この驟雨に打たれて-5-
準決勝当日。
私は我が校の応援席にいた。
初戦よりは当然出場校が少ないので、人数は少なかったけれど、それでも観客席にはかなりの人がいる。
先日と違うのは、広い体育館内にたった一つ設置されているセンターコート。
今までのように各コートで同時に試合が行われることはなく、ここで対戦する2校だけが試合をする。この場にいる全員がこの試合だけを観戦するのだ。
――とうとう準決勝だ・・・!勝てば決勝。あと2回勝てば優勝だ!先輩・・・!勝って欲しい!
準決勝の相手は何度も全国に出ており、優勝経験もある学校。近年こそ優勝はしていないものの今年のチームは勢いもあり、優勝候補の颯真高等学校だった。
初戦からほとんどセットも落とさずこの準決勝まで勝ち進んだ強豪校で、我が秋風高校とも何度も対戦し、秋風高校が負け越しているらしいと言う因縁の相手だった。
試合開始のホイッスルが鳴り、相手チームのサーバーが高々とボールをあげた。
相手の強烈なサーブが先輩の横を通過してコートに叩き付けられる。
――こわ。すご。
私が恐れている間にも試合は進んでいく。
もう1度、相手チーム1番の強打がこちらのコートを襲ったが、今度はレシーブで捕らえる。
強打により高々と上空へ上がったボールをセッターがトス。そこから流れるように牧田先輩のスパイク。
ダンッ。
相手コートに先輩の強烈なストレートが炸裂する。
ワッ
歓声が上がる。
「わあ!」
私も思わず声を上げる。
1点返した先輩はコート上を軽やかに駆け仲間たちと士気を高める。
序盤から両校とも快調な様子で点を取り合う。
5-7
10-13
17-21
リードされながらも食い下がるが点差は徐々に開いていく。
味方のサービスエース。
ジャンプフローターサーブで相手を乱したまま返球されたチャンスボールをリベロがレシーブ。
セッターの相羽くんのトスから牧田先輩のバックアタック。
ダンッ
先程のように豪快で小気味のいい音が鳴り、またスタンドにワッと活気が沸く。
驟雨のような歓声はいつだって先輩に降り注いでいる。
先輩のアタックに続き、味方チームのアタッカーたちが18、19、20と次々に点差を縮める。
20-21
けれど、ここでまた相手チーム1番のサーブ。
高々と挙げたボールをジャンプサーブでサービスエース。
ゴッ
ダンッ
ノータッチエース。
こちらチームのレシーバーは1歩も動けなかった。
20-22
縮まった点差がまた離される。
そのまま相手に試合の流れを持って行かれ、第1セットを23-25で落とした。
強敵を前に、先輩にいつもの眩しい笑顔はなく、見たこともないような厳しい表情を浮かべていた。
第2セット開始。
試合はセット序盤から白熱の展開を迎える。
8-7
13-15
23-22
このセットは終止、秋風側がややリードながらも長いラリーが続く展開が多く、両校とも終盤に疲れが見え始める。
――先輩・・・!みんな・・・!神様!お願いします!
私はただただ食い入るように試合を見つめる。
長く続いているラリー、いつものようにセッター相羽くんから牧田先輩へのトス。
何度も何度も決めてきたこのアタック。
何度も何度も目にしてきたこのアタック。
この一打が相手コートに強烈な音を立てて突き刺さることを何度も祈る。
先輩は風のように速い動きで跳ぶ。
その次の瞬間にボールはもう相手チームに矢のように襲いかかっている。
相手チームのレシーバーが受け損ねたボールは場外へ弾き飛ばされる。
24-22
――あと1点。あと1点で第2セットは先輩たちの勝ちだ!
