少年彩里水の不思議冒険譚 -不思議の国の入り口62-
62 消える
キャンドーとこの塀を越える方法について相談していた白兎は彩里水が「うわ!」と大きな声を上げたので驚いて彩里水の方を見た。
「バカ!でっかい声出した・・・ら・・・。彩里水?」
今しがたそこにいたはずの彩里水の姿がない。
「・・・え?」
立った今聞こえてきた彩里水の声が聞こえてきた場所、そして今しがたそこで蟻の行列を見て自分に話しかけてきたはずの、彩里水の姿がない。
狐につままれたように呆然とした白兎の視界に入ってきたのは、トランプの6の衛兵たちがこちらに何の感情もなく近づいてくる姿だった。
彩里水の大声が聞こえたのか、トランプの衛兵たちはただ真っ直ぐ白兎に向かってきている。
白兎はなす術がない。
突然彩里水の姿が消えてしまった上に、衛兵はこちらにどんどんやってくる。
身を隠すような場所もなければ先程出てきた庭園の出口はとっくに消えている。
白兎は咄嗟に、衛兵とは反対方向に逃げ出すしかなかった。
しかし、四方に囲まれた造りの塀に囲まれた従業員棟だ。
逃げてもグルリと一周することになるだけでじきに挟み打ちになって捕まるのがオチだ。
――でも、少しでも考える時間を稼がないと。なんとかここから塀を突破する方法を・・・!それに、彩里水は・・・!?
白兎はトランプの衛兵から逃れようと駆け出す。
その途端、白兎は何かにつまづき地面に転がる。
ポケットから出して手に握っていたキャンドーが白兎の手からはじけ飛ぶ。
その間にもトランプの6たちはどんどん白兎に迫ってきている。
慌てて起き上がり、キャンドーを拾いあげようとすると、目の前にはじけ飛ばしてしまったはずのキャンドーの姿もない。
どこか思いも寄らぬほど遠くへ飛ばしてしまったのだろうか?
白兎は辺りを見回すが、やはりその姿はない。
キャンドーの姿も彩里水の姿もキップとクップの姿もない。
白兎の心臓はドキドキと早打ちを始める。
――誰かを探している暇はない。とにかく逃げないと。
いつの間にか、もうあとほんの5メートル程の距離に迫ってきていたトランプの6に、白兎の鼓動は焦りと緊張で高鳴り続ける。
――とにかく走ろう。みんなのことは全部あとだ。どうせ捕まったら誰も助けられない。
思うと同時に駆け出したその瞬間、足首を何者かに掴まれた感触があり、また地面に転がりそうになり咄嗟に目を瞑る白兎。
一瞬の静寂の後に、従業員棟と塀の間にいたはずの白兎を追いかけていたトランプの6達は、目標物を見失い、しばらくその場をウロウロと歩き回ったあと、また機械的に元の持ち場へ戻り始めていた。
つづく
0コメント