少年彩里水の不思議冒険譚 -不思議の国の入り口20-

20 この世界の食べ物

食べ物を用意された彩里水たちはようやく、自分たちがここへ来てから何も口にしていないこと、そして、とても喉が渇きお腹が空いていたことを思い出した。

「そう言えば何も食べてなかったね。」

「そうだな。それにメチャクチャ喉渇いてる。ううっ。何だってこんな目に。オレたち可哀想かよー。」

白兎はいいながら、棚に入っていたポットとコップ2つを持って流し台に向かう。しかし、流し台には水道が付いているものの蛇口がない。

自動かと思いポットを水栓の出口にかざすが何の反応もない。

白兎は蛇口やボタンなどがないか探していると彩里水も流し台へやってくる。

「どうしたの?」

「いや、水道があるんだけど蛇口がなくて。・・・何だろう?蛇口さえもオレに嫌がらせをしてきてるのかな?」

「え?白兎、被害妄想が過ぎるんじゃない?てか、自動なんじゃない?」

そう言って彩里水がポットを水栓の出口にかざすと水がポットに注がれた。

「あれ?さっきやったら出なかったのに。」

「反応が悪かっただけじゃない?」

と彩里水はあっけらかんとしている。

白兎は、なんとなくこの世界は中世のような空気感があったので自動水栓なんてあるのが意外だった。いや、むしろ水道設備が整っていたことも意外だった。井戸などで汲み上げる方がしっくりくる。

もう一度白兎が手をかざしてみると、水は勢いよく白兎の手を濡らした。

衛兵に背を向けながら、彩里水と白兎は衛兵に聞こえないよう小さな声で話し始める。

「はあ。とられちゃったね、ハンガー。」

「うん。最悪なタイミングだったな。」

そう言いながら彩里水がカップに入れた水を受け取った白兎は、水をゴクリゴクリとカップ一杯飲み干す。

彩里水も自分の分のカップに水を注いでいざ飲もうとしたところで、目の前の白兎の異変に「わっ。」と声を上げ目を見張る。

「・・・?どうした?彩里水。」

「ど、どうしたって・・・。白兎おまえ・・・。」

ニョキニョキと白兎の頭頂部が3~4cmほど伸びたのだ。

「え?何?」

「おまえ、自分で気付かないの?」

――おまえ、突然頭がチューリップハットを被らず頭に乗せただけの状態になってるぞ。・・・さすが白兎。この世界に来てからのオレの中の変人度トップを裏切らないっ!

彩里水はこの事実を白兎に伝えていいものかどうか、ゴクリと唾を飲み込み考える。

「・・・気付かないって?」

そう言いながら自分のことを見回した白兎は

「うわ!」

と大声を上げる。

すると、声に気付いたスペードの3の衛兵がツカツカと鉄格子まで近づいてきた。

2人はソーッと振り返ると、再び正面に向き直し、衛兵に見られないように「シーッ。」と2人でこっそり言い合う。数秒ほど2人の様子を確認した衛兵は、再び元の位置に戻る。

白兎は頭の頭頂部だけではなく、中指も3~4cm伸びている。

頭頂部も十分変だが、中指だけが3~4cm伸びているのはかなり目立つし異様だった。

白兎が足のつま先に違和感を感じて見てみると、足の人差し指も3~4cm伸びている。

「うわ!」

さっきよりも小さな声で、白兎は悲鳴をあげる。

「あ、足も・・・!」

「ホントだ!何?なんで?なんで急に?どうしたの?」

「いや、オレが聞きたいから!なんだよ、これ。どうしよう。・・・ハッ!ま、まさかオレが可愛いピチピチの9歳だから、誰かがオレを妬んで毒を・・・!?」

彩里水はここへ来て白兎と出会ってから初めて、白兎がこんなに不安げな声をあげるのを聞いた。

「・・・水、飲んだからかな?白兎が水飲んだ後、すぐにそうなったよね。」

彩里水が言うと、白兎はちょっと考えるような仕草をする。

「・・・。」

「彩里水、ちょっと水飲んでみてよ。」

「・・・は?や、やだよ!そんな風になるかもしれないのに!」

――あ、しまった!そんな風とか言っちゃった!だってー、やなんだもん、そんな風にチューリップハットを頭に乗せただけみたいな状態になるの!・・・でも、あんな落ち込んでるみたいだったのにこんなこと言ったら・・・。

彩里水はソウッと白兎の顔を見る。白兎は泣きそうだ。だからといって彩里水も同じ目にあうのは嫌だった。

「よ、よし。わかった。水はとりあえず後にして、他の食べ物を食べてみよう!」

「・・・なんで水飲まないんだよ。喉渇いてるだろ?」

白兎は恨めしそうに言う。彩里水はごまかすように続ける。

「か、乾いてるけどさ。どのみち、この世界にいる間は何かしら食べなきゃいけないんだから、いろいろ試す方がいいだろ?えっとー、果物!果物食べてみる!」

言ってはみたものの、白兎のようになったらどうしようと、口元まで運んだリンゴのような果物を開いた口に入れる前に彩里水は固まる。

横からジッと彩里水が口に運ぶのを相変わらず恨めしそうに見ている白兎の視線を感じて、彩里水は目をギュッと瞑って思い切って一口かじる。

シャクッ。

モグモグゴクン。

彩里水がリンゴを一口食べ終えると、白兎は目を見張った。


つづく

妄想列島

オリジナル小説。 『少年彩里水(アリス)の不思議冒険譚』毎日配信中。

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