この驟雨に打たれて-3-

試合後。


結局、今日の試合を我が秋風高校バレー部は勝ち進み、明日の試合へ進むことができた。


「どどどどどど、どうしよう?明日も試合あるのにこれ今日渡して良いのかな?カップケーキなんて食べてる場合じゃないのでは?ももももっとなんかこう、血となり肉となるようなものを食べなければいけないのでは?っていうかこれでお腹壊したりしたらどうすんの?まあ絶対今日食べなきゃいけないわけじゃないけど、やっぱり今日渡すべきじゃないんじゃあぁぁぁ・・・・。」


「莉花!もう!ここまで来て!アンタ涙流して試合見てたくせにまた怖じ気づいてんの!?渡すんじゃないの!?」


結菜に引っ張られ体育館の出入り口で牧田先輩を待っていた。


「ででででも!試合が一段落したときとかが良いような気がして。」


「ばか!もし負けたらもう2度とないんだよ!?それに、負けた日にあげるなんてもっとできないでしょ!?」


「あ・・・。」


結菜に言われ、私はまた自分の意気地のなさに嫌気が差す。



――そうだ。先輩たちは負けたらもうできない試合をしてるんだ。さっきそれに勇気づけられたばかりなのにまた・・・。



「・・・うん。今日渡す。来たら絶対。」


「・・・よし!」


結菜に背中を押してもらった私は、意を決して先輩たちを待つ。

しばらくすると我が校男子バレー部がぞろぞろと試合会場の体育館から出てきた。


「あ!来たよ!莉花!」


「ううううううううん。」


緊張で声が震えすぎている。


「ち、ちょっとアンタ。大丈夫。」


「だだだだだ大丈夫。だいじょぶだあ。」


「何!?緊張しすぎて志村けんみたいになってるけど!」


「いいいいいいいいいていい行ってくる!」


そう言って私は牧田先輩のところまで駆け寄った。


「まま、牧田先輩!」


私が叫ぶと、我が校男子バレー部の皆さんがギラリとこちらを見る。


背の高い男子バレー部に圧倒されそうになる。


「あ!今野さんだ!」


そう私に声をかけて来たのは、3年の若林先輩だった。



「あ!わ、若林先輩。・・・・お、お疲れ様です。あ、今日!おめでとうございます!」



――な、なんで私の名前知ってんの?・・・てか。怖い。バレー部男子は全員背が高すぎる!



私はオドオドしながら挨拶する。


「お、ありがとー。」


「おい、若林。聞いてた?牧田先輩って言ったの。今野さんは。」


大きなバレー部の集団からひょっこりと顔を出して来たのは牧田先輩だった。


「いーじゃん、別にー。ね。今野さん。」


「あ、っは、はい!」


「俺の名前知ってたしねー。・・・もしかして、実は牧田じゃなくて俺を見に来てる説。」


「え!?ええええ・・・」



――ど、どうしよう!?若林先輩を見に来てるわけじゃないから違いますって答えれば良いの?でもそしたら牧田先輩を見に来てるってバレちゃうわけで。実際、牧田先輩を見に来てますけど。でも、牧田先輩だけを見てるわけではなく、バレー部全体を応援してるというか・・・って、今言う時!?えっとー・・・。



なんと答えようかと戸惑っていると、牧田先輩が言った。


「おい。今野さんはオレに言われて応援に来てくれてるんだから、おまえを見に来てるわけないだろ。・・・ねえ?」


「え!?あ、っはい!」


直立不動のまま慌てて私が答えると若林先輩は不満げに言った。


「なんだよー。」


「いーから先行けよ、すぐ行くからー。」


牧田先輩にそう言われた若林先輩は渋々山下先輩に連れられて、とっくに先を行っていたバレー部の集団に戻っていった。


「あああああああの!ま、牧田先輩!すすすいません!呼び止めて!お疲れ様です!」


「うん。応援ありがとう。」


「いいえ!そんな!勝手に来てるだけですからっ。き、今日、すすすすごく!格好良かったです!」


「・・・え?あ、あー・・・ありがと。」


先輩ははにかんだ笑顔を見せる。



――うわー!か、格好いい!かわいい!・・・。じゃなくて!



