキ作るのはいいけど、どうやって渡したらいいのー？」  私は結菜の家に遊びに来ていた。  「えー？普通に部活見に行った時にささっと渡せばいいじゃん。約束のブツですってな感じで。」  「・・・何、ブツって。なんか物騒な言い方しないでよ。部活見に行った時なんて人だらけで絶対渡せないよー！」  私は結菜の部屋のテーブルに突っ伏する。  「なあんで？いーじゃーん。みんな見てたんだからさー、牧田先輩の方からアンタに作ってって言うの。」  「そうだけどー。私なんかから・・・。」  そう言って私はハッとして結菜の方を見る。 結菜はまた少し怒った顔をしている。  「ご、ごめん。私また・・・。」  「・・・まあ、いいよ。気付いたんだから。でも、ホントに止めなね。私なんかが作ったものなんて言われたら先輩だっていやなんじゃない？」  「・・・うん。」  落ち込む私に結菜は頭をポンポンと叩きながら言う。  「ほらー。しょげないで。渡すのついてってあげるから。」  私は救世主を見る目で結菜を見る。  「ほ、ほんと？嬉しい！さすが結菜！ありがとー。」  涙目になっている私を見て結菜は言った。  「まあ、莉花にしては今すごいがんばってるもんね。料理部の部長もやって、好きな人にも毎日会いに行って。」  結菜に褒められると嬉しい。  「へへ。・・・ありがとう。結菜。」  「あ、今好きな人って認めた！」  「あ！・・・い、いや。ち、違う・・・。」  言いかけて黙った私を結菜が不思議そうな目で見る。  「・・・うん。違くないや。」  私は結菜を見ながら言った。  「私、先輩のこと好き。・・・だ、だから、がんばってみる！」  決心した私が結菜を見ると、結菜は驚いた顔で私を見ている。  「・・・おおー！えらい！よく言った！」  笑顔で褒めてくれる結菜に、ちょっと気を大きくし過ぎた気がする私は小さな声で訂正する。  「・・・できる限り。」  「ちょっと！」  結菜が慌てて言うので、2人で声を立てて笑った。  　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　    「とっ、とうとうこの日が来た！」  私が意を決して言うと、結菜が軽く突っ込む。  「まるで告白するみたいじゃーん。ただ作って欲しいって言われたカップケーキ渡すだけでしょ？それとも告白するの？」  「こ！告白なんて！まだそんな！心の準備が！し、死んじゃう！」  「ほおーん。・・・まだってことは、いつかはする気があるってことだあ？」  結菜はちょっと意地悪そうな顔をして言う。  「あ、う、いいいや、それは、まだ・・・。」  ごにょごにょ言う私を結菜は引っ張っていく。  「まあ今はいいよ。その作ったカップケーキ今日こそは渡しなよね。散々練習見に行ってんのに結局渡せないで、とうとう試合の日になっちゃったじゃん。ハードル上がってるでしょ。」  「う・・・。」  「ったく！先輩だって待ってたらどうすんの？これで何回目？私に何個カップケーキ食べさせんの？太らす気？・・・まあ、美味しいからいいけどさー。」  私は、あの後すぐにカップケーキを作ったけれど、バレー部の練習後渡す勇気が出せないままグズグズしているうちに先輩は帰ってしまうということを繰り返し、何度も結菜に食べてもらうことになってしまっている。  先輩は、私が行くときはいつも見つけてくれて声をかけてくれるようになったというのに、私の方はいつまで経っても勇気が出せない。  そして、体育館での部活前のわずかな時間に先輩が私に声をかけてくるようになったせいか、以前はヒッソリコッソリ人がいない端で見ていたけど、今は練習前のスタンドの隅に人がいっぱいという現象が起きていた。   そして今日はカップケーキを作って6回目。  今日こそは、と毎回思うのだけど毎回最後の勇気が出ない。  とうとう、全国大会への出場がかかった試合の日になってしまった。  いつもの練習終わりの方が、まだ人も少ないし先輩に近づくチャンスもある。 けど今日はどうなるかわからない。もしかしたらいつもよりもっと迷惑になってしまうかも。そう思うと気が引ける。  「やっぱり渡すの諦めようかなあ。」  私が独り言のように呟いたのを聞き逃さなかった結菜が言った。  「莉花。何言ってんの？先輩、今日は試合でがんばるんじゃん。そうやってがんばってる先輩のこと好きになって、自分もいろいろがんばり始めたんでしょ？それなのに、やっぱり諦めるなんて、そうやって簡単にそういうこと口にするのホント、莉花の良くないとこだと思う。」  いつも結菜には叱咤されてるけど、今日はいつもよりもその口調も言葉も重い。結菜がいつもより本気で怒っているのがわかる。  「・・・あ、ごめん。」  私は俯いて結菜に謝る。結菜も俯きながら言う。  「・・・ごめん。私も強く言いすぎた。結局、渡すか渡さないかは莉花次第だけど、牧田先輩、他の子にはカップケーキ欲しいとか言ったりもしないし、そもそも声援には手を振って応えてるけど自分から話しかけたりしないじゃん。・・・がんばんなよ。」  「・・・うん。わかった。」  私はさっきよりも小さい声で答えた。   ――わかってる。情けないって。告白どころか、作ってって言ってもらえたカップケーキを渡すだけもできないって。・・・でも、怖い。結菜や先輩みたいにみんなの前で何かしたりハッキリと意思表示したりすることがとても怖い。   「・・・結菜、いつもありがとう。」  「っふ！何それ。」  結菜はちょっと照れくさそうに笑顔を浮かべた。  　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　    試合は現在第3セット目。  1.	第2セットと1-1で迎えた最終セット。 相手チームがたった今得点を決めて、19-20で相手チーム優位で試合が進行中だ。  第3セット目序盤、立ち上がりは良く常にリードしていた我が校の男子バレー部だけど、1本のレシーブミスから相手チームのサーブがことごとく決まり、とうとう逆点されてしまい先に20点の大台に乗られてしまった。  試合の流れも向こうに譲り渡したままの厳しい状況。 コートにいる部員たちの表情は険しい。   ――もう試合も終盤で、みんな気力も体力も限界ギリギリだよね、きっと。負けたらもう、先輩の部活姿、見れない。   私はいつものように目立たない端の方の席で、祈るように手を握りしめる。  と、味方の応援団も活気がなくなっていた中、良く通る聞き慣れた声がコートに響いた。  「ドンマイドンマーイ！いつもどーり！1本切ってくぞー！」  聞き慣れた声、聞き慣れた言葉。  これまで何度も見てきた。  試合形式の練習中、練習試合、公式戦。  牧田先輩の口から何度も聞いた言葉。  その言葉でコート上だけでなくベンチやベンチに入れていないチーム全員の士気が上がった。 その言葉をきっかけにチームメイトたちからも次々と活気づける声が上がる。 応援団も活気を取り戻す。  宣言通りに相手チームのサーブをリベロの若林先輩が切り、セッターの相羽くんから上がったトスから逆転のスパイクを牧田先輩が決める。  ワッ  歓声が上がる。 先輩と出会った日の激しい驟雨のように耳に響いた。  この驟雨のような歓声の中、先輩はコートの真ん中に立ってガッツポーズをしている。  私は手を祈るように握りしめたまま、ただ先輩を見つめていた。  　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　   その後、流れを取り返した我が校のバレー部は逆転。  21-20  23-22  24-23  秋風高校はリードを保ったままラスト1点取れば、勝利というところまで来た。  勝てば次へ。 負ければそこで終わり。  相手がどんなに強いチームでも、負けたらそこで終わりになってしまう試合。 3年生の先輩にとっては1試合1試合が高校最後の試合になるかもしれない。  そんなギリギリの中で戦っている先輩はいつだって信じられないぐらい格好いい。 あんなに一生懸命走って、跳んで、打って、受けて、転がって、また立ち上がって。  1年前から男子バレー部を見てきて、負けて悔し泣きをする姿、勝って雄叫びを上げながらガッツポーズをする姿、たくさんの姿から勇気づけられてきた。  再び相手チームのサーブ。山下先輩のレシーブからセッターがあげたトス。 待ち構えていた先輩に上がったトスは先輩の力強い掌から放たれ、相手チームのコートへ轟音と共に叩き付けられた。  試合終了のホイッスルが鳴り、雄叫びを上げる先輩たち。  天を仰ぐ相手チームの選手たち。  その一瞬一瞬全てが、私に、きっとこの会場に来た全ての人に、1歩踏み出す勇気をくれる。  今勝っても次負けるかもしれない。 次勝ってもその次負けるかもしれない。  一生懸命練習したから絶対勝てるわけじゃない。  誰かが必ず勝つから、誰かが必ず負ける。  誰かが必ず負けて悔しい、苦しい気持ちを味わうから、誰かが必ず勝って嬉しい、誇らしい気持ちを味わえる。  そういう世界で戦っている姿が、勝っても負けても私の目には眩しく輝いて見える。   　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　 つづく]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-09-27T12:00:24+00:00</published><updated>2020-09-27T12:00:32+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
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			<p>９月。 </p><p><br></p><p> </p><p>ほとんどの3年生が部活を引退して来る受験に備え始めていたが、バレー部の男子はまだ部活を続けている人が多いようだった。 </p><p><br></p><p> </p><p>夏休み開け、教室でいつものように結菜と話をしていると、廊下から突然声が飛び込んでくる。 </p><p><br></p><p> </p><p>「おー！見つけたー！今野さーん！」 </p><p><br></p><p> </p><p>この学校へ入学してから誰かに大声で呼ばれたことなどない私は、驚いて声のした方を見る。 </p><p><br></p><p> </p><p>そこにいたのは。 </p><p><br></p><p> </p><p>牧田先輩。 </p><p><br></p><p> </p><p>「せ！先輩！」 </p><p><br></p><p> </p><p>私の名前を呼ぶ先輩に、クラスの女子たちは悲鳴を上げている。 </p><p><br></p><p>驚きのあまり固まっている私に結菜が声をかける。 </p><p><br></p><p> </p><p>「ちょ、ちょっと！莉花！何！？どういうこと？」 </p><p><br></p><p> </p><p>「え？あ・・・。」 </p><p><br></p><p> </p><p>我に返った私は結菜の質問にも答えず急いで廊下にいる先輩の元へ行く。 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・牧田先輩。ど、どうしたんですか？」 </p><p><br></p><p> </p><p>「今野さん、やっと見つけたよー。はい、タオル。ありがと。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・あ。」 </p><p><br></p><p> </p><p>そう言えば、先輩と話ができた興奮ですっかり忘れていたけど、あの後お気に入りのくまちゃんのタオルが行方不明で、先輩に渡したままにしてしまっていたことを思いだした。 </p><p> </p><p>先輩に差し出されたタオルを受け取る。 </p><p><br></p><p> </p><p>「あ、・・・わざわざすいません。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「ごめんねー、ずっと借りててさー。一応いつも持ち歩いてたんだけど夏休みだから会わないし返せなくて。」 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>――・・・！あの！牧田先輩が！私のタオルを毎日持ち歩いて・・・。 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>頭が瞬時に沸騰した。 </p><p><br></p><p> </p><p>「あ、あわ。あの、すいません。お手を煩わせて。」 </p><p><br></p><p> </p><p>慌てる私を見て、また先輩は吹き出す。 </p><p><br></p><p> </p><p>「ぷふ！・・・あ、あわ？はは！」 </p><p><br></p><p> </p><p>「あああ、あの・・・。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「あ、ごめんまた笑っちゃった。今野さんいつもおもしろいよねー。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「あ、・・・そ、そうでしょうか。初めて言われました。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「えー？マジー？」 </p><p><br></p><p> </p><p>「あの、先輩。・・・教室ここってよくわかりましたね。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「いやー、探したよー。でも2年生ってことはわかってたからさ。部活の後輩に聞いて廻ってさー。」 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>――・・・！あの！牧田先輩に！私を捜し回らせてしまったー！ </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>「あああの、すいません！」 </p><p><br></p><p> </p><p>土下座でもしそうな勢いで謝る私を見て、また先輩は笑っている。 </p><p><br></p><p> </p><p>「はは。全然。こちらこそありがとね。」 </p><p><br></p><p> </p><p>先輩が言い終わるとチャイムが鳴る。 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・。えーっと。・・・じゃ。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「あ、はい。わざわざありがとうございました。」 </p><p><br></p><p> </p><p>私は先輩に深々とお辞儀をしながら言った。 </p><p><br></p><p> </p><p>「おう！あ、今度応援に来てねー。」 </p><p><br></p><p> </p><p>手をヒラヒラと振りながら戻っていく先輩をしばらく見送ってから教室に戻ると、途端にその場にいた女子たちがワッと寄ってきた。 </p><p><br></p><p> </p><p>「えー！今野さん、牧田先輩と知り合いなの！？」 </p><p><br></p><p> </p><p>「なんかもらってなかった？」 </p><p><br></p><p> </p><p>「何もらったの！？」 </p><p><br></p><p> </p><p>「まさか付き合ってるとか！？」 </p><p><br></p><p> </p><p>思い切り質問攻めにあったが、その面々を結菜がグッと制してくれる。 </p><p><br></p><p> </p><p>「ほら、もうチャイム鳴ったよ。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「えー何―！？」 </p><p><br></p><p> </p><p>女子たちはブツブツ言いながら戻っていく。 </p><p><br></p><p> </p><p>「ちょっと、莉花。あとで聞かせてもらうからねー。」 </p><p><br></p><p> </p><p>結菜が私をいたずらっぽく睨み付けるようにして言った。 </p><p><br></p><p> </p><p>「あ、あの・・・。わ、わかった。あとで。」 </p><p><br></p><p> </p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　 </p><p><br></p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p> </p><p>授業が終わると同時に私の元へ来た結菜に、事の顛末を説明する。 </p><p><br></p><p> </p><p>「はー。なるほどねー！ちょーラッキーじゃん！運命じゃん！」 </p><p><br></p><p> </p><p>「う、運命って・・・。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「えー？だってたまたま通り雨で２人で雨宿りってなんか映画みたーい！」 </p><p><br></p><p> </p><p>お弁当の唐揚げを大きな口に放り入れながら結菜は言う。 </p><p><br></p><p> </p><p>「う、うん・・・。でも、確かに嬉しくて心臓が爆発するかと思った。やばかった。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「ははっ。よかったね、莉花。・・・で、今日もまた部活見に行くの？」 </p><p><br></p><p> </p><p>「うん。行く。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「ははっ。即答。」 </p><p><br></p><p> </p><p>私より大きなお弁当箱の中身を先に空にした結菜は笑って言った。私はまだ半分残っているお弁当の中身をせっせと平らげながら聞く。 </p><p><br></p><p> </p><p>「今日は結菜も一緒に行ける？」 </p><p><br></p><p> </p><p>「うん。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「やった！」 </p><p><br></p><p> </p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　 </p><p><br></p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p> </p><p>放課後。 </p><p><br></p><p>久しぶりの応援席で以前と同じスタンドの一番端っこに隠れるように座る。 </p><p><br></p><p>相変わらず、いや夏休み前よりスタンドは女子たちでいっぱいだ。 </p><p><br></p><p>バレー部はもうすぐ大きな大会の試合が待ち構えている。 </p><p><br></p><p> </p><p>いつものように女子たちから黄色い声援が飛ぶ。 </p><p><br></p><p> </p><p>「牧田くーん、がんばってー！」 </p><p><br></p><p> </p><p>いつものように練習前の牧田先輩が、1階から女子たちの声援に手を振りながら応えている姿を惚れ惚れ見ていると先輩と目が合った。気がした。 </p><p><br></p><p> </p><p>「あ！今野さん！」 </p><p><br></p><p> </p><p>先輩は笑顔でこちらに手を振ってくる。目があったのは気のせいではなかったらしい。 </p><p><br></p><p> </p><p>私の心臓はいつものように瞬時に、壊れるんじゃないかと思うほど跳ね上がる。 </p><p> </p><p>目立ちたくない私は、小さく会釈を返す。 </p><p><br></p><p> </p><p>体育館の真ん中にいた先輩はそんな私にお構いなしにスタンドの端にいる私の方へ向かって歩いてくる。 </p><p><br></p><p> </p><p>「マジで来てくれたんだー！ありがとう！」 </p><p><br></p><p> </p><p>先輩は周囲の女子がキャーキャーと騒いでいることに気付いているのかいないのか、気さくに手を振りながら話しかけてくる。 </p><p><br></p><p> </p><p>結菜の後ろに隠れるようにしている私を結菜がグイグイと手を引いてスタンドの柵の方まで連れて行く。 </p><p><br></p><p>女子たちが騒然としている中、ほとんどパニック状態の私は声を絞り出した。 </p><p><br></p><p> </p><p>「あ、あの・・・。がんばってください！」 </p><p><br></p><p> </p><p>聞こえたかどうかわからないような声で言ってしまった私に、先輩はあの眩しい笑顔で答えてくれる。 </p><p><br></p><p> </p><p>「ありがとう！がんばるよー！・・・そうだ！今度カップケーキ作って来てよ！」</p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>――・・・え？カップケーキ？ </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>私が返事をする前に、キャーッという女子たちの悲鳴と共に、主将の山下先輩が牧田先輩をコート中央へ引き戻していった。 </p><p><br></p><p> </p><p>「す・・・すごいじゃん！莉花！牧田先輩、アンタのこと見つけてくれたじゃん！こんな女子だらけのキャーキャーのカオスみたいなとこで！」 </p><p><br></p><p> </p><p>結菜が興奮気味に言う。 </p><p><br></p><p> </p><p>「う、・・・うん。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「カップケーキって何！？なんでアンタがカップケーキ作るの！？すごいじゃん！作ってって言われてんじゃん！」 </p><p><br></p><p> </p><p>「う、うん。・・・結菜。私、嬉しくて舞い上がってる。今にも空飛びそう・・・。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「よ、よかったじゃーん！莉花―。」 </p><p><br></p><p> </p><p>そう言って結菜が私に抱きついてくる。 </p><p>私も嬉しくて、ギュッと結菜を抱き締め返した。 </p><p><br></p><p> </p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>日曜日。 </p><p><br></p><p> </p><p>「結菜―。先輩にカップケーキ作るのはいいけど、どうやって渡したらいいのー？」 </p><p><br></p><p> </p><p>私は結菜の家に遊びに来ていた。 </p><p><br></p><p> </p><p>「えー？普通に部活見に行った時にささっと渡せばいいじゃん。約束のブツですってな感じで。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・何、ブツって。なんか物騒な言い方しないでよ。部活見に行った時なんて人だらけで絶対渡せないよー！」 </p><p><br></p><p> </p><p>私は結菜の部屋のテーブルに突っ伏する。 </p><p><br></p><p> </p><p>「なあんで？いーじゃーん。みんな見てたんだからさー、牧田先輩の方からアンタに作ってって言うの。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「そうだけどー。私なんかから・・・。」 </p><p><br></p><p> </p><p>そう言って私はハッとして結菜の方を見る。 </p><p>結菜はまた少し怒った顔をしている。 </p><p><br></p><p> </p><p>「ご、ごめん。私また・・・。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・まあ、いいよ。気付いたんだから。でも、ホントに止めなね。私なんかが作ったものなんて言われたら先輩だっていやなんじゃない？」 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・うん。」 </p><p><br></p><p> </p><p>落ち込む私に結菜は頭をポンポンと叩きながら言う。 </p><p><br></p><p> </p><p>「ほらー。しょげないで。渡すのついてってあげるから。」 </p><p><br></p><p> </p><p>私は救世主を見る目で結菜を見る。 </p><p><br></p><p> </p><p>「ほ、ほんと？嬉しい！さすが結菜！ありがとー。」 </p><p><br></p><p> </p><p>涙目になっている私を見て結菜は言った。 </p><p><br></p><p> </p><p>「まあ、莉花にしては今すごいがんばってるもんね。料理部の部長もやって、好きな人にも毎日会いに行って。」 </p><p><br></p><p> </p><p>結菜に褒められると嬉しい。 </p><p><br></p><p> </p><p>「へへ。・・・ありがとう。結菜。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「あ、今好きな人って認めた！」 </p><p><br></p><p> </p><p>「あ！・・・い、いや。ち、違う・・・。」 </p><p><br></p><p> </p><p>言いかけて黙った私を結菜が不思議そうな目で見る。 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・うん。違くないや。」 </p><p><br></p><p> </p><p>私は結菜を見ながら言った。 </p><p><br></p><p> </p><p>「私、先輩のこと好き。・・・だ、だから、がんばってみる！」 </p><p><br></p><p> </p><p>決心した私が結菜を見ると、結菜は驚いた顔で私を見ている。 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・おおー！えらい！よく言った！」 </p><p><br></p><p> </p><p>笑顔で褒めてくれる結菜に、ちょっと気を大きくし過ぎた気がする私は小さな声で訂正する。 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・できる限り。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「ちょっと！」 </p><p><br></p><p> </p><p>結菜が慌てて言うので、2人で声を立てて笑った。 </p><p><br></p><p> </p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　 </p><p><br></p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p> </p><p>「とっ、とうとうこの日が来た！」 </p><p><br></p><p> </p><p>私が意を決して言うと、結菜が軽く突っ込む。 </p><p><br></p><p> </p><p>「まるで告白するみたいじゃーん。ただ作って欲しいって言われたカップケーキ渡すだけでしょ？それとも告白するの？」 </p><p><br></p><p> </p><p>「こ！告白なんて！まだそんな！心の準備が！し、死んじゃう！」 </p><p><br></p><p> </p><p>「ほおーん。・・・まだってことは、いつかはする気があるってことだあ？」 </p><p><br></p><p> </p><p>結菜はちょっと意地悪そうな顔をして言う。 </p><p><br></p><p> </p><p>「あ、う、いいいや、それは、まだ・・・。」 </p><p><br></p><p> </p><p>ごにょごにょ言う私を結菜は引っ張っていく。 </p><p><br></p><p> </p><p>「まあ今はいいよ。その作ったカップケーキ今日こそは渡しなよね。散々練習見に行ってんのに結局渡せないで、とうとう試合の日になっちゃったじゃん。ハードル上がってるでしょ。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「う・・・。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「ったく！先輩だって待ってたらどうすんの？これで何回目？私に何個カップケーキ食べさせんの？太らす気？・・・まあ、美味しいからいいけどさー。」 </p><p><br></p><p> </p><p>私は、あの後すぐにカップケーキを作ったけれど、バレー部の練習後渡す勇気が出せないままグズグズしているうちに先輩は帰ってしまうということを繰り返し、何度も結菜に食べてもらうことになってしまっている。 </p><p><br></p><p> </p><p>先輩は、私が行くときはいつも見つけてくれて声をかけてくれるようになったというのに、私の方はいつまで経っても勇気が出せない。 </p><p><br></p><p> </p><p>そして、体育館での部活前のわずかな時間に先輩が私に声をかけてくるようになったせいか、以前はヒッソリコッソリ人がいない端で見ていたけど、今は練習前のスタンドの隅に人がいっぱいという現象が起きていた。 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>そして今日はカップケーキを作って6回目。 </p><p><br></p><p> </p><p>今日こそは、と毎回思うのだけど毎回最後の勇気が出ない。 </p><p><br></p><p> </p><p>とうとう、全国大会への出場がかかった試合の日になってしまった。 </p><p><br></p><p> </p><p>いつもの練習終わりの方が、まだ人も少ないし先輩に近づくチャンスもある。 </p><p><br></p><p>けど今日はどうなるかわからない。もしかしたらいつもよりもっと迷惑になってしまうかも。</p><p>そう思うと気が引ける。 </p><p><br></p><p> </p><p>「やっぱり渡すの諦めようかなあ。」 </p><p><br></p><p> </p><p>私が独り言のように呟いたのを聞き逃さなかった結菜が言った。 </p><p><br></p><p> </p><p>「莉花。何言ってんの？先輩、今日は試合でがんばるんじゃん。そうやってがんばってる先輩のこと好きになって、自分もいろいろがんばり始めたんでしょ？それなのに、やっぱり諦めるなんて、そうやって簡単にそういうこと口にするのホント、莉花の良くないとこだと思う。」 </p><p><br></p><p> </p><p>いつも結菜には叱咤されてるけど、今日はいつもよりもその口調も言葉も重い。</p><p>結菜がいつもより本気で怒っているのがわかる。 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・あ、ごめん。」 </p><p><br></p><p> </p><p>私は俯いて結菜に謝る。結菜も俯きながら言う。 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・ごめん。私も強く言いすぎた。結局、渡すか渡さないかは莉花次第だけど、牧田先輩、他の子にはカップケーキ欲しいとか言ったりもしないし、そもそも声援には手を振って応えてるけど自分から話しかけたりしないじゃん。・・・がんばんなよ。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・うん。わかった。」 </p><p><br></p><p> </p><p>私はさっきよりも小さい声で答えた。 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>――わかってる。情けないって。告白どころか、作ってって言ってもらえたカップケーキを渡すだけもできないって。・・・でも、怖い。結菜や先輩みたいにみんなの前で何かしたりハッキリと意思表示したりすることがとても怖い。 </p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>「・・・結菜、いつもありがとう。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「っふ！何それ。」 </p><p><br></p><p> </p><p>結菜はちょっと照れくさそうに笑顔を浮かべた。 </p><p><br></p><p> </p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　 </p><p><br></p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p> </p><p>試合は現在第3セット目。 </p><p><br></p><p> </p><p>1.	第2セットと1-1で迎えた最終セット。 </p><p><br></p><p>相手チームがたった今得点を決めて、19-20で相手チーム優位で試合が進行中だ。 </p><p><br></p><p> </p><p>第3セット目序盤、立ち上がりは良く常にリードしていた我が校の男子バレー部だけど、1本のレシーブミスから相手チームのサーブがことごとく決まり、とうとう逆点されてしまい先に20点の大台に乗られてしまった。 </p><p><br></p><p> </p><p>試合の流れも向こうに譲り渡したままの厳しい状況。 </p><p><br></p><p>コートにいる部員たちの表情は険しい。 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>――もう試合も終盤で、みんな気力も体力も限界ギリギリだよね、きっと。負けたらもう、先輩の部活姿、見れない。 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>私はいつものように目立たない端の方の席で、祈るように手を握りしめる。 </p><p> </p><p>と、味方の応援団も活気がなくなっていた中、良く通る聞き慣れた声がコートに響いた。 </p><p><br></p><p> </p><p>「ドンマイドンマーイ！いつもどーり！1本切ってくぞー！」 </p><p><br></p><p> </p><p>聞き慣れた声、聞き慣れた言葉。 </p><p><br></p><p> </p><p>これまで何度も見てきた。 </p><p><br></p><p> </p><p>試合形式の練習中、練習試合、公式戦。 </p><p><br></p><p> </p><p>牧田先輩の口から何度も聞いた言葉。 </p><p><br></p><p> </p><p>その言葉でコート上だけでなくベンチやベンチに入れていないチーム全員の士気が上がった。 </p><p>その言葉をきっかけにチームメイトたちからも次々と活気づける声が上がる。 </p><p>応援団も活気を取り戻す。 </p><p><br></p><p> </p><p>宣言通りに相手チームのサーブをリベロの若林先輩が切り、セッターの相羽くんから上がったトスから逆転のスパイクを牧田先輩が決める。 </p><p><br></p><p> </p><p>ワッ </p><p><br></p><p> </p><p>歓声が上がる。 </p><p><br></p><p>先輩と出会った日の激しい驟雨のように耳に響いた。 </p><p><br></p><p> </p><p>この驟雨のような歓声の中、先輩はコートの真ん中に立ってガッツポーズをしている。 </p><p><br></p><p> </p><p>私は手を祈るように握りしめたまま、ただ先輩を見つめていた。 </p><p><br></p><p> </p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　 </p><p><br></p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>その後、流れを取り返した我が校のバレー部は逆転。 </p><p><br></p><p> </p><p>21-20 </p><p><br></p><p> </p><p>23-22 </p><p><br></p><p> </p><p>24-23 </p><p><br></p><p> </p><p>秋風高校はリードを保ったままラスト1点取れば、勝利というところまで来た。 </p><p><br></p><p> </p><p>勝てば次へ。 </p><p>負ければそこで終わり。 </p><p><br></p><p> </p><p>相手がどんなに強いチームでも、負けたらそこで終わりになってしまう試合。 </p><p><br></p><p>3年生の先輩にとっては1試合1試合が高校最後の試合になるかもしれない。 </p><p><br></p><p> </p><p>そんなギリギリの中で戦っている先輩はいつだって信じられないぐらい格好いい。 </p><p><br></p><p>あんなに一生懸命走って、跳んで、打って、受けて、転がって、また立ち上がって。 </p><p><br></p><p> </p><p>1年前から男子バレー部を見てきて、負けて悔し泣きをする姿、勝って雄叫びを上げながらガッツポーズをする姿、たくさんの姿から勇気づけられてきた。 </p><p><br></p><p> </p><p>再び相手チームのサーブ。山下先輩のレシーブからセッターがあげたトス。 </p><p>待ち構えていた先輩に上がったトスは先輩の力強い掌から放たれ、相手チームのコートへ轟音と共に叩き付けられた。 </p><p><br></p><p> </p><p>試合終了のホイッスルが鳴り、雄叫びを上げる先輩たち。 </p><p><br></p><p> </p><p>天を仰ぐ相手チームの選手たち。 </p><p><br></p><p> </p><p>その一瞬一瞬全てが、私に、きっとこの会場に来た全ての人に、1歩踏み出す勇気をくれる。 </p><p><br></p><p> </p><p>今勝っても次負けるかもしれない。 </p><p>次勝ってもその次負けるかもしれない。 </p><p><br></p><p> </p><p>一生懸命練習したから絶対勝てるわけじゃない。 </p><p><br></p><p> </p><p>誰かが必ず勝つから、誰かが必ず負ける。 </p><p><br></p><p> </p><p>誰かが必ず負けて悔しい、苦しい気持ちを味わうから、誰かが必ず勝って嬉しい、誇らしい気持ちを味わえる。 </p><p><br></p><p> </p><p>そういう世界で戦っている姿が、勝っても負けても私の目には眩しく輝いて見える。 </p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　 </p><p><br></p><p><br></p><p>つづく</p>
		</div>
	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[少年彩里水の不思議冒険譚　-不思議の国の入り口64-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10439587/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10439587</id><summary><![CDATA[64　ワンダフルランドワーワーと話し続けていた白兎はキャンドーの言葉に我に返る。「・・・え？なんて？」「不思議の国は、ワンダーランド、と言うんですが、そもそもはワンダフルランドだったとも言われています。」キャンドーが続ける。「ワンダフルってすごいとかって意味だっけ？」彩里水はキャンドーに尋ねる。「そうです。ワンダフルというのは素晴らしいとか不思議なとか素晴らしいとかいう意味があるんですよ。ちなみにワンダーは驚きとか、奇跡とかいう意味です。」「ほおーう。」彩里水と白兎の2人は声を揃えて返事をする。「元々ワンダフルランドは思ったことが何でも叶う、素敵な、素晴らしい国、それが不思議なことも何でも叶うどんなことも思いのまま、という奇跡の国という形になっていったという説があります。詳しくは国の成り立ちというこの国の教科書を参考にしてください。」キャンドーはおもむろに教科書をどこからともなく取り出す。「それ、どっから出したの！？」白兎が目が飛び出しそうなほど驚いて言う。「どこでもありません。思ったことが叶う、と言ったでしょ？つまり私が、ここに教科書があると思えばそうなるんです。他の国でももちろん信じたことが叶うこともあるし、叶わないこともある。不思議の国の昔からの言い伝えによると、不思議の国以外の他の国でも全て信じたことだけが叶うはずなんです。ですが、人々の信じる力はだんだんと弱まっていき、今では信じたことが全て叶うことなんてあるはずがないというのが他国での常識になっているようです。ですから、信じたことが全て起こる不思議の国は信じられないことが起きる国なんです・・・。ああ、この話は今は関係ありませんでしたね。」ゴホンと咳払いをすると、キャンドーは続ける。「つまり、彩里水さんはここから抜け出すには地中に入って行けばいいんだと心から信じたと言うことになります。そうすれば、それが瞬時にどんなことでも反映される場所。それがこのワンダーランドなんです。」そこで白兎は疑問を口にする。「でも、それならオレらずっとここから脱出したいって思ってたのになんでこんな大変なの？」「白兎くん、君はここから抜け出すのが大変だと信じてはいませんでしたか？」「え？・・・あ、ああ、思ってた。」「つまり、抜け出すのが大変なことになっているわけです。」「うおおおおお！」白兎はわかったようなわからないような、でもなぜだかとても気持ちが高揚し興奮し叫んだ。「でもさ、それならキャンドーさんやキップとクップだって城にいないでいつでも好きなときに好きな場所へ行けるんじゃないの？」今度は彩里水が尋ねる。「・・・私たちは根底に強力に信じてしまっていることがあるんです。ここからは抜け出せない、抜け出してはいけない、というある種暗示のようなものがかけられている。かけられているとわかっていても抜け出すことが容易ではないほど強力なんです。と言うより、あなたたちが来るまで、ここから抜け出したという気持ちを持っていたことすら忘れていた程です。」「ほう？」理解できたようでイマイチ理解できていない2人は、理解しかねるような声で答える。「まあ、この国やこの世界については機会があれば追々説明します。今は、この国で一番重要なことは“信じる強さ”だということを覚えていてください。心から信じていること。上辺だけでそうなったらいいなと思っていることとは少し違います。わかりますか？」「うーん？」2人は首をかしげながら曖昧に返事をする。「まあ、それは頭で理解すると言うよりも感覚的に掴んでいくものかもしれません。とにかくこの国は、思ったことが何でも叶う素敵な国だということ、そして他の国にもそのような伝承があるということを実証させられる国なんです。」つづく]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-09-27T10:00:44+00:00</published><updated>2020-09-27T10:00:56+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
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			<img src="https://www.instagram.com/p/CD6N5l1HUWk/media?size=l&width=960" width="100%">
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			<h4>64　ワンダフルランド</h4><p><br></p><p><br></p><p>ワーワーと話し続けていた白兎はキャンドーの言葉に我に返る。</p><p><br></p><p>「・・・え？なんて？」</p><p><br></p><p>「不思議の国は、ワンダーランド、と言うんですが、そもそもはワンダフルランドだったとも言われています。」</p><p><br></p><p>キャンドーが続ける。</p><p><br></p><p>「ワンダフルってすごいとかって意味だっけ？」</p><p><br></p><p>彩里水はキャンドーに尋ねる。</p><p><br></p><p>「そうです。ワンダフルというのは素晴らしいとか不思議なとか素晴らしいとかいう意味があるんですよ。ちなみにワンダーは驚きとか、奇跡とかいう意味です。」</p><p><br></p><p>「ほおーう。」</p><p><br></p><p>彩里水と白兎の2人は声を揃えて返事をする。</p><p><br></p><p>「元々ワンダフルランドは思ったことが何でも叶う、素敵な、素晴らしい国、それが不思議なことも何でも叶うどんなことも思いのまま、という奇跡の国という形になっていったという説があります。詳しくは国の成り立ちというこの国の教科書を参考にしてください。」</p><p><br></p><p>キャンドーはおもむろに教科書をどこからともなく取り出す。</p><p><br></p><p>「それ、どっから出したの！？」</p><p><br></p><p>白兎が目が飛び出しそうなほど驚いて言う。</p><p><br></p><p>「どこでもありません。思ったことが叶う、と言ったでしょ？つまり私が、ここに教科書があると思えばそうなるんです。他の国でももちろん信じたことが叶うこともあるし、叶わないこともある。不思議の国の昔からの言い伝えによると、不思議の国以外の他の国でも全て信じたことだけが叶うはずなんです。ですが、人々の信じる力はだんだんと弱まっていき、今では信じたことが全て叶うことなんてあるはずがないというのが他国での常識になっているようです。ですから、信じたことが全て起こる不思議の国は信じられないことが起きる国なんです・・・。ああ、この話は今は関係ありませんでしたね。」</p><p><br></p><p>ゴホンと咳払いをすると、キャンドーは続ける。</p><p><br></p><p>「つまり、彩里水さんはここから抜け出すには地中に入って行けばいいんだと心から信じたと言うことになります。そうすれば、それが瞬時にどんなことでも反映される場所。それがこのワンダーランドなんです。」</p><p><br></p><p>そこで白兎は疑問を口にする。</p><p><br></p><p>「でも、それならオレらずっとここから脱出したいって思ってたのになんでこんな大変なの？」</p><p><br></p><p>「白兎くん、君はここから抜け出すのが大変だと信じてはいませんでしたか？」</p><p><br></p><p>「え？・・・あ、ああ、思ってた。」</p><p><br></p><p>「つまり、抜け出すのが大変なことになっているわけです。」</p><p><br></p><p>「うおおおおお！」</p><p><br></p><p>白兎はわかったようなわからないような、でもなぜだかとても気持ちが高揚し興奮し叫んだ。</p><p><br></p><p>「でもさ、それならキャンドーさんやキップとクップだって城にいないでいつでも好きなときに好きな場所へ行けるんじゃないの？」</p><p><br></p><p>今度は彩里水が尋ねる。</p><p><br></p><p>「・・・私たちは根底に強力に信じてしまっていることがあるんです。ここからは抜け出せない、抜け出してはいけない、というある種暗示のようなものがかけられている。かけられているとわかっていても抜け出すことが容易ではないほど強力なんです。と言うより、あなたたちが来るまで、ここから抜け出したという気持ちを持っていたことすら忘れていた程です。」</p><p><br></p><p>「ほう？」</p><p><br></p><p>理解できたようでイマイチ理解できていない2人は、理解しかねるような声で答える。</p><p><br></p><p>「まあ、この国やこの世界については機会があれば追々説明します。今は、この国で一番重要なことは“信じる強さ”だということを覚えていてください。心から信じていること。上辺だけでそうなったらいいなと思っていることとは少し違います。わかりますか？」</p><p><br></p><p>「うーん？」</p><p><br></p><p>2人は首をかしげながら曖昧に返事をする。</p><p><br></p><p>「まあ、それは頭で理解すると言うよりも感覚的に掴んでいくものかもしれません。とにかくこの国は、思ったことが何でも叶う素敵な国だということ、そして他の国にもそのような伝承があるということを実証させられる国なんです。」</p><p><br></p><p>つづく</p>
