少年彩里水の不思議冒険譚 -不思議の国の入り口37-
37 トイレから声が聞こえてくるんだが
「こちらに誰かが来るなんて、久しぶりです。」
――え?何?誰かいるの?トイレに!?ウソ!オレ、今逃げられないんだけど!?
白兎はトイレの中に自分以外の誰かがいることが、とにかくとても怖い。
逃げようにも用を足しているのでその場から動けない。
ゾッとして固まっていると、また声がする。
「おっと、不躾にすいません。こんばんは。私は燭台のキャンドーです。」
燭台という言葉を聞いた白兎は燭台の方に目をやる。
するとモアッとした薄暗い光を帯びた燭台が陽気な笑顔で自分に手を振ってきていた。
――え!?何!?何やら奇っ怪な生き物が陽気に手を振ってきてる!?でも、ここ真夜中のトイレだから!陽気に手を振っていい時と場所じゃないから!なんならオレ、全部出てるし!
一瞬、恐怖で息が止まった白兎だが、燭台は気付かない様子で話しかけ続けてくる。
「いやあ、私、ここ何年もあそこにただただ置かれていただけで、久しぶりにお役に立つことができて本当に本当に嬉しいんです。」
「・・・。」
「ね、よかったら、私をそのままお部屋に連れ帰ってくれません?」
「・・・え?」
燭台からの意外な提案に白兎は恐怖を忘れて声を出す。
「だって、あなたが戻ったらまた私はただそこにただ置かれたままです。埃を被ってさび付いてしまいます。」
「いや、えっと・・・。」
――・・・燭台が喋ってる。その事実は一旦受け止めよう。そうだよな。この世界は何でも喋る可能性があるんだから。さっきオレは家具と喋ったわけで、トランプにここに連れてこられたわけで、燭台だって喋りたいわけだ。・・・でも、このシチュエーションで話しかけてくるとかマジ怖すぎるからっ。
白兎が黙っていると、キャンドーは構わず話しかける。
「ね。いいでしょう?お役に立てますよ。」
――どうしよう。何この怪しさ満載の人。いや人!?人ですらないよな!どうしたらいいの?てか、全然遠慮なく声かけ続けてくるその神経の図太さがすごい!・・・でも、確かにいてくれたら何かと役に立ってくれそうな気はするな。この先、すぐに外に出られるとも、出られたとしてまた夜が来る前にこの世界から元の世界に戻れるともわからないし。明かりがあるのはありがたいよな。・・・。
「あ、じゃあ。お願いします・・・。」
「ほ、本当ですかあぁぁぁ!!!!????」
白兎が答えるとキャンドーは嬉しそうな笑みを浮かべ目には涙を浮かべている。
――怖い!このテンションの高さが怖い!なんでこんな涙目!?一体この人、もとい燭台さんに何があったって言うの!?誰か教えてっ。
白兎はぎこちない笑みを浮かべながら答える。
「・・・はい。あ、でも、オレの友達もトイレに行くんで、その後でいいですか?」
「もっもちろんですともっ!」
用を足し終えた白兎の手の中に喜んでピョンピョンと戻ってきたキャンドーは、個室を出る前に小声で言った。
「あ、でも、この話は内密にお願いします。見つかると少々面倒かもしれないので。まあ、私1人がここからいなくなろうとも、誰にも気にかけられることはないでしょうけど・・・。」
陽気なキャンドーが少し寂しげに言った言葉が白兎はなんとなく心に引っかかっていた。
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