「ああああの!それでこれ!」


そう言って、私は作ってきた6回目のカップケーキを差し出す。

6回も同じものを作ったので、味も見た目も自分でも満足するほどかなり上出来だった。


「あ・・・。マジ?」


そう言って先輩は私の手からカップケーキを受け取ると続けた。


「マジで作ってくれたんだー!ありがとう!・・・めっちゃ嬉しい!すげー美味そう!」


「ああああの!いいえ!あの!き、今日食べなくても大丈夫ですから!何日か持ちますから!今日はバンセンを・・・万全を期して、血となり肉となるものを食べて明日に備えてください!あ、ていうか、勝手に作ってきたし、食べなくても全然!ほんと全然っ!」


「ぶは!はははは・・・!相変わらず面白いねー、今野さん。・・・バンセンって・・・。ち、血となり肉となるものって・・・。」


牧田先輩はお腹を抱えて笑いながら言った。


「・・・いやー、ごめんごめん。笑ったわー。ほんと、いつもありがと。・・・じゃあさ、このカップケーキ、明日、勝って食べる。明日決勝だから。明日勝ったら全国だから。お守り代わりに明日まで取っとくね。」


「え?」



――お、お守りに?・・・う、嬉しい!



「あ・・・は、はい!」


「明日も応援来てくれる?」


「い、行きます!もちろん!」


私が言うと先輩はあのいつもの眩しい笑顔になった。


「わかった!明日楽しみにしてて!絶対勝つから!応援よろしくね!」


「はい!」


「じゃあ、みんな待たせてるから行くね。ホントありがと!」


「はい!すいません!お引き留めして。」


手を振りながら駆けていった先輩に私はひたすらペコペコとお辞儀をし続けた。



――・・・。



「先輩!応援してます!」


気付いたら、私は駆けていく先輩の後ろ姿に向かって叫んでいた。


先輩は振り向きながら


「ありがとー!」


と手を振ってくれた。


       *             *             * 




「莉花―!がんばった!えらい!」


先輩が去ると結菜が駆け寄って私をギュッと抱き締めながら言った。

私も力が抜けて手が震えながら結菜にしがみつくように抱き締め返した。


「はー。やばかった。気絶するかと思った。」


「うんうん。えらいえらい。メチャクチャがんばったよー。」


「結菜あ。」


私は涙声になりながら言った。


「明日勝つって、先輩言ってくれた。」


「マジか。すごい。」


結菜も感心した表情を見せる。


「・・・勝ったら全国だね。」


「・・・うん。そしたらまた応援できる。まだ先輩のこと見れる。」


私は祈るように言った。


「うん。」


「結菜、ありがと。結菜がいなければ、そもそも何も始まってなかった。」


「なーに今更言ってんのー!」


「ちょっ。ぐ、ぐふ!い、痛い・・・。」


結菜が照れながら私の背中をバシバシと叩いて言う。


「だって、今日だって結菜がいなかったら絶対渡せなかったから。ほんとに、渡せて嬉しい。」


「・・・よかったね、莉花。」


「うん。」


       *             *             * 




翌日の決勝。


我が校バレー部は序盤からリードを保ち危なげなく全国大会進出を決めた。


試合終了後の帰り道、応援の人たちに紛れ私も会場をあとにしていた。結菜がトイレに行っている間、出口へ流れていく人の波をボーッと見ていた。


「さすが全国常連校!決勝でこんだけ危なげない試合もすごいよなー。」


我が校の応援をしていたらしき人の会話が聞こえ、私は思わず耳を傾ける。


「な。どっちかというと昨日の方がヒヤッとする場面があったよなー。」


「確かにな。でも、さすが牧田だよな。流れ取り返してたもんなー。」


知らない人まで先輩のことを褒めている。改めてとてもすごい人だと感じつつ、と同時に私も誇らしくなる。


「莉―花っ!」


後ろから呼ばれ振り向く。結菜だ。


「今日はもう帰るの?」


「え?」


「先輩に会ってかなくていいの?」


「え、・・・う、うん。会いたいけど、・・・今日はいい。疲れてるだろうし、毎日はさ。それに、今日勝ったらカップケーキ食べてくれるって言ってたし。それだけで嬉しい。」