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	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[この驟雨に打たれて-1-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10439872/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10439872</id><summary><![CDATA[この激しい驟雨のような歓声の中、コートの真ん中に立つあなたは今までで一番輝いていた。    　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　    5月。 高校生活に少しは慣れてきた頃、親友の結菜に誘われて体育館へ行った。  そこで、1つのボールを夢中になって追うバレー部の中に先輩を見つけた。  　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　   「キャー！牧田センパーイ。」  女子の黄色い歓声を一手に引き受けていたのは3年生の牧田涼介先輩。 先輩は練習が始まる前までは、女の子たちの声援に手を振って応えていた。 答えられた女子生徒たちは、先程よりさらに大きい、ひっくり返りそうな程の高音で叫んでいる。   ――すごい。人気なんだなー。   我が秋風高校バレーボール部は強豪で、全国大会常連校の大所帯だった。 その中でも牧田先輩はエース。その実力と華やかな顔と雰囲気で、いつも周りは女子でいっぱいだった。  そういう先輩がいるという噂を、私も今まで耳にしたことはあった。けれど、自分には関係のない世界の人だと、さして興味を持ってはいなかった。  私はいつも、自分の世界にこもりがちだった。友人を作るのも苦手で唯一の親友の結菜にも、それについていつも叱咤されていた。  この高校に入ることを決めた理由も中学から仲の良かった結菜が秋風高校に行くと聞き、もっと学力レベルの高い高校を目指せると両親や先生から言われても同じ学校に行くと言ったのだ。 高いレベルに挑戦することも結菜から離れることも怖かった。  高校1年では結菜とはクラスが離れてしまい、友達を作るのが大変だった。 2年に上がったときに結菜と同じクラスになれたときは本当に安心した。   そんな私のことを結菜はアチコチに連れていってくれる存在。時々強引で少し困ることもあるけれど、結菜と一緒なら大抵楽しいし安心だから私はいつでもついて行った。 だから1年生の5月に、この体育館へ「格好良い先輩がいるらしいから応援に行こう」と誘われたときも特に何も考えずついて行っただけだった。  体育館には小規模のスタンドがあり、そこから多くの女子生徒がバレー部の練習試合を見に来ていた。ほとんどの女子生徒は主に牧田先輩を応援しているらしかった。  私としては当時2年の、しかも運動部の、しかもバレー部の男子の先輩などは、背も高く恐ろしく、決して自分からは近づかない、むしろいたらなるべく避けて通るような存在だった。  そのバレー部の人たちが、たった1つのボールを追いかけ、受け、跳び、打っているその姿は、息が切れて苦しく、点を取られて悔しい最中も、一生懸命でひたむきで楽しげだった。私はそこから目を放すことができなくなっていた。  中でも牧田先輩は、多くの女子たちが悲鳴とも言える叫びを上げて応援するのが理解できるほど、見る者を惹きつけて放さなかった。  　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　   初めて練習試合を見に行ったあの日から1年以上、所属している料理部の活動がない日以外は、バレー部の練習を私はいつも見に行くようになっていた。他の女子たちに混ざりつつも目立たない、スタンドの隅の方で。  「莉花ぁ。今日もバレー部見に行くの？」  「・・・うん。」  私が小さな声で返事をすると、結菜は大声で笑い始めた。  「なっ、何！？」  急に笑われて少しムッとして私が聞くと、結菜は答えた。  「ごめんごめーん。だってー。莉花がそんなにハマるなんてほんとびっくりしちゃってさー。私、今日は付き合えないよ？」  「うん。大丈夫。ありがとう。」  「・・・いやー、莉花が1人でも校内をうろちょろする程ハマるなんて、あの日無理やり連れて行って良かったなー。」  結菜は腕組みをしてうんうんと頷いている。  「・・・。私だって、こんな毎日毎日見に行くほどハマるとは思わなかったよ。でも、本当に格好良かったから・・・。」  私が夢見がちに遠くを見ながら言うと、結菜は呆れた調子で言った。  「はいはーい。牧田先輩でしょ。・・・でも意外だなー。莉花は先輩みたいななんとなくチャラそうなタイプとか絶対好きになんなそうだったしー。」  「す、好きって言うわけじゃ・・・。ただのファンだよ。それに・・・まあ、先輩はみんなに人気だし、チャラいんじゃなくて愛想が良いだけじゃない？・・・知らないけど。でも、別にそんなことはいいの！バレーやってる姿が格好いいなって思ったんだから！」  私はムキになって結菜に対抗する。  「わかったわかった。ごめん。良いと思うよ。ってか嬉しいよ。莉花は積極的に人に関わろうとしないとこあるからさー。莉花にもちゃんとそういう感情あったんだって思って。」  「ど、どういう意味―？」  私はジトッと結菜を睨む。  「ははは！ホント、莉花は可愛いんだからー。・・・思い切って告白してみればー？もう1年ぐらい週3-4日通い詰めてんだしさー。案外、あのいつも来てる子、可愛いなーって、先輩も気になってたりするかもよー？莉花はその地味な眼鏡止めればすごい美人なんだからさー。・・・それに、このままだとまた何もないまま夏休みになっちゃうよ？」  「じ、地味な眼鏡って・・・。そ、それに、そんな告白なんて！・・・そんなんじゃないよ！それに、私のことなんて気付いてるわけないじゃん！超隅っこで誰にも気付かれないようにヒッソリコッソリ見てるんだから！」  「いや、絶対気付かれてないとこに自信を持ってどうすんの？それに気付いてないかどうかなんてわかんないじゃーん。」  「そ、そんな・・・。と、遠くから見てられればそれでいいって言うか・・・。わ、私なんか・・・」  だんだん声の勢いが小さくなっていった私に結菜がちょっと怒ったような口調で言う。  「あ！まーた言ってる！“私なんか”。ダメだって言ってるじゃん、その口癖。莉花にはいいところいっぱいあるんだから、私なんかって、思ったり言ったりするのやめなよー。」  「う、うん。・・・ごめん。わかってる。」  そう、私は自分に自信がなくて、すぐに自分を卑下してしまう。自分でもこれを直さなくてはと思っているけれど気付くといつもその思考に陥っている。  「でも、いいの。本当に。別に付き合いたいとか、話したいとかそういうんじゃないの。ただ、先輩やバレー部のみんなががんばってる姿を見ると、私もちょっとでも勉強や部活がんばろうって元気もらえるから、それでいいの。そのために見に行ってるようなもんなの。」  さらに小さくなりながら話している私を見た結菜は、フウっとため息を小さくついて言った。  「・・・まあ、わかるけどさー。ほんと、バレー部ががんばってるの格好いいよね！応援したくなる！」  「・・・うん。」  元気な笑顔で言う結菜を見て、私も少しだけ笑顔を取り戻して答えた。  　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　   偶然。  7月、その後も、夏休みの直前まで私はバレー部の練習をヒッソリと見に行っていた。夏休みもバレー部はほとんど毎日部活があるようだった。私は夏休み中、料理部の活動がある日だけ、コッソリと見に行くことにした。今日も見に行く予定だ。  「部長、さようならー。」  「うん。さようなら。気をつけて帰ってね。」  私は、後輩に挨拶を返すと顧問の先生と話をするために職員室へ向かった。  夏休み前に料理部の3年生が部活を引退して、次期部長を決める際、3人しかいない2年生の私たちは話し合いで部長と副部長を決めた。  同じ料理部2年のりっちゃんとまなちゃんは、私の数少ない大切な友人だ。  その2人から「部長は絶対莉花！」と強く言われていた。 でも、私は初め断るつもりでいた。   ――部長なんて私なんかににできるはずがない。   そう思っていた。  でも、牧田先輩やバレー部のみんなは、あんなに汗だくになって毎日ものすごい強烈なレシーブを受け取って、サーブを打って、どうしてそんなに動けるのかと思うほど限界まで毎日走り続けている。 そんなバレー部の姿をほぼ毎日見て、その練習を思い出したとき、私も何かやらなければと思った。  少なくとも大切な友人の2人が「絶対私」と言ってくれているのに断るのは、大切な友人たちに失礼な気もした。 だから、私にしてはものすごくがんばって「部長をやります」と言った。言ったら2人は手を叩いて喜んでくれたし、結菜にも報告するととても喜んで応援すると言ってくれた。 私はとても幸せ者だと改めて実感した。  結菜はダンス部で部長をしている。 高校に入った当初は結菜と同じ部活に入ろうかととても悩んだけど、運動が苦手な私がダンス部は絶対無理だと思ったし、料理だけは昔から好きだった。結菜にも「せっかく料理部があるし、莉花の作ったお菓子食べたい」と言ってもらい、ドキドキしながら入部届を出しに行ったことがまるで昨日のことのようだ。  部長としてはまだまだ始まったばかりで、部長と呼ばれることもまだ慣れていない。前部長のようにしっかりした部長になれるとは到底思えないけど、この任された仕事を精一杯やってみようと思っていた。   　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　  顧問の先生との話を終え昇降口に来ると、外はものすごい勢いで雨が降っていた。折りたたみ傘は持っているけど、傘を持っていても太刀打ちできそうにないぐらいの勢いだった。  靴に履き替えポーチで様子を窺っていると、屋根のあるポーチに後ろから駆け込んでくる人がいた。  「うわー！雨ちょーやべー！」  驟雨に打たれズブ濡れになった男子生徒を視認して、私はその場に固まった。  駆け込んできたのは部活の練習着を着た牧田先輩だった。  私が驚いて見ていると、視線に気付いた牧田先輩が言った。  「雨やばいね。めっちゃ濡れちゃったよ。」   ――わ、私に話しかけてる！？   思わずキョロキョロと辺りを見回しても、私以外に人はいない。  「ははっ。」  先輩に笑われて私は少しうろたえる。  「あ、ごめんね。いや、急に話しかけられてビビったよね。・・・2年生？」  うちの高校は、女子はセーラー服。タイの色が学年毎に違う。  「・・・あ、はい。そうです。」  私は顔が赤くなっていないことを祈りながらなんとか答える。  「何さん？」  先輩は下を向いている私の顔を覗き込みながら聞く。  「あ、えっと・・・今野です。」  このものすごい勢いの驟雨にかき消されてしまっているのではないかというほど小さな声しか出ない。  「え？」  先輩は、やはり聞こえなかったらしく耳を私に向けて１歩近付いてくる。私の鼓動は高鳴り、手は震えだしていた。  私は、今度は大きな声を出さねばと思い切って言う。  「今野です！」  今度は予想外に大きな声がでた。  先輩が驚いてこちらを見ている。   ――終わった。   絶対に真っ赤になっている私の顔を見て、先輩は堪えきれずという感じで笑い出した。  「ははははは！・・・・いや、ごめん。・・・・馬鹿にしてるとかじゃないから。可愛くって。今野さんかー。オレ、牧田。」  先輩は笑いながら言う。   ――か、可愛いって言った！？普通こんなことっさらっと言える！？リア充ってそういうもん！？   先輩に笑われ恥ずかしさで涙目になりながらも、そう言って笑っている先輩の髪からポタポタと雫が垂れていることに私はようやく気付いた。  鞄に入っているはずの使っていないタオルをガサガサと探す。  「あの、これ、使ってないんで良かったら使ってください。」  そう言って先輩にタオルを突き出した私は、自分の手が震えていることに気付く。   ――うわ！手が震えてる！・・・先輩、気付いたかな？   先輩の顔をチラリと盗み見ると、先輩は差し出された手を凝視している。   ――めっっっちゃガッツリ見てる！当たり前だよね！自分で差し出したんだから！・・・うう、恥ずかしい！て言うか、今気付いたけど急にタオル知らない人から渡されるとか怖いかな？余計なお世話？やばい！・・・やっちゃった！？   そんなことを思っていると先輩は差し出されたタオルを受け取り言った。  「マジで？いいの？ありがとう！」  そう言った先輩はまるで少女漫画に出てくる人のように眩しい笑顔だった。  私は、先輩が私の渡したタオルで頭や顔を拭く姿にしばらくボーッと見惚れていた。   ――せ！先輩が！牧田先輩が私のタオルを使っている！あ、頭を！顔を拭いているーーーーー！！！！！！   心の声が口から出そうになるのを必死で堪えていると先輩がポーチの先へ雨の様子を見に行きながら言った。  「しかしすごい雨だよねー。これなかなか止まないのかなー？・・・今野さんは？傘持ってないの？」   ――傘・・・。持ってる・・・。けど。   「・・・も、持ってないです。」   ――持ってる。けど、まだ、先輩といたい・・・。   「あー、そりゃ帰れないよねー。」  「は、はい。」  「オレは部活の途中なんだよね。ちょっとケガして保健室行って来たんだけど、早く戻んないと山ちゃんにめっちゃ怒られちゃうなー。」   ――あ、そうだ。バレー部は今日もまだ練習なんだ。   私は、いつか先輩に言えたらと思っていたことがあることを思いだした。   ――い、言うなら今しかないよね。もう２度と先輩とこんな風に話すチャンスなんかないんだから！でも、急に言ったら変かな？・・・で、でも！   「あ、あの・・・。あの！」  心臓が痛い。 はち切れそう。 心臓ってこんなに脈打って大丈夫なんだっけ。 手も震えてる。  「部、部活がんばってください！応援してます！」  私は心臓が爆発するかもしれないというぐらいドキドキしながら言った。   ――俯いてたし、聞こえてないかも。声も震えてた。震えてるの先輩に気付かれたかな。   また恐る恐る先輩の顔を見ると、先輩はまたあの眩しすぎる笑顔で言った。  「ありがとう！」  「は、はい。」  「今野さんは？今日部活？」  先輩は、私の心臓が今にも口から飛び出しそうになっているとは全く気付いていないような様子で聞いてくる。  「あ、そうです。」  「何部なの？ちなみにオレ、バレー部。」  「あ、はい。知ってます。」 ――と言うか、毎日見に行ってます。   「・・・え？あ、そうだよね。この格好、バレー部って感じだよね。」  先輩は部活の練習着や膝に巻いたサポーターを見せつけるようにしながら言った。練習着の左胸には「秋風高校排球部」と円形に刺繍がされている。  「えっと・・・あの、・・・はい。」  先輩の顔を見る事ができず、下を向いたまま答えた。  「今野さんは何部なの？」  「えっと、料理部です。」  「え！？料理部なんてあんだ！？え！？作ったら食べれるやつ？」  「あ、はい。最後にみんなで食べます。」  「えー。いーなー。女子が作ったカップケーキ食べたいわー。」  そう言った先輩がなんだか可笑しくて私はクスッと笑ってしまう。 それを見た先輩はちょっと意外そうな顔をした。私は慌てて言う。  「あ！すいません。・・・ふふ。なんか可笑しくて。なんでカップケーキなんだろって。」  「・・・あ、そういうこと。いや、なんか漫画とかであるじゃん？家庭科室で作ったカップケーキあげる的な。」  先輩の顔がなんとなく顔が赤く見える。  「ふふふ。ありますっけ？」  その時、先輩越しに見える空が少し明るくなった。  「・・・あ、あのさ・・・」「・・・あ、雨、止んできましたね！」  私と先輩は同時に口を開いていた。   ――・・・しまったー！今、先輩何か言いかけたよね？しまったー！遮ってしまったー！な、なんて言ったんだろ？   「あ・・・今・・・。」 「あ！ホントだ！やっと部活戻れるー！」  今度は私が言いかけた言葉に先輩は気付かず、そのまま小雨が降る中、先輩は体育館の方へ走り出しながら言った。  「じゃあね今野さん！」  「あ、はい！」   ――せ、先輩と！牧田先輩と話してしまった！   今更ながら心臓がまた痛いほど跳ね上がってくる。 私は先輩が駆けていった方に再び目をやる。  あれほどまで激しかった驟雨は一瞬のうちに通り過ぎ、先程までのうだるような暑さを少しだけ和らげていた。太陽が地面を照らし、きらきらと輝いている。   ――今日は、応援に行けそうもない。   私は熱くなりすぎている頭と顔をクールダウンさせようと、太陽が顔を出しているにも関わらず名残惜しく降り続いているほんの少しの雨に打たれながら家へと向かった。  　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　   「おい！牧田―！おまえめっちゃ遅いゾー！」  「ごめん山ちゃん。」  莉花と別れ体育館へ戻った牧田は、いつものようにバレー部主将の山下から喝を入れられる。  「・・・てか何おまえ。そのくまちゃんタオル。」  山下は、牧田が首から垂らしている、およそ牧田には似合わないタオルを見て言う。  「・・・え！？あっ！やべ！返し忘れた！」  「はあ？」  「さっき女子が貸してくれた。」  「はあ！？おまえ、またモテてたのかよー！」  「ちげーよ！そんなんじゃねーし。」  「おまえ、このやろー。」  いつものように女子にモテる牧田に、からかい半分嫉妬半分で絡んでくる山下をかわしながら牧田は呟いていた。  「・・・カップケーキくれないかな。」  「・・・ん？何だって？」  「・・・なんでもねー！練習しようぜー。」  「おう！」   　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　 つづく]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-09-26T12:00:28+00:00</published><updated>2020-09-26T12:00:39+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
