少年彩里水の不思議冒険譚 -不思議の国の入り口48-

48 塔脱出作戦決行!編



空が白んでくると同時にラープンはうつらうつらと船をこぎ始めていた。サンクはとっくに眠っている。

2体は他の部屋の者たちが一晩中起き続け作戦を立てていたとは知るよしもない。


窓際に移動してきたベドの前足に白兎が縄を結ぼうとすると、彩里水が横から縄を持つ。


「オレ、ボーイスカウトでほどけづらいロープの結び方やったんだ!オレが結ぶ。」


「おう!じゃあオレは一応ベッドにオレたちがいるように見せかける。オレと彩里水がベッドに入ってトランプの3たちの死角になるような位置からコッソリベッドから出る。そして、キップとクップ、キャンドーの3人はオレたちのポケットに入ってくれ。」


「はい!」


「キップとクップは彩里水のポケットに、キャンドーさんはちょっと狭いけどオレのポケットね!落ちないように!」


キャンドーはニコニコしながら


「お願いします。」


と言った。


「ごめんな。ポケット小さいけど、縄を降りてるときは持っててあげられないししっかり入ってて。」


白兎が言うとキャンドーはニコニコと笑顔を浮かべたまま答えた。


「狭いだなんてとんでもないです。連れて行っていただけること、お役に立てること、全てが夢のようです。それもこれも白兎さんが真っ暗なトイレで私の提案を受け入れてくださったお陰です。改めてありがとうございます。」


「な、なんだよ。別にたいしたことしてないし、縄取ってくれてこちらこそありがとうだし。」


白兎が2人分のベッドを部屋の中にあるものでなんとか人の形に見えるようにしながらキャンドーに照れながらぶっきらぼうに答える。


「いえ、先程のキップとクップの想いを聞いて、私も長くこの場所に留まることしかないことに疑問を感じつつもどうにもならず、しかしどうしても広い世界を見てみたいという夢を諦められない気持ちフツフツと感じているのです。だから、白兎さんと彩里水さんに出会えたこと、これから一緒に冒険に出られることがとても嬉しいのです。」


相変わらずニコニコ感謝の気持ちを伝えるキャンドーに白兎は照れながらも嬉しくなった。


「・・・うん。一緒に、ここからもっと自由な場所に行こう!」


ベドの前足に縄を結びつけそれを踏みつけるように、ドッベとチェイスは体重をかける。そして彩里水と白兎2人が窓から外に出るときにトランプの3たちから少しでも体が隠れるような位置についた。


彩里水と白兎はわざとトランプの3たちから見えるような位置から聞こえるように「お休み」と言い合ってベッドに入る。

と、そのままコッソリと、まずは彩里水がそうっと垂らしてある縄の位置へ移動する。チェイスの体でトランプの3たちから死角になっている。


彩里水は窓の下を見る。


ゴクリと唾を飲んだ。


先程アケノスズメが鳴いてから5分程度しか経っていないが空が白んできている。作戦を実行するための時間は限られている。

怖がって尻込みしている時間はない。


白兎が立てた作戦では、縄を降りるのは1人ずつにしようということになった。自分たちの体重に縄がどれだけ絶えられるか、ベド、ドッベ、チェイスの3人がどれだけ耐えられるかわからない以上、安全策を取ってのことだ。


地上まではおよそ10m。


縄で降りるというのであれば、彩里水にとってそこまで大変な距離ではないが、目の当たりにして見るととても高い。


クラリと目が眩む。

その上、プロが準備し安全の保証がされている遊園地や遊具などとは違う。全て自分たちで準備したものだ。心許ないし怖くないわけがない。


ただ、昨日から興奮状態のまま一睡もすることなくここへ来ている。今なら正直空も飛べるのではないかと思うような体験をたった1日でしている。

実際、竜の背中に乗って空を飛んだ彩里水にとってはこの脱出は冒険と言える程度に自身を高揚させてもいた。


怖さはあるが、彩里水は迷わずサッと縄を掴んで窓の外へ出る。


「うっ!」


と小さく悲鳴を漏らしたのは縄を結びつけているベドだ。彩里水は4月から4年生になるにしては小さい方だし、軽い。

しかしそれでも30kg近い体重が前足だけに一気にかかれば思わず声が出るぐらいにはベドいとっても重かった。


彩里水はなるべく下を見ないようにしながらするすると縄を降りていく。順調だと感じていた。キップとクップの言うとおり、あれだけ賑やかだった空は、今では行き来している者がひとまず確認できない。



最も、彩里水は周りの景色など見ている余裕はなく、なるべく早く白兎にバトンを渡せるよう下へと急いでいた。


彩里水はあっという間に、塔の半分ぐらいの高さまでスルスルと順調に降りていた。


しかし突然、縄が大きく揺れたのを感じる。


咄嗟に縄をしっかりと掴み直すと同時に驚きで上を見上げると、なんと白兎が降りてきている。



――バレたんだ。



彩里水は瞬時に思った。


安全策を言い出した白兎がまだ中腹に彩里水がいるのに降りてくるということはトランプの3たちに気付かれてしまった以外あり得ないと思った。

彩里水は降りながら焦って鼓動が早まり手が震え出す。



――やばい、落ち着かなきゃ。でも急がないと。下に追っ手が来ないうちに!早くっ。早くっ!



そう思えば思うほど焦って手は震え汗を掻いて滑り出す。


つづく

妄想列島

オリジナル小説。 『少年彩里水(アリス)の不思議冒険譚』毎日配信中。

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