「・・・そか。」


「うん。それに・・・また見れる。」


私はまだ先輩の姿を見ることができることを、噛みしめながら言った。


「うん。だね。」


「今度は全国かあー。練習も見に行ける!楽しみ!」


「ほんと、好きだよねー。」


結菜がからかう様に私に言う。


「ゆ、結菜のことも好きだよ?」


「いーから。そーゆーのいいから。」


私たちはいつものように笑いながら帰路についた。


       *             *             * 




体育館。


いつもの隅の席でいつものように練習を見学する。


全国行きが決まってから、さらに気合いが入った様子のバレー部員たちはさらにレベルの高い練習を繰り返していた。


今日も以前と同じように牧田先輩は練習前に私に声をかけてくれた。

最近では、部活がない日に付き合ってくれる結菜と若林先輩、山下先輩も加わってほんの少し話をする。

と言っても私はほとんど相槌をするぐらいで話すのは結菜だ。

1人だとパニクってしまうので、結菜がいてくれる日はいつも心強い。


いつも、部活終了後も先輩たちスタメンを中心に自主練をしている部員も少なくない。

私はさすがに帰りが遅くなってしまうとお母さんに叱られるので、部活の時間が終わったら大体帰ることにしている。


今日は結菜はダンス部があるので1人だ。


1人体育館を後にすると、いつもは自主練をしているはずの先輩が自転車に跨がり前方にいた。


「牧田先輩・・・。」


思わず名前を呼んでいた。呼ばれて先輩は自転車を止めて振り返る。


「あ!今野さん!今日も見に来てくれてありがとう。」


いつもの眩しい笑顔でこちらに向かってくる。


「あ、お疲れ様です!・・・えっと、先輩、今日は自主練しないんですか?」


オズオズと聞く。


「うん。ちょっと練習中に足首痛めて。」


「え!?」


「あ、いやいや。全然たいしたことないし平気って言ったんだけど、最近オーバーワーク気味だったし帰れって山ちゃんに言われちゃってさー。・・・今野さんももう帰るとこだよね?」


「あ、そうです。」


「おー、駅まで?」


「はい。」


「ふーん。・・・じゃあもう暗いし、駅まで送るよ。」


先輩は自転車から降りて、自転車を引いて歩き出す。


「・・・え!?」



――え!?ままままま牧田先輩が駅まで送ってくれる!?何ですか!?この神展開は。ありえるんですか!?こんなことが!どどどどどうしよう!?ででで、でも、今日はゆっくりするために早く帰った方がいいのでは!?だ、だめだ。考えてたら興奮して鼻血が出そう!



また1人脳内で慌てていると、練習を見に来ていたらしい生徒の話し声が少し遠くから聞こえた。


「バレー部全国大会とかすごいよねー、今日も部活終わっても自主練してさー。」


「ね。めっちゃ練習してるよねー。・・・でもさ、全国常連って確かにすごいけど、全国行くといっつも1,2回戦で敗退しちゃうんだってー。昔は優勝したこともあるからレベル落ちたとか言われてるんでしょ?」


聞こえてきた会話に、私は思わず牧田先輩を見る。

薄暗くて表情はよくわからないけど、いつもの眩しい笑顔ではないことは確かだ。


「あの・・・先輩・・・。」


「うん。知ってる。そう言われてるの。昔もっと強かった分、やっぱりそういう声も常にあるみたい。出るのは当たり前。これだけの設備投資なんだから最低でもベスト4ぐらいには入らないとって。」


「・・・え。そうなんですか。」



――全然知らなかった。全国なんて出るだけでも私には神の領域ぐらいの話なのに、先輩ぐらいになると出るのは当たり前なのか。そんな世界があるのか。



先輩は歩きながら続ける。


「でも、今年オレらの代はホントに強くてさ。昔もっと強かった頃ぐらいのレベルなんじゃないかってオレは思ってる。・・・普段山ちゃんも若林もふざけてばっかに見えるでしょ?でもアイツらマジすごくてさ。それに1、2年の後輩たちもすごい。スタメンの後輩にはプロ間違いなしって言われてるやつもいるんだ。」