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			<p>この激しい驟雨のような歓声の中、コートの真ん中に立つあなたは今までで一番輝いていた。 </p><p><br></p><p> </p><p> </p><p> </p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　 </p><p><br></p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p> </p><p>5月。 </p><p><br></p><p>高校生活に少しは慣れてきた頃、親友の結菜に誘われて体育館へ行った。 </p><p> </p><p>そこで、1つのボールを夢中になって追うバレー部の中に先輩を見つけた。 </p><p><br></p><p> </p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　 </p><p><br></p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>「キャー！牧田センパーイ。」 </p><p><br></p><p> </p><p>女子の黄色い歓声を一手に引き受けていたのは3年生の牧田涼介先輩。 </p><p><br></p><p>先輩は練習が始まる前までは、女の子たちの声援に手を振って応えていた。 </p><p><br></p><p>答えられた女子生徒たちは、先程よりさらに大きい、ひっくり返りそうな程の高音で叫んでいる。 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>――すごい。人気なんだなー。 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>我が秋風高校バレーボール部は強豪で、全国大会常連校の大所帯だった。 </p><p><br></p><p>その中でも牧田先輩はエース。その実力と華やかな顔と雰囲気で、いつも周りは女子でいっぱいだった。 </p><p><br></p><p> </p><p>そういう先輩がいるという噂を、私も今まで耳にしたことはあった。けれど、自分には関係のない世界の人だと、さして興味を持ってはいなかった。 </p><p><br></p><p> </p><p>私はいつも、自分の世界にこもりがちだった。友人を作るのも苦手で唯一の親友の結菜にも、それについていつも叱咤されていた。 </p><p><br></p><p> </p><p>この高校に入ることを決めた理由も中学から仲の良かった結菜が秋風高校に行くと聞き、もっと学力レベルの高い高校を目指せると両親や先生から言われても同じ学校に行くと言ったのだ。 </p><p>高いレベルに挑戦することも結菜から離れることも怖かった。 </p><p><br></p><p> </p><p>高校1年では結菜とはクラスが離れてしまい、友達を作るのが大変だった。 </p><p><br></p><p>2年に上がったときに結菜と同じクラスになれたときは本当に安心した。 </p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>そんな私のことを結菜はアチコチに連れていってくれる存在。時々強引で少し困ることもあるけれど、結菜と一緒なら大抵楽しいし安心だから私はいつでもついて行った。 </p><p>だから1年生の5月に、この体育館へ「格好良い先輩がいるらしいから応援に行こう」と誘われたときも特に何も考えずついて行っただけだった。 </p><p> </p><p>体育館には小規模のスタンドがあり、そこから多くの女子生徒がバレー部の練習試合を見に来ていた。ほとんどの女子生徒は主に牧田先輩を応援しているらしかった。 </p><p><br></p><p> </p><p>私としては当時2年の、しかも運動部の、しかもバレー部の男子の先輩などは、背も高く恐ろしく、決して自分からは近づかない、むしろいたらなるべく避けて通るような存在だった。 </p><p> </p><p>そのバレー部の人たちが、たった1つのボールを追いかけ、受け、跳び、打っているその姿は、息が切れて苦しく、点を取られて悔しい最中も、一生懸命でひたむきで楽しげだった。私はそこから目を放すことができなくなっていた。 </p><p> </p><p>中でも牧田先輩は、多くの女子たちが悲鳴とも言える叫びを上げて応援するのが理解できるほど、見る者を惹きつけて放さなかった。 </p><p><br></p><p> </p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　 </p><p><br></p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>初めて練習試合を見に行ったあの日から1年以上、所属している料理部の活動がない日以外は、バレー部の練習を私はいつも見に行くようになっていた。他の女子たちに混ざりつつも目立たない、スタンドの隅の方で。 </p><p><br></p><p> </p><p>「莉花ぁ。今日もバレー部見に行くの？」 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・うん。」 </p><p><br></p><p> </p><p>私が小さな声で返事をすると、結菜は大声で笑い始めた。 </p><p><br></p><p> </p><p>「なっ、何！？」 </p><p><br></p><p> </p><p>急に笑われて少しムッとして私が聞くと、結菜は答えた。 </p><p><br></p><p> </p><p>「ごめんごめーん。だってー。莉花がそんなにハマるなんてほんとびっくりしちゃってさー。私、今日は付き合えないよ？」 </p><p><br></p><p> </p><p>「うん。大丈夫。ありがとう。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・いやー、莉花が1人でも校内をうろちょろする程ハマるなんて、あの日無理やり連れて行って良かったなー。」 </p><p><br></p><p> </p><p>結菜は腕組みをしてうんうんと頷いている。 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・。私だって、こんな毎日毎日見に行くほどハマるとは思わなかったよ。でも、本当に格好良かったから・・・。」 </p><p><br></p><p> </p><p>私が夢見がちに遠くを見ながら言うと、結菜は呆れた調子で言った。 </p><p><br></p><p> </p><p>「はいはーい。牧田先輩でしょ。・・・でも意外だなー。莉花は先輩みたいななんとなくチャラそうなタイプとか絶対好きになんなそうだったしー。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「す、好きって言うわけじゃ・・・。ただのファンだよ。それに・・・まあ、先輩はみんなに人気だし、チャラいんじゃなくて愛想が良いだけじゃない？・・・知らないけど。でも、別にそんなことはいいの！バレーやってる姿が格好いいなって思ったんだから！」 </p><p><br></p><p> </p><p>私はムキになって結菜に対抗する。 </p><p><br></p><p> </p><p>「わかったわかった。ごめん。良いと思うよ。ってか嬉しいよ。莉花は積極的に人に関わろうとしないとこあるからさー。莉花にもちゃんとそういう感情あったんだって思って。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「ど、どういう意味―？」 </p><p><br></p><p> </p><p>私はジトッと結菜を睨む。 </p><p><br></p><p> </p><p>「ははは！ホント、莉花は可愛いんだからー。・・・思い切って告白してみればー？もう1年ぐらい週3-4日通い詰めてんだしさー。案外、あのいつも来てる子、可愛いなーって、先輩も気になってたりするかもよー？莉花はその地味な眼鏡止めればすごい美人なんだからさー。・・・それに、このままだとまた何もないまま夏休みになっちゃうよ？」 </p><p><br></p><p> </p><p>「じ、地味な眼鏡って・・・。そ、それに、そんな告白なんて！・・・そんなんじゃないよ！それに、私のことなんて気付いてるわけないじゃん！超隅っこで誰にも気付かれないようにヒッソリコッソリ見てるんだから！」 </p><p><br></p><p> </p><p>「いや、絶対気付かれてないとこに自信を持ってどうすんの？それに気付いてないかどうかなんてわかんないじゃーん。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「そ、そんな・・・。と、遠くから見てられればそれでいいって言うか・・・。わ、私なんか・・・」 </p><p><br></p><p> </p><p>だんだん声の勢いが小さくなっていった私に結菜がちょっと怒ったような口調で言う。 </p><p> </p><p>「あ！まーた言ってる！“私なんか”。ダメだって言ってるじゃん、その口癖。莉花にはいいところいっぱいあるんだから、私なんかって、思ったり言ったりするのやめなよー。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「う、うん。・・・ごめん。わかってる。」 </p><p><br></p><p> </p><p>そう、私は自分に自信がなくて、すぐに自分を卑下してしまう。自分でもこれを直さなくてはと思っているけれど気付くといつもその思考に陥っている。 </p><p><br></p><p> </p><p>「でも、いいの。本当に。別に付き合いたいとか、話したいとかそういうんじゃないの。ただ、先輩やバレー部のみんなががんばってる姿を見ると、私もちょっとでも勉強や部活がんばろうって元気もらえるから、それでいいの。そのために見に行ってるようなもんなの。」 </p><p><br></p><p> </p><p>さらに小さくなりながら話している私を見た結菜は、フウっとため息を小さくついて言った。 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・まあ、わかるけどさー。ほんと、バレー部ががんばってるの格好いいよね！応援したくなる！」 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・うん。」 </p><p><br></p><p> </p><p>元気な笑顔で言う結菜を見て、私も少しだけ笑顔を取り戻して答えた。 </p><p><br></p><p> </p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　 </p><p><br></p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>偶然。 </p><p><br></p><p> </p><p>7月、その後も、夏休みの直前まで私はバレー部の練習をヒッソリと見に行っていた。</p><p><br></p><p>夏休みもバレー部はほとんど毎日部活があるようだった。私は夏休み中、料理部の活動がある日だけ、コッソリと見に行くことにした。今日も見に行く予定だ。 </p><p><br></p><p> </p><p>「部長、さようならー。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「うん。さようなら。気をつけて帰ってね。」 </p><p><br></p><p> </p><p>私は、後輩に挨拶を返すと顧問の先生と話をするために職員室へ向かった。 </p><p><br></p><p> </p><p>夏休み前に料理部の3年生が部活を引退して、次期部長を決める際、3人しかいない2年生の私たちは話し合いで部長と副部長を決めた。 </p><p> </p><p>同じ料理部2年のりっちゃんとまなちゃんは、私の数少ない大切な友人だ。 </p><p> </p><p>その2人から「部長は絶対莉花！」と強く言われていた。 </p><p>でも、私は初め断るつもりでいた。 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>――部長なんて私なんかににできるはずがない。 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>そう思っていた。 </p><p><br></p><p> </p><p>でも、牧田先輩やバレー部のみんなは、あんなに汗だくになって毎日ものすごい強烈なレシーブを受け取って、サーブを打って、どうしてそんなに動けるのかと思うほど限界まで毎日走り続けている。 </p><p>そんなバレー部の姿をほぼ毎日見て、その練習を思い出したとき、私も何かやらなければと思った。 </p><p><br></p><p> </p><p>少なくとも大切な友人の2人が「絶対私」と言ってくれているのに断るのは、大切な友人たちに失礼な気もした。 </p><p><br></p><p>だから、私にしてはものすごくがんばって「部長をやります」と言った。</p><p>言ったら2人は手を叩いて喜んでくれたし、結菜にも報告するととても喜んで応援すると言ってくれた。 </p><p>私はとても幸せ者だと改めて実感した。 </p><p><br></p><p> </p><p>結菜はダンス部で部長をしている。 </p><p><br></p><p>高校に入った当初は結菜と同じ部活に入ろうかととても悩んだけど、運動が苦手な私がダンス部は絶対無理だと思ったし、料理だけは昔から好きだった。結菜にも「せっかく料理部があるし、莉花の作ったお菓子食べたい」と言ってもらい、ドキドキしながら入部届を出しに行ったことがまるで昨日のことのようだ。 </p><p><br></p><p> </p><p>部長としてはまだまだ始まったばかりで、部長と呼ばれることもまだ慣れていない。前部長のようにしっかりした部長になれるとは到底思えないけど、この任された仕事を精一杯やってみようと思っていた。 </p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　 </p><p><br></p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p>顧問の先生との話を終え昇降口に来ると、外はものすごい勢いで雨が降っていた。折りたたみ傘は持っているけど、傘を持っていても太刀打ちできそうにないぐらいの勢いだった。 </p><p><br></p><p> </p><p>靴に履き替えポーチで様子を窺っていると、屋根のあるポーチに後ろから駆け込んでくる人がいた。 </p><p><br></p><p> </p><p>「うわー！雨ちょーやべー！」 </p><p><br></p><p> </p><p>驟雨に打たれズブ濡れになった男子生徒を視認して、私はその場に固まった。 </p><p><br></p><p> </p><p>駆け込んできたのは部活の練習着を着た牧田先輩だった。 </p><p><br></p><p> </p><p>私が驚いて見ていると、視線に気付いた牧田先輩が言った。 </p><p><br></p><p> </p><p>「雨やばいね。めっちゃ濡れちゃったよ。」 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>――わ、私に話しかけてる！？ </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>思わずキョロキョロと辺りを見回しても、私以外に人はいない。 </p><p><br></p><p> </p><p>「ははっ。」 </p><p><br></p><p> </p><p>先輩に笑われて私は少しうろたえる。 </p><p><br></p><p> </p><p>「あ、ごめんね。いや、急に話しかけられてビビったよね。・・・2年生？」 </p><p><br></p><p> </p><p>うちの高校は、女子はセーラー服。タイの色が学年毎に違う。 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・あ、はい。そうです。」 </p><p><br></p><p> </p><p>私は顔が赤くなっていないことを祈りながらなんとか答える。 </p><p><br></p><p> </p><p>「何さん？」 </p><p><br></p><p> </p><p>先輩は下を向いている私の顔を覗き込みながら聞く。 </p><p><br></p><p> </p><p>「あ、えっと・・・今野です。」 </p><p><br></p><p> </p><p>このものすごい勢いの驟雨にかき消されてしまっているのではないかというほど小さな声しか出ない。 </p><p><br></p><p> </p><p>「え？」 </p><p><br></p><p> </p><p>先輩は、やはり聞こえなかったらしく耳を私に向けて１歩近付いてくる。私の鼓動は高鳴り、手は震えだしていた。 </p><p> </p><p>私は、今度は大きな声を出さねばと思い切って言う。 </p><p><br></p><p> </p><p>「今野です！」 </p><p><br></p><p> </p><p>今度は予想外に大きな声がでた。 </p><p><br></p><p> </p><p>先輩が驚いてこちらを見ている。 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>――終わった。 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>絶対に真っ赤になっている私の顔を見て、先輩は堪えきれずという感じで笑い出した。 </p><p><br></p><p> </p><p>「ははははは！・・・・いや、ごめん。・・・・馬鹿にしてるとかじゃないから。可愛くって。今野さんかー。オレ、牧田。」 </p><p><br></p><p> </p><p>先輩は笑いながら言う。 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>――か、可愛いって言った！？普通こんなことっさらっと言える！？リア充ってそういうもん！？ </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>先輩に笑われ恥ずかしさで涙目になりながらも、そう言って笑っている先輩の髪からポタポタと雫が垂れていることに私はようやく気付いた。 </p><p> </p><p>鞄に入っているはずの使っていないタオルをガサガサと探す。 </p><p><br></p><p> </p><p>「あの、これ、使ってないんで良かったら使ってください。」 </p><p><br></p><p> </p><p>そう言って先輩にタオルを突き出した私は、自分の手が震えていることに気付く。 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>――うわ！手が震えてる！・・・先輩、気付いたかな？ </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>先輩の顔をチラリと盗み見ると、先輩は差し出された手を凝視している。 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>――めっっっちゃガッツリ見てる！当たり前だよね！自分で差し出したんだから！・・・うう、恥ずかしい！て言うか、今気付いたけど急にタオル知らない人から渡されるとか怖いかな？余計なお世話？やばい！・・・やっちゃった！？ </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>そんなことを思っていると先輩は差し出されたタオルを受け取り言った。 </p><p><br></p><p> </p><p>「マジで？いいの？ありがとう！」 </p><p><br></p><p> </p><p>そう言った先輩はまるで少女漫画に出てくる人のように眩しい笑顔だった。 </p><p><br></p><p> </p><p>私は、先輩が私の渡したタオルで頭や顔を拭く姿にしばらくボーッと見惚れていた。 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>――せ！先輩が！牧田先輩が私のタオルを使っている！あ、頭を！顔を拭いているーーーーー！！！！！！ </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>心の声が口から出そうになるのを必死で堪えていると先輩がポーチの先へ雨の様子を見に行きながら言った。 </p><p><br></p><p> </p><p>「しかしすごい雨だよねー。これなかなか止まないのかなー？・・・今野さんは？傘持ってないの？」 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>――傘・・・。持ってる・・・。けど。 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>「・・・も、持ってないです。」 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>――持ってる。けど、まだ、先輩といたい・・・。 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>「あー、そりゃ帰れないよねー。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「は、はい。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「オレは部活の途中なんだよね。ちょっとケガして保健室行って来たんだけど、早く戻んないと山ちゃんにめっちゃ怒られちゃうなー。」 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>――あ、そうだ。バレー部は今日もまだ練習なんだ。 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>私は、いつか先輩に言えたらと思っていたことがあることを思いだした。 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>――い、言うなら今しかないよね。もう２度と先輩とこんな風に話すチャンスなんかないんだから！でも、急に言ったら変かな？・・・で、でも！ </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>「あ、あの・・・。あの！」 </p><p><br></p><p> </p><p>心臓が痛い。 </p><p>はち切れそう。 </p><p>心臓ってこんなに脈打って大丈夫なんだっけ。 </p><p>手も震えてる。 </p><p><br></p><p> </p><p>「部、部活がんばってください！応援してます！」 </p><p><br></p><p> </p><p>私は心臓が爆発するかもしれないというぐらいドキドキしながら言った。 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>――俯いてたし、聞こえてないかも。声も震えてた。震えてるの先輩に気付かれたかな。 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>また恐る恐る先輩の顔を見ると、先輩はまたあの眩しすぎる笑顔で言った。 </p><p><br></p><p> </p><p>「ありがとう！」 </p><p><br></p><p> </p><p>「は、はい。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「今野さんは？今日部活？」 </p><p><br></p><p> </p><p>先輩は、私の心臓が今にも口から飛び出しそうになっているとは全く気付いていないような様子で聞いてくる。 </p><p><br></p><p> </p><p>「あ、そうです。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「何部なの？ちなみにオレ、バレー部。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「あ、はい。知ってます。」 </p><p><br></p><p>――と言うか、毎日見に行ってます。&nbsp;<br></p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>「・・・え？あ、そうだよね。この格好、バレー部って感じだよね。」 </p><p><br></p><p> </p><p>先輩は部活の練習着や膝に巻いたサポーターを見せつけるようにしながら言った。練習着の左胸には「秋風高校排球部」と円形に刺繍がされている。 </p><p><br></p><p> </p><p>「えっと・・・あの、・・・はい。」 </p><p><br></p><p> </p><p>先輩の顔を見る事ができず、下を向いたまま答えた。 </p><p><br></p><p> </p><p>「今野さんは何部なの？」 </p><p><br></p><p> </p><p>「えっと、料理部です。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「え！？料理部なんてあんだ！？え！？作ったら食べれるやつ？」 </p><p><br></p><p> </p><p>「あ、はい。最後にみんなで食べます。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「えー。いーなー。女子が作ったカップケーキ食べたいわー。」 </p><p><br></p><p> </p><p>そう言った先輩がなんだか可笑しくて私はクスッと笑ってしまう。 </p><p>それを見た先輩はちょっと意外そうな顔をした。私は慌てて言う。 </p><p><br></p><p> </p><p>「あ！すいません。・・・ふふ。なんか可笑しくて。なんでカップケーキなんだろって。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・あ、そういうこと。いや、なんか漫画とかであるじゃん？家庭科室で作ったカップケーキあげる的な。」 </p><p><br></p><p> </p><p>先輩の顔がなんとなく顔が赤く見える。 </p><p><br></p><p> </p><p>「ふふふ。ありますっけ？」 </p><p><br></p><p> </p><p>その時、先輩越しに見える空が少し明るくなった。 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・あ、あのさ・・・」</p><p>「・・・あ、雨、止んできましたね！」 </p><p><br></p><p> </p><p>私と先輩は同時に口を開いていた。 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>――・・・しまったー！今、先輩何か言いかけたよね？しまったー！遮ってしまったー！な、なんて言ったんだろ？ </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>「あ・・・今・・・。」 </p><p>「あ！ホントだ！やっと部活戻れるー！」 </p><p><br></p><p> </p><p>今度は私が言いかけた言葉に先輩は気付かず、そのまま小雨が降る中、先輩は体育館の方へ走り出しながら言った。 </p><p><br></p><p> </p><p>「じゃあね今野さん！」 </p><p><br></p><p> </p><p>「あ、はい！」 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>――せ、先輩と！牧田先輩と話してしまった！ </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>今更ながら心臓がまた痛いほど跳ね上がってくる。 </p><p>私は先輩が駆けていった方に再び目をやる。 </p><p><br></p><p> </p><p>あれほどまで激しかった驟雨は一瞬のうちに通り過ぎ、先程までのうだるような暑さを少しだけ和らげていた。太陽が地面を照らし、きらきらと輝いている。 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>――今日は、応援に行けそうもない。 </p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>私は熱くなりすぎている頭と顔をクールダウンさせようと、太陽が顔を出しているにも関わらず名残惜しく降り続いているほんの少しの雨に打たれながら家へと向かった。 </p><p><br></p><p> </p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　 </p><p><br></p><p><br></p><p><br></p><p> </p><p> </p><p>「おい！牧田―！おまえめっちゃ遅いゾー！」 </p><p><br></p><p> </p><p>「ごめん山ちゃん。」 </p><p><br></p><p> </p><p>莉花と別れ体育館へ戻った牧田は、いつものようにバレー部主将の山下から喝を入れられる。 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・てか何おまえ。そのくまちゃんタオル。」 </p><p><br></p><p> </p><p>山下は、牧田が首から垂らしている、およそ牧田には似合わないタオルを見て言う。 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・え！？あっ！やべ！返し忘れた！」 </p><p><br></p><p> </p><p>「はあ？」 </p><p><br></p><p> </p><p>「さっき女子が貸してくれた。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「はあ！？おまえ、またモテてたのかよー！」 </p><p><br></p><p> </p><p>「ちげーよ！そんなんじゃねーし。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「おまえ、このやろー。」 </p><p><br></p><p> </p><p>いつものように女子にモテる牧田に、からかい半分嫉妬半分で絡んでくる山下をかわしながら牧田は呟いていた。 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・カップケーキくれないかな。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・ん？何だって？」 </p><p><br></p><p> </p><p>「・・・なんでもねー！練習しようぜー。」 </p><p><br></p><p> </p><p>「おう！」 </p><p><br></p><p> </p><p><p> </p><p></p></p><p>　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　　　　*　 </p><p><br></p><p><br></p><p><br></p><p>つづく</p>
