少年彩里水の不思議冒険譚 -不思議の国の入り口54-
54 私を投げて
「ねえ、一体どんぐらいここをグルグルしてる?いくらなんでもおかしくない?」
彩里水は、この従業員棟に入ってから一体どれくらいの時間が経ったか見当も付かなくなっていた。庭園への入り口を示す看板はアッチにコッチに向きを変え続け、それに従って歩き続ける彩里水たちはまだ庭園への入り口を見つられていなかった。
「おー、オレも思う。もし従業員棟に意思があってやってるとしたら、わざとここで足止めされてんのかもな。てことは、オレらがノコノコ庭園出口に出たらそこで待ち伏せされたりしてるのか?」
「ありえますね。」
白兎が嫌な予感を口にするとキャンドーは答えた。
彩里水がまた「庭園」の案内表示を見つけると、矢印の向きがクルリと90度回転する。
「え?何々?」
「おいおいー、どういうこと?」
彩里水と白兎は口々に疑問を言葉にする。
90度回転した先には天井しかない。
「これ、どこに行けばいいってことなんだろ?」
彩里水が誰に聞くともなく口にすると、キャンドーは答える。
「矢印が上、ということは上に庭園があるということです。この国には常識がない分、意思の力が強いんですよ。もしかしたら、この従業員棟さんは私がいた頃と同じ方かもしれないですね。・・・だとしたら嬉しいです。」
そう言いながら白兎のポケットからいつの間にか出ていたキャンドーは何か探し始める。
「ああ、見つけました。」
廊下にあったゴミ箱の中からキャンドーは「私を投げて」と小さく書かれた豆電球を拾いあげ、みんなに見せる。
彩里水はこの書き方に覚えがあった。
彩里水がこの世界へ落ちてくる途中でランプに書かれていた。
その時はただ割れただけだと思っていたけれど、着地の瞬間にふわりと体から重力がなくなり、彩里水の身体が上下逆さまに180度回転してそのままフワフワと天井に着地した。
「これって・・・。」
「これを投げるとなんかあるの?」
彩里水が呟いた言葉に気付かず、白兎がキャンドーに聞く。
「恐らくですが、これを投げると庭園に続く場所に導かれるようなことは起きます。」
「ええ?なんかアイマイな言い方じゃない?」
「何が起きるかはいつも決まってるわけではありません。人によって、場所によって、時によって変わりますから。」
キャンドーがニコニコと説明すると、先程言葉を遮られた彩里水がもう1度口を開く。
「あのさ、オレ、これに似たやつ、この世界に入るときに使ったんだ。」
「え!?」
ニコニコと笑顔を浮かべていたキャンドーが驚きの表情を浮かべる。
白兎も驚いたが、キャンドーのその表情は驚愕と言ってもいいほどだったがそのキャンドーの表情に気付いた者はいない。彩里水が先を続けた。
「この世界に落ちてくるときに天井にぶつかりそうになったっていうか床に落ちそうになときにランプに「私を投げて」って書いてあった。それを投げたら、急に身体が軽くなった感じがして、身体の上下がグルンと反転した。」
「え!てことはこれ投げるとそれと同じことが起こるのか?だとしたら庭園が上にあるってのも何か納得・・・。」
白兎は豆電球をマジマジと見ながら言った。
「彩里水くん、それは本当ですか?ランプに「私を投げて」と書いてあったと?」
キャンドーは再び驚愕の表情を浮かべながら彩里水に尋ねた。
つづく
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