「あ、2年の相羽くんですよね?」


「あ、うん。」


「相羽くんのアタックすごいです!それから2年の大友くんもブロックがすごくて。」


「・・・2年の2人とは仲いいの?」


「あ、一切話したこともないです。・・・ただ、私ずっと見てるので、もうバレー部の方全員の名前覚えてます。」


なんとなく気恥ずかしくて、頬を掻きながら答えた。


「え!?全員!?スタメンじゃない奴らも!?」


「え、えーっと。・・・はい。いえ、決してストーカーとかなアレではなく、ただ見てる内に自然と覚えてしまったというか、スタメンじゃなくても練習は皆さんしているわけで、み皆さん声を掛け合いながら練習していますし自然と的なことであって・・・。あ、あのまだスタメンではないけど1年の大場くんとかものすごいバネ?って言うんですかね。ジャンプ力も反射神経もあったりとか、あと、2年の小泉くんはしっかり者で3年生がいないときによくみんなをまとめてるんだなー、とか、そういうの見てたら自然と名前とか覚えてしまったと言いますか・・・。」


「・・・。」



――ぐはぁ!しまった!全員の名前知ってるとかちょっと怖かったりするんだろうか?ていうか言い訳がましくいろいろ言ったことで逆に怪しい人な雰囲気になってしまっているのでは!?・・・墓穴!!



「・・・ありがとう。すごい見て応援してくれてるんだな。そう、大場はオレらが引退したら間違いなく主力になるだろうし、小泉は次期部長だと思う。それに、2年連中は鈴木や小林もメチャクチャ頼りになって・・・。」


「あ!鈴木くん!いつも自主練はあまり見れないんですが、それでも見る時はとてもサーブの練習してます!こないだの練習試合はピンチサーバーですごかったです!」


「・・・はは!ほんとによく見てるね。まあ、オレだけじゃなかったってのはちょっとアレだけど。」


「え?」


私は先輩が最後の方に呟くように言った言葉が聞き取れず聞き返した。


「いや、うん。・・・だから今年は冗談じゃなく全国優勝も夢じゃないと思ってる。」


そう言った先輩はいつもの眩しい笑顔に戻っていた。


「・・・はい!」


「・・・。」


「・・・あ、あの!わ、私・・・。私にとっては全国なんて出るだけで神の領域って言うか、それすらもおこがましく、もうもはやバレーボールでとトスが相手の手元にちゃんと上がるだけでもすごいっていうかそんなレベルで。わ、私なんかと・・・。じゃなくて私と比べても仕方ないんですが、それでもほんとに牧田先輩も他の部員の方たちもとにかく神レベルにすごいんです!ほぼ毎日のように練習見てて、あれだけ動いているのに次の日も普通に学校に来れてるってところがもう神っていうか!と、とにかくす、すごくて・・・。」


「・・・。」


「あ、あの、すいません。私、何言ってるかわかんないですよね。」


「ぶは!ぶははははは!・・・また!今野さん節出たね!いつものやつ!それマジおもしれー!」


先輩は私の何がそんなに面白いのかまた爆笑している。



――でも、さっきみたいな顔になるよりずっといい。



「あー。ごめん。今日も安定の面白さだわー。いやー、笑った。・・・うん。ありがとう。今野さんはいつも練習も試合も見に来てくれて、そうやって応援してくれてる人がいるってのはオレたちマジで心強いよ。」