		</div>
	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[少年彩里水の不思議冒険譚　-不思議の国の入り口63-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10439354/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10439354</id><summary><![CDATA[63　転んだ先は――転ぶ！思わず目を瞑った白兎だが、先程のように固い地面に身体を打ち付ける感覚もなかった。不思議に思い目を開け、その次の瞬間に何者かに足を掴まれている感触に気付いた。ゾッとしながら足元を見る。白兎は足を掴んでいる者を確認して声をあげる。「彩里水！」「よ。白兎。」「お！おま・・・、おまえ・・・！」白兎は驚きすぎて言葉にならない。「お、おまえかよ！ひ、人の足掴むとかなんだよ！恐怖でしかねーよ！」「いや、ごめんごめん。だってこれしか思いつかなかったんだもん。」「ってか、ここどこ！？」白兎は安心した途端に自分がトランプの6に追われていたことを思い出す。「オレ追われてたはず！ってか、ここどこ！？ってかキャンドーは！？」「私はここですよ。」1人で疑問いっぱいの白兎に返事をしたのはキャンドーだった。「あれ！？いる！なんで！？どういうこと！？ここどこ！？」白兎は興奮が収まらず質問し続ける。「どうやら、私も彩里水さんに引っ張られてここに来たようなんです。」キャンドーは彩里水を見る。「オレもよくわかんないんだけど、蟻を見てたんだ。蟻の行列を。」「は！？だから、は！？」白兎はまた勢いよく彩里水の謎の行動に突っ込む。「蟻の行列を見て、蟻の行列に混ざればどこまでもいけるかなあ～なんて考えてたら、なんかグイッと地面に引き込まれるような感覚がしたんだ。んで、慌てて身体を起こそうとしたんだけど、そのまま頭から地面に突っ込んだと思ったら、多分、地面の中に入ってたんだよね。」「・・・へ？」白兎は彩里水の説明に間抜けな声で答える。「上見て？」そう言って彩里水が上を向くと、白兎もつられて上を見上げる。上を見ると、先程白兎を追ってきたトランプの6たちが向きを変え、白兎を追ってきていたときよりも歩速を緩め戻っていく姿が見える。「うそ・・・。」白兎は呆然と呟く。「ね。多分地中でしょ？さっきの蟻さんたちもいるんだ。」彩里水はさきほどの蟻の行列の続きを見つけ手を振る。何匹かの蟻が手を振り返していた。「え？地中ってこんな風に入れるもんだっけ？見上げたら透けて上が見えるもんだっけ？」また白兎がワーワーと疑問を立て続けに口にするのを無視して彩里水は続ける。「オレとしては、オレがこのまま蟻について地面に潜ったらそのまま塀の外に出られるなあ～って思ったからそうなったと思ってる！」フンッと鼻息荒くドヤ顔で腕組みをしながら言う彩里水を見て、キャンドーはフム、と納得したように口を開く。「そうです。この不思議の国というのはそういうところなんですよ。」つづく]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-09-26T10:00:43+00:00</published><updated>2020-09-26T10:00:56+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
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			<h4>63　転んだ先は</h4><p><br></p><p><br></p><p>――転ぶ！</p><p><br></p><p><br></p><p>思わず目を瞑った白兎だが、先程のように固い地面に身体を打ち付ける感覚もなかった。</p><p><br></p><p>不思議に思い目を開け、その次の瞬間に何者かに足を掴まれている感触に気付いた。ゾッとしながら足元を見る。</p><p><br></p><p>白兎は足を掴んでいる者を確認して声をあげる。</p><p><br></p><p>「彩里水！」</p><p><br></p><p>「よ。白兎。」</p><p><br></p><p>「お！おま・・・、おまえ・・・！」</p><p><br></p><p>白兎は驚きすぎて言葉にならない。</p><p><br></p><p>「お、おまえかよ！ひ、人の足掴むとかなんだよ！恐怖でしかねーよ！」</p><p><br></p><p>「いや、ごめんごめん。だってこれしか思いつかなかったんだもん。」</p><p><br></p><p>「ってか、ここどこ！？」</p><p><br></p><p>白兎は安心した途端に自分がトランプの6に追われていたことを思い出す。</p><p><br></p><p>「オレ追われてたはず！ってか、ここどこ！？ってかキャンドーは！？」</p><p><br></p><p>「私はここですよ。」</p><p><br></p><p>1人で疑問いっぱいの白兎に返事をしたのはキャンドーだった。</p><p><br></p><p>「あれ！？いる！なんで！？どういうこと！？ここどこ！？」</p><p><br></p><p>白兎は興奮が収まらず質問し続ける。</p><p><br></p><p>「どうやら、私も彩里水さんに引っ張られてここに来たようなんです。」</p><p><br></p><p>キャンドーは彩里水を見る。</p><p><br></p><p>「オレもよくわかんないんだけど、蟻を見てたんだ。蟻の行列を。」</p><p><br></p><p>「は！？だから、は！？」</p><p><br></p><p>白兎はまた勢いよく彩里水の謎の行動に突っ込む。</p><p><br></p><p>「蟻の行列を見て、蟻の行列に混ざればどこまでもいけるかなあ～なんて考えてたら、なんかグイッと地面に引き込まれるような感覚がしたんだ。んで、慌てて身体を起こそうとしたんだけど、そのまま頭から地面に突っ込んだと思ったら、多分、地面の中に入ってたんだよね。」</p><p><br></p><p>「・・・へ？」</p><p><br></p><p>白兎は彩里水の説明に間抜けな声で答える。</p><p><br></p><p>「上見て？」</p><p><br></p><p>そう言って彩里水が上を向くと、白兎もつられて上を見上げる。</p><p><br></p><p>上を見ると、先程白兎を追ってきたトランプの6たちが向きを変え、白兎を追ってきていたときよりも歩速を緩め戻っていく姿が見える。</p><p><br></p><p>「うそ・・・。」</p><p><br></p><p>白兎は呆然と呟く。</p><p><br></p><p>「ね。多分地中でしょ？さっきの蟻さんたちもいるんだ。」</p><p><br></p><p>彩里水はさきほどの蟻の行列の続きを見つけ手を振る。何匹かの蟻が手を振り返していた。</p><p><br></p><p>「え？地中ってこんな風に入れるもんだっけ？見上げたら透けて上が見えるもんだっけ？」</p><p><br></p><p>また白兎がワーワーと疑問を立て続けに口にするのを無視して彩里水は続ける。</p><p><br></p><p>「オレとしては、オレがこのまま蟻について地面に潜ったらそのまま塀の外に出られるなあ～って思ったからそうなったと思ってる！」</p><p><br></p><p>フンッと鼻息荒くドヤ顔で腕組みをしながら言う彩里水を見て、キャンドーはフム、と納得したように口を開く。</p><p><br></p><p>「そうです。この不思議の国というのはそういうところなんですよ。」</p><p><br></p><p>つづく</p>
		</div>
	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[少年彩里水の不思議冒険譚　-不思議の国の入り口62-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10427450/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10427450</id><summary><![CDATA[62　消えるキャンドーとこの塀を越える方法について相談していた白兎は彩里水が「うわ！」と大きな声を上げたので驚いて彩里水の方を見た。「バカ！でっかい声出した・・・ら・・・。彩里水？」今しがたそこにいたはずの彩里水の姿がない。「・・・え？」立った今聞こえてきた彩里水の声が聞こえてきた場所、そして今しがたそこで蟻の行列を見て自分に話しかけてきたはずの、彩里水の姿がない。狐につままれたように呆然とした白兎の視界に入ってきたのは、トランプの6の衛兵たちがこちらに何の感情もなく近づいてくる姿だった。彩里水の大声が聞こえたのか、トランプの衛兵たちはただ真っ直ぐ白兎に向かってきている。白兎はなす術がない。突然彩里水の姿が消えてしまった上に、衛兵はこちらにどんどんやってくる。身を隠すような場所もなければ先程出てきた庭園の出口はとっくに消えている。白兎は咄嗟に、衛兵とは反対方向に逃げ出すしかなかった。しかし、四方に囲まれた造りの塀に囲まれた従業員棟だ。逃げてもグルリと一周することになるだけでじきに挟み打ちになって捕まるのがオチだ。――でも、少しでも考える時間を稼がないと。なんとかここから塀を突破する方法を・・・！それに、彩里水は・・・！？白兎はトランプの衛兵から逃れようと駆け出す。その途端、白兎は何かにつまづき地面に転がる。ポケットから出して手に握っていたキャンドーが白兎の手からはじけ飛ぶ。その間にもトランプの6たちはどんどん白兎に迫ってきている。慌てて起き上がり、キャンドーを拾いあげようとすると、目の前にはじけ飛ばしてしまったはずのキャンドーの姿もない。どこか思いも寄らぬほど遠くへ飛ばしてしまったのだろうか？白兎は辺りを見回すが、やはりその姿はない。キャンドーの姿も彩里水の姿もキップとクップの姿もない。白兎の心臓はドキドキと早打ちを始める。――誰かを探している暇はない。とにかく逃げないと。いつの間にか、もうあとほんの5メートル程の距離に迫ってきていたトランプの6に、白兎の鼓動は焦りと緊張で高鳴り続ける。――とにかく走ろう。みんなのことは全部あとだ。どうせ捕まったら誰も助けられない。思うと同時に駆け出したその瞬間、足首を何者かに掴まれた感触があり、また地面に転がりそうになり咄嗟に目を瞑る白兎。一瞬の静寂の後に、従業員棟と塀の間にいたはずの白兎を追いかけていたトランプの6達は、目標物を見失い、しばらくその場をウロウロと歩き回ったあと、また機械的に元の持ち場へ戻り始めていた。つづく]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-09-25T12:00:21+00:00</published><updated>2020-09-25T12:00:32+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
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			<h4>62　消える</h4><p><br></p><p><br></p><p>キャンドーとこの塀を越える方法について相談していた白兎は彩里水が「うわ！」と大きな声を上げたので驚いて彩里水の方を見た。</p><p><br></p><p>「バカ！でっかい声出した・・・ら・・・。彩里水？」</p><p><br></p><p>今しがたそこにいたはずの彩里水の姿がない。</p><p><br></p><p>「・・・え？」</p><p><br></p><p>立った今聞こえてきた彩里水の声が聞こえてきた場所、そして今しがたそこで蟻の行列を見て自分に話しかけてきたはずの、彩里水の姿がない。</p><p><br></p><p>狐につままれたように呆然とした白兎の視界に入ってきたのは、トランプの6の衛兵たちがこちらに何の感情もなく近づいてくる姿だった。</p><p><br></p><p>彩里水の大声が聞こえたのか、トランプの衛兵たちはただ真っ直ぐ白兎に向かってきている。</p><p><br></p><p>白兎はなす術がない。</p><p><br></p><p>突然彩里水の姿が消えてしまった上に、衛兵はこちらにどんどんやってくる。</p><p>身を隠すような場所もなければ先程出てきた庭園の出口はとっくに消えている。</p><p><br></p><p>白兎は咄嗟に、衛兵とは反対方向に逃げ出すしかなかった。</p><p>しかし、四方に囲まれた造りの塀に囲まれた従業員棟だ。</p><p><br></p><p><br></p><p>逃げてもグルリと一周することになるだけでじきに挟み打ちになって捕まるのがオチだ。</p><p>――でも、少しでも考える時間を稼がないと。なんとかここから塀を突破する方法を・・・！それに、彩里水は・・・！？</p><p><br></p><p><br></p><p>白兎はトランプの衛兵から逃れようと駆け出す。</p><p><br></p><p>その途端、白兎は何かにつまづき地面に転がる。</p><p><br></p><p>ポケットから出して手に握っていたキャンドーが白兎の手からはじけ飛ぶ。</p><p><br></p><p>その間にもトランプの6たちはどんどん白兎に迫ってきている。</p><p><br></p><p>慌てて起き上がり、キャンドーを拾いあげようとすると、目の前にはじけ飛ばしてしまったはずのキャンドーの姿もない。</p><p><br></p><p>どこか思いも寄らぬほど遠くへ飛ばしてしまったのだろうか？</p><p><br></p><p>白兎は辺りを見回すが、やはりその姿はない。</p><p><br></p><p>キャンドーの姿も彩里水の姿もキップとクップの姿もない。</p><p><br></p><p>白兎の心臓はドキドキと早打ちを始める。</p><p><br></p><p><br></p><p>――誰かを探している暇はない。とにかく逃げないと。</p><p><br></p><p><br></p><p>いつの間にか、もうあとほんの5メートル程の距離に迫ってきていたトランプの6に、白兎の鼓動は焦りと緊張で高鳴り続ける。</p><p><br></p><p><br></p><p>――とにかく走ろう。みんなのことは全部あとだ。どうせ捕まったら誰も助けられない。</p><p><br></p><p><br></p><p>思うと同時に駆け出したその瞬間、足首を何者かに掴まれた感触があり、また地面に転がりそうになり咄嗟に目を瞑る白兎。</p><p><br></p><p>一瞬の静寂の後に、従業員棟と塀の間にいたはずの白兎を追いかけていたトランプの6達は、目標物を見失い、しばらくその場をウロウロと歩き回ったあと、また機械的に元の持ち場へ戻り始めていた。</p><p><br></p><p><br></p><p>つづく</p>
		</div>
