少年彩里水の不思議冒険譚 -不思議の国の入り口80-
80 光の中を
「誰だっけ?・・・城にいたのは覚えてる。」
「おい!・・・ジョーカーだよ。・・・ったく、こんな時なのにいつまでも呑気だね君は。」
満を持して登場したつもりのジョーカーは、木からズリ落ちそうになりながら答える。
ぶら下がるのを止め樹上から樹上へ忍者のようにピョンピョンと移動しながら付いてくるジョーカーに、彩里水は息も絶え絶えになりながら半ば怒鳴るように質問する。
「なんでいる!?」
「なんでってー。君たちのことをずーっと見てたんだよ。面白そうな2人だったからね。」
「ハアッハアッ。・・・。見てたって、なんで?どうやって?」
呼吸をするのでさえ苦しい彩里水はかろうじて言葉を吐き出す。
「それはー、コレでだよ。」
ジョーカーは相変わらず涼しい顔をして樹上を高速で移動しつつ、彩里水に双眼鏡を見せる。
「ハッハッ・・・。はあ!?・・・っ何言ってんの!?・・・っ意味わかんない!」
真面目に質問に答えたにも関わらずけなされたジョーカーは、少し不機嫌な顔を彩里水に向けるが彩里水は走るのに必死で気がつかない。
「・・・そんなことより、助けてあげようかって聞いてるだろ?助けて欲しくないの?もう追いつかれちゃいそうじゃーん。」
ジョーカーはすぐ後ろで彩里水に罵声を浴びせ続けながら追いかけているハートのトランプ軍をチラリと見ながら楽しげに言った。
「ハッハッ・・・。助けてって、おまえ、トランプの仲間だろ!?」
「べっつにー。トランプの仲間ってわけじゃあ、ないよ。」
「ハッハッ・・・。なんだよ、おまえ、いいやつなの?て、敵かなって、思ってたけど・・・。」
「まあ、今のところ敵ではないよー。助けるって言ってるんだからね。」
「じ、じゃあ、助けて!助けてくれ!は、白兎も!」
「ハクト?・・・ああ、あの一緒にいた子かな?もちろん、彼も一緒に助ける予定だよ。」
「ハッハッ・・・。じゃあ、お願いします!マジで、もう、限界・・・。」
彩里水は息も絶え絶えに、今にも止まってしまいそうな足を必至に前へ進めながらジョーカーに頼む。
「オーケー。」
ジョーカーは彩里水に頼まれるとニヤリと不敵な笑みを浮かべ、彩里水の頭にこの不思議の国で見慣れない形の生物たちをたくさん見てきた彩里水でもまだ異様な形をしていると感じてしまう左半身の、人間であれば手がある部分の金属でグッと触れる。
彩里水は触れられた部分に、まるで熱した金属でも触れられたかの如く耐えがたい熱さを感じ悲鳴を上げる。
「グアッ・・・!」
ジョーカー自身もまた苦しげな表情を浮かべ呻いている。
「グ・・・ウ・・・ウ・・・。ック!」
次の瞬間、ジョーカーは金属の手を彩里水の頭から何かをズルリと引き出すように離した。
熱さで意識を失う寸前の彩里水は、自身の頭頂部から何か金色の光のようなものがズルリと音を立てて引きずる出されるのを見たような気がした。
と、彩里水は一瞬前まで頭に感じた強烈な熱さと痛みで気を失いかけていた感覚さえなくし、その、自身から引きずり出された金色の光の中を走っていた。
その光の中を走っていると、先程まですぐ後ろを追いかけてきていたトランプ軍たちは、彩里水を追いかけながらもその距離はどんどん彩里水から遠ざかっていき、やがて見えなくなっていった。
彩里水はそれでもなお走り続けていた。
つづく
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