「え?あ、あの、・・・少しでもお力になれているのだとしたら嬉しいです。」


「うん。めっちゃなってる。・・・そうだ!カップケーキ!あれ全国決まった日に食べたよ。マジで美味かったー。」


「え?よ、よかったです。」


「そうだ。オレもらっといてお礼も言ってなかったよね。ありがとね。」


「い、いえ、そんな。勝手に作って持って行ったので。も、もし万に一つでも食べてもらえて喜んでもらえたとするならば・・・う、嬉しいです。」


「ま、万に一つ・・・。ぶ!はは!んんッ。うんッ!」


先輩はまた笑いそうになって咳払いをする。と、突然立ち止まり私の方を向く。


「あのさ、今野さん。」


「・・・はい!」


突然こちらを向かれて驚いた私はまた直立不動の姿勢になる。

先輩は真っ直ぐ私を見ている。


「・・・オレら、全国優勝するよ!」


「は・・・はい!」


「・・・だから・・・見てて!」


真っ直ぐ私を見てそう宣言する先輩に私は涙が溢れそうになるのをグッと堪えた。


「・・・はい!もちろんです!」


私が返事をすると、牧田先輩は再び歩き出す。


「・・・あーやべー。宣言しちゃったなー。アイツらにもまた明日からハッパかけなきゃなー。」


「す、すごいです!そんなすごいことを宣言できるなんて、やっぱり神です!」


「はは!神って!もう止めて。マジで今野さんツボなんだよなー。てかさ、またカップケーキ作ってきてよ。」


「もももも、もちろんです!いつでも作ります!ッカ、カップケーキにはちょっとだけ自信があります!」


「おおー。いやでも、あれマジで美味かったなー。」


「・・・あの、あの!」


今度は私が立ち止まる。

それに気付いて先輩も立ち止まる。


「・・・カップケーキ、また決勝の前の日に作っていきます。前回、お守りって言ってくれて嬉しかったので!け、決勝まで行くって!というか優勝するって信じてます!」


私が先輩を見ると、先輩はまた真っ直ぐに私を見ている。


「・・・あの、だからその、カップケーキを作ってやるから的なそういうおこがましいようなことがいいたいわけではなくてですね、えっとー・・・。」


私がしどろもどろしているとまた先輩は笑い出す。笑いが収まった先輩が言う。


「・・・うん、ありがと。」


先輩は優しく言うと再び歩き出した。


「・・・しかし、今野さんのカップケーキ食べるのメチャクチャハードル高いわー。」


「・・・!・・・ああの、すいません。そ、そういう意味ではなくて!ご要望があればいつでも作るんですが、でも大会とかで身体作りにあまり適さなそうなものをしょっちゅう作っていくのもアレだしなー、とか・・・。」


「ぶはは!いいから!わかってるから!今野さんがいろいろ考えてくれてるの。ありがとね。嬉しいよ。」



――う・・・。メチャクチャ笑われ続けてる・・・。恥ずかしい。でも、先輩が元気でいてくれると嬉しいな。



チラッと笑いながら歩いている先輩を盗み見る。



――・・・ッハ!ていうか、いつの間にか自然と先輩に送ってもらっていた!どどどどうしよう!?私は今先輩と2人で?か、帰っている!?



先輩との帰り道は信じられないぐらい時間が経つのが早かった。たった今のことなのに自分が何を話したのか、緊張して何も思い出せないぐらいだった。


駅に着くと、先輩が言った。


「んじゃ、今野さんまたね。」


「はい!」


「もう帰り道暗いから、1人の時は暗くなる前に帰りなよ。女の子1人は危ないよー。」


「あ、・・・は、はい。・・・あの、でも、いつも夢中になってしまっていまして・・・。」


私は頭を掻きながら答える。


「・・・そっか。い、いやでも!危ないから!これからもっと暗くなるの早くなるんだし!」


「はい!気をつけます。」


またしても直立不動になってしまう。


「・・・じゃあね!気をつけて!」


そう言って自転車を漕ぎ出す先輩に向かって私は叫んだ。


「あ!せ、先輩!あの!・・・私、応援してます!練習も、試合も、全部!部活やってる先輩ホントに格好いいです!か、勝ってください!先輩がバレーやるとこ、たくさん見せてください!」


先輩は自転車をキッと止めて振り返ると、あの眩しい笑顔で、拳を握りしめて手を掲げた。


「おう!」


そしてまた自転車を漕いで行く。

私はそこで先輩の背中が見えなくなるまでずっと見ていた。


       *             *             * 




つづく

妄想列島

オリジナル小説。 『少年彩里水(アリス)の不思議冒険譚』毎日配信中。

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