	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[少年彩里水の不思議冒険譚　-不思議の国の入り口61-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10427501/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10427501</id><summary><![CDATA[61　蟻の行列彩里水に呼ばれた白兎は、いつの間にか数メートル離れた場所でしゃがんで何か見ている彩里水のところへ行く。「見て！蟻！蟻の行列！」彩里水は嬉しそうに蟻の行列を眺めている。「・・・おまえなー。・・・昆虫好きなのか？だけど今は蟻の行列見て喜んでる場合じゃないだろ？」白兎は彩里水のマイペースさに若干呆れながら言う。「いやいや、じゃなくてさ、この蟻たちだって、この世界にいるってことは純型の蟻っていうか、オレたちの世界にいる蟻とは違うわけだろ？」「・・・あー。あそっか。でもそれがどうしたんだよ？」「で、ちょっと話しかけてみたわけ。」「・・・ほう。」――ほんと、なんなんだよこいつの適応能力の高さは。蟻に普通に話しかけるってできる？オレが庶民的感覚を持ちすぎてるの？「そしたらさ。」「うん。」「蟻さんたちは盗賊で、こっから外まで続く穴を塀に開けて、ここと外を行き来してるってわけらしいんだよ。」「ほうほう。・・・っていや、盗賊って何なんだよ！それすらももう受け入れてんのかよ！」「なんだよ、白兎。ほんとおまえはいつも変だよな。」「・・・。いーよわかったよ。オレが変なんだよ。・・・で？」「だから、オレたちもその穴を通っていいかって聞いたらいいって言うんだよ。よかったないい蟻さんたちで。」彩里水は満面の笑みを浮かべている。白兎はまた無表情になって彩里水を見た。「おまえはいつもそうやって・・・。」「え？」「だから！そりゃ通れりゃいいけど、穴だって蟻のサイズだろ？オレたちがどうやって通るんだよ！」白兎は彩里水を食べそうな勢いで突っ込みを入れる。彩里水はすごい剣幕の白兎にタジタジと答えた。「えーっと、だからその方法を探してみようよ。」「いや、1番どうやるかわかんないだろ！」「白兎、顔！顔が怖すぎるから！」「おまえがいつもいつも突拍子もなくわけわかんないことばっか言うからだろー！そりゃあおまえの考えは悪くはないけど・・・」彩里水を頭から食べそうな勢いで彩里水に文句を言う白兎を手で制しながら彩里水は続ける。「でもさ、オレここに来たとき、メチャクチャ小さい扉があってそこを通んなきゃどこにも進めなかったんだ。で、どうしようかととりあえず鍵を開けてみたら、その扉、オレのサイズまで大きくなったんだ。」「・・・え？」彩里水を食いそうな勢いで文句を言っていた白兎は動きを止める。「そ、それにホラ、食べ物。梨とかリンゴとか身体が伸びたじゃん？アレも割と使えるかもだし、今更ながら従業員棟に戻ったら何か食べ物あるかも。それ食べたら身体が縮んだりとかあるかもよ？」「・・・ふむ。おまえにしちゃ、割とちゃんとした意見。」「だろ？」白兎が彩里水を食いそうな勢いではなくなり、彩里水はホッとしながら言う。「ちょっとさ、キップたちにも相談してみよ。」「おう！だな！」そう返事をすると白兎はポケットの中のキャンドーに説明する。彩里水もキップとクップをポケットから出そうとしたが、その瞬間目に入った蟻の行列に目を奪われる。もう一度蟻の行列をじっくりと眺める。――蟻ってすごいよなあ。蟻だったらものの大きさとか関係なくどこにでも行くんだよなあ。この行列に混ざってオレたちもここを歩いて、あの塀のところに空いている穴に入って行って・・・。そう考えているうちに彩里水は蟻の行列にいつの間にかどんどん顔が近づいていた。――え！？彩里水は慌てて身を起こす。――アレ！？え！？「うわ！」つづく]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-09-25T10:00:33+00:00</published><updated>2020-09-25T10:00:44+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
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			<h4>61　蟻の行列</h4><p><br></p><p><br></p><p>彩里水に呼ばれた白兎は、いつの間にか数メートル離れた場所でしゃがんで何か見ている彩里水のところへ行く。</p><p><br></p><p>「見て！蟻！蟻の行列！」</p><p><br></p><p>彩里水は嬉しそうに蟻の行列を眺めている。</p><p><br></p><p>「・・・おまえなー。・・・昆虫好きなのか？だけど今は蟻の行列見て喜んでる場合じゃないだろ？」</p><p><br></p><p>白兎は彩里水のマイペースさに若干呆れながら言う。</p><p><br></p><p>「いやいや、じゃなくてさ、この蟻たちだって、この世界にいるってことは純型の蟻っていうか、オレたちの世界にいる蟻とは違うわけだろ？」</p><p><br></p><p>「・・・あー。あそっか。でもそれがどうしたんだよ？」</p><p><br></p><p>「で、ちょっと話しかけてみたわけ。」</p><p><br></p><p>「・・・ほう。」</p><p><br></p><p><br></p><p>――ほんと、なんなんだよこいつの適応能力の高さは。蟻に普通に話しかけるってできる？オレが庶民的感覚を持ちすぎてるの？</p><p><br></p><p><br></p><p>「そしたらさ。」</p><p><br></p><p>「うん。」</p><p><br></p><p>「蟻さんたちは盗賊で、こっから外まで続く穴を塀に開けて、ここと外を行き来してるってわけらしいんだよ。」</p><p><br></p><p>「ほうほう。・・・っていや、盗賊って何なんだよ！それすらももう受け入れてんのかよ！」</p><p><br></p><p>「なんだよ、白兎。ほんとおまえはいつも変だよな。」</p><p><br></p><p>「・・・。いーよわかったよ。オレが変なんだよ。・・・で？」</p><p><br></p><p>「だから、オレたちもその穴を通っていいかって聞いたらいいって言うんだよ。よかったないい蟻さんたちで。」</p><p><br></p><p>彩里水は満面の笑みを浮かべている。</p><p>白兎はまた無表情になって彩里水を見た。</p><p><br></p><p>「おまえはいつもそうやって・・・。」</p><p><br></p><p>「え？」</p><p><br></p><p>「だから！そりゃ通れりゃいいけど、穴だって蟻のサイズだろ？オレたちがどうやって通るんだよ！」</p><p><br></p><p>白兎は彩里水を食べそうな勢いで突っ込みを入れる。</p><p>彩里水はすごい剣幕の白兎にタジタジと答えた。</p><p><br></p><p>「えーっと、だからその方法を探してみようよ。」</p><p><br></p><p>「いや、1番どうやるかわかんないだろ！」</p><p><br></p><p>「白兎、顔！顔が怖すぎるから！」</p><p><br></p><p>「おまえがいつもいつも突拍子もなくわけわかんないことばっか言うからだろー！そりゃあおまえの考えは悪くはないけど・・・」</p><p><br></p><p>彩里水を頭から食べそうな勢いで彩里水に文句を言う白兎を手で制しながら彩里水は続ける。</p><p><br></p><p>「でもさ、オレここに来たとき、メチャクチャ小さい扉があってそこを通んなきゃどこにも進めなかったんだ。で、どうしようかととりあえず鍵を開けてみたら、その扉、オレのサイズまで大きくなったんだ。」</p><p><br></p><p>「・・・え？」</p><p><br></p><p>彩里水を食いそうな勢いで文句を言っていた白兎は動きを止める。</p><p><br></p><p>「そ、それにホラ、食べ物。梨とかリンゴとか身体が伸びたじゃん？アレも割と使えるかもだし、今更ながら従業員棟に戻ったら何か食べ物あるかも。それ食べたら身体が縮んだりとかあるかもよ？」</p><p><br></p><p>「・・・ふむ。おまえにしちゃ、割とちゃんとした意見。」</p><p><br></p><p>「だろ？」</p><p><br></p><p>白兎が彩里水を食いそうな勢いではなくなり、彩里水はホッとしながら言う。</p><p><br></p><p>「ちょっとさ、キップたちにも相談してみよ。」</p><p><br></p><p>「おう！だな！」</p><p><br></p><p>そう返事をすると白兎はポケットの中のキャンドーに説明する。</p><p>彩里水もキップとクップをポケットから出そうとしたが、その瞬間目に入った蟻の行列に目を奪われる。もう一度蟻の行列をじっくりと眺める。</p><p><br></p><p><br></p><p>――蟻ってすごいよなあ。蟻だったらものの大きさとか関係なくどこにでも行くんだよなあ。この行列に混ざってオレたちもここを歩いて、あの塀のところに空いている穴に入って行って・・・。</p><p><br></p><p><br></p><p>そう考えているうちに彩里水は蟻の行列にいつの間にかどんどん顔が近づいていた。</p><p><br></p><p><br></p><p>――え！？</p><p><br></p><p><br></p><p>彩里水は慌てて身を起こす。</p><p><br></p><p><br></p><p>――アレ！？え！？</p><p><br></p><p><br></p><p>「うわ！」</p><p><br></p><p><br></p><p>つづく</p>
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	]]></content></entry><entry><title><![CDATA[少年彩里水の不思議冒険譚　-不思議の国の入り口60-]]></title><link rel="alternate" href="https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10416149/"></link><id>https://mosoretto.amebaownd.com/posts/10416149</id><summary><![CDATA[60　 彩里水の信じること――うっ。いやいや、だからオレがおかしいの？何だよ、その変なやつを見る目は！おまえだろ？一般庶民がオレでおかしいのがおまえだろ？「・・・。ここからロープでも下ろしてください、とか他の場所に扉を付けてくださいって願えば出てくんのかよ。」白兎は彩里水が何を考えているのかわからず少し不機嫌に言う。「んー。なんて言うのかなー？でもさ、例えば、この世界に落ちてくるときにものすごい勢いで落ちてて、床ってか天井にぶつかりそうになったときも、クッションとか何かないかなって探してたんだ。」「・・・うん。」「でさ、そしたらランプに「私を投げて」って表示されて投げたらなんとかなったし、塔から逃げようとアレでもないコレでもないって試行錯誤してたら食べ物で身体の一部が伸びたじゃん？それからキップとクップ、キャンドーさんと出会ったりでオレたちが初めには1mmも想像しなかった方法でとにかく今ここにいるだろ？」「・・・うん。」「白兎はさ、すごい頭いいし、作戦とか立ててその通りやったりできるしすげえ。」「おう。」「で、オレはあんまそういうの得意じゃないけど、なんとなくわかるっつーか・・・。んー、なんか直感って言うの？多分大丈夫だろ、的な？あっちは行っちゃダメだろ、とかこいつはヤバそうだ、とか。そんなのが感覚的にわかる気がするんだよね。」「ふーん？」「で、それが言ってる。なんとかなるって。」「なんじゃそりゃ！」「うーん。まあつまり、魔法みたいになんでもなんとかなるって信じてるわけじゃないんだけど、まあこの世界ならそれさえも信じられるのかもだけど、そうじゃなくてさ・・・。」「うん？」イマイチ的を射ず、少しうんざりしながら白兎は聞き返す。「今なら、塀を乗り越えるのが扉を開けて正面突破するより１番安全で、なんとかすりゃいけそうな方法じゃん？」「うん、まあたしかに。」「その方法を一生懸命模索してれば、今は思いつかない方法でも模索してる最中に、今この瞬間では絶対に思いつかなかった方法が思いつくことは全然あり得ることだろってこと！でも、さっさと諦めて探そうともしなかったら、きっと何も起こらない。気がする。少なくともオレは何もしないよりはなんかやってた方がその瞬間は落ち着いていられる。それにさ、ここは不思議の国じゃん？不思議なこと起こるだろっ！」彩里水は満足げに白兎を見て言う。その彩里水の表情は不思議と白兎にも信じる気持ちを起こさせる。――うまく説明はできていないし、正直言って何か解決策を湿したわけじゃないけど・・・。こいつといるとなんとかなるって気になることは確かだな。「・・・。ははっ！できるって信じてやるしかないしな。」ハッキリと自信満々に言い切る彩里水に、白兎も願ってたら向こうからやってくるのも一理あるという気がしてくる。――そういや、サンクさんが「コツは信じる事」みたいなこと言ってたけど、何か今その意味がちょっとわかりかけたような・・・。白兎が考えていると、彩里水が白兎を小声で呼んだ。「おーい！白兎！」つづく]]></summary><author><name>妄想列島</name></author><published>2020-09-24T10:00:29+00:00</published><updated>2020-09-24T10:00:41+00:00</updated><content type="html"><![CDATA[
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			<h4>60　 彩里水の信じること</h4><p><br></p><p>――うっ。いやいや、だからオレがおかしいの？何だよ、その変なやつを見る目は！おまえだろ？一般庶民がオレでおかしいのがおまえだろ？</p><p><br></p><p><br></p><p>「・・・。ここからロープでも下ろしてください、とか他の場所に扉を付けてくださいって願えば出てくんのかよ。」</p><p><br></p><p>白兎は彩里水が何を考えているのかわからず少し不機嫌に言う。</p><p><br></p><p>「んー。なんて言うのかなー？でもさ、例えば、この世界に落ちてくるときにものすごい勢いで落ちてて、床ってか天井にぶつかりそうになったときも、クッションとか何かないかなって探してたんだ。」</p><p><br></p><p>「・・・うん。」</p><p><br></p><p>「でさ、そしたらランプに「私を投げて」って表示されて投げたらなんとかなったし、塔から逃げようとアレでもないコレでもないって試行錯誤してたら食べ物で身体の一部が伸びたじゃん？それからキップとクップ、キャンドーさんと出会ったりでオレたちが初めには1mmも想像しなかった方法でとにかく今ここにいるだろ？」</p><p><br></p><p>「・・・うん。」</p><p><br></p><p>「白兎はさ、すごい頭いいし、作戦とか立ててその通りやったりできるしすげえ。」</p><p><br></p><p>「おう。」</p><p><br></p><p>「で、オレはあんまそういうの得意じゃないけど、なんとなくわかるっつーか・・・。んー、なんか直感って言うの？多分大丈夫だろ、的な？あっちは行っちゃダメだろ、とかこいつはヤバそうだ、とか。そんなのが感覚的にわかる気がするんだよね。」</p><p><br></p><p>「ふーん？」</p><p><br></p><p>「で、それが言ってる。なんとかなるって。」</p><p><br></p><p>「なんじゃそりゃ！」</p><p><br></p><p>「うーん。まあつまり、魔法みたいになんでもなんとかなるって信じてるわけじゃないんだけど、まあこの世界ならそれさえも信じられるのかもだけど、そうじゃなくてさ・・・。」</p><p><br></p><p>「うん？」</p><p><br></p><p>イマイチ的を射ず、少しうんざりしながら白兎は聞き返す。</p><p><br></p><p>「今なら、塀を乗り越えるのが扉を開けて正面突破するより１番安全で、なんとかすりゃいけそうな方法じゃん？」</p><p><br></p><p>「うん、まあたしかに。」</p><p><br></p><p>「その方法を一生懸命模索してれば、今は思いつかない方法でも模索してる最中に、今この瞬間では絶対に思いつかなかった方法が思いつくことは全然あり得ることだろってこと！でも、さっさと諦めて探そうともしなかったら、きっと何も起こらない。気がする。少なくともオレは何もしないよりはなんかやってた方がその瞬間は落ち着いていられる。それにさ、ここは不思議の国じゃん？不思議なこと起こるだろっ！」</p><p><br></p><p>彩里水は満足げに白兎を見て言う。その彩里水の表情は不思議と白兎にも信じる気持ちを起こさせる。</p><p><br></p><p><br></p><p>――うまく説明はできていないし、正直言って何か解決策を湿したわけじゃないけど・・・。こいつといるとなんとかなるって気になることは確かだな。</p><p><br></p><p><br></p><p>「・・・。ははっ！できるって信じてやるしかないしな。」</p><p><br></p><p>ハッキリと自信満々に言い切る彩里水に、白兎も願ってたら向こうからやってくるのも一理あるという気がしてくる。</p><p><br></p><p><br></p><p>――そういや、サンクさんが「コツは信じる事」みたいなこと言ってたけど、何か今その意味がちょっとわかりかけたような・・・。</p><p><br></p><p><br></p><p>白兎が考えていると、彩里水が白兎を小声で呼んだ。</p><p><br></p><p>「おーい！白兎！」</p><p><br></p><p><br></p><p>つづく</p>
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