これ以上固く握れないほど握っている両手にさらにギュッと力を込める。
相手チームのサーバーが高々とジャンプしてボールを宙に放つ。
そのボールはギリギリコートの白線の外。審判がアウトのハタをあげる。
第2セット終了。
またワッと歓声が上がる。
――勝った。
私は、はあっと息を深く吐く。
――見てるだけで生きた心地がしないのに、先輩たちはこの観衆の歓声と相手チームからのプレッシャーの中、どうしてこんなに力強く跳べるんだろう・・・!打てるんだろう・・・!!
祈る形の私の握られた両手は汗で湿っていた。
その後も試合は一進一退。
第3セット26-28、第4セット30-28。
長いラリーとデュースの続く中、両校とも気迫はどんどん増していく。
白熱の激闘の中どちらからも「負けられない、勝ちたい」という強い意志が瞳に、掌に、脚に、全身に現れていた。
* * *
最終セット。
このセット、どちらにとっても勝てば決勝へ。負ければ終わり。
私の手はもう拭っても意味がないほど汗をかいている。涙腺は今にも崩壊しそうだった。
ファイナルセット開始のホイッスルが会場に響く。
牧田先輩のサーブ。
先輩の表情はいつものように厳しくも凜々しい。
観客の視線は先輩の一球目に全て注がれている。私も手を固く握りしめ牧田先輩のサーブを見つめる。
先輩が高々と挙げたボールへ、そのしなやかな体のバネを使って全ての反動を掌に集中させているかのように力強く相手コートに向かって腕を振り下ろす。
ダンッ
力強く鋭い一球が相手のコート白線のギリギリインコースに突き刺さった。
ワアアアアアア!
またあの驟雨のような歓声が先輩に降り注ぐ。
続く先輩のサーブは相手のレシーバーがかろうじてあげる。
しかし、相手チームのセッターはそのボールを素早くトスして相手チームの超速攻が秋風高側コートに突き刺さる。
構えていながらも1セット目から先輩たちを翻弄する速攻に秋風高校バレー部は反応できない。
相手チームにサーブ権が移り、試合は1-1。
その後も秋風高校と颯真高校の因縁の対決は一進一退。
3-4
6-7
8-7
8点目を逆転したところでコートチェンジ。ファイナルセットは15点先取でどちらかが8点取るとコートが入れ替わる。
ここで相手高校のサーブは1番。先輩同様凄まじい強打な上に、コースも打ち分ける。
相手チームの目で追うこともできない速攻や轟音が響く強打者。
高身長のブロッカー。
どこに打っても返してくるレシーバーにリベロ。
一体どこに攻撃をすれば良いのかわからないほどの選手層の厚さを見せる。
それでも取られては取り返す秋風高バレー部のみんな。
改めて先輩たちバレー部のすごさを感じる。
高々と上がったボール。
相手チームビッグサーバーが叩き付けた強打を主将の山下先輩が何とかあげる。
しかし相手コートへの返球となったボールを相手チームエースがすかさず速攻で決めてくる。
8-8
9-10
12-14
ひっくり返された点差を広げられて相手のマッチポイント。
結菜の応援の声は会場を何度も勇気づけている。
私は祈ることしかできない。
ここで、良く通る聞き慣れた声が張り詰めたコート内に響く。
「ドンマイドンマーイ!いつもどーり!1本切ってくぞー!」
聞き慣れた声、聞き慣れた言葉。
これまで何度も見てきた試合。
牧田先輩の口から何度も聞いた言葉。
そして、あの全国大会予選の終盤の劣勢を見事挽回させるきっかけとなった言葉。
この言葉で再びコート上、ベンチやベンチの外から応援するチーム全員の士気が上がる。
応援団もほとんど枯れ果てたようなしかし気合いの入った声を振り絞っている。
またあの先輩の言葉で活気を取り戻す自チーム。
再びサーバーの1番はボールを高々と挙げる。
そのボールをまたしても山下先輩が、しかし今度は体勢を崩しながらも自チームのコート上へ挙げる。
いつものセッター相羽くんからのトスで先輩が跳ぶ。
そこから流れるように牧田先輩のスパイク。
ダンッ!!!
落ちた先は秋風高校のコート。
* * *
つづく
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